鬼は外、福は内。

決まりの文句を逆に言ってしまった人のお話。

はじまり、はじまり。

















0203



















昔々あるところに、坂本三四郎という青年がおりました。親の残してくれた田畑を耕し、冬には内職して作った物を行商して歩くという暮らしを一人で営んでおりました。
節分の今日、村では豆をまいて鬼を祓うという行事が各家々で行なわれており、この青年も配給された入り豆をまこうとしていました。
この青年、実はちょっと天邪鬼な性格であり、通常ならば、
「鬼は外、福は内」
と唱えるのが正式ですが、
「鬼は内」
と唱えてしまったのです。
まあ、青年にしてみれば他愛のない言葉遊びのようなものでしたが、その言葉を聞いて本当に鬼が内の中に入ってきてしまったのです。
「こんにちは。お招きありがとうございます。」
「いや、招いてないが。」
「先ほどあなたが鬼は内と言われているのを俺のこの耳は確かに聞きましたよ。本当に招いていただいてありがとうございます。今日は、どこへ行っても鬼は祓われるばかりで本当にまいっていたんです。助かりました。」
などといってぺこりぺこりと頭を下げてくる鬼に、おいおいその格好じゃあ祓われても仕方ないかもな、(上半身裸・毛皮を腰に巻いており、手には棍棒という典型的鬼スタイル)などと突っ込みを入れつつも、なんだか気の毒になりお茶を出してやりました。
すると鬼が、
「すみませんが、今日一晩こちらに置いてもらえないでしょうか? 今日を過ぎましたら豆に追われるということもありませんから。」
というので、まあ一晩くらいならよかろうと、あっさり承諾しました。

それが運命の分かれ道とは青年は全く考えておりませんでしたが、鬼のほうは確実に確信犯でした。
なぜなら、翌日になっても鬼は全く出て行く気配がなく、挙句の果てには、
「節分は過ぎましたから、どんな豆を持ってこようとも鬼を祓うことはできませんよ。」
などといってくるのです。
しまったと思っても後の祭りです。口は災いの元という言葉を青年が身に染みて感じたかどうか知りませんが、こうして青年はいつの間にかいついてしまった鬼と暮らすことになりました。

そうしてうちに鬼が居つくことに対して、青年はえらく憤慨しましたが、外は雪。
雪に塗り込められるようにして扉がふさがるこの地方では、冬に外に出ることは叶いません。出て行けといっても物理的に無理があるため、仕方なく鬼が居つくことを了承したのですが、その内実はというと、青年は雪に閉じ込められさえしていなかったら自分が家を出て行きたい(本人談)、といった按配でした。
なにしろ一人住まいの貧乏暮らしにせんべい布団は一枚。部屋の隅にてひざを抱えて、寒い寒いとつぶやく鬼が一匹。座敷童子ならばまだかわいいものですが、しっかり大きい大の大人が丸まって一晩中火の気のないうちで(薪は貴重なので寝るときはなし。)ブルブル震えているとなると、さすがに安眠の妨げです。
仕方がないので、半分寝床を譲ってやると、
「ありがとうございます。」
と愁傷なことを言いつつも、いつの間にやら、
「寒いですから、そばに寄ってもいいですか?(布団の大きさの関係上、身体はみだし気味。)」
などといって、OKがでる前に腕が身体に巻きつき、挙句の果てには、
「寒いですから、自家発電しないといけません。」
と、あらぬところに触れてくる。
わー、も、あー、も言う間のないくらいの手際の良さです。
鬼、悪魔などと青年が悪態をついても馬耳東風。
「俺、鬼ですから。」
としらっとしならが平然と言って事を進めていくのだ。
確かに寒さについては忘れることができましたが、眠らせてもらえず、どちらも一長一短といった感じでしたが、何度もそうした夜を過ごすうちに青年の胸の内に諦めというか慣れが発生したのも事実でした。
夜はそうして二人で過ごしていましたが、昼間(といっても太陽が出ていないため薄らぐらかったですが)になると鬼は、どうやってふさがってしまった扉を開けるのか、知らぬ間に外に出て行き、薪やさまざまなこの時期のどこになっているか知れない食べ物やら、冬場に咲くことのない花を持って帰ってきました。
やがて冬が過ぎ、春が来ると雪も溶け、自由に屋外に出ることができるようになりました。が、一向に鬼は出て行く気配はなく、また、青年も時折喧嘩したりした際には、もう出てけ!!!などといったりしましたが、それ以外のときはその件については触れずにいました。

