BE WITH YOU 2
そよそよと、夕暮れ時の涼しい風が頬を撫ぜる。
心地良さに目を細め、ぼんやりと縁側で過ごす。
かつての血生臭い世界に身を置いていた時には、およそ考えられなかった
何と穏やかな日だろうか。
首に掛かる白い石を撫でながら、ふと物思いにふける。
「こんな所にいた」
自分の背なの方から、落ち着いた声が聞こえた。
顔を右へ動かせば、自分の隣りに一人の女性が佇む。
昔の幼さを残しながらも、伸びた髪は淑女たる雰囲気を醸し出し、
時の流れが如何に速いかを物語る。
そして、首には黒い石。
時空(とき)が、自分に何一つの影響を与えないこと。
それを恨む事も悔やむ事も無かったが、自分の側に居る人間が
少しずつ確実に、年を重ねやがて老いて朽ちていくという
その現実が、とても悲しかった。
私は、この女(ひと)に置いていかれるのだと思った途端、哀しくなった。
「珍しいね、ヴィンが縁側でぼーっとしてるなんて」
「平和だからな……私だって和みたい時もあるさ」
アンタからそんな言葉が出るとはねー、と呟き、
女性―――ユフィは、私の隣に腰掛ける。
大きく前に腕を伸ばしているユフィの指先を見て、
思わず私はしばらく凝視した。
そして声を掛ける。
「………着けてるんだな」
「へ?」
「その、指輪」
左手の、細い薬指にはめられている銀の指輪。
その頂に透明な宝石を乗せて、夕陽の光に照らされ輝いている。
「まぁねー。 貰った時は戦闘に明け暮れてたから、失くしたくなくって着けてなかったけど。
今は、まぁ、平和だし?」
そう言って、昔のあどけなさそのままに口の端を吊り上げて
悪戯っぽく笑う。
「それにしても驚いたよねー」
「………?」
「まさか、指輪の裏に文字が彫られてるなんてさー」
自分の指から輪を外し、その裏に刻まれた文字を
私に見せ付ける。
それを見て、途端に気まずくなってしまった。
「……………」
「これさー、アンタが頼んで店の人に彫ってもらったんでしょ?
どんな顔して言ったの〜?」
「……………それは…」
ユフィから目を逸らして、黙る私を見て
くすくすと彼女が肩を揺らす。
からかわれたのだと気付いた私は、憮然とした。
「ふふ………ゴメンゴメン。
アンタのその反応が面白くってさ〜」
一通り笑った後、ユフィは息を整える。
そのまま、言葉を続けた。
「でもさ、この指輪……ホントに嬉しかったんだよ。
アンタがあたしと一緒に生きてくれるって、決めてくれた証だもんね」
その言葉に、息が詰まる。
「有難うね、ヴィンセント」
何故、彼女が礼を言うのだろう。
礼を言いたいのは、私の方なのに。
時を失くした私などと、共に生きていきたいと。
彼女が言ってくれた時、私は嬉しかった。
それと同時に、私に新たな罪の重みが圧し掛かった。
私が、彼女の人生を独占してもいいのか。
彼女はまだ若いのだから、これからこの先、もしかしたら。
もっと良い伴侶に、巡り合えるかも知れないのに。
私と共にいるより、もっとずっと幸福になれるかも知れないのに。
そう思うと、私は何も言えなくなった。
その時の私は、彼女の気持ちに応えられなかった。
だけど、彼女は待ってくれていた。
私の気持ちが、変化するまでずっと。
その変化が、よもやこんなに。
こんな平和で、温かで、幸福な時間を私に齎してくれるとは思わなかった。
「眠いの? ヴィン」
何も言わずにあさっての方向を見ていた私に、ユフィは雨戸に凭れて
首を傾げた。
「…………そうだな。少し………」
考え事をすると、少し脳が疲れてくる。
横になってくる、と立ち上がろうとする私の服を軽く掴んで引き止め、
ユフィはその手で、折り曲げた自分の両膝を軽く叩いた。
「……………本気か?」
「いやなら別にいいけど」
怪訝な顔で見る私に対して、ユフィは実にあっけらかんと言う。
やれやれ、と溜め息を一つ落として、
私は彼女の太腿を枕に一眠りすることにした。
「あの子が帰って来るまでは、まだ暫くあるし。
アタシが夕飯作ってる間、また遊びに付き合わされるんでしょ?」
「そうだったな……。
あの元気の良さは、間違いなくお前の血だ」
ゆるゆるとユフィの長い髪を手で弄び、他愛無い会話を繰り返す。
程なく、私の瞼が重くなる。
ヴィンセントの瞼が、完全に閉じられる。
微かな息が、徐々に整えられてゆく。
深い眠りに落ちていったのを確認して、その顔に掛かる黒髪を軽く避けてあげる。
「ヴィンセント」
この人が起きている間は、恥ずかしくて言えない。
いつか言えるかも知れないけど、今は。
「…………あたしもね、同じ気持ちだよ」
アンタがあたしに伝えたかった気持ち。
あたしがアンタに伝えたい気持ち。
それが同じだから、この指輪をつけた。
指輪を通して見る、この人の心は。
きっと、今目の前にある寝顔のように穏やかなのだろう。
もう一度、左の薬指から輪を外す。
そして、その裏に刻まれた文字を見つめる。
その文字は、二人の小さな共通項。
「 BE WITH YOU . 」
END
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33333hitsの小説の続きです。
これで「BE WITH YOU」は完結です。
もともとは、続きを書く予定は無かったです。
キリリクのネタだし、1作目(キリリク)のラストは何だか歯切れが悪い気もしましたが、
アレはアレで良いかなーと思ってたんです。
後は皆様のご想像にお任せしようかな、と思って。
が。
ある時、某様から言われた一言が。
「あのダイヤの指輪が、その後どうなったのか気になります」
その瞬間、ネタの神様が降臨しました(笑)
仕事中にネタを錬り、車の中でもネタを錬り、布団の中でもn(略)
実質、1日どころか半日足らずでネタの骨組が出来た感じです。
そして、これを書いてる今も
打ち込み時間3時間半ぐらい………(笑)
スピード作成だ!!!(爆死)
この小説は、ネタの一片を鳳に投げつけて下さったトモヒロ様へ。
因みに、ヴィンユフィが言っている「あの子」とは…………
…………うん。
ヴィンのセリフからも、もうバレバレだと思いますよ?(苦笑)