チョコの王国。

















桂千太郎氏は、義理と人情で成り立つチョコの国の王様でした。

彼の国の主要産業はチョコの製造販売であり、彼の国のチョコレートの名は世界各国に轟いていました。

国を挙げてこの産業を支援しているため、バレンタインは彼の国では最も重要なイベントでした。

そのイベントをいっそう盛り上げるために、王様は一つの布告を国内外に発布しておりました。

それは、

「本命チョコをくれた人と結婚する。」

というものでした。

彼は、この国で結婚を認められる18歳のときにこの宣言をしたのですが、24歳になる今まで、彼に届いた全てのチョコレートに対して「義理チョコ」と認定。国家予算に王様のホワイトデー予算として費用計上されているため、きちんとホワイトデーのお返しはしていましたが、この6年間、本命チョコを貰ったことのない王様として諸外国に知れ渡っていました。

王様に本命のチョコを送っていた人々は、日頃のお礼と義理人情で本当に「義理チョコ」で送っていた人は少なく、多かれ少なかれ、目指せ!玉の輿!的な要素や自分の家柄や年齢等のバランスから見て適正な結婚相手と判断した他国のお姫様など申し分なく真剣120% な本命チョコも多数含まれていたのですが、王様はそれらを本命にカウントしませんでした。

どんな根拠で義理チョコと本命チョコを見極めているのか、それについては国家機密のため公にはされていませんが、まことしやかな噂が街には流れていました。

王様は、本命チョコと義理チョコの違いがわかる男だ、と。

ラッピングや価格で相手の本気を見極めるわけではありません。

なにしろ王様のところには尋常でない数のチョコレートが毎年届きます。

365日の彼のおやつは全てチョコ関係です。

それは王様が子供の頃からのことで、まだ王様が自分宛の本命チョコのことなど考える前から、城の者達がバレンタインに貰うチョコに対してのチョコ診断というのを無料で行なっていました。これが不思議とよく当り、10円のチロルチョコなのに本命チョコなど、微妙にわかりづらい乙女心を的確に診断。数多くのカップル誕生に尽力していたのです。

そのため、王様は18歳の年に「本命チョコ大募集」という普通では恥ずかしくてあまりできないお嫁さん募集方法を採用し、もう本命チョコをくれた子とすぐ結婚しちゃうもんね、くらいの気持ちでいたのですが、大量に届く本命チョコという名のものの中に本命チョコが入っていない事実に驚愕しました。何人もかぶったらどうしようくらいのことを考えていた王様にしてみれば、予想外の展開。数年たってもその状況は変わりません。あまりにも王様が、今年も本命チョコがなかったよ宣言をするために、周囲からは、王様は結婚したくないのでは、などと勘ぐられるは、チョコを送ってきてくれた他の国とは関係は悪化するはで、王様としても安閑としていられなくなりました。正直、送ってきてくれたチョコの中から条件のいいものをピックアップして選別すればよい、とは思うのですが、それだけはできませんでした。

この王様、意外にロマンチストであり、子供の頃から本命チョコをくれた乙女と結婚するんだー、と固く誓っていたため、その一線だけは譲れなかったのです。

チョコの国は愛の王国。

その国家憲章の冒頭に掲げられている文言を王様自ら汚すことは出来なかったのです。



ところが、今年のバレンタインに王様のところにチョコが一つ届きました。

「!!!本命だ・・・」
王様はちょっと呆然としました。宛名間違えではないかと確認したが,やはり自分のところ宛です。
ちゃんと「王様へ」とあります。が、名前が書いていません。
王様は、すばやく城の者に言い渡しました。
「このチョコを贈ってくれた人と、結婚する。」と。
城の者は、いつまでもチョンガーな王様に若干危惧を抱いていたため、その考えに諸手を挙げて賛成しました。

夢とロマンスとときめき、チョコの王国は愛を最も重視していたのです。

が、王様はすぐにはチョコの贈り主を発見することはできませんでした。なぜなら差出人は書いておらず、また、宅急便で送ってきたわけでもなく、直で城の郵便ポストに入れたようで、送られた場所を特定ができなかったからです。鑑識に鑑定を出しましたが、指紋も検出できず、検出できたところで、指紋が警察に登録されているような人からのチョコとなると、ちょっと微妙とでも申しましょうか。

