2008.6.7
(四周年記念ちんコラム)

 ワタリ

白土三平

(所載:少年マガジン/昭和40〜42年)



総評:ワタリは死を呼ぶ渡り鳥


 忍者漫画は、シリアス/コメディ:時代劇/現代劇の二つに大きく分かれますが、今回は「シリアス:時代劇」に属する忍者漫画の『ワタリ』を紹介させて頂きます。

作者は忍者漫画の第一人者である白土三平先生。
白土作品では『カムイ伝』等が有名ですが、『ワタリ』は隠れた名作だと思います。

巻数は通常版で全七巻、全集だと大体全四〜五巻程度ですが、短かいながらも「第三の忍者」「0の忍者」「ワタリ一族」の全三章で構成される物語は凄い濃いです。

 これから順番通りに詳しい解説を始めますので、ネタバレに注意して下さい。
『カムイ外伝』実写映画化記念の一環として、白土作品の魅力が伝われば幸いです。



第一部:第三の忍者


【あらすじ】

伊賀忍の里では忍者集団、百地党と藤林党が二大勢力であった。
それぞれの下忍達は謎の「死の掟」に縛られ、その秘密に近づいた者は殺された。
さらに下忍の反抗が芽生えると、この両者間に血で血を洗う争いが起きるという。
そこに、伊賀者でも甲賀者でもない第三の忍者、ワタリと四貫目が現れて...


【本編について】

主人公:ワタリ

ワタリというとデスノの執事が有名ですが、こちらのワタリは可愛らしい外見にも関わらず始めから最強レベルの忍者で、斧というおよそ忍者らしくないエモノを使って敵を倒します。


ワタリのじいちゃん:四貫目

老忍であり浪人。ワタリと行動を共にするワタリ以上に超人的な忍者。
なんせ片足(義足)から銃弾を発砲したりネズミのエサを噴出したりする。


 物語はワタリが伊賀の百地党主領の下忍になるところから始まります。
二人は”百地・藤林の主領は同一人物=死の掟”ではないかと疑っていました。
※実在する説らしい。両者の墓の戒名が一字違い(この地方では婿入りした人間が死ぬと戒名を一字だけ変えた墓を両家に立てる風習がある)であることに由来。


ちなみに、それぞれの主領↓

百地党主領 藤林党主領


まあ疑うのも無理はないといった感じでしょうか。
しかし潜入調査で同一人物ではないと判明。秘密はもっと複雑で巧妙だったのです。


 ある日ワタリは百地の下忍養成所で、カズラという小頭の少年と出会います。

通称・鬼のカズラ

カズラは下忍を厳しくしごく影で、離れた家族を石の中から覗き見て泣いているのですが、その姿を見たワタリは彼をボコボコにし、「おいらがおまえの兄弟になってやってもいいぜ」と上から目線で口説きます。どんだけSなんだ。
最初は嫌がるカズラもすぐにうちとけ、「兄弟のしるしだ」とワタリにキスする(どんなしきたりだ)までに至る所がアツいです。


 百地では主領を倒し自由を手に入れるため「赤目党」が結成されます。

首謀者の百地党大頭:音羽の城戸(おとわのじょうこ)

「わしも死の掟に我慢がならんのだ、それにわしの方が主領の動きを見やすい」と話す城戸は、いつも眉間にしわが寄ってる冷静沈着な男前キャラです。


 革命は藤林党の刺客集団に限界を強いられた赤目党が疑心暗鬼で自滅し始める中、カズラが百地主領を殺すため主領邸に導火線を引き自爆テロを起こして終わります。

漢らしすぎる死に様

 これで主領は死亡、死の掟も不要、伊賀に明るい未来が訪れる!と下忍達大喜び。
一方、「カズラはエラいやつじゃのう」と慰める城戸にワタリはこう言い放ちます。

犬死に扱い

...こうやって友の死さえ美談にしないところが、この作品の凄さだと思います。

ワタリの予感は的中、殺したはずの主領は蘇り赤目党は全滅させられました。
(城戸のみ死を免れる=彼は最初から赤目党をつぶすための主領のスパイ)
しかしワタリは友の死を無駄にはせず、死の掟の手がかりをつかんだのです。


