エネルギー・環境教材としての太陽電池+ニッケル水素充電電池リサイクルシステムの製作と運用実験

[あらまし] 学校内で使用される乾電池をニッケル水素充電電池に置き換えリサイクルし,さらにその充電には可搬型太陽電池の出力を用いることで,廃棄電池をいっさい出さず,わずかではあるが電力需要の一部を自給するシステムを試作し,勤務校内で運用してみた.その結果,総経費10万円程度の非常に小規模なシステムでも十分実用になるであろう手応えが得られた.エネルギー・環境教育の身近な取り組みとして,今後普及していくことを期待する.


1  はじめに


 学校では毎年大量の乾電池を消費している.そして,使用後の乾電池は“ゴミ”として処分される.しかし,環境保全・資源節約の観点からすれば,これら“使い捨てる”乾電池よりも“使い捨てない”充電電池の方が,特に教育現場ではより望ましいことは明かである.さらに,その充電に際しては,近年著しく対価格性能が向上している太陽電池パネルを利用すれば,子供達に,化石燃料に代わる新エネルギー源として太陽光発電が注目されていることを目の前で教えることができる.太陽電池パネル発電は,天候条件に左右されたり,夜間の発電はできず,設置面積の割に大電力を得にくいなどの欠点もあるが,他の風力・波力発電等自然エネルギー利用の発電方法に比べて,耐久性に優れ,児童生徒に対して危険性が少なく(二酸化炭素や放射性廃棄物を出さない,余剰熱も出さない,プロペラも回らない・・・),規模を限定すれば可搬設置も可能であるなどの特徴を持っており,学校教育におけるエネルギー・環境教材にきわめて適しているといえる.正に一石二鳥三鳥である.

 

 私は,1999年4月から,太陽電池パネルとニッケル水素2次電池(以下Ni-MH電池と略す)の小規模リサイクルシステムの運転を開始し,その後改良を加えながら,現在に至っている.以下に現時点でのシステム構成を紹介し,今後の展望についても若干述べることにする.



2  太陽電池パネル,架台


 この太陽光発電は,ウチダの既製品教材からスタートした.(「大型太陽電池実験器」).

 この教材は,単結晶シリコンセル4×9=36枚を直列に接続した太陽電池モジュールと,電圧計,電流計,DC→ACインバーターが底部に固定されたアルミ製架台(角度調整可)のセットであり,カタログデータでは,最大出力30W (最大出力動作電圧16.8V,最大出力動作電流1.78A)となっている.

 この実験を始めてすぐ,電圧計,電流計,DC→ACインバーターは本体から取り外し,太陽電池パネルだけを架台に載せて使っている.

 さらに昨年12月に,太陽電池パネルをもう1枚増設した.こちらは,昭和シェル石油・昭和ソーラーエネルギー株式会社製GT130(最大出力45.5W,最大出力動作電圧14.4V,最大出力動作電流3.16A,解放電圧18.0V,短絡電流3.47A).単結晶シリコンセル3×10=30枚直列タイプの製品である.

 太陽電池パネルは過般型として使うので,架台は軽くて丈夫なものが理想的である.自作するのが望ましいが,簡単なものでよければホームセンターで扱っている「フラワースタンド」で代用できる.



学校の2Fバルコニーにおいた太陽電池パネル
手前が昭和シェル製



昭和シェル・昭和ソーラーエネルギー(株)製GT130定価54,600円
VVFケーブル2.0mm2芯 5m980円
T字コネクタ(メス)350円
フラワースタンド(アルミ製3段)3,320円




3  ニッケル水素2次電池(Ni-MH)


 「はじめに」にも書いた通り,このシステムの目的は,学校で消費する大量の乾電池のある割合を充電電池に置き換えるということと,その充電には太陽電池パネルの出力を用いることにある.ところで,太陽光発電そのものについては,すでに各住宅メーカーが注文住宅のオプションとして用意するまでに個人レベルに普及してきた.その理由は,電気事業法が改正されて,個人や事業所単位で発電した電力を電力会社に売電できるようになったからである.太陽電池が発電している間は使って余った電力を電力会社に売り(売電),夜間や天気の悪い日など太陽電池が発電しない時間帯は今までと同様に電力会社から電気を買う(買電),というやり方である.

