夜明け前。
それでも、陽が目を覚ますのは
そう遅くなさそう。
空気は澄んでいて、清々しい。
世界が少しずつ、明るくなってゆく。
「ふぁ〜〜〜あ………」
大きな欠伸を一つして、その澄んだ空気を吸い込む。
早朝のウータイは、しんと静まり返っている。
だが、寂しさを醸し出すような印象はない。
その静けさは、凛としたものだ。
玄関の階段を軽々と飛び越えて、近くの橋を渡り。
久しぶりに、故郷を散歩なんかしてみる。
もう一度、深呼吸しながら。
この地に生を受けた日から、この空気を知っている。
今まで、沢山の……本当に沢山の土地を回り、
その空気をこの身体で感じてきたが。
身体も精神も、落ち着きを取り戻せるのは、やはり。
この場所の、この空気。
「あ。」
目線の先に、見慣れた姿を見つける。
総本山の方向へ、ゆっくりと進んでゆく一人の男。
彼は、とても寝起きの姿とは思えない整然とした歩きで。
いつも通りの黒ずくめの服装で、極彩色の街並みの中では嫌でも目立つ。
「ヴィンセント!」
大声で呼んでやると、どれほど油断していたのか。
身体をビクリと跳ね上がらせて、慌てた感じで後ろを振り向いた。
「な……」
「ちょっと待ってよ! 今そっち行くから!!」
叫びながら、数十メートル先の彼の元へ足を速める。
「なーにやってんの? 朝の散歩?」
ようやっと私の横まで辿り着き、ユフィは一息ついて話しかける。
「…ああ。 そんなところだ」
「こんな朝早くから散歩ぉ? ヴィン、まるで――――」
「それ以上言うな」
彼女の言いかけた台詞が、手に取るように解る。
だから制止した。
「私のことはいい…。
それより、お前の方こそ、こんな時間に何をしている?」
夜が明け切らない時間帯に、何か用があるとは思えない。
『私を見かけたから』………などという理由でもないだろう。
今でさえ、眠そうに目を擦っている。
「………寝ていないのか?」
「あ、うん。
気ィ付いたら徹夜してて……、……あっ!」
軽く欠伸をしながら答えたかと思えば、
慌てて自分のズボンのポケットから、何かを探し出す。
「ちょーど良いや。
コレ、渡そうと思ってたんだ♪」
そう言って、彼女は私の右手を取ると。
もう片方の手で、ポケットから取り出した『何か』を手渡した。
右手に覚える、微かな違和感。
「―――――……これは?」
「へっへ〜♪ アタシの手作りアクセっ☆」
彼女から渡されたもの。
銀の長い鎖を輪状にして、その中心には
透明とも、乳白色とも取れる色をした、奇妙な形の小さな石が付いていた。
「この間、エッジで見つけた店にあったんだけどさ。
色んな石が売ってる店で、キレイなの選んで買ってきたんだよ、その石」
「……元々この形をしていたのか? この石は」
「ううん。それはアタシがちゃんと研磨して、その形にしたの。変かな?」
「いや………」
私が繁々とそのペンダントを眺めているので、照れたのだろうか。
ユフィが、少し下を向いて話し始めた。
「ホントはさ……、前に作ったケルベロスのチェーンみたく、全部手作りにしたかったんだけど……。
……色々難しくて。
それにアンタ、基本的にアクセって付けないし、
ペンダントなら戦う時も邪魔にならないかなって………。…それで……」
徐々に小さくなってゆく声。
見る見るうちに、彼女の顔は耳まで赤くなっていく。
「……………?」
礼を言おうと口を開けた、その時。
先程、ペンダントを取り出した彼女のズボンのポケットから
同じ銀の鎖が見えた。
「…………これは何だ」
「えっ! ちょっ………!?」
無理矢理それを引っ張り出そうとする私の手を、ユフィが止めようとする。
だが、その抵抗も空しく。
私の左手には、もう一つの鎖が握られる事となった。
その鎖の先には。
「……………同じ、形だな」
「………っ」
私が彼女から貰ったペンダント。
それと酷似した……否、寧ろほぼ同じペンダントが、そこにはあった。
唯一、違うのは。
「こちらは、黒い石だな……」
同じ様に奇妙な形をしているが、その石は
私のものとは対照的に、漆黒を纏った物だった。
表面に煌く一閃の筋が、どれだけその石が艶やかで輝かしいかを物語る。
「べっ……別に、お揃いとかそんなんじゃ無いからねっ!
キレイな石、他にも買ってたし! アタシもペンダント欲しかったし!!
