年末センサカ。





今年最初の一年の計は、達成できただろうか。

そもそも、一年の計で何を目標にしたのか、定かではない。

ひょんなことで、あの人との再会を果たした。

あの人との関係は、11年の長く不毛な日々から、ようやく存在認知に至ったようで、最初の扱いから比べるとかなり関係改善されていると考えて問題ないだろう。

実際、休日に誘えば一緒に出かけれらるくらいにはなってはいるのだが。

なんというか、そのたびにさざめくこの心持は、あの言葉でしか表現できず、しかし、使えないこの言葉。

使ったらどうなるのか・・・

使ってみたいような、使ってみたくないような。

関係を進めさせるか、悪化させるか、現状からの類推は定かならず。

そばにいると、うっかりこぼれそうになるのを口にしっかりチャックをし、黙り込めば、不審。

しかし、うっかりこぼしてしまったのならば、おそらく拒絶。

覆水盆に帰らず。

言わなければ、保留、且つ、継続。

人はそれを保身とは申せども、明らかなる拒絶を受け入れられるほどの度量はなく、かといって、押し売りするのは気が咎める。

だから、来年は、受け入れられない言葉を自然に受け入れてもらえるように、手を変え品を変え、受け入れざるを得ないように権謀術数。

一年の計が元旦にあるのならば、来年はそれしか願わず。

来年の今日、計が達成できたと、そう胸をはって言えるように、綿密に。

あの人への包囲網を縮めるぺく、計画を立てるのだ。

おしまい。(2003.12.31)











失われた記憶の。



今日の新聞を見た人は多いだろう。

おそらく多くの人には興味深く、しかし、そのままスルーする、豆知識のようなそんな記事。

しかし、自分にしてみれば、永年に渉る様々なことがその記事をスルーすることを許さず、かといって考慮しようにも検証しようがない。

結局、あの人の前頭葉は、俺を拒絶している。いやな記憶を思い出さないように抑圧しているのだ。様々に忘れられた俺の断片は、あの人の脳みその中では抑圧の対象で、消さないと正常な自分を保てないと判断されたに違いない。そうして、下に沈殿するように積もっていったあの人の中の「俺」という記憶は、どこにいってしまったのだろうか。

それが大事にしまわれているならばともかく、でてきたら灰色。

彼の海馬が、海を渡って走っているのならともかく、走り去る端から、積み重ねた記憶という記憶を、さようなら、さようならと一足ごとに遠のく速度で捨てていくのだ。

「海馬が悪いんだ、海馬が・・・」

と、つぶやきながら、病院に連れて行って、脳みそ一度MRIにかけたほうがいい、などと思っていると、

「なんだ、遊戯王か?」

などと、意味不明なことをいってくる。

そんなことを今受け入れる度量はない。この人の海馬が俺を拒絶しているという事実が、俺を打ちのめしているのだ。

だまりこくって、新聞を見る振りをして返事をしない。

何の返事ができようか。

記憶を抑圧しないと過ごせないという事実が実証されてしまったのだ。

自分が抑圧される記憶だとは・・・

もう、いかん。

多くがむなしく、哀しい。

ひざを立てているところに自分の顔を埋めて、縮こまる。

きっと、この人には、目が見えづらいから新聞に顔を近づけたくらいにしか感じられないに違いない。 

すると、首に手を回すようにして後から背中に張り付いてきて、新聞を覗き込んでくる。

「なんだ、載ってないじゃないか。」

などといってくる人は、まだ漫画の記事でも載っていると思っているらしい。

その勘違いには訂正をいれずに、静かに、その記事が見えないようにそっと紙面をめくってしまう。

身体の重みをそのままに預けてくる人の、その手をそっと握り締めながら、この時間の記憶を拒絶されないように、と思うのだ。



おしまい。(2004.1.9)











(04/1/9の日記の続き。時間軸は梅雨時まで持ってきてください。)