 しかし,このようなシステムは初期投資額が数百万円にもなり学校の教材費の範囲を超えてしまう.また,自分の太陽電池で発電した電力と電力会社から買った電力が混じってしまい,太陽光発電の電力を実感としてつかみにくいなど,教材としてみた場合に欠点もある.したがって,やはり学校に置く環境・エネルギー教材としては,独立システムの方が教育的に優れているといえる.一般に独立システムでは,発電した電力を蓄える2次電池が必要になる.普通,この目的には自動車用バッテリーが用いられるが,それは固定式で考えた場合にメンテナンスが楽だからである.しかし,小規模発電でかつ冬季間の積雪に対しても柔軟に対応できるのは固定式よりはむしろ可搬式であって,そうなると自動車用バッテリーでは大き過ぎるし重過ぎるということになる.その点でもニッケル水素充電電池は有利である.

ニッケル水素蓄電池は,同じ大きさ重さで比べた場合,鉛蓄電池よりも充電容量が大きい.

ニッケル水素蓄電池は,乾電池の単1単2単3単4,006Pと同じ形状のものがそろっており,これらの乾電池と高い互換性がある.

ニッケル水素蓄電池は,硫酸を使う鉛蓄電池より取り扱いが簡単である.

しかし上記の3点目については,全くの誤解であったことを後で思い知らされることになった.



秋月電子通商 GP社製 単3型Ni-MH 160AAHC(1600mAh)10本 1,900円





4  充電器


 市販の充電器のほとんどは,AC100Vを電源として単3または単4を2本か,せいぜい4本までを同時充電するというものである.太陽電池パネルの出力をDC→ACインバーターによってAC100Vに変換して,これらの充電器を用いることはもちろん可能であるが,それではせっかくの太陽電池の直流の出力が生かされていない.そこで秋月電子通商から「MAX713使用 −Δv制御超急速充電器キット」(電源はDC12〜15V,2A程度)を購入し使用している.

 このキットの制御ICはプログラマブルで,指定のピンをV+またはGNDに接続することにより,直列充電本数を1〜8本の間で自由に設定できる.

 私は,この充電器を6キット購入し,6本同時充電用に2キット,4本同時充電用に2キット,2本同時充電用と1本充電用にそれぞれ1キットをあてた.使用目的を限定すれば,1〜2キットだけでも十分実用システムになると思われる.

 充電に要する時間は,晴天時直列6本同時充電の場合で,約2.5時間である.



秋月電子通商 −Δv制御超急速充電器キット 単価1,300円





5  充電ボックス


 太陽電池パネルと充電電池と充電器があればとりあえず電池に太陽エネルギーを充電できるようになるが,学校の校庭や校舎のバルコニーで充電するときには,天候の急変や,管理上にも不安があるので,充電器と電池をポリプロピレン製のクリアーケースに納めて,普段はこのケースを物理準備室に置いておき,充電するときには,太陽電池パネルのそばへ持って行って,太陽電池からの出力リード線とケースの入力リード線を接続して使うことにした.このケースを「充電ボックス」と名付ける.太陽電池パネルは原則的に出しっぱなしである(連休や暴風雨になりそうなときは屋内に回収する).

 充電ボックス内には,電圧計,電流計と充電器をつなぐための端子がある.さらに逆流防止のためのダイオードがついている.それから,忘れてはならないのが,放熱である.充電器のパワートランジスタはかなり発熱するので,充電ボックスには放熱用の穴をあけ,強制冷却のためのファンをとりつけるのが望ましい.ファンの電力はもちろん太陽電池の出力でまかなう.