チョコが本命か否かを判断することができる王様でしたが、取り立ててプロファイリングができるわけでもなく、贈り主に対するドリームが無数に羽ばたくだけで、結局は何もわかりませんでした。
そんな王様は、宣言を出したはいいものの、結果として何の進展もないため、チョコを見てはうっとりしたり、ため息をついたり、端からみると、はっきり言ってまったく役に立たない状態でした。

ある日、王様はもらった本命チョコを食べてみることにしました。もったいなくて今まで食べることができなかったのです。が、さすがにあまりにも手がかりがないため、(包装紙やなにやらは製紙メーカー・原料メーカー・インクメーカーに至るまで調べることができたのですが、あまりにもありふれたものだったため何の参考にもならなかったのです。)

とりあえず現物を食べてみることにしたのです。

何度も側近にはチョコ自体を調査させてくれと、申し入れられていたのですが、そんなもったいないことは王様にはできませんでした。

ひとつチョコを口に入れてみました。
「・・・・・・・・・・・」
王様の人生の中で一番といってもいいほど、なんともいえないまずさでした。
味がするような、しないような。一瞬口の中から出そうとしましたが、はじめてもらった本命チョコ。おいそれと無駄にすることはできません。しかし、このチョコ。いまどきの口解け重視のものと違い、いつまでたっても溶けない。とけないというか、くちにまったりねっとり、なんともいえずに広がり、虫歯の心配を絶え間なくしないといけないような、なのに味がするようでしないような、本当に表現しづらい世界でした。
しばらく忍耐と戦った王様は、一言、
「賞味期限切れていたのだろうか・・・」と。



王様が、「この本命チョコをくれた人と結婚する」宣言をした後に、城の広報担当のものが新聞等各メディアにその旨の通達を載せるよう告示。

一日も早く名乗りでるようにと。

そして、名乗りでた際には王様に上げたチョコと全く同じものを再度用意するようにという条件をつけました。

持ってきたチョコによって、本人か否かを確認しようというのです。

ですから、この時点ではどのようなチョコレートが王様によって本命チョコと認められたかは明らかにされていませんでした。そのため多数の人が、自分のチョコが本命認定されたかもというドリームを見ましたが、新聞にパッケージの外観写真が掲載されたことにより随分該当者が減って、夢破れた乙女の屍が累々と積み重なったのです。

王国のメディアは、『ロイヤルカップル誕生か!!?』から始まり、王様がもらったチョコの検証。そして、王様が結婚する場合に生じる有職故実(結婚の儀等の解説)、新婚旅行はどこになるか、世継の誕生に至るまで、さまざまに論じられたのです。

もう、国を挙げての大騒ぎです。

そんな騒ぎの中、一人高笑いする人物がおりました。



「ふははははは。ようやく、あの王様に本命チョコとして認知されたぞ。」

そう、その新聞を眺めながら一人笑っていたのは天才・本命チョコパティシエである、坂本三四郎氏でした。

新聞に載せられている自分が王様宛に送ったチョコレートのパッケージ・チョコレートの写真を見ながらご満悦です。

ここ数年、毎年王様にチョコを送り続けておりましたが、それが本命チョコだと認識されることはなく、いつもスルー。

世間の乙女からは、坂本氏のチョコを意中の彼に送れば必ずそのハートをゲットできるという、篤い信望を集めており、実際にその成功率といえば普通のチョコに比べたら格段の違いがありました。その成功率はほぼ100%に近く、乙女という乙女は坂本氏のチョコをこぞって手に入れようと長い列を作っていました。

