● 甘い言葉。  ●

「だから、アンタはいつでもそうやって言いますけれども、実際に自分でやった事なんてないじゃないですか!」
「なにを貴様!この私の溢れんばかりの知性と品格は安売りせんのだ!」
「溢れんばかりなら、その片鱗だけでも見せて欲しいものですよ!」
「見せんからこそ、ミステリアスな私の・・・」

「……あのー……」

たった今まで、お互いに罵詈雑言の限りを尽くしていたのは、相も変わらずの坂本氏と桂氏であり、
そこを何とか間に入ろうと、仕事でもそこまで気を使った事の無いタイミングを計り、割って入ったのは、この今いる部屋の主のひとり、緒方氏である。
今は土曜日の夜。いつもの通り、休日の朝から坂本氏に呼び出された桂氏と、やはり、ふたりで出掛けようとした高杉・緒方両氏が、マンションの前で偶然合ったことから話は始まる。

「今日はまた沢山ギョーザ作るから、よかったら坂本さんと一緒に食べにくるかい?いいですよね?高杉さん!」
緒方氏ののん気な誘いに、一瞬、苦虫を噛み潰した顔を見せた高杉氏であったが、その自分に向けられた最愛の恋人の心からの笑顔にのせられ、結局渋い顔でうなずき、急遽、晩御飯会催し強行決定となったのであった。

「坂本さんも桂君も、ゴハンの後、ちょっと一息つきませんか?」
桂・坂本組の言い合いには、いいかげん慣れっこになってきているのもあるが、そこはさすが緒方氏、彼の、のほほんとした笑顔で話し掛けられると、その場がいっぺんに春の縁側気温へと変化する。

「いやこれは緒方君、いつもすまないね」
基本的ツリ目を少し和らげながら半笑いを返す坂本氏の横で、桂氏も急いで腰を浮かしながら、
「緒方さん、全部させてしまってすみませんでした。何か俺もお手伝いします」
「ああ、いいよ桂君。そのまま座ってて!ハイ、お茶です」
目の前に出された湯のみを両手で持ち、ふふんと鼻をならしながら坂本氏が言い放つ。
「ホラ、人を和ますというのは、こういう事なんだぞちたろー」
「あのですね、アンタ自分が出来ない事を、人にやらせようとすること自体がおかしいんですよ」
「何ッ、お前は私を幸せにすると誓った男だろう?!それぐらい出来んで、この先一生、何が私の幸せか!」
「そうですよ、そう誓いました!俺はいつでもアンタの事だけ考えてますよ!だけど、アンタはいつも、」

「坂 本 。 桂 君 。」

今度は、地中の悪魔(だが美声)を思わせる低い声が、その部屋の空気を一変させた。
ぎ・ぎぎぎぎぎ…と、坂本・桂組が、その声の方を向くと、長い足を高く組み、イスに深く腰掛けた高杉氏の完璧な笑顔がこちらを向いていた。

(笑ってない・・・決して笑ってない。)

坂本・桂両氏がそこに見たのは、一見、柔らかな笑顔だが、ブラックホールの目がきらーんと光り、その姿はまさしく風林火山の、あの有名な一遍を想像するに難くは無い高杉氏の姿であった。

「たかたかたかたか、あの、高杉さん・・・?」
「なんだい、緒方君。あ、お茶ありがとう、とっても美味しいよ」
あの目からは何かの呪いが出る・・・!と思わせる高杉氏の般若顔が、恋人の問いかけにはコロリと変わったその瞬間、呪いから開放された坂本・桂組はそそくさと立ち上がり、
「さて、そろそろお暇しようではないか、ちたろー」
「そ、そうですね、もう時間も遅くなってしまいましたし… あの、緒方さん、この後もお任せしてしまっても大丈夫でしょうか?」
「ああうん、大丈夫、片付けも途中で手伝ってもらったから、そんなに無いしね」
「緒方君の事は、僕がすべてやるから、桂君に心配してもらう事はひとつも無いよ。それより桂君は、もっと面倒が大変なヤツがそこにいるだろう。それだけ持って帰ってくれれば、それでいいから。」
「なにをーキサマあー!!!」
最後の最後に来て、ふんがー!といきり立つ坂本氏を小脇に抱えるようにして玄関に向かった桂氏だったが、変なところで礼儀正しいふたりゆえ、玄関に並び、最後のご挨拶と相成った。
「緒方君、今日はご馳走さま。ではまたな、おふたりさん」
「高杉さん、緒方さん、どうもお邪魔致しました。今度、俺が何か作りますから、是非呼ばせて下さい」
と、頭をぺこりんと下げ、ドアを出て行く。そのドアが閉まるか閉まらないかの時に、