充電ボックス


ポリプロピレン製フリーケース680円
電圧計,電圧計各1,500円くらい
冷却用ファン1,200円くらい






6  デジタル電圧計・電池ホルダー


 満充電のニッケル水素電池の解放電圧は1.4V以上ある.使っていくに従って次第に電池の電圧は下がるが,使う機器の動作電圧の範囲がかなりまちまちなので,使い終わった電池の電圧にはかなり幅があるのが普通である.このようなバラバラの電圧の充電電池をランダムに組み合わせて充電器にかけるとどうなるか.充電器は電池に対して直列に電流を流すので,ある電池が満充電になっても他の電池は満充電にならず,そのため,充電器はうまく充電終了を検出できなくなる.結果的に,最初の電圧が高かった電池は過充電に,最初の電圧が低かった電池は不十分なまま充電が終了することになる.このような充電は電池を早くいためるとともに,エネルギー効率も悪くなる.

 さらに,これらの電池がすべて等しく“満充電”されたと思いこんで,再び直列に組んで電気製品で使用した場合には,最初の充電率が低かった電池は必要以上に放電してしまい(=過放電),悪くすると端子電圧の逆転現象が起こる.いわゆる“逆充電”である.

 このような事故を防ぐためには,充電器にかける前や組電池で使用する前に,かならず電池の電圧を測って,電圧の揃った電池を使う習慣をつけなければならない.読み取る電圧の有効数字は最低3ケタは必要である.デジタルテスターが便利である.

 しかし,100本以上もの電池を管理し,必要に応じてできるだけ電圧の等しい電池を必要な本数だけ拾い出すという作業ははなはだわずらわしい.そこで,「組電池で使うものは最初から最後まで同じ組合わせで使い続ける,充電も放電も組電池のままで行う」という原則を立てることにする.購入直後の充電電池を,最初から6本組,4本組,2本組に分けて電池ホルダーに入れてしまう.後は充電も放電もこの電池ホルダー毎に行う.もちろん,1本づつ使うためのバラも少し確保しておく.このようにしておくことで,組電池内の電池毎の電圧の不揃いをできるだけ小さくすることができる.充電前・充電後の電圧チェックはやはり必要であるが,組電池内のすべてを測る必要はない.過充電や過放電,逆充電の心配もほとんどなくなる.

デジタルテスター3,000円程度から
電池ホルダー(各種)50個くらい & 3,000〜5,000円






7  DCプラグ


 充電したニッケル水素電池の使い方で最も簡単なのは,電池駆動の機器の電池ボックスにそのまま入れて使う方法である.ウォークマン,MDウォークマン,ポータブルCDプレーヤー,デジタルカメラ,カメラのストロボ等々が考えられる.しかし,これらの機器はどちらかというと少数派である.それ以外の多くの直流機器はACアダプタを用いてACをDCに変換して使っている.

 これらは本来DCなので電池でも動くはずである.適合電圧の問題は,電池の直列本数で対応すればよい.

 機器側の電源端子は「DCジャック」になっているので,電気パーツ店で「DCプラグ」を購入し,電源ケーブルを自作することになる.ところが困ったことに,この「DCジャック」「DCプラグ」の仕様は,最近まで,極性やプラグの径,長さ,形状等が各社各様であったがために,それぞれに非互換という状態であった.したがって,使用したい機器のジャックに合うDCプラグを電気パーツ店で見つけて,“専用電源ケーブル”をつくるしかなかった.ようやく最近になって「極性統一 EIAJプラグ」という規格が現れた.これも使用電圧の範囲によって4タイプある.交換式プラグアダプターを用いれば,プラグ部分の交換だけで,かなり幅広い機器に対応させることができる.

EIAJプラグアダプターセット600円くらい




8  電源ボックス


 自作のDC電源ケーブルが増えてくるとその管理がわずらわしい.また,AC100V機器をこの電池システムで使いたい場合はどうするか.そこで「ニッケル水素電池」「DC→DCコンバーター」「DC→ACインバーター」をひとつのケースに納めた汎用「電源ボックス」を作ってみた.

 「DC→DCコンバーター」は,現在の主流は“スイッチング方式”で,変換効率85\%以上とかなり高い.これに先ほどの交換式プラグアダプターを組み合わせれば,たいがいのDC機器は動かすことができる.ホームセンター,電気店で数千円程度で売られている.

