王様と魔術師編@。「報酬はいくら?」



賢い王様は悩んでいた。

賢いければ悩むことなどないのでは、と思うのだが、賢いほどいろんな選択肢のバリエーションが見えてしまうため、結論をだすまでいつも王様は悩んでいた。悩んだ結果の答えは、賢いだけあっていつも公明正大で王様らしい感じであったために、国民はいつもこの王様の元でのんびりご気楽トンボに暮らしていた。



そんな王様の悩みは、王様の治める王国よりかなり離れている別の王国より届いた苦情だった。王様の国民が、修学旅行客よろしく、行った先の由緒ある建物に消えないペンで、相合傘を落書きしてしまったために国際問題にまで発展してしまったのだ。

観光地にてのびにのびた心の翼の終結が、

「また年をとったら二人でこの相合傘見にこようね。」

というようなところだとするするならば、はた迷惑以外の何者でもない。

王様の手元に「出入り禁止」という文書がそうした訳で届いたのだ。少数の不届きもののために国全体が締め出し。紙を眺めやりながら、王様深くため息。国民教育の是非を問う問題である。つうか、なんでよそでそんな恥さらしをするのか、王様には全くわからない心情である。報復に、落書きした者のうちの塀に落書きするように指示でも出そうかとまで考えてしまう。目には目を、ハンムラビである。

まあ、それはさておき、相手の国にはもうちょっと措置を甘くしてもらわないといけない。こんなつまらないことで国交断絶など、恥ずかしくってよその国の物笑いの種である。

そうして、王様はいろいろな方策を考えた末に、魔術師を呼んだ。



この魔術師は、この国でも評判の魔術師だった。

できないことはないという。



「その名の通り1000の呪文を体現できるという魔術師よ。私の願いを叶えてくれるだろうか?」

王様は、嫌々現われた魔術師にそう尋ねた。(住民税の滞納で出頭させた。)



「世に名高い賢い王よ。住民税はすでに払ったので、その願いを叶える義務は俺にはありません。」



「なに・・・この私の願いが聞けないというのか!?」

「残念ですが。」



王様は、とても賢くはあったのですが、いままで王様として生きてきたために自分の願いが叶えられない、ということはありませんでした。あれを食べたいといえばでてくるし、ある程度の贅沢三昧(国民の突き上げの来ない程度に)。周りにいる人は王様の願いを叶えるのを仕事としている人々ばかりのため、そのような拒絶の文言は聞いた覚えがあまりなかったのです。



「よし、わかった。願いを叶えてくれたならば、欲しいものを褒美にとらそう。」

「いや、いいです。特にないです。欲しいものないですし。」

「いや、ないってことないだろう。ないってことは。遠慮しないでいいぞ。」



と、王様は熱心に言い募る。なぜなら、王様の心には、毎年届く相手の国の季節の挨拶「毛のついた蟹」と「網目模様のメロン」が、国交断絶したらが来なくなるのではという恐怖があったのです。その国からしか取れない非常に高価な品物のため、王様はいつも首をながーくして季節の訪れを待っているのです。それだけは絶対避けたいと思っても無理はありません。ですから、ここで魔術師に首を縦に振ってもらって願いをかなえてもらわないといけないと必死。



そして、魔術師の方はというと、欲しいものなんでも、と国の一番の権力者から言われ望み放題だというのに、全く願いが浮かばず、さっさとこの場を離れたいとそればかり考えていました。



「わかりました。では、王よ。あなたの願いを叶えましょう。そのかわり、あなたが一番大切にしているものをもらいますよ。」



そう脅しを掛けてみます。一番大切なものと交換となれば、王様も二の足を踏んで願いを取り下げるはず、という打算は、



「よし、わかった。では、よろしくたのむ。」



という、男っぷりのいい男らしい王様の返答によって打ち消されたのです。

そうして、結局自ら掘った穴を埋めに魔術師は、遠くの国に一瞬で飛び去り、あっという間に落書きを消して戻ってきました。



「王よ。あなたの願い通り、落書きをきれいに消し去ってきましたよ。」

「おお。すごいなあ、魔術師は。相手の国からもおかげで出入り禁止令が撤廃されて、国交も正常化。ほんとたすかった。恩にきる!!!」





「では、王よ。私の願いを叶えてもらいましょうか?」

「ああ、そうだな。あ、王様に成り代わりたいなどという下克上やら、国の半分よこせとか、生まれてない子供が生まれたら貰い受ける、などというのはなしだぞ。」



賢いだけに、小ずるく、相手が望みを言う前に様々に禁止事項を王様は述べます。

そんな王様の策ともいえない方策に、軽く肩をすくめながら魔術師は、



「王よ。あなたが後生大事に26年間暖めていたファーストキスでもいただきましょうか?」



「なんですと!!!!」(絶句)