「ちたろー。お前が何を作ってもてなすと言うのだ。その前に私の味見が入らんと恥ずかしい事になるのではないか?」
「アンタには毎晩のように作ってあげてるじゃないですか、まあ確かにアンタ好みの料理しか…」

ぱたん。その音と共に、高杉・緒方家には静寂が戻る。

「・・・?緒方君?どうかしたかい?」
「・・・・・・・ぷーーーーーーッ!!!あッはッは、はははは!」
「おッ、緒方君?!どうしたんだい?何か変なものでも食べた?」
「ちッ、違いますよう〜高杉さん!あのふたり…あのふたりって…ぷぷー!」

ひとしきり笑い転げる緒方氏の周りで、最初はあたふたと血相を変える高杉氏であったが、ここからはやっと訪れたふたりの時間。そのまま一緒にリビングへ移動し、ちゃっかり寄り添って並んで座り、緒方氏の腰に手をまわしながら、笑いすぎの涙をぬぐってあげる高杉氏である。そういうところはまったくをもって抜け目が無い。

「で?あのふたりがどうしたんだい?」
「ねえ、高杉さん。あのふたりって、いつもケンカしてケンカしてケンカして、で、一見、失言の応酬みたいなんですけれども…気付いてました?お互いの言っている事が、」
「ああ、凄く甘い愛の言葉と一緒、ってことだろう?」
「そうそう、そうなんですよ!俺なんて、そんなこと言われちゃったらもう溶けちゃうなーっていう様な事を、あのふたりは常に、額に青スジ立てて言い合うものだから、俺もう、おかしくておかしくて…」

素直に笑う緒方氏を見てた高杉氏の顔が、その瞬間に変わり、
「へえ緒方君、いつも甘い言葉を囁かれたら溶けちゃってたんだ。僕がどんな事を言ったら、どんな可愛い緒方君になるのか、もっと見てみたいな」
先程のブラックホールの目とはまた違う意味で、吸い込まれそうな予感がギュンギュンな緒方氏は、慌てて高杉氏の腕の中から抜け出し、
「そうだ!俺、洗い物があったんでした!」
と一目散にキッチンへ避難。だが、それを追いかけるのは「あの高杉氏」なのだから、捕まるのは時間の問題といえよう。
そこからのふたりは、お互いにお互いだけへの気持ちが、実演込みで手渡されるのだ。

甘い言葉に甘い時間。
緒方氏が高杉氏に捕らわれたその頃、変わらず言い合い中のふたりの間にも、同じ時が訪れる。
ただし、それをそうと認めるまでは、こちらのふたりにとっては、それはまだまだ先の違うお話である。

おしまい。



いつも遊びに来てくれておりますしむさんよりすばらしダーリン話をいただきました〜(*^_^*)
いや、毎日だらだら漫然とセンサカ人を続けておりましたら、こんなによいことが!
俺なんかしたっけとディスプレイ前で伏し拝んでしまうくらい嬉しかったです!
いや、なんとダーリンの皆さんの活き活きしていることよ!
すばらしい、すばらしいっす(>_<)このまま、ダーリンサイト(特にセンサカ)開いてもらえんかなあなんて思っておるところです。(熱烈切望。)ありがとうございました〜(^o^)丿