powdery snow

  しむしむさんからいただきました誕生日前センサカ。  



「お、雪だぞちたろー」

うー寒い!と文句を言いながらもその人は空を楽しげに見上げ、降ってくる雪を受けようとでもするようにてのひらを差し上げた。子供みたいなことするな、と思ったが、その無防備な横顔を見たらそこから目が離せなくなった。

まつげの先に雪がとまり、水滴になって光った。きれいだな、と思う。

こういう顔で自分の横にいてくれる時間は長くなってきたと思う。だが、やっと縮められたかと思った距離は全然目標値にも達していないし、その進捗率は亀の歩みのようにスローリーだ。
この人と一緒にいることを嬉しく思うと共に、もうこの時間を失くして欲しくないと強く願う。ではそれに対して自分が何をするか、となると、それはもうひとつしかない。2度と離さないだけだ。

だけれども、時々不安にもなる。この時間も雪のように、いつしかこの人の中で溶けて消えてしまうのではないか。
捕まえたい衝動が湧き上がって手を伸ばしたその時、急にその人がこちらを向いた。そして言う。

「2月ももう終わりだし、これがこの冬最後の雪かもしれないな。そしたら来月は私の誕生日だぞ!もう今からお前にしてもらう事を考えておくからな?お前もそのつもりでいるようにな!」

ああそうか、と思う。
そうやって、来月またその次、と何度も約束を重ねていけば、いつしかそれが「ずっと一緒」になるのだろう。
それは今この時間があって、それから続いていくものなのだ。

溜息はつき足りない、と思っていた。白い息が空に上がっていく。
溜息を止めるにはどうすればいいかなんてことはとても簡単なことだった。

その人の唇にもひとつぶ溶けた雪。そこに顔をよせた。
溜息も考える必要のない不安も、俺たちの間で溶けて消えてしまえばいい。


おしまい。
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