その日は、いつもより陽が穏やかで。

珍しく、彼女は私を誘った。

「散歩行こうよ。」

ぶっきらぼうにそう言うと、私の手を引っ張る。
その顔には、実に穏やかな笑みが浮かんでいた。

まるで、今日の陽光のような。





ユフィの故郷であるウータイは、この世界では珍しい『四季』というものがある。
長い冬から開放され、少しずつではあるが春めいた雰囲気になっていた。


だからだろうか。

彼女が、軽く浮き足立っているように見える。

「…何?」

私が彼女を見入っているのに、視線でも感じたのだろうか。
立ち止まり、怪訝そうに大きな瞳でこちらを見やる。

「いや…。……今日は、いやに機嫌が良いな?」
「へっへ〜。その理由は、後で分かるよっ」

再び、歩き出す。

彼女の浮き足が移ってしまったのだろうか。
私も、少なからず心が踊る気分だ。

……彼女に言ってしまえば、「私らしくない」などと
両断されてしまいそうだが。




「あ、ホラホラ! あれあれ、あの木!!」

暫く歩くと、目の前に1本の木があった。

その木の幹はとても太く、しかし枝は細く幾つにも分かれている。
その枝の先には、小さな薄桃色の花弁が揺れている。

ただ、もう花の盛りは過ぎようとしているのか。
足元には、同じ薄桃色の絨毯が出来始めている。

「…………この木は?」
「『桜』だよ」
「………さく…ら?」

聞き慣れない名前に、思わず聞き返した。

「この木さ、普通の桜より早く咲くんだ。
 昨日咲いてるの見つけたんだけど、もう満開が過ぎちゃってたんだよね」

絨毯を踏みしめて、ユフィはそっと木に触れる。

「でもさ、満開じゃなくても充分綺麗だと思ったし。
 ………ヴィンセントにも、見せてあげたいなって」

最後の方は、独り言のようにひっそりと呟いていた。


私は、ふと足元を一瞥した。
薄桃色の絨毯の中から、ある物を探し出す。

「……ユフィ」

私に背を向けて、俯いたままの彼女を呼ぶ。
振り向かないままの彼女の、漆黒の髪に
先程の『ある物』を、ふわりと飾る。

「………この花は、お前に良く似合う」

地面に落ちていたものを差し出すのは失礼か、とも思ったが
枝から取るのも忍びないし、比較的汚れていない物を選んだつもりだ。

私のした事に気付いたユフィは、頭の上に飾られた
桜の花を指で撫でる。

その仕草すら、私には愛しく思えて。


彼女の背が、木の幹に触れる。

彼女の小さな唇に、私の唇を重ねる。



唇を離し、もう一度彼女の顔を見据えた時。

その頬と唇は、桜よりもほんのりと紅を差していた。





END





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日記に投下したのを加筆修正。
これをサイトに移した当日、某サイト様に
これと似たネタの絵が………(爆)
ゴメンナサイ(何故謝る)