+ Wake Up , Right Now +
− Albel Side −
階下で、どこか気持ちの良い音が聞こえる。
リズムのある、細やかで高い音。
……ああ、眠い。
この音が、ますます自分を深い眠りへと誘ってゆく。
また、意識を手放しかけた時。
「だ〜い・び〜んぐっ☆」
刹那、一際甲高い声と共に、
仰向けになってベッドに寝ている俺の懐部分に、
強力な重力が圧し掛かった。
「ぐぉッッ!!!!?」
我ながら、非常に間抜けな声を出した。
それだけ、油断していたのだ。
「お父さ〜んっ! 起ーきーてーッ!!」
そう言って、俺の上に馬乗りになったまま俺を揺さぶる子供。
艶やかな黒髪と、横髪だけに銀のメッシュのある小さな少女。
「………フェリ…シア……?」
目を開けて正面を見据えると、そこに見えたのは
娘・フェリシアの眩しい笑顔だった。
………コイツ、本当に母親に似てきやがったな……。
朝っぱら、こんな風に無理矢理起こす所なんか、特にだ。
「ほら〜っ! 朝だよ、あーさっ! お母さんがご飯作って待ってるよ?」
「……ぐ……」
ますますフェリシアの揺さぶりが激しくなる。
……起きようにも、お前が邪魔で起き上がれないのが何故分からん……。
無理に起き上がれば、フェリシアがベッドから転げ落ちるのは確実だ。
とにかく、娘が自らどくのを待っていると。
「フェリシア」
もうひとつの声。
「あ! お兄ちゃん!!」
被っていた布団の隙間から、ドアの方向を覗くと
入り口の手前に、男の子供が立っている。
「父上が困ってる。こっちにおいで」
そう言うと、俺の上に乗っかっているフェリシアの手を取った。
「ちぇっ…。……はーい…」
渋々、フェリシアは俺の上から降りた。
やっと、鳩尾の部分にあった重みが無くなる。
「すまん、フェンリル…。助かった」
「おはようございます、父上」
そう言って、白銀の髪を持つ少年―――息子・フェンリルが一礼する。
「フェリシア、母上に父上が起きたって伝えて?」
「えー? 私、お父さんと一緒に行くーっ!」
まだ寝ぼけ眼の俺の横で、二人が話し始めている。
「父上はすぐ連れて行くよ。それまで、母上を手伝ってあげて?」
「………うー……」
拗ねた顔をした後、フェリシアはそれを渋々承諾した。
「…分かった…。じゃあ、お父さん! 早く降りてきてね!」
俺にそう告げて、フェリシアは元気良く階段を下りて行った。
「……朝から元気だな……」
髪を掻きあげながら呟くと、フェンリルがタンスをかき回しながらそれに答えた。
「昨日から、父上が帰って来るのを楽しみにしてたんですよ」
「?」
「ここ最近、城の方に泊まる事が多かったですから。
久しぶりに父上が家に居るから、父上と出来るだけ一緒に居たいんですよ。
……どうぞ、着替えです」
「あ、ああ……」
フェンリルが差し出したシャツとズボンを受け取る。
コイツはコイツで、よくここまで礼儀正しく育ったよな……。
双子の妹のフェリシアとは大違いだ……。
………本当に5歳か? コイツ……。
「それじゃ、僕は先に行きますね。
母上が朝食を用意してますので、着替えたら降りてきて下さい」
「ああ」
フェンリルが階段を下りる音が響く。
ふと、鼻をくすぐる香ばしい香り。
階下からの、朝食の匂いだ。
スフレの料理の腕は、10年前から比べると
素晴らしいほどに上達した。
ロセッティ一座へ戻ってから、そうとう練習したのだろう。
5年振りに再会した時には既に、昔の下手っぷりなど微塵も感じさせなかった。
今では、城のコックがスフレに、料理のメニューを相談するほどだ。
さっき、寝ながら聞いていた音が聞こえる。
心地良い音。
リズムカルに叩く、包丁の音、だ。
ズボンを履き、シャツを無造作に羽織る。
時計を見れば、もう少しで8時だ。
昨日、寝たのは夜中だった。
あれだけ激しくしたのに、俺より早く起きて
メシの準備をしてるというのか。
つくづく、「母親」の強さに感心する。
ドアを開けて、階段を一段ずつ下りる。
さて、今日は何をしようか。
久し振りの休暇だし。
フェリシアの希望通り、遊んでやろうか。
フェンリルの希望通り、剣の稽古をつけてやろうか。
それより先に。
俺が起きていけば、『アルベルちゃん、おはよう!』と
笑って俺の元へ駆け寄ってくる彼女に。
小さなキスを落としてやろうか。
END.
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アルスフ親子小説、第1弾です。
出会い云々は置いといても、途中をすっ飛ばすなって話ですが(死)
それはそれで、またちゃんと改めて書きたいのですよ。
以前、携帯サイトで書いた「Over the distance」というアルスフ小説があったんですが。
アレも結局、データも何も残してなかったので(汗)
いずれ、ちゃんとアルスフが結ばれる話を書きたいですね。
因みにこのお話、スフレ編もあります。