humming
鼻歌混じりに歯を磨いていると、背後から「元親」と名を呼ばれた。
「んあ?」と顔を上げれば、すっかり身支度を整えたサヤカが洗面台の鏡の中からこちらを見ている。
「先に出る。今日も帰りが遅いから、構わず先に休んでいろ」
「んおー、わぁった」
俺の部署と入れ違いにサヤカのとこが繁忙期に入った。
これからもっと忙しくなると、こんな風に顔を合わせることも難しくなるだろう。
歯ブラシを咥えたまま鏡越しに頷いてみせると、黒いスーツを纏った仕事用の顔の中で、
くっきりと引いた口紅がほんのわずか緩むのが見えた。
と同時に首元を飾る鮮やかな青いスカーフに目が留まる。
あ、と思い出して慌てて振り返った。
「のんびりし過ぎて遅れるな、元親」
そう云ってドアの向こうに消えた横顔を追って大股で洗面所から飛び出て、
「ん!あーふぁっ!」
怪訝そうに振り向くサヤカに、人差し指を一本立てた。
「ひっふん、ひはんうれ!」
「…元親。歯ブラシを咥えたままで喋るな。聞き取れない」
「おーわりィ。いっふん、じかんくれ」
歯ブラシを取り出したものの口の中が泡だらけだ。うまく云えなかったが、難なく通じた。
「一分?それくらい構わないが…何だ?」
「スカーフをな」
「なんだ、おかしいか?」
「いや。ちぃとばかし、決めすぎてるからよ」
歯ブラシを咥え直し、空けた両手できっちり結ばれたスカーフを解く。
タイトなスーツにアスコットタイ風の結びはいかにも仕事ができそう(実際サヤカはキレ者)だが、
あまりにも隙がなさすぎて勿体ない。
皺を伸ばすように薄い布地の真ん中あたりをくるくると捩り、それを細い首に二重に巻いて襟足で蝶結びにした。
雑誌で見かけてから、機会があれば結んでやろうと思っていたアレンジだ。
正面からだとチョーカーのように見えるが、少し動けばやわらかなシルクシフォンのリボンが覗く。
淡いピンクやベージュ系のスカーフだったらサヤカには甘すぎただろうが、
鮮やかなターコイズブルーが漆黒のスーツに映え、思ったよりもずっと似合った。
満足してうんうんと頷いてみせたら、流石にサヤカも気になったんだろう、壁に掛かった鏡を覗き込んだ。
「…リボン?私には似合わないだろう」
そう云いながら鏡の前で何度も確認している横顔は、会社では決して見せない表情かおだ。
「そんなこたぁねえ。今日も別嬪さんだぜ」
「………元親…」
「なんでぇ」
「まったく、お前は…」
「んん?」
シャコシャコと歯ブラシを動かしながら首を傾げたら、サヤカはふぅと息を吐いて、俺の正面に立った。
すいっと伸びてきた腕に引き寄せられるがまま、ゆるく上体を傾ける。
少しだけ背伸びをしたサヤカがふわりと近づいて、すっと離れた。
「…なんだ、ほっぺたかよ」
「当たり前だ。出掛けに歯磨き粉を付けられてたまるものか、からすめ」
あーそうだったと、スーツ姿のサヤカとまだTシャツにスウェットの自分を見比べる。
ブラシを咥えたまま「惜しいことをした」とぼやくと、紅い唇がゆるやかに弧を描いた。
「元親。ついでに顔も洗って仕事に行くことだな」
「顔ぉ?んなもん、起きてすぐに洗ったぞ?」
「知っている。鏡を見たらわかるが、云っておかないとお前は気付かないかもしれないのでな」
「んー、そうかもなぁ…。なにに気付かないって?」
よく解らないで相槌を打った俺に、サヤカは艶然と自分の唇を指差した。
「移してしまったんだ」
「ああ?…って、口紅か…」
「そういうことだ。すまないな。では、行ってくる」
「あ。お、おう。あんまり無理すんじゃねーぞ」
「お互いにな」
ヒールをカツンと鳴らして外向きの顔に戻ったサヤカは、ひらりと手を振ってドアを閉めた。
遠ざかる足音を聞きながら、さっきまでサヤカが見ていた鏡を覗いてみる。
―― なるほど。
云われてみれば左頬に薄ら紅い色が……別にこれくらい、洗わなくてもいいんじゃねえかなぁ。
マジ気ィつけて見ねえと気付かねぇぞ?
今日が休みだったら迷わず残しておくんだが ――
部署が違うとはいえ同じ社内だから、サヤカとばったり顔を会わせる危険がないとは言い切れない。
たった今機嫌よく送り出したところだ。仕事でピリピリしてる相手の前に爆弾を抱えて立ちたくはない。
折角男っぷりが上がったのにもったいねェなぁと思いつつ…。
鼻歌を歌いながら洗面所に戻るべく踵をかえした。
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手ブロやついったでお世話になっている、雷火さんから
とんでもなく大層な物を頂いてしまいました……!!!!!!(>///<)
元々は、私がついった診断で出した
[元親と孫市で『屋外』『ネクタイ』『筋肉』の3テーマを満たすアダルト絵を多分描きます]
という結果を、「誰かこれで親孫描いて下さい」なんて
超他力本願で呟いてみたら、恐れ多くも雷火さんが名乗りを挙げてくださりまして!!!
すみません、調子こいてお願いしましたwww( ´∀`)
そしたら、絵ではどうしても無理だったそうで;;;
小話頂きましたvvvvvvvv はぁはぁはぁ雷火さんのーちかまごーーーーー!!!!!(萌)
読みながら映像が脳内を駆け巡ったのは内緒ですよ!!!w
本当に有難うございます…!
親孫難しくてすみません って私が謝ってどうする(苦笑)