まあ、実情は、坂本氏のチョコが「本命チョコ」ということが受け取り手の男性人にも知れ渡っており、本命チョコが自分のところにきたとあっては、喜ばないわけはなかったからです。また、用意周到なことに坂本氏は、相手のいる人宛のチョコを引き受けない方針を取っていたため、いらぬ波紋や成功率の引き下げは当面は起こりませんでした。フリーの男一人に、二人の乙女からの坂本氏の本命チョコ二つというシュチュエーションも考えられなくはなかったですが、男がうまく立ち回ったのか、そういう事態は幸いなことにまだ発生していないのか、坂本氏のチョコが刃傷沙汰を巻き起こした報告も今のところはありません。

そうした実績から、坂本氏は王様宛のチョコを王様のお后様候補の方より依頼されて作ったのですが、これがスルー。

次の年も別の方より依頼されて作ったのですが、またスルー。

数年、様々な人より王様宛のチョコを依頼されて作っては見たものの、決して下手ではない鉄砲が数を打っても当らず、坂本氏の評判はお歴々からは芳しくなく、地に堕ちようとしていました。

このままでは、本命チョコパティシエの名が廃ると、今年のチョコは誰の依頼も受けず、王様宛に魂を込めて作りました。

その結果、初めて坂本氏のチョコは王様より本命と認められることができたのです。

坂本氏は、来年のチョコ戦線では、

「王様も認めた本命チョコ」

として売り出そうと、様々な戦略を練ります。

絶対に売れる。飛ぶように。

自分の店が乙女で溢れ、店が拡張・チェーン店化などさまざまな想像に翼が生えます。

このチョコの王国でチョコによって名を上げること、それが坂本氏の願いであり、これは足がかりでもあったのです。



ですから、坂本氏は失念していたのです。

王様が、「本命チョコをもらった人と結婚する。」と昔から公言していたことを。

それがために、王様のお后様候補の方々が本命チョコを依頼し続けていたということを。

ここで、この事実を思い出していたのならば、同じチョコレートを製造。そして、顧客名簿の中から一番高値でこのチョコレートを買い上げてくれそうなところに権利を委譲することができたのですが。そうすればおそらく、坂本氏の本命チョコパティシエの名前も本当に天下に轟いたに違いありません。

しかし、彼はそんなことはすっかり忘れていたために、同じチョコを作ることに一生懸命。

そうして出来上がったチョコを持って、凱旋とばかりに城に向かったのです。





坂本氏は、長い絨毯の上にひざまづく形で王様が来るまで待たされました。

その間、坂本氏が考えていたことは、あのチョコを王様が本命だと認めたといってチョコを売ってもいいかの確認と、できれば御用達なんてつけたらかっこいいな、なんてことでした。

