君を想い眠る夜 上






















ふと、意識が戻る。


「………?」


閉じていた左目を開ければ、そこは真夜中の自室。

いつもは火を灯さなければ、周囲の家具でさえ見ることも儘ならないが
今宵は満月。
部屋の隅々が、窓から漏れる青白い光に照らされている。



右目を鍔の眼帯で覆い隠すこともせず、部屋の主は寝ていた布団を剥ぎ、立ち上がる。
足音を消し、ゆっくり廊下へと通ずる障子の前まで歩を進める。


息を潜めて。



「………っ!」



少々勢い良く障子を開ければ、そこにあるのは幼い少女の姿。
目の前の障子が急に開け放たれたのと、その先に部屋の主が居たのとで
少女は思わず息を呑み、驚いた顔を見せた。


「……Hey, いつき。 どうした?」
「あ……」


いつき、と呼ばれた少女は言葉を失う。

見れば、いつきは寝間着として用意された薄桃色の浴衣ひとつだった。
そろそろ秋も終わり、昼でさえ肌寒さを感じるこの時節。
上着さえ羽織らずに、少女は火の無い廊下に佇んでいたというのか。


「あ、の……。ま、政宗…」
「ん?」


困惑したような顔を見せる為、努めて優しく接する。
呼ばれた名でさえ、いつもと違ってひどく弱々しい。



瞬時に、彼女の心情を察する。



「……何でもないだ。
 こんな夜中に起こして…かんにんな」

暫く黙った後、そんなことを呟いて笑顔を作る。
その笑顔は、とても「何でもない」人間の顔ではなかった。

踵を返し、いつきは自分の部屋へ戻ろうとする。



「………悪ぃが、いつき」



いつきの足を止めたのは、政宗の声とその行動だった。

「えっ……」

小さな悲鳴と同時に、いつきの華奢な身体が宙に浮く。
政宗は左手でいつきの身体を支え、右手でいつきの両足を抱え上げた。


「俺はお前の”何でもない”を、信用してねぇんだ」

そう言って、自分の左にあるいつきの驚いた顔を見遣る。


抱え上げた彼女の身体は、やはり芯まで冷え切っていて。
加えて、微かに残る目尻の涙跡。

それだけで、自分の予想が的中した、と政宗は確信した。


「政宗っ…」
「安心しな、何もしねぇよ」

落ちまいと、必死で自分に掴まるいつきを片手で抱えたまま、
政宗は障子を閉め、自分の布団に戻る。


「さて、と…」

部屋の奥に敷いてある、布団の上にいつきを座らせる。
その横に胡坐をかいて、政宗はいつきを見据えた。


「……どうした? 恐い夢でも見たか?」


優しく囁いて、大きな手で頭を撫でてやる。
政宗の穏やかな微笑を見たいつきは、次の瞬間。

「………っ」

政宗の首に両腕を巻きつけ、縋り付くように抱きついてきた。



「……大丈夫だ。もう恐い夢なんざ見ねぇよ」

小さな嗚咽が部屋に響き、右肩に熱を感じる。
涙を流す少女を宥めるように囁き、その長く細い銀糸を指で梳く。






いつも、誰かに頼ることを知らない彼女。
自分だけで解決しようと、一人で全てを抱え込んでしまう彼女。


その彼女が、どうして自分の部屋の前に居たのか。
どうして、自分に泣きついてきたのか。
それは分からないけれど。


彼女が、自分を少しでも頼ってくれたのが嬉しくて。





青い光で満たされた部屋の中。

泣き疲れたのか、それとも安心したのか。
小さな寝息を立てる少女の寝顔を見つめながら。


少女に悪夢を見せまいと、横に眠る竜は少女を守るように抱き締めた。





END.





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たまには、いつきちゃんを筆頭に甘えさせてみたかった。


続きというか対比というか、いつき編もありますよ〜。





しょーがねぇな、見てやるよ。