いじけると長い。

それは一緒に暮らし始めて、知った事実の一つだ。

一度へこむとえらく長く、沈没している。

そのくせ、沈没しているのを悟られたくないと思うのか、何気ないふりを装う。

しかし、解決するか、心の折り合いがつくか、違う事態の発生で気が削がれるかしない限り、なんとなくよろしくない考えを続けているようだ。



しょうがないなあ。



梅雨時、これ以上部屋がじめじめしても困る。

きのこでも生えたら大変だ。

そう思って、すでにかなりめり込んでいると思われるその背中に張り付いてみる。

背中越しに新聞を覗き込んで見る。

海馬、海馬・・・ヒントの言葉を見つけようと目を走らせるが見つけられず、新聞をめくられてしまう。

見せたくないらしい。

調べようと思えば、いくらでも調べられるが。

まあ、原因がわからずとも機嫌を回復させる方法はいくつか知っている。

たまには優しくしてやるか、などと回復させるための方法の中でも最も効果が高いが恥ずかしいのであまりやりたくない手段をその日は用いてみた。





休みが終わり、今日からは普通の勤め人は会社だ。

うちのいじいじ太郎は、休みだったのにも関わらず、まだ浮上せず。

梅雨時の洗濯物が乾かずにじめっとしているような感じが今なお続いている。

この連休の間、私はずいぶん奴の浮上に対して献身的に奉仕したのだが(恥ずかしながら言葉通りの意味だ。)、目に見える効果は得られなかった。

原因と思われる新聞は、すでに処分されてしまったようで、ネットで調べる時間は相手に付き合うことによって削がれた。

ほんとうに、なあ。

何をあんなに思い悩んでいるのか。

仕方なしに、夕方過ぎに高杉のうちに新聞を見せてもらうために行ってみる。

高杉はおらず、緒方君がいた。

丁度うちととっている新聞が同じだったので、あの不審な言葉を奴がつぶやいていた日の新聞を見せてもらう。

すぐに見つかった。

あー・・・

こりゃ、いかん。

いまだ思い出せない記憶の、その原因についてなにか思いを巡らせてしまったことだけはわかった。

世の中にははた迷惑な研究が。

どうしたものかとうなっていると、緒方君がお茶を持ってきてくれた。

いい匂いだ。

どうやって淹れるのか、聞いてから帰ろうと、しばらくそんな話をする。

しながらも、やっぱりどうしたものかとそのことばかりを考えてしまうので、さすがに緒方君が気にしたように聞いてくる。

正直に新聞記事を見せて、我が家の事情をつぶさに報告すると、

「あー、そりゃ難儀ですねえ。」

といって一緒にうなってくれた。

しばらく二人で、どうしたこうしたと喧々諤々していたら、高杉が戻ってきた。

早速緒方君が走って出迎えに行っている。仲良きことはなんとやら状態だ。

邪魔者なのか、私は・・・

と思い始めたところでようやく存在に気づいたらしい高杉が、声を掛けてくる。

が、今緒方君と話していた話をぶり返して高杉にする気にもなれず、暇を告げる。

すると緒方君が、

「今を大事にすれば、昔のことなんてなんてことないって事に桂君も気づいてくれますよ。」

と、そっと声を掛けてくれた。



うちに帰って、夕飯を作りながら千太郎の帰りを待つ。

しかし、いつまでたっても思い出せないからといって、いつまでも責を負わなければならないのだろうか。もし、思い出された記憶が、都合の悪いものだったらどうするつもりなのだろうか。大概は思い出されたのだし、いまや一緒にまで暮らしているような状況下で、未だに過去について詮議されるのは、あれだな、浮気をしたことがあると後に信じてもらえる地盤がなくなるというようなものか。

ということは、まだ、千太郎は私を信じていないということなのだろうか。

色々した約束やらなにやらは、昔のことを思い出せないというその一点で全てグレーゾーンに入ってしまい、信じてもらえないのだろうか。

野菜を切りながら手元がおぼつかなくなる。

目がかすんでくる。

なんでよりにもよって今たまねぎなど切っているのだ。

いや、これはたまねぎの成分のせいだ。心の汗では決してない。

そう自分に言い訳したあとは、成分にまかせてそのまま目から涙流したまま、流れたのが邪魔になればたまねぎの成分のしみた手で拭い、ますます涙を流しながら切り続けた。

今日の夕飯はさぞかししょっぱかろうて。

そんなことを考えていると千太郎が戻ってきた。

「ただいま戻りました」

そういってドアを開けて、台所に入ってきた千太郎は人の顔を見てぎょっとしたようだ。

「何、泣いてるんですか?」

「いや、たまねぎ切ってたらな。」

といいつつ、また目を手でこする。すると、腕をとられ、目が赤くなると止められた。



仕方ないので止まらない涙は相手の服にこすり付ける。

やばい・・・鼻水もついた・・・



しばらくそうしていて、たまねぎの成分のせいによる涙も収まった。それを見計らったのか、千太郎が聞いてくる。

「で、坂本さんなんで泣いてたんですか?」

「泣いてなんかないぞ。特別辛いたまねぎ切ってただけだ。」

それを聞くとひどく疑わしそうに、そんなはずはないだろうというように覗き込んでくる。むきになって睨み返すと、

「あんた・・・俺に隠し事するんですか?」

「そんなん、なんもしてない。そういうお前こそどうなんだ。」

「俺?」

「そうだ。お前だ。いじいじいじいじしやがって・・・それにつき合わされるこっちのみにもなってみろ。このいじいじ太郎が!!!」

「いじいじ太郎って、あんた・・・」

ぽかーんとした顔になっている。本人はいじいじしていた自覚がなかったらしい。自覚がないいじいじほどたちが悪いものはない。

これ以上いじいじするんならチリ紙に包んで捨ててやる。

「この休みの間、いじいじしてた理由を言え。じめじめしやがって。洗濯物の乾きが悪いのお前のせいだからな。」

そう坂本氏がいうと、桂氏は坂本氏を抱きしめる手に力を込めながら、

「今、俺むちゃくちゃ幸せなんですよね。あんまり幸せなんで、それがいつかなくなるんじゃないかって、漠然と考えちゃって・・・」

すみません・・・といって鼻面を髪に埋めてくる。

なんだ、漠然って・・・

相手はなんだか告白して、えらくすっきりした顔をしているが、こちらの胸の内はムカムカ王国だ。一言いってやらないと気がおさまらない。



「ポリアンナだって、一日一個幸せ探すのを推奨しているというのに、不幸探してどうする。幸せだからって幸せ探す努力をしないとは何事だ!!!