というのも、なかなかよく働く鬼で青年の持っている土地の、青年一人では耕しきれなかった田畑の開墾作業をほぼその鬼一人で行なってくれたため、農業収入が格段に向上したのです。千人力とでも申しましょうか。見渡す限り緑に埋め尽くされた土地が全て収穫を生むという期待から、青年が、
「来年の節分にも、また『鬼は内』といって、鬼の小作人増やすかなあ。」
などというと、
「あんたな・・・そううまく事が運ぶわけないじゃないですか。人数増えたら、あんたの手には負えませんよ。」
「そうか。」
「そうです。(きっぱり)」
そう強く主張されたため、華麗な大農園主計画はとりあえずとりさげられました。

鬼の増員を防ぐためか、青年のうちの鬼がしゃかりきに働き、収入が上がったので、青年がニューな布団を鬼用に購入しようとしました。
すると鬼に
「布団は新しくなった方がいいですが、一組でいいです。現状維持。」
と強行に主張され、もう寒くない、暑いからくっつくな、などと抗弁しても、
「すぐに暑いも寒いもわからなくなりますって。」
といわれてうやむやのなし崩し。
まあ、そんな感じでほどほどに鬼とうまく暮らすようになっていきました。



そうして、一緒に暮らし始めてから季節が一巡し、節分の日がやってきました。
鬼はその日どこに行ったのか、うちにはいませんでした。
また、豆が配給され、青年はそのざるに入っている豆をざらざらと撫で付けながら、なにをするでもなくぼんやりしていました。 珍しく雪も降らず、暖かい日でした。えさがないのに求めてさまよう鳥に豆を転がしてやっていると、
「おーい、そこのおにいさん!あなたとりつかれてますよ。」
そういって声を掛けてきた人は僧行の緒方君でした。
「なんかずいぶん疲れているみたいですね。まずいですよ。このままだと、あんまり長生きできませんよ。」
そう心配そうに覗き込んでくる、人懐っこい笑顔を見せるお坊さん相手に、よもや、鬼と一緒に住んでいて、疲れているのは昨晩眠らせてもらえなかったから、とはさすがに言い出しかねます。何を言ったら穏便に長生き術を教えてもらえるかと、言葉を捜しているうちに、お坊さんはうちの中を吟味、
「あー、鬼ですね。しかも結構ほだされ系。もうずいぶんほだされてますね。だめですよ、だまされちゃ。相手は北京ダックかフォアグラのようにあなたが食べ頃になるように育てているのですから。」
そういって、青年の手に特製の豆といって豆を一握り握らせてきます。節分の今日ならば、確実にこの豆で鬼を祓うことができるというのです。お坊様は、そういい残して他の鬼を退治しに旅立ってしまいました。



