日本のマスコミ問題を、カレル・ヴァン・ウオルフレン氏と話し合った
本日発売「DIME」に掲載
マスコミは「きょうの出来事」を追いかける。本質を問わずに、現象だけを忙しく追う。モグラ叩きに似ている。政治も経済も先行き不安の中で、モグラ叩きで遊んでいる場合だろうか。
そこに、一人のオランダ人がやってきた。この国を冷静に観察し、「人間を幸福にしない日本というシステム」という本を書いた。問題の根っこは「システム」にあった。この本は霞ヶ関の官庁街の書店でよく売れた。変革の必要を、実は官僚自身が一番痛感している。役人の側から変革が起こることを期待できるでしょうか?
「残念ながらノーです。彼らは一市民としては変革を望んでいるのでしょう。しかし、巨大な官僚機構の歯車としては、何も言わず、何もしない現状維持派です。今の力関係や、自分の地位が変わることを恐れています」
欧米でも、官僚というのは皆そういう体質ですか?
「いいえ、オランダでもフランスでも、間違っているとか、別のアプローチが必要だと信じたら、まず同じ考えの仲間を探します。一緒になって政治家に働きかけ、運動を開始します。どこの国でもそれが普通ですね。それが日本では起こりません」
変化の兆しは、ようやく地方自治体で起こり始め、石原都知事や長野県の田中知事の手法に期待が寄せられている。これは変革のきっかけと考えていいのでしょうか?
「それもノーです。日本経済がかかえた重大な問題と、それらは何の関連性もありません。石原氏は官僚に操作されているのが実態だし、田中氏が日本経済に影響を与えるとは思えません。驚くべきは、日本人が真剣な分析、深い議論、根源的な問いかけを全く怠っていることです。危機への対処を未だに先送りしています。これは日本人に危機感がないということです」
メデイアは日常的に危機をあおっているし、テレビなどでトーク番組も結構やっていますが、あれでは不十分でしょうか?
「あれはエンターテイメントであって、本質的な議論になっていませんね。問題は何か、それを一貫して追及し、分析することをしていません。テレビは政治や経済の問題を分析するのに、適した媒体ではないのです。アメリカでも政治の議論が劣化した主因は、テレビが基調を決めていたからです」
いや「言葉」の実情を言えば、日本はアメリカよりも、さらにひどいと言える。閣議は20分で終わり、国会の演説はすべて官僚の作文を朗読、株主総会は5分間でおわり。デイベートの習慣も訓練もないと言える。
議論の場としてのメデイアも問題だし、情報源としても疑ってかかる必要がある。マスコミは、しきりにグローバリゼーションとか世界基準をもてはやしている。ビジネスピープルは世界の情報を得るのに、主としてマスメデイアに頼っている。一体「マスコミ情報」というのは、どこまで信じたらいいのだろう?
「大胆な提言をしましょう。日本は今、第二次大戦のレジスタンスや、旧ソ連時代の、謄写版による『サミザート』誌のような地下出版が必要です。必ずしもマスコミに敵対的である必要はないけれど、マスコミから独立した、多様な情報と議論が展開される場です。
既存のマスコミは、実は巨大な官僚機構であり、現状維持派です。日本全体のシステムに深く結びついている彼らに、システムの矛盾を突くことを期待してはいけないのです」
長期不況が続いている。しかし、一方で日本経済に楽観的な人もいる。彼らは、日本の製造業の優秀さや、下請けの技術力を高く評価しています。
「日本経済の、生産サイドは問題ないのです。しかし、モノを作り続けても、それを受け入れる市場の状況をちゃんと見ていないのです。新たな市場創造の一つとして、私はかねてから住宅政策の思い切った導入を言ってきました。
日本の住宅は世界水準から言ってもスタンダード以下です。税制を変え、規制を緩和し、新たな景気刺激と雇用促進につながる道として住宅政策に早く着手すべきです。そこに政治のインプットやマネージメントが必要なのに、それが決定的に欠如しています。政治のシステムが官僚の権力維持にしか動いてないのです」
日産のゴーン氏が大胆な企業改革に取り組んでいる。「外人頼み」、「改革の代行」で、日本人はコトを済ませた気になっていないだろうか。
「あれは日産にとってはいいことでも、日本経済の全体には関係がありません。リストラですべて解決するほど事態は甘くありません」
実は、その経済全体の失速感が、今の日本人に自信喪失をもたらしていないか。「国民の歴史」、「国民の道徳」が話題になる昨今、「国民の自信」がいずれ緊急課題になるだろう。
かつて、日本人は自信に酔った経験を何度かしている。日露戦争に勝利したとき。真珠湾を攻撃して対米戦争の緒戦に勝ったとき。バブル経済で「日本式経営」が世界を席巻した時。いずれもそれは、勝ったという「錯覚」だった。自信は確固たるものではなく、実は「酔っ払っていた」にひとしい。ウオルフレンさんが考える、日本人の自信回復のカギは何でしょうか?
「具体的な忠告をしましょう。アメリカの言うことに耳を貸さないことです。特に経済について、何をすべきだとアメリカが言っても、彼らは自分の国益以外、一切関心がないのです」
お金に関して、いま国民感情は揺れている。財政赤字660兆円に現実感がもてないまま、日本人は今、外国からお金だけをあてにされていることに、ウンザリしている。湾岸戦争でも、国連の分担金でも、東芝や大和銀行の弁償金でも、莫大な支払いをしてきた。そして今後、欧米でも北朝鮮でも、戦時賠償の新たな議論が起こりそうだ。もう勘弁してよ、の国民感情がありますね。
「よろしい、それじゃお金について日本人に自信を回復してもらう事実をお話しましょう。70年代の半ばからほぼ25年間、日本の輸出業者は莫大な額のドルを稼ぎだしました。その大半は、日本に持って帰って、円に交換することができなかったのです。
それが国際経済の仕組みであり構造だった。もし、そのドルを円に交換していたら、円はロケットのようにオゾン層を突き抜けて天井知らずの値段に跳ね上がっていたでしょう。そうなれば輸出国家としての日本は成り立ちません。25年間にわたって稼ぎ出したお金は、ほとんどドルで保有され、アメリカの銀行に置かれていました。
そして、過去六年間、アメリカ経済の拡大に湯水のごとく使われたのが、このジャパン・マネーでした。どうです、少しは自信が湧いてきたでしょう。アメリカの好景気を作ったのはオレたちだと、日本人は胸を張っていいのですよ」
かつて明治維新の国作りに貢献したのは「お雇い外国人」だった。今や、無能な閣僚に換えて、このような人を、特別閣僚にする英断が必要ではないか。