四季がある国にはそれぞれの季節の楽しみがあるのです。

過ごし辛さの中にもパラダイスを発見するほうが、一日一日楽しいもので。















冬の楽園。











コタツで眠ると体が芯から温まるというより、皮膚の上だけ炙られて変に寝苦しい。
寝苦しいとわかっているのに一度入ってしまうとその暖かさに抜け出ることは容易ではなく、結局、早く出ないといけないと思いながらも首までつかってしまうわけで。そうすると一日があっという間に終わっており、損した気分にさせられる。
だったら入らなきゃいいじゃないかと、何度もいわれたが。
対策としては部屋全体を暖かくして、コタツからもすぐに出られるくらいにするのが得策ではあるが、石油が高騰する昨今、灯油も軒並み値上がりしているのだから、早々贅沢はいえない。
まあ冬の醍醐味、それはコタツでゴロゴロであるわけだから、石油が高かろうが安かろうがどっちにしてもごろごろすることには変わりがない。時間があれば、こうしているのが幸せであり、特に何もすることがないという贅沢を堪能しているのだ。本当はその贅沢を堪能する前に今年の汚れをさっぱり掃除で拭き清めるべきなのだろうが、降り出した雪の白さに窓の外を見ているのも寒く、やはりコタツで丸くなる。そして、次第にうとうととこの贅沢に身を任せるのが常のことだ。


ヒヤリ
頬にひんやりとした冷気が漂う。

「また、コタツで昼寝ですか。ほんとに風邪引いても知りませんよ。」

帰ってきた早々に苦言を呈し始めるので、一番最初は「ただいま」だろ、と胸の内でこちらもクレームを一つつける。それは言わずに

「お帰り」

といって、のそのそと冬のパラダイスから抜け出す。
外から帰って来た人は、ひんやり冷気を纏っており、いくらマフラーやコート、手袋を着込んでも冬将軍の冷たい息からは逃れられなかったようで肩口や袖には濡れた雪の跡がついている。
立ち上がって、身体を寄せて、その身体を取り巻く夜の冬の匂いをかぐ。
シンとした冷たさは、コタツで火照ってしまった身体に心地よく、目を閉じてその冷気が身体を撫でつけるのを味わう。

「ああ、冷たくって気持ちいいなあ。」
「そりゃ、よかった。俺は寒くて凍えそうです。」

そう唱える人の顔は確かに血の気が引いて白くなってしまっている。ただ、鼻の頭だけがその高させいか部屋の温かさによってとかされ、赤くなってしまっている。
真っ赤なお鼻のトナカイさんになってるぞ、などと思いながら、その鼻に自分の鼻を寄せてみるとやはりまだ氷のように冷たい。しばらくそのままに冷たさをこちらに伝導させたら、場所を変え、頬を寄せたり、その凍えた指先を一本一本握っていく。だんだん、冷たさを堪能するよりも相手に熱を分ける方に専念し始める。なかなか温まらない手に業を煮やして自分の首元にあてると、さすがに心地いいを通り越して冷たく、つい肩をすくめてしまう。

「坂本さんが冷たくなっちゃいますから、もういいですよ」

そういって手を引っ込めてしまうので、そうか、じゃあ風呂にでも浸かって来い、と勧めかけて言葉を止めたのはすっかり寝入ったせいでなんも支度をしていなかったのを思い出したせいだ。夕飯の支度すらしていない・・・
やばい・・・
そう思っているのは顔には出さず、


「そうか?まだ寒そうな顔してるぞ」


といって、まだ先ほどその冷たさを確かめなかった唇に唇を重ねる。
冷たさを感じたのは始めだけで、次第に深くなるにつれ熱さの方が強く感じられる。冷えた表皮以外は驚くくらい熱いので、こんなサービスはせんでもよかったか・・・などと頭をよぎるが、強くかき抱かれ甘く吸われる唇にすべてを持っていかれてしまう。
相手が纏っていた冷気がすっかり消えてしまうころには、何かをごまかすために始めたのだということをすっかり失念してしまう。
自分の策が長く続かないと思うのはこういうときで、まあ、冬の醍醐味はコタツであり、その醍醐味をなかなか味わうことのできない恋人にもその醍醐味の一端を分けようといつも思うが思うに果たせない。たまにはのんびりできるといいんだが、などと思う坂本氏が、実際にのんびりできる休日にのんびり桂氏とうちにいてごろごろするという休暇を自ら選択せずに遊び歩いてしまうという事実をすっかり忘れてしまっている。まあ、そのことは忘れていても恋人の存在を忘れているわけではないので、いつも冷えて帰ってくる人のためにコタツにわざわざもぐってカイロ代わりに体を暖めているのだ、という坂本氏の弁の何割が真実かは推測するより他はないが。

「今から夕飯作るから、みかんでも食べて待ってろ」
といいながら台所に消える坂本氏の背中を見ながら、言われたままにコタツに入り、みかんを剥き始める桂氏が、

いや、風呂も夕飯もいらない、このまま坂本さんに暖めてもらいたいものだ・・・

などと思っているとは、やはり思案の外で、坂本氏はしばしの間は冬の楽園をあとにするのだった。






おしまい。