さ・ん・ぷ・る(冒頭)
 早春の柔らかな朝日が差し込む部屋の中。
 鏡に映った自身の制服姿をチェックした小森は、曲がったネクタイをギュッと整えた。このルーチンも一体何度繰り返したことだろう。三年前に比べて幾分古ぼけた感のあるこの制服に袖を通すのも、今日が最後だ。
 よしっ、と。
 軽く頷いて、部屋を出ようとした小森は、椅子の下に転がっていた野球のボールに気づいて、それを手に取った。土で所々が汚れたボールは、小森の手にずっしりと重く感じられた。
 三年かあ……何だか早かったな……
 大林と出会い、野球部に入り、野球部中心の生活だった中学校生活。いろいろなことがあったが、それでもやはり、小森の中で大きなウェイトを占めるのは、三年生になって衝撃の再会を果たした茂野との邂逅だった。
 本当、あの時は驚いたよな……
 ほとんど崩壊していた野球部を立て直すきっかけとなった茂野との再会。それは、とある恥ずかしい記憶と共に、小森の脳裏によみがえるのだった。