青年は手に載せられた豆をじっと見つめます。

何の変哲もない、配給された豆とほぼ一緒です。

この豆にどんなすごい力があるのか。

食べれば10日間は食べなくていいとか、スーパーサイヤ人になれる、とかそういうことではないらしい。

鬼を祓う。

自分が取り付かれていて、もう命が短いらしい。

そういわれてもピンとこない。

養鶏所・養豚所ならぬ養人所とでもいうべく、食べごろになるまで生かされている、ということなのだろうか。

この一年、二人穏やかに暮らしていた日々が、これからもずっと続くような気がしていただけに、お坊様に言われたことは青天の霹靂でした。

あの、鬼らしからぬ優しさや誠実さがみんな演技もしくは、嘘であったのかという問題提起を自分の胸に議題としてあげたときに、鬼が戻ってきました。

手には様々な食材をもっています。

考えがまとまらないうちに戻ってきた鬼を見て、どんな顔をしていいかわかりません。

うんともすんとも、お帰りともいってくれない顔を怪訝そうに眺めて、

「大丈夫ですか?顔色悪いですよ。」

そういって触れてくる手を反射的に払いのけてしまいました。

鬼は驚いたためか、手に持っていた荷物を床にばら撒いてしまいました。

それをかがんで拾いながら、

「ちゃんと食べて、肉つけないと。もうちょっと太った方がいいと思いますよ。いつも食わず嫌いするから、すぐ調子悪くなるんですよ。」

などといってくるが、今、その話題は禁句に近かった。

もう、青年の頭の中では、完全に喰うために養殖されていたんだ、という構図が出来上がってしまったのです。

鬼的には、いつも元気でいて欲しい+@(もうちょっと太った方が抱き心地よかろうて)くらいの気持ちでいったのですが。

が、一度思い込んだら、疾風怒濤。

青年は、手にある豆を鬼にぶつけながら、

「鬼は外」

と叫びます。

そういわれたら、鬼はそのうちにいることはできません。

闇雲に投げてくる豆を避けながらも、戸外に逃げ出ながらも、



「なんで、何でですか?坂本さん!!!」



と尋ねます。こちらにしても同じように青天の霹靂。

朝まではいつも通りだったのに、急に祓われるようなことになるとは納得がいきません。



「なんでじゃない。お前が鬼だからだ。人のこと喰おうと考えていたなんで10万年早いぞ。」



そう豆とともに返された答えに、



「好きで鬼になんてなった訳じゃありません・・・」

そうつぶやいて、鬼はすぐにみえなくなりました。







鬼が出て行ってしまった後、青年の心には何かを退治した後の清々とした気持ちは全く広がりませんでした。

土間に鬼が落としていった、食材やら薪をみながら、今日はぼだん鍋にするつもりだったんだな、などとぼんやり考えます。

いや、自分がいつか人間鍋の食材にされるのを回避できたのだ、そうまだ手に残る豆を見ながら思いますが、板の間に落ちている、いつだったか自分が好きだと言った花を見ると、何でか目から水が出てきました。

一人で暮らしていたときにも狭いと思っていた部屋が、ただ元通りに一人に戻っただけなのに、異様に広く寒々しく感じられました。





それからは何事もなく、過ぎました。

一人で暮らしていた通りの生活が舞い戻ってきただけです。

が、一人に戻ったというのに、青年の畑はよりいっそうの収穫を上げていました。

あの鬼は姿を現さないくせに、小人さんよろしく、見ないうちに仕事をしてくれていたようで、畑が耕されていたり、収穫がきちんとそろっておいてあったりしました。

そんなんするくらいなら、顔でも見せていけ、ばかもん、と青年は思いましたが、夜中に畑を見張っていても鬼の姿を目撃することができませんでした。

そうして陰からの鬼の手伝いによるためか、青年のうちは次第に裕福になっていきました。

青年の住む界隈でも有数の富豪ぶりに、近隣の家々から嫁入りの打診がきたりしましたが、青年は首を縦には振りませんでした。

冬になっても隙間風が吹き込まない、床下暖房・電気毛布完備の暖かいうちを建てかえしても、青年はそのままずっと一人で暮らしていました。

一人、ふかふかの暖かい布団に包まりながらも、思うことは、あの鬼がどこかで寒さに震えてはいないだろうか、ということと、寒くないようにとしっかり抱きしめてくれた腕のことでした。