謁見の間、騒然。

王様、まだだったの・・・から始まり、だから箱入りは、やら、様々な物議を醸しだしている。なにしろ、生まれてからずっと王様家業をし続けており、ロイヤルカップル誕生までの間に浮名が流れるのを防ぐためにずっと箱入り。そして、適齢期になっても周辺諸国にちょうどよい候補者がいないため、王様はずっとその方面では放置されていたのでした。まあ、忙しくて王様自身もそんな気持ちにさっぱりならなかったのも一因ですが。



「ななななななな・・・・何を貴様・・・」

「何でもいいといったのはあんたのほうですよ。王が約束を守らない、なんてことないですよね。」



王様ピンチ。

いくらなんも考えていないとはいえ、初めてのチューはロマンチックになどとうっすらと考えていたのに、こんなところで浪費。しかも、報酬。一生悔やむような初めてに違いない。しかし、王たるもののした約束は覆すわけにはいかない。大体考えてみると、魔術師に依頼したことと王様のファーストキスを天秤にかけると、王様はとりあえずチューすれば終わりである。労力は、心情を無視すれば限りなくコストは0に近い。

あくまでも心情を無視すればである。しかし、ここは、心情と誇りを秤にかけても心情の方が軽くつくため、王としてはしないわけにはいかない。おそらく、この今目の前で意地が悪そうににやついている魔術師は願いを変更することはないだろう。



・・・くそ。

心の中で人には聞かせられない悪態をつきながら、



「わかった。王であるからには、約束をたがえるわけにはいかない。そこにひざまずけ。」



と、せいぜい威厳たっぷりに、内心異様に緊張しながら魔術師に告げる。

一つ、フッというように薄く笑いを浮かべた魔術師は、すぐに笑いを消し、神妙に王の前に出てひざまずき、顔を王に向けて目を閉じた。



初めてだからな、ようは口に当るようにすればいいんだ、口に、口に。と思いながら王様は魔術師に向けて顔を近づけたが、緊張しすぎか、残念ながら鼻が高すぎたせいか、それとも若干顔を傾けないとうまく口を合わせることができないということを知らなかったせいか、鼻同士激突。流血の事態となってしまった。鼻血王国。



そうした訳で、魔術師に対する報酬は保留となったのだ。



おしまい。(2004.1.7)



















王様と魔術師編A。「分割払いは当たり前。」




王様は悩んでいました。

いつものことです。なぜなら、王様である坂本三四郎氏はとても賢い王様でしたから。

が、賢いからといっていつも難しい問題で悩んでいるわけではありません。時には、今日の服の色何色にしようか(結局は悩んだ挙句、星座占いのラッキーカラーで決める。)とか、夕ご飯に何をリクエストしようかなどという至って一般的に人が悩むようなことで悩んでいたりもしました。

まあ、今日の悩みはそれよりはだいぶ王様にとって真剣であったのですが。



「で、今日はどんなしょうもない願いで俺はわざわざ呼び出されたのでしょうか。」

毎度の事ながら不機嫌そうな魔術師はそれを隠しもしないで王様にぶつけます。その態度に毎度の事ながら腹を立てつつも、願い事をかなえてもらう以上、若干下手な王様は、それには敢て心を抑えて反応せずににこやかに魔術師に話しかけます。ここでけんか腰になると魔術師は願い事も聞かずにとっととトンズラすることを経験上知っているからです。

「この国一番、いや、世界でも比類がないというすばらしい力を持っている魔術師よ。私の願いは、もう一人私を作ってもらいたいのだ。」

「・・・・・・・・・・・」

「できるのか?できないのか?」

王様は身を乗り出して魔術師に問いかけます。

どうせろくでもない願いとは知っていたけれども、本当にろくでもない・・・

魔術師は眉をしかめます。

「影武者でも使えばいいんじゃないですか?何人か抱えているんでしょ?」

「それではだめなのだ。セキュリティーが厳しくってな。固体情報の識別を取られているから影武者では代用が効かないのだ。ぜひ、ここはひとつ、ぱしっともう一人の私を作ってもらえんか?当座は一日持てばいいんだ。」

「固体情報って、あんたまさか、あの会議さぼる気なんですか?」

「あー・・・いや、まあ、その。いや、でもどうしてもその日はだめなんだ。もうずっと前から決まってた用事があるのに・・・ずっと楽しみにしてたんだぞ。会議の一つや二つ、私が出なくってもいいだろ。」

