「マカロニ」

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雨が降った後の夕暮れは空が高くて、だんだん手が冷たくなってきた。
横を歩く千太郎の肩先を、視界の隅で確認。すると千太郎がそれに気付いたかのように、コンコン、と2回、私の手の甲にノックをした。
今でも手をつなぐ瞬間は、深呼吸をする気持ちになる。

これくらいの感じで、いつまでもいられたらいいかもしれないな。

心の中の呟きがどうやら口に出てしまったようで、千太郎が、何が?と聞き直してきた。

いや、これくらいの感じで、たぶん丁度いいのかもしれんと思ってな。

つないだ手を持ち上げながら、少し照れる気持ちで吐露すると、見ているこちらがぎょっとするくらいの勢いで千太郎が目をむいた。

これくらいって、…これだけですか?!

これだけって…お前、これだけじゃ駄目なのか?と問うと、千太郎が急に立ち止まり、私の目の前に立ちはだかってこう言った。

これだけじゃ足りません。

こちらがあっけにとられるくらいはっきり言うと千太郎は、拗ねたのか言った自分が恥ずかしかったのか、ふいッと視線をそらして歩調を速めてずんずん歩きだした。手を引かれるようになって私も小走りになる。
強く握りこまれた手が軋む。痛いぞ、と声を上げてもそれは緩まず、逆に、早く帰りますよ、という無言の抗議に感じられた。
こういう子供っぽい顔も、見るのは結構好きだ。よくわからないけれども安心する。何故だろうな千太郎?

ちょっと待て、そこで買い物をして行こう。

そうだな、今日は寒いから、ぐつぐつマカロニが溶けてるスープが食べたい。
手を引いて、向こうに見える看板を指さしながら、目の前の、いろんなことが頭で渦巻いてる顔を見上げて言った。
そして考える。
なるべく時間のかかるメニューを。

おしまい。


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