「イル・サマリターノ賞の町」アッシジを訪れて

asissi

■世界一美しい町、アッシジ

「アッシジは世界一美しい町だ」という人がいます。
他との比較はともかく、確かに私もアッシジほど美しい町は見たことがありません。
スバシオ山の側面に薄いピンクの煉瓦造りの家々がびっしりと並び、いくつかの教会が絶妙のバランスで配置されています。
太陽が出ても、月が出ても、麓から見上げても、山頂から見下ろしても、とにかくどこを切り取っても美しい町です。 しかも、ただ美しいという事でなく、キリスト教の聖人サン・フランチェスコの生きた「聖地」であり初期ルネッサンスの画家・彫刻家たちが活動した場所でもある事がさらにこの町の魅力を深めています。
昨年(97年)の11月、イタリアのアッシジを訪れました。 目的はわれらが浮谷東次郎が受賞した「イル・サマリターノ賞の町」アッシジを見てみたいという単純な動機でした。
今回はクラブの会報ということで「イル・サマリターノ賞の町」アッシジとして、見た事や考えた事を書かせていただきます。

■「イル・サマリターノ賞の町」

ローマから北へ約2時間、小さなアッシジ駅を降りると、澤田先生と奥様が迎えてくださいました。澤田先生はクラブの会員です。
医者であり、また牧師であるという先生はもう20年以上アッシジに住んでいるそうです。まったくの初対面でしたが「浮谷東次郎」を愛する者同士ということや先生の温かな人柄にも助けられ、そのような事は問題ではありませんでした。

◆イルサマリターノ像を見る

澤田先生の案内で 翌日、イルサマリターノの像を見にいきました。
アッシジ旧市街から車で30分程度の西に走った車道に面した場所(ペテロニャーノ広場)にその像はありました。今年のクラブの年賀状に使った写真はその時のスナップです。負傷者を助けようとしたトフィー氏が交通事故に遭われて亡くなられた場所にその像は立っています。
ですので町の中心の目立つところに像が建っている訳ではなく、結構寂しい場所にあります。しかし澤田先生によると毎年の「イル・サマリターノ賞」受賞式典時には 市をあげてパレードが行われ、大変にぎわうそうです。私が考えていた以上にイル・サマリターノ賞は大きな賞のようです。
その日は像の近くで電気店を開いている、イルサマリターノ賞の発起人の一人、ブルーノ氏を お訪ねしました。私達の来訪を大変喜んで くれました。

◆トフィー夫人とお会いする

翌朝、澤田先生の車で 「イル・サマリターノ賞」を主催されているトフィー夫人のお宅を訪れるため、長い一本道を走っている時の事。
「谷川君、ここはもうトフィー夫人のお宅の敷地なのですよ」
「え〜っ?まだ家が見えてないじゃないですか!!」
ということでトフィー夫人のお宅はまさに大邸宅なのでした。
詳しく書くと逆に私がいかに貧しい生活をしているかが浮き彫りとなるのであまり書きませんが・・・。
トフィー夫人はお忙しい中にも関わらず手作りのクッキーを焼いて私達を迎えてくれました。夫人も温かなでとても活発な感じのする人でした。また高い精神性も感じました。夫人はクラブ員のみなさん、ぜひアッシジに来て欲しいとおっしゃられていました。
書斎の椅子に浮谷さんから贈られたという深緑に薔薇の花をあしらった膝かけがありました。書斎の色調ととてもマッチしていて「さすが、浮谷さん!」と感心しました。

■「イル・サマリターノ賞」の意義

アッシジを訪れて「イル・サマリターノ賞」について私なりに考えた事を書きます。
浮谷東次郎が「イル・サマリターノ賞」を受賞した事には2つの大きな意義があると思います。
一つは浮谷東次郎が国際的に評価されているという事。口の悪い人は「浮谷東次郎はレースで何勝かしただけで他には何も実績を残していないじゃないか」と言います。しかし、浮谷東次郎は自分を犠牲にして人の命を救ったという点において国際的に認められているのです。この事は誇れる事であり、もっと自信を持ってよいと思います。
もう 一つは「イル・サマリターノ賞」がアッシジから生まれた賞である事。 多くのムーブメントの源泉であるアッシジの賞であるというところに隠された大きな意味があるのではないでしょうか。「ルネッサンス」や「宗教改革」といった世界を席巻するムーブメントの様に「トージロースピリット」が世界に広がっていく事を夢みるのは決して悪いことではないでしょう。
アッシジの町は9月に起きた地震のために大きな打撃を受けていました。阪神淡路大震災直後の様にテントで暮らしている人もいました。ほとんどの教会が立ち入り禁止であったため楽しみにしていた「小鳥に説教するフランチェスコ(おねえちゃまも大好きだそうです)」多くの絵画を見ることができませんでした。その事だけが心残りでしたが、また訪れる時の楽しみとしておきましょう!!

アッシジをさらに知りたい人は次の映画と本をお勧めします。

◆映画:「ブラザー・サン、シスター・ムーン」
(アッシジの遊び人だったサン・フランチェスコが「キリスト」の声を聞き、友人達やサンタ・キアラと壊れかけた教会(=キリスト教)を建て直していくというストーリー。最後の法皇謁見のシーンは圧巻です。)

◆書籍:片桐すみ子編「わが心のアッシジ」人文書院 刊
(この本は必読でしょう。なぜならば澤田先生も執筆されているからです。それどころか編者のあとがきにある通り澤田先生なくしては誕生しなかった本です。内容は澤田先生の文章の他にアッシジを訪れた芸術家や作家などの文章を集めたものです。)

最後にこの場をお借りして澤田先生にこの場をお借りしてお礼を述べたいと思います。 アメリカの「サンフランシスコ」がサン・フランチェスコの名前だということも知らなかった無知極まりない私たちを暖かく迎えてくださり、本当にありがとうございました。なかった無知極まりない私たちを暖かく迎えてくださり、本当にありがとうございました。

(この文章は98年に会報用に掲載されました。)

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