 舞台は変わって藤林党。
ワタリは藤林党主領の娘アテカに化けて、主領邸に潜り込んで捜査を始めます。

に全然似てない美少女:アテカ

今思えばこれがアテカの災難の始まりでもありました。
「こいつはワタリだ」と判断した藤林党大頭の道順に大勢の前で裸にされます。

藤林党大頭:楯岡の道順

カラスを使って着物をはぎとる図(どう調教したか知りたい)


さぞワタリを恨むかと思いきや、アテカは自分に化けたワタリをお姉様と慕い、さらにワタリのために協力し自ら道順の前で「わたしアテカよ」と露出したりします。

いくらもう見られてるからとはいえ開き直り過ぎ


 そして新・赤目党と主領派の激しい再戦の末、ついに死の掟の謎が判明します。

百地・藤林で同一人物だったのは主領ではなく大頭で、復活したかに見えた百地主領は藤林主領が二役を演じ、さらに本当の主領は大頭で、両党の下忍を常に監視し主領への反抗心が芽生えると下忍同士をいがみあわせて独裁し、この秘密に近づいた者を処刑するのが「死の掟」でした。

百地党大頭
音羽の城戸
藤林党大頭
楯岡の道順
百地党主領
死後藤林兼任
藤林党主領
アテカの父
同一人物で影の主領 革命で爆死 最後に自殺


 こうして支配体制は崩れ、伊賀は生き残った赤目党が統治することになりました。
それを見守ったワタリは、四貫目と、ちゃっかりアテカも加えて伊賀を去ります。

巧みな展開だーと唸らされるのはまだ早い、ここまではほんの序章にすぎません。
ここからが伊賀の本当の悲劇の始まりだったのです。



第二部:0の忍者


 自由を手にした伊賀の里ですが平和は長くは続かず、赤目党に拘束されていた城戸が新たな支配者「0(ゼロ)の忍者」の手先となり、再び伊賀を支配し始めます。

見るからに怪しい0の忍者

一方、伊賀を離れたワタリとアテカはイチャイチャ蜜月を楽しんでいました。
「おいらは忍者だからいつ死ぬかもしれない」「死ぬ時は一緒よ、ひとりぼっちは嫌」という会話が展開されますが、これがいわゆる死亡フラグというやつでした。

その晩、父の墓で泣いているアテカをワタリが化けてると勘違いした0の忍者が現れ...

一瞬で殺される

ワタリはこれで自分を狙う存在に気付くわけですが、アテカは死後も死因と犯人を調べるために四貫目に解剖され、最後まで主人公のせいでために体をはりました。


 伊賀では「赤目党があるかぎり0の忍者は伊賀者を殺し続ける」という城戸の口車にのった里の者が、かつて里の自由のために奮闘した赤目党を迫害し始めます。
そして復讐に燃えるワタリは何度倒しても蘇る不死身の0の忍者に「伊賀を去らねば里人を一人ずつ殺す」と宣告され、仕方なくワタリ一族のたまりに逃げ帰りました。

そんなワタリに兄弟子クズキは「わしに相談しろ、なんでもやる」と持ちかけます。

元は伊賀者だったクズキ


 後日、城戸の圧政に苦しむ伊賀の里ではカブラという少年が活躍をし始めました。

人物紹介に「ワタリの変化?」と思いっきり書かれてるカブラ

それからしばらくして再び伊賀にワタリが現れ、0の忍者の正体を教えてもらうことを条件に城戸の伊賀全支配に協力すると、赤目党の残党との全面対決が始まります。
その頃カブラは幽閉された智道斎の孫ミズキを助け、彼女と遊びほうけていました。

カブラを「にいさま」と慕う美少女ミズキ

伊賀全土を巻き込む激戦の末ワタリは0の忍者に最後の最後で殺されてしまいます。

が、実はこれはクズキの変装で、本物のワタリはカブラだったのです。

変装をといたワタリは0の忍者の不死身の仕組みについて、城戸が催眠術によって中の人を赤目党の仲間や恋人で入れ替えて演出していたのだとネタバラシをしました。
ワタリと伊賀の対決は城戸の目をカブラ(ワタリ)の捜査からそらすための作戦で、まんまと罠にかかり伊賀の衆に包囲された城戸は恐怖のあまり発狂します。

おちるとこまでおちた城戸


 城戸の脚から打ち上げられた花火を合図に、信長の伊賀への侵攻が始まります。
城戸は欲に目がくらみ国を売っていたのです。こうして伊賀は完全に壊滅しました。
ワタリとじいはミズキを連れて(デジャブ)伊賀を去りワタリ一族の元へ帰ります。
本当救われない結末ですが、とりあえずワタリの代わりに殺されたクズキに合掌。



