●● メルアドより愛をこめて ---siokoさまよりいただきました! ●●
昼の12時過ぎ、雑誌を読んでいるとテーブルの上に置いていた私───坂本三四郎のメール着信音がいきなり鳴った。
「うん?」
表示窓を見る。相手は、まあ、そのなんだ……こ、恋人である桂千太郎からだった。
こんな時間に何だと言うんだ。まさか『今から帰ります』という嬉しい内容……い、いや、それだったら電話の方が早いではないか。……ではなく!
二つ折りの携帯電話を開き、メールを見る。
なになに……
件名:メルアド変えました
346_love@xxxxx.xx.xx です
「……………は?」
私は思いもよらなかったメールの内容に拍子抜けした。
何だ、これは。大体わざわざ今メールで送らずとも、一緒に住んでるのだから家へ帰って来て言えばいい事ではないか。
しかも、この346……何の数字だ?暗号か何かか??
さんよんろく、さんよんろく……おまけにラヴときたもんだ。千太郎は、この数字に何か強い思い入れでもあるのだろーか。
みしろく??……違うか……みーよんろく……う〜〜〜〜〜ん、思い浮かばんぞ。
「さん、し、ろく……」
思わず声に出して言っていた。
うーーーむ、さん、し、ろー……さんし、ろー……さんしろー………
「さんしろう!!!???」
さんしろう、つまり、三四郎とは私の名前だ。
ようするに『三四郎ラヴ』と……そういう事なのか!!??
恐らく正解なのだろう答えに、やっと行き当たったが、とても『やったぞ!』と手放しで喜べるものではない。
「………ああああああああああほか〜〜〜〜〜っっ!!!!!」
他に誰もいない部屋に私の叫びだけがこだまする。
全く嬉しくないと言えば、それは嘘になるかもしれないが、あまりの事に思考がついていかなかったのだ。
な、何なのだ、あいつは!し、し、仕事中に、このよーなメールを送ってきおって!
「くそ、問いただして……」
メール画面を切り千太郎に電話をかけようとしたところで、はたと止まる。
何て言うのだ?
どうしたらいいのかと、ぐるぐるしていると今度は電話の着信音が鳴った。
「うわあああっっ!!」
唐突すぎたのと、その音が、やけに響いて心底驚いた。
落ち着け……落ち着くのだ私………
深呼吸を1回して表示窓を見る。相手は今、誰よりも聞きたくて聞きたくない声の主だった。
「も、もしもし……」
つとめて平静を装おうとしたが、アドレス変更と突然鳴った電話のショックからは、なかなか立ち直れないでいた。
『坂本さんですか?メール見ました?』
「ああ、見た……すぐには分からんかったが……というか何だ、あのメルアドはっ!貴様、仕事中ふざけるにも程があるっっ!!」
『……今は昼休みです。で、俺は大真面目ですが?』
ムッとしたような千太郎の声。いや、あのな……あんな事を真面目にされてもだなあ……
「大体な」
『何です?』
「す、好きとも言われとらんのに、いきなりラヴはなかろうっ」
『好き、は坂本さんが言わせなかったんじゃないですか。俺は、すんっっっごく言いたかったのに』
当たり前だ。『事後』に好きと告白しようとするやつがどこにいるっ!
「ま、まあいい……ところで千太郎………」
『……相変わらず人の話聞いてませんね。で、はい。何ですか?』
「貴様…よもやこの、はっっっずかしいアドレスを仕事関係で使ってはおらんだろうな!?」
『ああ、それなら大丈夫です。これ坂本さん専用ですから。……って、恥ずかしい、ですか?』
「あああ当たり前だ!自分の名前にだな……あ、愛してるなどというアドレスをつけられてるのだぞっ!!」
『いいじゃないですか、本当の事なんですから!』
「なっ…!」
どきっぱり、といった感じで言う千太郎に赤面しつつ私は軽いめまいを覚えた。
「お前……何で直接言わんでメルアドなんぞに使うのだっっ!」
『言われたいんですか?』
「うっ……」
こいつは、いつもこうやってすぐ私に振ってくる。どうすればいいのだ。ここで私が『愛していると言ってくれ』とでも伝えるのか?そんな恥ずかしい事、冗談じゃないぞ!
