回路の電流とは何か,電圧とは何か

2001.5.  石川昌司



1 電流とは

 静電気についての学習を終えて,これから電流回路の学習に入る。電流とはいうなれば静電気に対する動電気のようなものだ。輪になった導体の中を電荷がある方向にいっせいに流れていく現象である。この原理は,現代社会の電気文明のもとになるいろいろな発明品を生み出して私たちの生活を非常に豊かにしてくれた。

 まず最初にやらなくてはならないことは,この電流回路に対して,その電気的な特徴を表す物理量を定義することである。最も基本的な量には2つある。電流の大きさと呼ばれるものと,電圧と呼ばれるものがそれである。

 電流の大きさは,単位時間当たりに導体のある断面を通過する電荷の量に等しい。これが電流の定義であると言ってしまいたいのはやまやまだが,実は,これは定義ではない。物理IIの教科書を読むと,電流の定義は,平行に張った2本の導線に電流を流すときに導線間にはたらく相互作用の力の大きさから定義されると書いてある。しかしこれは,おせじにもわかりやすい定義とは呼べないので,学習の順序からいっても当分の間無視して良い。

 次にやるべきことは,電流の大きさを実際に測る方法を学ぶことである。電流は電荷の流れであるが,静電気の場合と違って,紙片をひきつけたりはしないので,この力(=静電気力)の大きさから測るという方法は使えない。導線の任意の部分は,負電荷と正電荷が打ち消し合っていて,電荷の和はほとんどプラスマイナス・ゼロになっているからである。これは困った。しかし,実は動電気に特有のうまい性質がある。それは電磁石の性質である。静電気のときには無かった性質として,動電気には,コイルにして巻くと鉄などのある種の物質を引きつけたり,地球上のどこにいても南北を指し示したりという,磁石と同じ性質を示すことが知られている。例えば「方位磁針」を用意して導線をこの方位磁石の針の向きに沿うように数回巻き付け,電流を流してみるとよい。方位磁針と巻き付けた導線中の電流がつくる電磁石の相互作用の結果,軽くて動きやすい方位磁針はその向きを変えることがわかる。




【実験1】方位磁石に導線を巻き付け,電流を流す実験。

 前に述べたように,電流の大きさは「単位時間当たりに導体のある断面を通過する電荷の量」であるから,ひとつの閉じた輪で作った電流回路では,導線上のどこの点でも同じ大きさになるはずである。上で作った方位磁石の電流計でそのことを確かめてみよう。

 一つの電池といくつかの豆電球やモーターを一列につないだ簡単な回路をつくってこの回路のいろいろな部分の導線を方位磁針に巻き付け,方位磁針の向きの変化に違いがあるかどうか調べてみる。


【実験2】電池,豆電球,モーター等を直列につないだ簡単な回路を作り,色々な部分の導線を方位磁針に巻き付けて,方位磁針の反応に違いがあるかを観察する実験。

 一列に連なった同じ種類の豆電球に電流を流すと,すべての豆電球は同じ明るさで光る。それは同じ大きさの電流が流れているからである。同じ種類の豆電球では,流れる電流の大きさが同じなら光る明るさも同じになる。



 さて,固定した永久磁石と指針のついた可動式のコイルからなる電気回路用の計測器が2種類あるとする。Aは,非常に電流の流れやすい構造でできていてそのかわりに針の動きは鈍感なもの。Bは,わざと電流が流れにく作ってあるがそのかわりにわずかな電流にも敏感に反応して指針が動くもの。これらの計器の指針の動作原理は方位磁石に電流導線を巻き付けたときに方位磁石が動く原理と基本的には同じである。電流の大きさを測定する目的にふさわしいのは2種類の計器のうちのどちらだろうか。

 計測の目的からすると,すべての部品を閉じた一列の輪につないだ簡単な回路で,上の計器がどの部分で測っても同じ値を示すことと,もうひとつ大事なことは,計器をつなぐ前と後で,できるだけ回路の状態が等しいこと(計測器をつなぐことの影響は小さいほどよい)が条件になる。





【実験3】電池といくつかの豆電流を直列につないだ簡単な回路を作り,これに流れる電流を測定器Aを用いて測る場合と,測定器Bを用いて測る場合を比べて,何が違うかを観察し,電流を測る道具としてどちらが適当かを考える。

