ワインでセンサカ・2003。
酒の会社の宣伝効果か、この時期になると、今年のワインでなんとなく賑わう。
解禁、という言葉に、なんとなくときめきを感じるのは、堰き止められていたものがようやく出口を見つけるからか。
海開き・山開き・カニの解禁、その列の中に、このワインも含まれているのだろうか。
なんにでも時期がある。
その一番素敵な時期に、一番よい状態で味わうことができればいいのだが。
その日が来れば、今はスーパーでも買うことができるというのに、いや、買えなかったらまずい、とわざわざ予約までしていた、あの人は。
子供がお年玉をもらえるお正月を待ちきれずに指折り数えるように、なんとなく、そわそわと楽しそうに日を数えている。
そういうのをみると、日本人の初物好きというのが念頭を掠める。
本国フランスでは、熟成されているものを尊ぶために、こうした味見的なものは、えらく安価で売られているというが、初物を愛する国民の国では、とりわけ尊ばれている。
需要と供給。
見事に合致している。
コルクの栓を器用に、ポンッと小気味いい音を立てて引き抜き、2つのグラスにそそぐ。
その様は、ひどく手馴れている。
ゆっくりグラスを回して、香りをたちのぼらせる。
匂いだけでは、酩酊、とまでは行かないけれど、口に一口含めば、フレッシュな酸味。
一度開けたら、一瓶空けきらないと、風味が下がると、常にいうので、無理にでも杯を重ねることになるので、そのうち酩酊するに違いない。
「今年はうまいなあ。先が楽しみだ。」
と、グラスの中の赤をゆらゆらと揺らしている。
確かに、熟成させたら、さぞかし愉快で素敵な按配になるに違いない。
そうして、一瓶あける頃には、やはり酩酊。
目を閉じるだけで、幸せに酔いが回ってくる。酒が飲めない人はかわいそうだと、こうして酒の神様に身を任せるたびに、そう思う。たぶん、おそらく、世の中のどの神様よりも、この神様を信棒しているのだ。
そうして、そんな話を二人でしながら、唐突に、酒の神様に身を任せて、一つ唇を、奪ってみる。
相手の反応も、いつものようにしゃかりきに問い詰めてきたり、逆切れしたりせずに鷹揚。
正直、先を促されているのか、誘われているのか、判断に苦しむが、熟成していないこの恋は、無理に進まず、やはり、味見程度にとどめて、先の熟成を楽しみに待つのだ。
果報は寝て待て、と昔から言うからな。
当たり年に、なるといいのだけれど。
おしまい。(2003.11.20)
ワインでセンサカ・2004。
熟成するまで待つと言っていたのはいつの日だったか。
舌の根の乾かないうちに、
「チャンスの神様は前髪しかないから、通り過ぎる前にがっちりキャッチ!」
などというように解禁を待たずにフライングした。
それが間違いだったとは決して思いはしないが、かといって正解だったかといえば、どうなのだろうかと思い悩む自分がいる。
あのタイミング、あの流れ。そのどれ一つも今でも尊いと、あれは神様がくれた時間だったと思うのに、やはりまだその時期が来ていないのに早摘みしてしまったのではという思いも同時に胸に残っている。
そんなことを思ってもすでに賽は振り出されてしまったというのに。
出た目に不足はなく過分に過ぎるが、始まりがはっきりしないこと、始まりをはっきりさせなかったことを後悔しているのだ。最初にはっきりさせておかないと、後々引きずる。
現にもう引っかかっている。
俺にはあの人の気持ちがわからない。
なぜ、最初に確認しておかなかったのだろうか。
流れに従ったときの最初か、最中か終わりにでも自分のことをどう思っているのか確認すればよかったのだ。肯定か否定。そのどちらもあのときならばあの人の本当の気持ちが聞けただろう。
が、あの時、急に降って沸いたその状況に喜びだけではなく恐れを感じていたのだ。
そのせいで口はふさがれ、その後も幾度か身体を重ねることはあっても言葉が重なることはない。
あれだけ普段言い合っているというのにこんなときばかり、二人無言で、なおかつスムーズに事が運んでしまうのだから言葉などいらないとうっかり思い込みそうになっても仕方がない。言葉が要らないくらい分かり合っているのならばともかく、互いにはっきりさせるのを怖れているのだからタチが悪い。
関係はどこから見ても極まっているというのに・・・
そんなことをワインのボトルを見ながら考える
今年のボジョレーヌーボだ。
一日早く手に入ったのは、以前内装を担当したレストランの店主が
「まあ、はやいけれど」
とウィンクをしながら渡してくれたのだ。
解禁まで待つか、解禁前に飲むか。
別に解禁前に飲んだからといってお縄にかかるわけでもない。
どっちでもいいけど、と思いつつ、あの人に献上に行く。
何はともあれ、逢える口実は一つでも多い方がいい。
「おお。解禁前なのにすごいな〜!」
喜色満面だ。
好感度上昇の音が聞こえそうだ。ちゃらいな・・・
「よし、さっそく宴だ。仕方がない、高杉と緒方君にも声を掛けるか」
といってすでに受話器に手が伸びている。
逆にこちらの好感度が降下する音が胸の内でする。
「そうですね、皆で飲んだ方が楽しいですしね」
自分でも失敗したと思うくらいとってつけたような返事に、ダイヤルしかかっている手を止めてこちらを見てくる。しばらく何かを考えるようにこちらを見ながら小首をかしげている。すると何か思いついたのか受話器は置いて、
「やっぱりこれは二人で飲むことにするか。あとで電話してうらやましがらせてやろう。」
うらやましがるぞ〜、うっひっひ。などとすでにご機嫌気味にワインを冷やす準備をしにキッチンの方に向かって行く背中に、高杉先輩はそんなにうらやましがらないと思いますよといいながら、後ろからぎゅっと抱きしめた。
おしまい。(2004.11.18)
ワインでセンサカ・2005
あと何時間待てば11/17の00時になるのか。