「答えを出さない人の」
答えを出さない人の、答えをひたすら待つときは、
ただ、ただ、忍耐。
いつも思うのは、あの人の中に、自分が望むような回答が、
ひとつたりともないのでは、と。
答えを出さない人の、本当の答えは、
答えを出さないことが、答えで、結局いつもなぞなぞ。
だから、答えが出なくても、見交わす眼の奥に、
ヒントが、答えが隠されているのではと、
とりわけじっと見つめるから、
あの人は、その視線に耐えられないのか、
ぎゅっと、眼を閉じるので、
そっと、くちづけを。
俺の出している答えと、あの人の答えが、
同じになる日が来るといいのに。
答えは違っているかもしれないけれど、
それでも、甘いくちづけ。
答えを出さないのが、答えだと。
それでも、あの人にも、甘く感じているといいのだけれど。
おしまい。
「答えを出せない人の。」
答えを出せないのは、設問自体を聞いていないからだ。
白紙。
白紙を、思わせぶりに、ふらふらと、目の前で揺らすのだ。
猫だったら、猫じゃらしに戯れるように、
向かっていくのだろうが。
問題が、書いてあるのか、ないのか。
見極める間もなく、
くちづけ。
何かに気をとられているから、不意打ちだ。
そうなると、あっという間に、思考がそちらに向いてしまうので、
結局、問題は謎のままだ。
くちづけを、
そのままの意味でとるのならば、そういう意味で。
かといって、聞かれもしないことに答えるのは、
設問自体が思っているのと違っていたら、と、
たたらを踏んでしまうのだ。
もし、問題を読み上げられたら、
答えることができるのだろうか。
今のところは、白紙。
問題も、白紙。答えも、白紙。
何もかもが、白紙のまま、
甘いくちづけ。
おしまい。