 「DC→ACインバーター」は,入力電圧が12V仕様のものと24V仕様のものの2種類がある.出力はもちろんAC100Vである.対応する電力範囲によって価格に幅がある.ホームセンターまたはカー用品店に置いている.100Wクラスなら1万円前後,50Wクラスなら5,000円程度である.

 変換器への入力は,入力電圧が12Vの場合,ニッケル水素電池を10本直列(6本ホルダーと4本ホルダーの直列)で使用する.電流値を大きくとるために,さらにこれを並列接続する.私は10×3=30本の電池を1束にして使っている.充電電池を並列につなぐ場合,高電圧の電池から低電圧の電池へ電流が流れ込むことがあるので,逆流防止用のダイオードを介して接続する必要がある.並列接続用の端子ボックスをつくると便利である.

 この「電源ボックス」を持ち歩けば,いつでもどこででもソーラー発電した電気を使うことができる.



電源ボックスの中味



ポリプロピレン製フリーケース680円
例えばアムスコーポレーション・インバーター50W4,980円
例えばオーム電機DCカーアダプタ(800mA電圧8段切替)2,980円
ダイオード,他パーツ500円くらい






9  放電器


 充電電池を中途半端に放電させて使っていると“メモリ効果”が起こる.ニッケル水素電池には“メモリ効果”がないという一部の説は誤りである.これを防ぐため,秋月電子通商から「放電器キット」を購入した.この放電器の電源には,ソーラー充電のニッケル水素電池をつないでいる.つまり,ニッケル水素電池でニッケル水素電池を放電させているわけである.



秋月電子通商 放電器キット 単価1,200円電源




10  予備DC電源


 太陽光発電は天気が悪い日は出来ない.また,晴天時でも,充電を何回か繰り返しているうちに最後の回が中途半端なままに日が暮れてしまった,というようなことが起きてくる.このようなときは,翌日晴天になるのを待って充電の続きをすることもできるが,急ぎの場合は間に合わない.そこで,予備のDC電源を用意しておく.(ちなみに,生徒実験に使う小型電源装置では電流がまるで足りずこの用には適さない.)





秋月電子通商 12V1A・5V1Aスイッチング電源 基盤のみ単価600円




11  今後の展望


 学校で使われている電池のある割合をソーラーエネルギーの充電電池で置き換える目的で始めた今回のシステムは,規模を限定すれば10万円程度の経費から実現可能であることがわかった.規模の拡大には,太陽電池パネルの増設,充電電池の拡充等で手軽に対応できる.

 この実験を始めてから,他の教員や生徒から太陽光発電についてよく質問されるようになった.学校内の目に見える場所でのデモンストレーション効果は高いといえる.エネルギー・環境教育の身近な取り組みとして,今後普及していくことを多いに期待する.

 考えてみると,エネルギー問題とは,単にエネルギー資源の枯渇の問題だけではなく,変換効率,エネルギー輸送,環境負荷,コスト,制御技術等々の複合問題であることがわかる.化石燃料は,結局,地質学的時間を要して備蓄・濃縮された太陽エネルギーそのものであり,現在の化石燃料を用いた発電システムとは,原理的にこの過去の太陽エネルギー資産を“一瞬”の内に消費してしまうシステムであるとの皮肉な見方もできる.この悪循環にはいずれピリオドを打たなければならなくなるだろう.現在のような,高密度大規模集中発電・広域送電システム一本槍ではなく,徐々に,低密度小規模分散発電・ローカル送電システムの割合を増やしていく努力をするべきであるように思う.





12  終わりに


 本研究は,北海道科学・産業技術振興財団(ホクサイテック)平成11年度の研究助成を受けてなされたものである.





参考文献



桑野幸徳「新・太陽電池を使いこなす」
桜井薫・小針和久・角川浩「はじめての太陽光発電 1枚のパネルから」パワー社
桜井薫「やりかたいろいろ 太陽光発電実例集」パワー社


参考URL



エネルギー環境問題関連情報リンク集  http://www.optic.or.jp/energylink/109.htm
東京電力:総合効率  http://www.tepco.cp.jp/plant-sit-env/environment/98report-j/thermefc-j.html




「物理教育研究」Vol.28,2000,7 から転載









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