終わりに約束された永遠の地。

そこに辿りつける人はほんの僅かだ。







約束の地









欲しいものがあるか、そう聞かれて常ならば聞いた方が悪かったというくらい右から左に並べ立てる坂本氏だが、今回は緩く何もないというように首を振った。
いつもの勢いを想定していた桂氏であるから、その妙におとなしげな様子に常にはないものを感じた。

「・・・坂本さん?」

伺うように小首を傾げる。
そのご用件伺いをする忠実な犬のような生真面目さに、坂本氏はフフっと笑ってしまう。

「坂本さん?」

尻上がり疑問系で呼びかけてくる相手の顔には怪訝そうな色が前面に出ており、ああ今また笑ったらこれが不機嫌色に変わるぞとわかっていながらも、ハハハと今度は先ほどよりも大ぶりに笑ってしまう。

「坂本さん!」

人の顔を見ながら、ただ笑うだけの坂本氏に痺れを切らして強めに呼びかける。
いかんいかん、そろそろ笑い止まないと癇癪起こすぞ、なにしろ気の短い男だからな、と本人が聞いたら坂本さんこそ!と騒ぎ出すこと請け合いなことを考えながら一生懸命笑いを抑えようとする。けれどうまく行かずに細かく小さな笑いを転がしてしまう。

「・・・もう」
いつまでも笑い止まない坂本氏に少しすねてしまった桂氏はへそを曲げかけている。
もう、のあとに『知らない』という言葉がつくと厄介だとばかりに坂本氏の方から桂氏に腕を伸ばし、ぽんぽんとなだめるようにたたいた。

「すまん、すまん」
悪かったと繰り返すのに、

「もう・・・」
と、ため息交じりにつぶやくとつられたように桂氏もフフっと笑い出す。

何もないのに何もいらないくらい満ち足りている。
世の中に数多くの物が溢れていて、やはり考えるとどれもこれも欲しいと思うけれど。
一緒にいることで満たされている今は、これ以上は望むことはない。

不思議だな。
こんな穏やかな日が来るなんて。

多分相手にそういったら同じ返事が返ってくるだろう。
そうですね、と返ってくる優しい他愛のない言葉の数々は、それ自体が意味を持つ言葉でなくてもその時々、場に応じて優しい光を灯している。
今こうして何もいらないと思えるくらいに満たされているのは、同じ想いを共有しているという不思議、それをいくつもいくつも二人で拾い集めたからだ。

そっと、ごく自然に坂本氏は桂氏の体に手を回し身を預ける。
すると同じ力で迷いなく引き寄せられる。

・・・また今日も、一つ約束を果たしてくれた。

その腕に抱きしめられ安らぐたびに、そうした感慨が浮かぶ。
一番最初にしてくれた約束は、今も生真面目に果たされている。

誕生日に特別なプレゼントがいらないのは、もうすでに充分すぎるプレゼントをもらっているからだ。
・・・大事にしよう。

そんなことを考えながら抱きしめる力を少し緩め、坂本氏から誕生日プレゼントのくちづけをねだった。








おしまい。