それから次の年の節分に、青年は、

「鬼は内」

といってみましたが、やってきたのは別の鬼でした。

前回の経験上、節分の日であれは豆で祓えると、即行で豆をぶつけて撃退。

呼んだのお前の方だー!と悪態をつきつつも、鬼は遠くへ逃げていきました。

その日は何度も同じようなことを繰り返しましたが、あの鬼はやってきませんでした。

あくる年も、同じように「鬼は内」と唱えましたが、状況は変わりませんでした。





また季節が一巡して、節分の日がやってきました。

配給された豆を見ながら、今年はどうしようかと考えあぐねます。

すると、あのお坊さんがまたやってきたのです。

「ずいぶん、立派なうちになりましたね。遠くからも屋根が見えていましたよ。」

青年のうちは近隣でも並びがないくらい立派になっていたのです。

青年は、正直にその坊さんに今まであったことを包み隠さずに話して、もう一度あの鬼を呼びたいのだと伝えました。

「もう一度ですか・・・話を聞く限りでは、そう悪い鬼ではないみたいですが。でも、鬼を呼び寄せたら、今度こそほんとに死んでしまうかもしれませんよ。」

そう聞かれて、まっすぐお坊さんの目を見ながら、

「それでもいい。私にとって見れば、彼は鬼ではなく、豆で招き寄せた福なのだから。できればうちにいて欲しいのだ。」

そうはっきり告げました。

すると、お坊さんはにっこり笑って、鬼を呼び寄せる方法を伝授してくれました。







「お前は鬼じゃないぞー!!!私にとっては福の神だったぞー!!!」

そう青年は山々に向かって叫びます。

お坊様が教えてくれた遠くに声を伝える方法を教えてくれたのです。

心から伝えたいことで、相手も聞きたいと思う心があるのならば、山々がその声を運んでくれるというのです。

青年の声は、やまびこになって、遠くの山々にこだましていきます。

それは青年のいる場所から遠く遠くの離れた場所にいた鬼の耳にもしっかり届きました。



「坂本さん・・・」

膝を抱えて失意の日々を送っていた鬼は遠くから風に乗って伝わってくるいとしい人の声に耳を傾けます。





「鬼でも何でもいい、戻ってこーい!!!」

その言葉が聞こえた瞬間、もう駆け出していました。

呼んでくれるのならば、いつでも傍に行けるのですから。





鬼が猛烈ダッシュで超常的に距離を一気に0にして、青年のうちまで到達しました。

その鬼の姿を見て、

「お前な、呼んでるのに来るの遅すぎだ。」

などと文句を言いながらも、青年の顔は今にも泣きそうな感じでした。



「まだ豆残っていますか?」

「ああ、あるが」

握りしめていた豆を手のひらを開いてみせると、

「2〜3個、口の中にほおりこんでもらえますか?」

といって口を開けるので、そんなことをしたら今日はまだ節分、また鬼を追いやってしまうことになるのではと不安になります。

「大丈夫ですって。」

重ねて言うので、南無三とばかりに手に持っていた豆を全て口に投げ入れると、不思議なことに鬼の角がぽろりと落ちました。

それ以外の姿かたちは、先ほどと変わりがないというのにすっかり変わった事がわかりました。

鬼ではなく、人間になっていたのです。



「ありがとうございます。おかげでかかっていた呪いが解けました。」





昔、悪行を繰り返して人心を脅かす盗賊の一味だったところを時の上人に見咎められ、その行ないの通り鬼になれ、と術を掛けられたのでした。



鬼でもいい、と心からいってくれる人が一人でもいたら人間に戻ることができる。



そういって去っていった上人の言葉を同じように鬼の身に変えられた盗賊仲間は、脅しによって人にいわせたことによってその場で灰になりました。

そうした姿を見て、もう人間に戻るということは諦めていたのです。

どこの誰が、鬼でもいい、などといってくれるでしょうか。

心から、などということは望んでも無駄だと思っていたのです。

人の姿をしていたときだって、自分のことを心から望む人などいなかったのですから。

そんな人が一人でもいたら、鬼になることなどなかった、そう考える心が自己弁護に満ちていることも知っていました。

いくら生活が厳しくても、自分の心を律することなく他者を害したという事実は、誰かの存在によって未発に留まったかもしれないという希望的観測など容易に押しやってしまいます。

もう過去を巻き戻せないのならば、せめて多くの人にやさしくしよう。

鬼になったのもなにかの縁だ。だんだんそのように考えるようになっていきました。

姿が鬼になってみると、逆に心が人に近づくのか、悪いこともできなくなりました。

昔の悪行を詫びようと人里に見つからないように下りては、人の力ではなかなかできないことをそっとやったりしていましたが、そうした姿を見つけると、人は追いかけてきたり、祓おうとしたりするのでした。