などと王様が出席を放棄しようとしている会議は、全世界首脳会議という世界を構成する国の王様が年に一度必ず出席しなければいけないとはるか昔より決められている会議だった。日程はいつもギリギリに決められ、開催国もぎりぎりに決められる会議は王様たちにひどく不評だった。予定が組めない。が、そのぎりぎりの日程のさじ加減が、世界に起こる紛争を絶妙に防いでいたりするのを知っているため、皆仕方がないと思っていた。今回の会議が決まったもの1週間前であり、急に開催国に任じられた国では上へ下への大騒ぎとなっている。が、この会議が開催されなければ、別の意味で上へ下へとなるところ(クーデターが起こるという噂がまことしやかに流れていた)だったため、まあ、それどころではなくなったようだから結果オーライといえよう。

まあ、そうした訳で王様の華麗な月間・年間計画も崩されて、かなり困っていました。

全ての予定はこの会議に勝るものはなく、会議が最優先であり、王様も世界を担う一つの柱であることを誇りに思っていたため、いつもならば何の不満もなくこの会議に出席していたのでしょうが。

ところが、今回の会議よりも大事な予定が王様にはあったです。

見合いです。

王様は、王様のご学友であり、王様の国からかなり遠くにある国を治める高杉氏の妹姫と見合いする予定だったのです。

妹姫はこの世界の中で当代一といわれる美しさで、まあ適齢期の王様・王子はたいてい名乗りを上げておりました。王様もその一人で、その見合い日程はかなりぎちぎちに組まれていたため、順番がなかなか廻ってこなかったのです。1年後までぎっしり埋まったその姫君の見合い日程は、姫君が気に入った相手が出てきた瞬間に終了となるため、王様は焦っていました。親友である高杉氏に、親友のよしみで何とか渡りをつけろ、といってみても、

「妹が言い出したことだから、僕が口挟むようなことじゃないよ。まあ、決まりどおりにやってくれ。兄弟になることがあったらよろしくな。」

などと軽く受け流されていた。

そんな訳で、会議が入ったから日程をずらしてくれ、と一応打診をしてみたものの、斟酌されることなく、

「では次は○月○日で。」

というほぼ一年先の予約を言われたのである。日が立てば経つほど不利になるのだから、王様、焦る、焦る。



そんな訳で、もう一人の私を作ってくれ、という願いを魔術師にしたのである。

が、理由を聞いて魔術師はますます眉間にたてじわを寄せます。もう眉と眉がくっつく日も近いです。

見合い・・・

何にそんなに腹を立てているのかわからないまま、胸にもやもやするものを押さえつけながら、冷ややかに魔術師は王様に話しかけます。

「あんたをもう一人作るということは、現時点では俺にはできません。」

それを聞いて王様は目をキラキラ輝かせます。

「現時点で、ということは何か方法があるのだな!!!」

喰らいついてきた王様を鼻先で笑い飛ばしながら、

「まあ、方法を選ばなければですが、ね。あまりお勧めできないですが。」

「ある程度の犠牲はいとわないぞ、私は!」

「後悔しますよ。」

「構わん。時間がないからその方法を早く教えてくれ。」

「・・・・・・。報酬は?」

「・・・・・・・・・・・。好きなだけもってけ。」

さすがにちょっと願いが叶いそうなムードになってきて気が大きくなった王様も、報酬の話になるとちょっとためらいが生じます。

くそ・・・ハレンチ魔術師め。足元みやがって。

などと王様はいつも思うのですが、魔術師はいくら王様が金銀財宝に領地・税金の免除など他の代替案を用意しても願い事の報酬は最初に依頼されたときのものから変更をしないのです。



「では、始めますか。」

魔術師は、座っている王様の目の前に移動します。座っている王様に立ちはだかり、上から覆いかぶさるようにして尋ねます。

「あなたは魔術がどういうものか知っていますか?」

王様が首を横に振ると、例えば・・・といいながら魔術師は王様の頭にかぶっている王冠を取り去り、手に持って話します。

「この王冠、俺は同じものを今ここで作り出すことができます。この通り。」

左と右に全く同じ王冠が瞬時に現われます。どちらが元のものか確かめるようにと2個とも渡され、王様はためつすがめつしますが区別が付きません。

「わからないでしょう。こうした無機物のもので俺が知っているもので構成されているものだったら同じものを作るのは可能です。ただし、人間を造るとなると話は違う。昔から色々なされていましたが結局はうまく言った例は聞いたことがありません。」

「なんだ。無理なのか?」

「そうですね・・・まあ、できないこともないんです。術者が知っていて、且つそれを作り出す能力があり、持続させる力を持っていれば可能です。」

王様は、御託はいいからさっさとやってくれ、と思いながら魔術師を見守ります。

すると何を思ったか魔術師は王様のきっちり宝石のピンで止められた襟元を緩めていきます。王様が驚きに呆然としているうちに第二ボタン付近まで外してしまいます。そして襟元に手を差し込まれて首筋を撫でられるに至って、この状態が容易ならざる不敬+セクハラなのだと苦情の声を上げようとすると、