つうかなあ、お前、私のことを幸せにするっていっときながら、なんだそれは。自分が幸せだからって、私が幸せだとは限らんだろうがー!!!(ちゃぶ台返し)」

「え・・・坂本さん幸せじゃないんですか・・・(呆然)」

「おかげさまで、生憎な。

・・・・・・・お前のせいだぞ。責任とって、今すぐ幸せにしろ。」



はー、すっきり。ずいぶんこいつのいじいじにつき合わされたからな。

お手並み拝見と行くか。

どうやって幸せにしてくれるのか、それを待ちながらも、どうせここまで来たらクリーニング行きだからせいぜい盛大に嫌がらせしてやるとばかりに、涙と鼻水を相手のスーツにこすりつけた。



おしまい。(2004.7.14)←30のお題「13.壁」で続きを書きましたため時勢がちっとおかしいのもご愛嬌で。





















バレンタインセンサカ〜坂本さん義理チョコ編〜



「いや、特に特別な意味があるわけじゃないぞ。いつも世話になってるからな。それだけ。それだけだぞ。」

坂本氏はチョコを桂氏に押し付けながら、まくしたてるように言い募る。

「誰か他にも渡したんですか?」

と、確認してみる。由々しき問題である。この人なら、やりかねない。一つのチョコを覆い隠すのに、大量にばら撒くことを。葉を隠すなら森の中。あと少し待っていたら、千覚君に、などといってチョコ突き出してくるんじゃないか。疑心暗鬼。嬉しいはうれしいのだが、手放しで喜んだあとのショックに対する緩衝材をいくらか敷き詰めておかないと、坂本氏とはまともに付き合えないのだ。桂氏もいい加減用心深すぎであるが。

「いや、これだけだが。」

せっかく渡したのに、喜ぶどころか詮索。こんなことならやっぱり渡さずにスルーすればよかったと眉間に縦ジワが寄せられる。

くそっ・・・高杉に担がれた。←何か吹き込まれた模様。

片や、満面の笑顔になったのは桂氏である。いまや全ての霧は取り払われたのだから、あとは喜びをかみしめるだけである。

「じゃあ、本命チョコですね。」

「おい、ちょっと待て。そんなん一言もいってないぞ。拡大解釈はやめろ(汗)」



おしまい。





バレンタインセンサカA〜坂本さん乙女編〜



渡すに渡せず、ポケットに入れたままずっと今日一日持ち歩いていたが、一体どのタイミングで渡したらいいのかわからない。

学生さんならば、下駄箱・机の中など渡さずに気づいてもらえる場所に事欠かないが。

一緒に出かける約束を相手からしてきたのと、高杉がなんやかんや言ってくるのが耳に残って、こんなものを用意したが。

どうしたものか。

今日何度目かのため息をつく。

相手がかばんでも持っていたら、隙を見てぶっこんでおこうとか、食事の際に脱いだコートのポケットにでも入れておこうか、などと考えていたが、手ぶらだったし、コートはクロークに預けてしまった。

そして、もううちの前まで来てしまったからには、面と向かって渡さないと渡す機会がないのだ。こんなことなら郵便受けにでも投げ入れておけばよかったな。などと考えていると、

「さっきからずいぶんため息ついてますけど、今日、つまらなかったですか?」

急に話し掛けられて、えらく驚く。

その拍子に、握りしめていたチョコがポケットからこぼれ落ちる。

まずい、と思うよりも、相手の動作の方が速かった。

落ちましたよ、といって拾ってくれた手が、その包みを持ったまま固まっている。



一日、どうしたものかと迷って握りしめていたチョコレートは、パッケージがよれて、リボンもしんなりしてしまっている。おそらく、ずっと握り締めていたせいで、中のチョコも溶けかかっているだろう。

渡せない、こんなの・・・

相手からひったくるようにして奪う。

驚いたようにすぐに相手は手を離したが、

「誰かからもらったんですね・・・」

そういって黙りこくってしまう。

その下向き気味の沈黙に、

「ああ、知り合いからな。」

などと見栄を張ったりなどしてみれば、当座は自分的心の決着としては丸く収まる。

実際、口もそう動きかけたが、結局口から言葉は出ずに、包みを相手の胸に押し付ける。

「俺に?」

その問いにも返事を返さなかったが、見る間に赤くなっていくこの顔見れば、自ずと知れよう。いくら口で義理だ、世話になった礼だ、などと言っても説得力がない。ミエミエだ。

だから、手渡ししたくなかったんだ・・・

そう胸の内でぼやく。

それでも、お礼を言いつつ、抱きしめてきた相手の手は振り解かないのだ。



おしまい。(2004.2.14)