 実験によれば,計測器Aは電流を測るのに非常に都合良くできていることがわかる。計測器Bはつないだ途端回路の状態が変化してしまうのでこの目的には適さない。



2 電圧とは

 回路の状態を表現するためには電流の大きさだけではうまくいかない。特にエネルギーについてはそうである。例えばある川の流れを考えるとき,時として滝となって流れ落ち,時としてゆるやかなせせらぎになっているだろう。どちらも単位時間当たりに流れる水の量としては同じだが,取り出せるエネルギーの量はとてつもなく違う。逆に言うと,エネルギーの差を表すことで,その流れの状態をもっとうまく表現できるようになる。

 この目的のためには電圧という言葉が必要になる。電圧は次のように定義される。電圧は単位の大きさの電流が単位時間に行う仕事の量。仕事とはエネルギーを用いて行う有益な作業量のことである。具体的には,機械を動かすとか,熱や光を出すとかいった事柄である。

 上記【実験3】で使った5個の豆電球のうちのひとつだけを別の豆電球に交換すると,その豆電球だけを異なる明るさにすることができる。これはその豆電球についてだけ光るという仕事の量を変化させたことになる。しかし,一列の輪のような単純な回路では,途中に何があっても電流の大きさはどこでも等しいはずであるから,明るさが異なるのは電圧が異なるからという理由になる。




【実験4】電池にいくつかの豆電球が直列につながっていて,それらの豆電球のうち,ひつとだけ明るさが異なるような回路を観察し,明るさが異なる理由を「電流の大きさ」と「電圧」の言葉だけで説明する。

 このように電圧は一列の回路であっても部分部分で色々に異なることが許されている。一本の川の流れでも,途中に滝があったりせせらぎがあったりするのと似ている。

 次の問題は,この電圧というものをどのように実験的に測定するかである。例えば具体的な問題として,いくつかのひとつだけ明るさの違う豆電球が混じって輪になっている一列の簡単な回路に対して,豆電球ごとの電圧の違いをうまく計測したいのである。

 道具として与えられているものは,前に用いた計測器Aと計測器B。Aは,非常に電流の流れやすい構造でできていてそのかわりに針の動きは鈍感なもの。Bは,わざと電流が流れにく作ってあるがそのかわりにわずかな電流にも敏感に反応して指針が動くもの。このうち計測器Aは電流計として利用出来ることがわかっている。しかし,これを回路のどこに挟んでも,どこも同じ値を示してしまうので電圧の測定には適さない。電圧を測るのなだから,明るさの異なる豆電球のそばで測ると違う値を示すような計測でなければならない。

 そもそも電圧を測るとはエネルギーのなす仕事を測ることであり,川の流れのたとえで言えば滝のように高ところから低いところへ一気に流れ落ちるときに大きな仕事をするのだから,川の場合の滝の高さに相当するものを測ればよいことになる。滝の高さとは,滝の上で水が落ちる前に支えられている高さと滝から水が出ていく出口の水の高さの差のことである。豆電球の直列回路では,豆電球が光るという仕事をしているのだから,電球に入る前の電流と電球から出ていった後の電流のエネルギーの高さを比較するような測定でなければならない。長さを測定するときは対象に物差しをあてて比べる。同様に,エネルギーの高さの差を測るにはその部分に沿うように測定器を当てるとよい。つまり,計測器は豆電球に対して,並列に,豆電球の両端につなぐような結線をすることになる。

 そこで,計測器Aを豆電球に並列につないでみた場合と,計測器Bを豆電球に並列につないだ場合で,どちらが電圧測定に望ましいかを比較検討してみる。





【実験5】実験4と同じ回路の,一番右端の豆電球に加えられている電圧を測定する実験で,測定器Aを用いて測る場合と,測定器Bを用いて測る場合を比べて,何が違うかを観察し,電圧を測る道具としてどちらが適当かを考える。

 計測器Aも計測器Bもどちらも電圧に反応するが,計測器Aをつないだときは,豆電球の光の強さが大きく変化してしまうのに対して,計測器Bをつないだときは豆電球の明かりの強さはほとんど変化しない。計器をつなぐことによって計器をつなぐ前の回路の状態にあまり影響を与えないことが計測の条件だから,故に電圧計測に望ましいのは計測器Bということになる。

 市販の電流計は,計測器Aと同じく,電流は流れやすいが針の動きは鈍感につくられている。また,市販の電圧計は,計測器Bと同じく,電流は流れにくいが針の動きは敏感につくられている。このことは今後の学習に大いに役立つのでぜひ覚えておいてほしい。





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