第三部:ワタリ一族


【プロローグ】

渡り鳥たちはやってくる、冬を前に南をさして去って行く......
だが残ったこの二羽は、どこか自然のかたすみにひそみ、きびしい冬の寒さと飢えに耐えていかねばならないだろう。


 最終章の第三部はワタリ一族の謎に迫ります。
第三の忍者ワタリ一族は、渡り者(きこりやまたぎなど旅をしながら生活する者)の生活をまもることを生業とする忍者集団ですが、主領は「我々も戦乱のわざわいからは逃れられぬ」と急に武士の戦に手を貸すことをワタリ達に要求してきました。

ワタリ一族は皆こんな花輪君みたいな髪型:主領

 反対するワタリに、突然次々と仲間が襲いかかって来ます。
無我夢中で全員倒すと、その中には恋人のミズキもいました。

トラウマもの

そこで仲間が全員操られていたことを知り、初めて黒幕の存在に気付きます。
というかワタリは色んな意味で白土作品屈指の女殺しと言えるでしょう。

ワタリは反逆者として一族から迫害を受けますが親友の姫丸は彼の無実を信じます。

高身長:姫丸

姫丸も当初は戦で忍者を道具のように使う主領のやり方に反対しますが、やがて主領の説得に応じ自ら主領の影武者をやるまで組織に染まってしまいました。

完全に孤立するワタリと四貫目は主領の正体が××であることを突き止め、一族から抜け出そうとすると二人を危険分子と判断した主領は追っ手を使って殺そうとします。
同じ里の者を殺すことを避けたい二人は苦戦を強いられますが、再びワタリの前に現れた姫丸はワタリを逃がし、自分はワタリに化けておとりになりました。

脚が罠にかかっても、その脚を切断してまで逃げ回り時間を稼ぐ姫丸に俺涙目。
ついにつかまりリンチを受けます(てか身長差凄いあるのによく化けれたな)。

作品内随一の死にっぷり


 そしてワタリが姫丸の変装だと気付いた一族が、遠くの方でワタリと四貫目が逃げ去っていくのを見送るシーンで、物語は打ち切りっぽく終了しました。

...以上が全三章の内容でしたが、全てにおいて何一つ解決してないとこが凄いです。



まとめ


 全7巻の物語なんで楽に解説できるかと思ったら、凄い長くなりました。
これでもかなりはしょったんですが...比較的昔の漫画の方がコマ数多いですよね。
改めて凄い密度の漫画だったんだと実感しました。読むとあっという間なのに。

それにしても読み返して思ったのは「凄い死亡率だな」ということです。

死亡者名簿(デスノート)にするとこんな感じ↓

ワタリサイド 悪役サイド
カズラ

自爆テロ


百地主領

爆死

アテカ

ワタリの
身代わり

藤林主領

自殺

クズキ

ワタリの
身代わり

城戸

狂死

ミズキ

ワタリに
殺される

ワタリ主領

生存

姫丸

ワタリの
身代わり

黒幕

生存


どの死も比較的あっさり流されてるところがさすが時代劇というか、大局的です。
しかも唯一生き残ってるのがというところが今の少年漫画じゃ考えられません。
というかワタリサイドの死因を見ると主人公が諸悪の根源な気がしてきました。
主人公に近づくと死亡フラグ、な辺りはデスノに近いものがあります。

 なんかえらく鬱漫画っぽい紹介になってしまいましたが、忍者がファッション同然でバトルやお色気一辺倒な近年多く見られる忍者漫画と違い、権力と集団の狂気という重いテーマを扱いつつ謎解きやバトルも楽しめる名作なので、興味と機会がありましたらぜひ読んでみて下さい。
って内容ここまで書いといて今さら人にすすめるのもどうかと思いますが。。

 正直『カムイ外伝』の実写映画化を機に白土作品ブームが再燃して、『ワタリ』アニメ化しないかなと夢見てるんですが、無理か。
「また消えてく渡り鳥の声」という歌い出しの「Lament」(I've)を主題歌として勝手に聞いてたので、それを元にオープニング絵コンテをまた暇な時に作りたい。

【追記】プロモーション絵コンテ完成しました。



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