『好き、が却下だから、もっと拒否されるかと思ったんですが……分かりました。じゃあ、帰ったらいちばんに言いますね』
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
『坂本さん?』
「と、とにかく、だ。あのアドレスは、くれっっぐれも他の人間には使うなよ!じゃあな!!」
はーはーはー……肩で息をしながら、千太郎の返事も聞かず一方的に通話を切ってやった。
すると、再び電話が鳴る。
一応、確認するが……やはり千太郎からだった。
「しつこいぞ貴様!まだ何かあるのか!?」
『……何でそんなに怒ってるんですか?』
「べ、別に怒ってなどおらん!」
『怒ってるじゃないで……ああ……照れてるんですか?』
図星をさされてかっとなる。
「だから何だと言うのだ!用があるならさっさと言え!」
『……坂本さんは』
「うん?」
『俺専用にメルアド変えないんですか?』
「……………は?」
何を言い出すんだ、こいつは。
『俺が変えたように変えてくれないんですか?』
「なっ!ななななな何で私まで変えねばならんのだ、このバカたれっ!!」
『いえ、いいです…言ってみただけですよ……』
千太郎が、しょんぼりした声を出した。さすがに気の毒になったので、私は元気づけに言ってみる。
「……おお、そうだ!そんなに言うなら『5963(ご苦労さん)』に変えてやらん事もないぞ。どうだ?」
『結構です!』
「何だ貴様、人がせっかく親切に……」
『もう昼休み終わっちゃうんで、これで………今夜は遅くなりますから』
事務的にそう言うと今度は千太郎の方が一方的に通話を切った。
どうやら拗ねてるらしい。あいつは私より落ち着いてるように見えて───我ながら情けないが───時に、こういう子どもじみたところがあるのだ。
むー……
どうしろと言うのだ全く……
「……………」
携帯電話を片手に作業を始める。ええい、この小さくて押しにくいボタンは何とかならんのか!?
格闘する事、数十分。私は千太郎にメールをした。
件名:メルアド変えてやったぞ感謝するがいい
1000taro_love@xxxxx.xx.xx だ
P.S.こ、これでいいか?早く帰って来い、ばかものっ!!
この後、よほど忙しいのか千太郎からの電話もメールもなかった。
それを少々、寂しく思いながら夕飯を作っていると『今夜は遅くなります』と言ったにも関わらず、あいつは笑顔満面で飛ぶように早く帰って来た。
ただいまのあいさつもそこそこに強く抱きしめられ、顔中にキスの雨が降りかかり。
私は空腹だというのに飯もそっちのけで、それはもう翌日起き上がれないくらい体のあちこちに愛を刻み込まれたのだった……
END
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どうも〜!
siokoさんよりいただきました第一弾です。
うすらぼんやりと長いことサイトを続けていてよかったなあと思うのは、こうして新たなセンサカ人にお会いできたときでしょうか。
イェ〜イ(*^^)v
阿呆かと思うくらいセンサカのことばかり考えていた日々も無駄じゃあなかったぜ!ありがとうございます!
で、携帯センサカですよ。
今まさに出来上がった二人にはこれくらいやりそうな勢い感じますね。
近未来的に誤って別の人物にこのメアドで送ってしまってハプニングやら、喧嘩するたびにメアド変えるぞ・・・と脅してみるなどさまざまな夢の翼広がるよいお話ですね〜(*^_^*)!
出来上がったセンサカの甘酸っぱさにいただきました時にはニヤニヤが止まりませんでしたよ。
またよろしくお願いいたします!
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