しむしむさんの桂氏誕生日話

  『love the world』・・・桂氏編  



最初のうちは拒絶されないかと相手の様子を見つつだったのだが、この人がものすごいタイミングでものすごく自分にとって欲しい言葉をさらりと吐いてくるので、その言葉ごと身体ごと、自分の中に抱え込みたくなる衝動に駆られる時がある。

そして、今がまさにその時。
慰めてあげようだなんて思ってもないだろうけれども、その率直な意見こそが正直疲れた身にしみた。間違いも迷いもある、だけれどもそれごとすべての自分を見てくれてる言葉に、何故だかひどく安心した。

そういう事をさらっと言ってのける坂本さんが俺は好きですよ。

頬に手を添えると、顔がしかめられたり赤くなったり忙しくなった。そういう顔をするのはどういう時か、俺でもだんだんわかってきている(つもり)という事で、自分の気持ちに従って何か言いたげな目の前の唇を塞いだ。
だが、一瞬答えてくれた唇とは逆に、その人の手が俺の胸を突いた。まだ駄目なのか、という気持ちが頭をよぎる。
聞きたくないけども聞いてみたい。まだ駄目ですか。キスが?それとも俺が?
ぐるぐる考えて身体を引こうとした時、急に胸ぐらを掴まれた。

・・・何ですか?

イヤ、だから、き、キスの時に、音がするのが恥ずかしいのだ。

自分の顎が下がるのがわかった。

その後は大爆笑。この人はたまに可愛すぎる。なにもかも知ってるような顔をしてキスが恥ずかしいという。
本当に頼むから、と思う。こういうタイミングでこういう事を言うと、相手がどう思うかなんて絶対に考えてない。
何か試されてるのかな。いや、本当にそう思っただけで言っているのならもう。
爆笑で使った腹筋の力のまま、その人を引き寄せ抱え込んだ。

聞いているのも見ているのも俺だけですよ。
いつでも、これからも。

触れた手が繋がれた。
今こうしている喜びの中、それでもどこか先の見えない不安があった。いつ帰れるかわからない夜の始まりの時間、事務所の窓から見えたひとつだけの星のような、指させるようなものが何も無い気がした。自分の中で離さないことと自分が幸せにすることが前提にあってこうしていても、この人はずっといつまでもここにいてくれるのだろうか。信じていない訳ではないけれども、ただ、自分の足元が時々揺らぎ、手を伸ばしたくなる。捕まえておきたくなる。
その伸ばした手が繋がれている。目に見える先など無くとも、ふたりで進む道は、自分たちが出した一歩のその先に出来ていくものなのかもしれない。

繋がれた手から伝わるのはその人の体温。次はキス。そして、それだけじゃなくてもっと全部。

おしまい。

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