が、王様とお付きの人々がやってくるとそんなのんきなことを考える余地はなくなったのです。

現実は、そんなのんきを許してくれなかったのです。



王様が王座に座ると、お付の人が坂本氏に立ち上がるように促します。

背筋を伸ばしてあごを引いて坂本氏がピシッと立つと、王様以下その場にいるものが皆、坂本氏に視線を集中させます。

そして、坂本氏が持参したチョコを恭しく係りのものが受け取り、王様の前に捧げます。

王様が本命と認めたチョコと全く同一製法。

王様はひとかけらチョコをお召し上がりになり、若干眉間にたてじわを入れつつも、うなづきます。

王様のお墨付きが出たところで、また皆の視線が坂本氏のほうに戻ります。



「男、だな。」

「はい、そのようで。」

「想定していなかった事態だな。」

「本当に。いかがいたしましょうか。」

「どうしたものか。王が一度言ったことを取り消すわけにはいかないし。」

「こんなときくらいは、前例を作って覆してもいいかと思いますが。」

「いや、それでは人心が離れるし、諸外国から来ていた縁談話を断り続けた理由が立たなくなる。」

「ですが・・・」

「まあよい。決めた。」



王様はすくっと、王座から立ち上がり、直立不動の姿勢を保っていた坂本氏の前まで来ます。



「名前は?」

「坂本三四郎だ。」



坂本氏は、王様相手でも態度がでかい。

その態度に王様以外は皆、眉をひそめましたが、王様だけは違いました。



「俺は、桂千太郎です。末永くよろしくお願いいたします。」

と、ぎゅっと坂本氏の手を握り、左の薬指に指輪をはめ、そして手の甲にくちづけをしました。

この国の正式な求婚の儀礼です。

この部屋にいた人々から、さざめくようなため息がこぼれます。

この瞬間、王様の結婚相手が確定してしまったのです。



状況がわかっていないのは坂本氏だけでした。

自分の指に光る指輪。

そりゃもう綺羅綺羅しい一品でした。

一目で普通じゃない代物だとわかりました。多分一生働いても買えない・・・

それは王様がホワイトデーのお返しに本命チョコをくれた相手に渡すと公言していた、代々お后様に受け継がれてきた指輪でした。

それがなぜ、自分の指にはまっているのか。

そして、周囲は、「王様、おめでとうございます。坂本様、おめでとうございます。」などと連呼しているのか。

何がおめでとうなのか。

ちょっと待て、ちょっと待て、ちょっと待て、ちょっと待て!!!

さすがに呆然としている状態ではないことに気づきます。



「おい・・・ちょっと待て。一体何がどうなってるんだ・・・」

「今、俺とあなたの結婚が決まったんです。これから準備が大変ですよ。あなたがチョコを送ってくれてから、ホワイトデーにはけりをつけると発表してしまいましたから、もう日数の余裕がないので。もっと早く、あなたが名乗りを上げてくれたら、こんなにぎりぎりになることはなかったのですが。」

「何・・・結婚・・・私が、王様と?」

「ええ。大事にしますよ。」

「ちょっと待て・・・根本から忘れているようだが、私は男だ。この国の法律では同性同士の結婚は認められていないぞ。」

パニックを起こしながらも、道理に沿ったことを言ってみます。



「ああ、それなら。法務局と総務局を呼べ。」



そう王様がそういうと、早速役人がやってまいりました。

「こちらの者の戸籍を至急書き換えるのだ。10分以内にだぞ。」

指示を出された役人は走るようにしてでて行き作業にうつろうとします。



「待て待て待て待て待て待て!!!!!!! 人の許可も取らんと、勝手に話進めるな!」



そう坂本氏はがなります。そりゃそうです。自分の戸籍がそんなに簡単に書き換えられてしまったらたまりません。

「なんですか。戸籍かえるだけじゃ嫌なんですか?それでは・・・よし、医者を呼べ。ゴッドハンドを連れてくるんだ。・・・身がかわれば、心も変わるかもしれない。」

と、空恐ろしいことをいいます。馬耳東風。そして傍若無人。なんという暴君の国に住んでいるのかと坂本氏は青ざめました。

正直ついていけません。王様の思考展開には。

このままここにいたら、確実に自分以外の何者かにされてしまいそうです。

坂本氏の頭は、もうこの「キの字」が点滅している王様には付き合いきれない、早く帰ろうという考えで一杯です。

いやな汗をわきの下に感じながら、早く辞去する言葉を述べてバックれなければやばいと逃げ道ばかりを探してしまいます。



「すまんが、戸籍をかえるのも性転換するのも、ましてや貴様と結婚するつもりははなからない!!!」



必死の思いで、意志の主張を試みますが、



「もう決定事項です。今日の夕刊にはあなたの名前と挙式の日程が載りますよ。さっさと観念しなさい。」



などと非情なことを述べてくる。



「王様、手続きが完了しました。変更後の名前につきましてはいくつか候補を挙げておりますので、お選びください。」

といって、先ほど戸籍変更の指示をされた役人が戻ってまいりました。王様はいくつか渡された名前のリストを眺めて、坂本氏に手渡します。

「あんまり元の名前をかえないか、全く違う名前にするか、自分で決めてください。」

といわれて出てきた名前は、王様の苗字に合うように画数診断済みのもので、もっとも字面のいいものには2重丸、そこそこのものには一つ丸がついている。

「三四・・・・・・なんだこの中途半端なのは。落語家か?」

「『みよ』とお読みください。お名前をあまり変えられたくない場合は、こちらがよろしいかと。」

そう説明する役人の言葉に血管が切れそうになる。



「本日の記者会見が17時からとなっておりますので、なるべく早めのご決断をお願いいたします。横断幕の手配等にも若干時間が必要ですし、配布物にもお名前を入れないといけませんので。」