「あなたの着ているこの服、これをもう一つ今すぐ作り出すことはできます。それは、俺が服というものの構成要素、組成を知っているからです。ただ、服の下に存在するあなたについては知りませんので知るための手段をとらないといけません。」

王様の服はすでに胸元までくつろげられてしまい、誰にも見せたことのない玉の肌が晒されてしまっています。王様は非常にパニック状態に陥っていましたが、術にかけられてしまっているのか喉と舌がしびれてしまい苦情の声を上げることができません。身動きもままならず、されるがままになってしまいます。王様はその魔術師の不穏な動きに、ひたすら心の中でやめろー、やめてくれ、つうか周りに誰もいなかったかなどと目線でそば付きのものに助けを求めようとしましたが、なぜかいつもはしっかり控えている者たちの姿が見えません。魔術師はその肌を確かめるように指を滑らせながら、

「あなたの身体をこの場で作り出すことも、簡単ではないが可能です。人を構成する要素、についても俺はある程度は知っていますから。が、それは魂が入っていない状態です。

例えば、この術が成功したとすれば、この作り出したもう一人の王様が会議か見合いかどちらかに出席することになるのでしょう?そのためにはあなただと疑いがもたれないように国家について語るあなたの精神構造や、愛を語ったり、それを実践したりするあなたの精神を作らないといけない。作るということは知らないとできないのだから、あなたは俺に全てをさらけ出さないといけない。」

魔術師の目が暗い部屋に置かれたろうそくのように輝きました。

「俺は、魔術師ですから知るということに貪欲です。もちろん、あなたを完璧に再構成できるまで暴き立て、分解します。覚悟はいいですか?」

それを聞いて王様は、これ以上何かされたらたまらんと、

「わかった。もう諦める。」

と、望みを撤回したのです。

「そうですか?まあ、それが賢いと思いますよ。」

それじゃ、もうつまらないことで呼ばないでくださいよ、などと捨て台詞を残してすぐに魔術師は姿を消しました。

すると、真っ暗な部屋に二人っきりだった心持ちでしたが、気がつくとさんさんと明るい午後の日差しが射し込むいつもの王様の執務室に戻りました。王冠は一つに戻り、王様の着衣の乱れも何事もなかったかのように襟元もしっかり閉じられ、輝く宝石のピンもそのままです。

先ほどのことは白昼夢であったかのように曖昧模糊として、王様はまた悪い夢でも見たのかと思いました。

が、もう魔術師に私事で頼み事をするのはやめよう、と王様は心に誓ったのでした。

そうした訳で、王様の見合いは結局また1年後まで先延ばしになったのです。



さて、国は変わって王様の親友高杉氏の治める国ではこんな会話が繰り広げられていました。

「おい、麗子。で、そろそろ相手は絞れてきたのか?」

「んー・・・まだ考慮中。ビビっと来るような人ってなかなかいないものねー。」

「そうか・・・ところで坂本も候補者に上がってたけどどうなんだ?見合いが1年後に流れたってこっちに文句いってきてるんだが。」

「坂本さん? あれって、坂本さんのところの側近の方が気を回して予約入れてるだけじゃないの?」

「いや、そんな感じじゃなくって本人乗り気みたいだったぞ。」

「ええっ!!!?? そんなわけないじゃない。もう坂本さん、相手が決まってるって聞いてたけど。」

高杉氏初耳。すぐに王室タイムスのバックナンバーを姫が出してくるので見てみると、ゴシップ欄のあたりに

『坂本氏、国お抱えの魔術師と婚約!?』

などという記事が載っている。しかも、何ヶ月にも渡ってその魔術師との熱愛報道が毎月のように載っているのだ。

高杉氏は、その記事を読みながら、あの性格の坂本氏がこんな記事が載っているのを知っていたら新聞社に殴り込みをかけているに違いないと思った。ということは、坂本氏は自分がこんなに取り上げられているとは知らないのである。このまま知らない方が本人の精神衛生上にはよかろうて。そんなことを考えていると、

「でもやっぱり、男同士じゃ、突き上げ厳しいのねー。わざわざカモフラージュに私のところまで見合いの話もって来るなんて。ま、いっか。坂本さん来たら根掘り葉掘り聞いちゃおっと。」

などと妹が怖ろしいことを言っている。

それはやめてくれ、というか坂本の国でやってくれ、うちの国でやるな・・・と、高杉氏は速攻で妹姫に念を押したとさ。



おしまい。(2004.7.9)←30のお題「4.魔法」で書きました。