ついでに作っただけなんだからッ!!! 解った!!?」
そう捲くし立てると、彼女は私から黒い石を取り上げようとした。
それをかわしつつ、私は彼女に問う。
「ユフィ。 お前は、この石がどんな意味を持っているのか、知っていて買ったのか?」
「はぁ?」
ユフィの動きが止まった。
…………どうやら、直感で買ってきた模様だ。
「………石には様々な力や、意味がある。 例えば、お前のこの黒い石……。
これは、『オブシディアン』と呼ばれる石だ」
「おぶ……?」
「オブシディアン………別名『黒曜石』だ。
有史以前から、武器や呪術……魔除けに用いられていたらしい。
決断力を高め、精神的な弱さを克服したり、精神の不安を沈静させる作用もある」
「へぇ……」
続けて、私に与えられた乳白色の石を見せる。
「こちらは『ミルキークォーツ』………水晶の一種だ。
持つ者を愛情深く包み込み、その心を開く作用があるという。
疲労・不眠を改善し、心に潤いと活力を与えると言われているな」
「………何でそんな事知ってんの」
何やら拗ねたような顔で、ユフィは私を睨み始めた。
「神羅屋敷には、それなりの本があったからな……。暇潰し程度に読んでいた」
「ふ〜ん………」
それだけ言うと、ユフィは急にそっぽを向き始めた。
「ユフィ?」
「じゃあさ……ヴィンは、その形の意味を知ってる訳?」
「? ………いや…」
そう答えると、ユフィは遠くに見える海と、
その色を鮮やかに変えてゆく太陽を見つめていた。
「その形……『勾玉』って言うんだ。 母様が言ってた…」
「勾玉……?」
歩きながら、少しずつユフィは語り出す。
「それ……『勾玉』を、上下反対にして繋げてみなよ」
「上下に……?」
言われるままそうしてみると、その形は
ゆるやかな円状を作り出した。
「それ、丸くなるだろ? その形を『太極図』って言って
この世の理を表す形なんだって……聞いた…」
「この世の……理………」
「そう。
この世は、色んなモノが混ざり合って出来てる。
空と海、朝と夜、太陽と月、火と水……。 ………それに、男と女」
空を見上げ、ユフィは話し続ける。
「それは、決して一つになる事も無いけれど、完全に二つに別れ切る事も無い………。
それぞれがそれぞれを滅ぼし、そして生み出してゆく。
『表裏一体』………『混沌』と『再生』の象徴なんだって」
私の方を振り向いたユフィの顔は、少し微笑みが浮かんできた。
「『表裏一体』………。 『混沌』と『再生』の象徴……」
私が繰り返して呟くと、ユフィが戻って来て
私の目の前に立った。
「貸して!」
「え?」
「貸してってば、ホラ! つけたげるから」
私の手から、白い石のペンダントを受け取ると
その金具をいじり、少し背伸びをして私の襟元に手を回した。
それに合わせて、私も少し腰を落とす。
「……うん! ホラ、似合うじゃ〜ん」
唇の端を少し吊り上げて、少し意地悪っぽく微笑むユフィ。
どうやら、機嫌はすっかり直ったらしい。
「ユフィ、少し後ろを向け」
「へ?」
「付けてやる。 お返しだ」
ユフィが少しきょとんとするので、少々無理矢理振り返らせた。
「ユフィ………」
「ん?」
ペンダントを付けている間、ユフィは私の方を向いては居ない。
だからこそ、と言うべきか。
普段は言い慣れない、礼を言ってみる事にした。
「有難う」
「へ……?」
「ペンダントのお礼だ。 ………それと、もう一つ」
「もう一つ?」
「……私の身体は、もう理というものが無くなってしまった」
ユフィは何も言わなくなった。
「……理が通用しなくなっても。
私の身体には二度と、陽が上らないとしても。
…お前は言ったな。『混沌と再生の象徴』だと」
「……太極図の…こと?」
「そうだ。
私に『再生』は有り得ない事かも知れない。 だが……無いとも限らないだろう?」
「……? どういう事…?」
「…………私の身体が、再び時を刻む日が来れば良いと……。
そう思っただけさ」
そう言うと、ユフィの背中を軽く押した。
「さ、帰るぞ。」
「え………あっ、ちょっと!」
振り返らず、そのままユフィを置いて行こうと歩き始める。
と、途端に―――。
「〜〜〜〜〜っ! アンタより先に帰ってやる〜ッ!!」
そう叫んで、ユフィは私を追い越すと
そのまま家の方向へ走って行ってしまった。
「………。やれやれだ…」
少し溜め息をつきながら、私も歩き始めた。
胸元のペンダントを眺めた後、左手でズボンのポケットから
小さな箱を出した。
「……渡しても良かったんだがな……」
箱の中には、小さな指輪。
さらに小さな石が、はめ込まれている。
だが、それをまたすぐに仕舞い。
「柄でもない…………」
再び、彼女を追い始めた。
遠くの海が、青く輝き始めた。
世界のありとあらゆる者達が、目覚めてゆく瞬間。
静かで、穏やかな、夜明け。
END
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………ぶはぁ! 終わった…!!!!(何)
いやぁ、難産でした。
今回の小説は。
33333hitsのキリリクで、「手作りのペアグッズ」という条件だったので…。
指輪とペンダント、どっちにしよーかなーと思って
ペンダントにしました。
で、更に「どうせならパワーストーン使ってみようか」と思い立ち、
急遽パワーストーン調べ(笑)
頑張って頑張って頑張って、結局こんなんになりました………(死亡寸前)
えーと。
ネタバレをしますと。
ヴィンが渡そうとしてた指輪は、ペンダントと迷った結果の悪あがきです(苦笑)
………じゃなくって(死)
指輪の『小さな石』とありますが……。
ええ、あの。
……ダイヤモンドです。エヘ☆(キモ)
ダイヤモンドだという事を書きたかったんですが、駄目でした。
表現力不足で………(泣)
この設定(お揃いのペンダントしてる)ってのは、結構気に入ってるので
これからも自分設定で行きます(笑)
ではでは、黒まてりあ様
書かせて頂きまして有難う御座いました!
お気に召して頂ければ幸いです……vvv