「衣装の採寸にまいりました。大変お背が高くていらっしゃいますので、既成のものでは対応できません。今すぐ採寸させてください。間に合いません。」

「経歴を作成いたしました。のちほどチェックいたしますので、それまでに暗記をお願いいたします。大まか流れとしては、外国に留学していて、2年ほど前に王様が外遊された折に一目惚れ、この度意を決してチョコを送ったという線でお願いいたします。留学先の場所につきましてはただいま折衝中です。確定次第ご連絡いたします。」

どんどんどんどん、坂本氏の思考が追いつかないスピードで現実が加速していきます。

その加速に耐え切れず、坂本氏は、



「どれもこれも真っ平ごめんだ。じゃあなっ!」



と叫んで、憲兵等を振り切ってそのまま城から猛然と走って逃げていきます。

が、坂本氏の逃げ足よりも王様の足の方が速く、坂本氏は王様にがっちり拘束されてしまいました。

頭に王冠。重い装束だというのに、なかなかに侮れない王様です。

王様はすかさず、周りに人払いの合図をし、坂本氏と二人きりになります。

なおも逃げようとするので、がっちり腕をつかんだまま、尋ねる。



「何が不満なんですか?」

「何がって、何もかもだ。」

「名前決められないなら、俺が決めますし、衣装もあなたの好きにしていいです。結婚式の引き出物もあなたが決めていいです。」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜そんなん言ってるんじゃない!!!」

「部屋だって、王宮の一番日当たりのいい素敵な庭に面している続きの間を用意してます。なんなら内装も好みに沿うようにリフォームさせます。新婚旅行だって、チャーター機で世界中回れますよ。」

「いや、だから、そうじゃなくって。そんなんじゃなくって。」

「じゃあ、一体何が不満なんですか!!!」

「だから、あのチョコは、そんなつもりで送ったチョコじゃないんだ!!!偽本命チョコなんだ。」



がーん・・・



王様の顔色が一瞬にして青ざめます。

本命チョコでないチョコを本命と思い込んでいた・・・

義理チョコより超たちが悪い・・・

突然、床にへたり込む王様を見て、坂本氏は慌てます。

「おい、生きてるか?」

「・・・・・・・・・・」

「いや、だからな。力だめしみたいなモンだったんだ。私の作った本命チョコが、本命チョコだと認知されるかどうかのな。」

「・・・・・・・・・・」

「すまん。申し訳ない。この通りだ。」

ぺこり。

坂本氏は謝ればすむと思っているきらいがある。だから、悪びれなく謝った。

そんな坂本氏をじっとりみながら、

「・・・・・・男の純情返してください。」

「返せるなら、のしつけて返すが。」

「あんたな・・・ほんとうに・・・」

「すまん。」

「すまんじゃないですよ。ああ。一体どうしたもんだか。」

「すまん。」

「いや、謝るのこっちの方なんですが。」

「なんで?かなり被害こうむったのそっちの方だと思うが」

「いや。その指輪。」

「指輪?」

「死ぬまではずれません。もしくは、俺が死ぬまで。」

この指輪の代金を支払えといわれても、支払えないなあ、などと坂本氏が考えていると、

「その指輪、伴侶の証なんで。一度はめたら、文字通り死が互いを別つまではずれません。」

そういって、坂本氏の指輪をしている方の腕をとって王様はおもむろに立ち上がり、坂本氏を抱きしめます。

「まあ、チョコが今回本命チョコでなかったとしても、これからはずっと本命チョコをくれればいいです。幸せになりましょうね。」

そういってしたくちづけは問答無用に近く、ほぼ口封じといってもおかしくないものでした。



結局、坂本氏の改名や戸籍変更はなく、同性婚可という強引に法改正を行なうことで国民理解の是非を問うた模様。

チョコの王国は、愛の国のため、諸手を挙げて賛同されたとの事ですが。







めでたしめでたし?