わかっちゃいるけれども、鬼といって投げつけられる石に体は傷まなくても心は痛みます。

もう人と関わりあうことをやめて、山の中でひっそり見つからないように暮らそうか、と考えることもありましたがそれでは贖罪できないとそれでも人里に時々下りました。



その日が節分だというのを忘れていたのは、失策でしたが、天の配剤だったのかもしれません。

人が石をぶつけてきても、特にわずらわしいだけで避ければいいだけですが、豆はいけません。

本当に祓う力を持っているため、人々が手に持っている豆をぶつけてくるのにはまいりました。

ぶつけられるとどんどんHPが減っていきます。

今日のような状況下で動けなくなったら、鬼の生け捕り→さようなら決定です。

逃げ場をあわてて探しているときに、

「鬼は内」

と言っている声が聞こえたのです。

まさに天の助け。

呼ばれるがままに、そのままそのうちの中に駆け込みました。

それから冒頭部分に戻るのですが、一緒に暮らし始めた人は、ずいぶんびっくりするくらいのお人よしぶりで、鬼相手にこんなにのんきで大丈夫かと心配になるほどでした。一晩宿を提供してもらうことになり、豆と雨風雪からその晩は身を隠すことができましたが、その晩は寒すぎました。我慢しようと思えば我慢できますが、自然に身体が震えてきます。それを見て布団半分を貸してくれるという人の温かさに触れると、我慢がきかず、そのまま溺れるようにして抱いてしまいました。人に優しくしようという決心をしていたのに、命を救ってくれて宿まで提供してくれる人にこんな所業をしてしまい、何たる事!!!と翌朝青ざめましたが、その胸の奥でこれはチャンスに違いないと考える自分がいました。

この人を丸め込めば人間に戻れる。

そう思い、一緒に暮らし始めたのですが、日がたつうちに、人間に戻れなくてもいいからこのまま二人一緒に暮らすことができればいいのに、と祈りだすようになりました。



が、やはりそうした日々は長く続かず、結局豆で追い払われてしまいました。

ぶつけられた豆の痛さに、やはり自分は鬼なのだと、何か願うこと自体が身の程知らずだったのだと、思い知らされたのです。

今まで生きていた時間の中でもっとも幸せだったといえる時間を失ってしまった哀しみは、本当に身を打ちのめしました。

もう近づいてはいけない、そう思いながらも心配で、時々見つからないように青年の住む村に行って、こっそり様子を伺っていたり、できることをして帰ったりする日々を続けました。

もう、一緒に暮らすことはできなくても、幸せに暮らせるように、それだけを祈っていました。

時折、鬼仲間から「鬼は内」といっている変わった人間がいる、という話を聞きましたが、それには、その人間は鬼おも喰らうらしいという流言蜚語を流したりして牽制しました。が、自分は二度と近づかない、そう決心していました。もう一度、豆をぶつけられたら、きっと立ち直ることができないことがわかっていたからです。



ですが、こうして青年が「鬼でもいい」と言ってくれたので無事に人間に戻ることができたのです。

目をどんぐり眼にして驚いている青年に、にっこり笑いかけながら、ぎゅっと抱きしめます。

「ほんとうにありがとうございます。ずっと一緒にいてもいいですか?」

そう尋ねると、「福は内」と唱えて豆をうちの中に投げ入れてから、

「あたりまえだ!!!お前は私の福なんだから、ずっとそばにいてもらわないとな。」

といって青年の方からもぎゅっと抱きしめて返しました。





その後は、鬼から人間になったため、作業効率は落ちましたが、二人で一生懸命働きながら、楽しくずっと暮らしましたとさ。







めでたし、めでたし。















後日談: 時折、夜になると「お前、鬼だ!くそ・・・や、やめろ・・・う、わ・・・ア・・・」などという声が聞こえてきたそうな。(しかも頻繁。)
隣近所とはそれほど隣接していなかったため、さほど物議を醸したり、井戸端会議には挙げられずにすんだようですが。
仲がよろしいようで。