「ファースト勝訴はレモン味。魔王高杉満面の笑み」

 

 

 

みなさんこんばんは。高杉洋一郎です。

ただいま何の因果か、ジョブが魔王になっています。

なんで魔王になってしまったか、それについては残念ながら今明かすことはできないので、今度時間があるときにでも、話す機会があるといいのだけれど。まあ、どうしても気になるという人は、大好評発売中の「月刊・タカオガ通信」のバックナンバーを探してみてもらえると、もしかしたら書いてあるかもしれないので、見てみてもらえたらいいと思うよ。(※編集者注:ただいま絶版。)

 

ところで、今日は裁判所にいます。

先日、正義を語る押し入り強盗に、家財道具一式を台無しにされてしまったんだ。あれにはほんとまいった。

ということで、損害賠償を求める訴訟等をおこしているんだが、これが泥縄。なかなか終わってくれず、ヘンなところに飛び火するはで、大変だ。不法侵入・器物損壊・その他もろもろの暴力行為で刑事事件にもなっているのだが、この事件を引き受けた検事が僕のちょっとした知り合いで、知り合いなら丸く収めてくれればいいのに、ますますことを大きくしてくれている。やれやれだ。

まあ、僕には後ろ暗いところはないから、別にどおってことないが。

 

だいたい、あの二人(正義のヒーローと語っている坂本と桂君)が、なんだか倉庫でごそごそしているところを発見して、何やってるのかと見に行ったら、坂本が急にエキサイトして、なんだかワーワー騒ぐから、とりあえず落ち着かせようと近寄ったところ、ますます興奮。もみ合っているうちにどっかで引火して、倉庫が爆発。命からがら何とか3人とも無事に逃げ出せたのだが、うちの方にも火が燃え移り、半焼。どうせなら全部燃えてくれたほうが保険が利いてよかったのに・・・(←前週のあらすじ。ちなみにこの回の予告は、「二人のときめき初デート。秘密結社のアジトにどきどき侵入の巻。)

これが事件の全貌である。うそ偽りがないため、何度も同じ証言を繰り返しているのだが、先ほども述べたように、泥縄。

 

「というか、本当の問題は、押し入って、器物損壊したところではなく、押し入って、器物損壊しなければならないものを保有した方に問題があるんじゃないか?」

周囲がざわめきだす。坂本もそうだそうだとうなづいている。まあ、そこに寄って立たないと、寄る辺がなくなってしまうからな。

しかし、何度言ってもこの検事は、僕を拘束したくてたまらないらしい。こういってはなんだが、公明正大に魔王をやっているから、どこからも指を指されても恥ずかしいとか、後ろ暗いとかいうことはないんだ。ただ、魔王ってだけでこうも執拗にけちをつけられても困るんだが。まあ、彼はそれだけじゃないだろうが。それはさておき、僕が保有していた危険物といっても、危険物というようなものでもないんだが。ただ緒方君が置き場所がなくて困っていたから、ただ倉庫代わりにデットスペースを貸してあげていたんだが・・・

「だから、とど君。今回は僕が犯人じゃなくって、今回の犯人は、この正義のヒーローを名乗っている坂本と桂くんなんだよ。」

問題を本筋に戻すべく、検事であるとど君にいってみるが、聞く耳持たない。いつもこうだよ、とど君は・・・

 

「も、申し訳ありませんぅぅぅ!!!俺が高杉さんにヘンなもの預けたばっかりにこんなことになって。ほんとにかくなる上は、この腹かっさばいてっっっ! 」

と緒方君が言い出した。この忙しい時期に、わざわざ裁判に来てくれたようだ。一番書き入れ時で、大変だろうに。なんだが緒方君に会うのは随分久しぶりな気がする。相変わらずかわいいけど、言っている内容が物騒なので、早いとこ、この裁判を終わらせて、二人っきりになりたいな。とりあえず緒方君に向かって、にっこり笑って手を振ってみる。ブロックサインで「僕は大丈夫、気にしてないよ。」と送ってみる。顔がぱあっと明るくなった。よしよし。

が、逆にとど君がいろめきたってきた。ほんとに馬にけられてなんとやらだよ。お兄ちゃんとられて悔しいのか、風当たりが強いんだよ。ほんと。

 

 

まあいい。そろそろあれが届く頃だ。何しろ30分番組だから、のんびりしてると時間がきちゃうからな。どんどんいかないと。

 

 

「裁判長!電報が届きましたが、いかがいたしましょうか?」

ほらね。これがくればすべて解決。

裁判長の方に電報を持った係員が近づき、電報を裁判長に見せている。裁判長はおもむろに、被告である坂本のほうにその電報を見せるように指示した。それを見ると坂本はばったり倒れた。よほどショックだったらしい。もうそうなると、ここにいる人全員が、その電報に何が書いてあるのか気になって、えらくざわざわし始めた。結局検事やら弁護士やらの進言で、電報が公開された。

 

「勘当。自分の尻は自分でぬぐえ。 父より」

 

 これで悠々自適の正義の味方ライフともお別れだな、坂本。

後は地に足をつけて働けよ、と昔からの友達だから思わずにはいられないな。まあ、正直言ってこの裁判で、何が怖いかといえば、高い金出して、凄腕弁護士でもつけられてこちらに否があるという展開にされるのが一番怖かったからな。これで坂本が財力に飽かせて、そんなのを連れてくることはなくなったな。昨夜坂本の実家に挨拶しておいてよかった。

ほんと裁判って怖いからな。勝ったものが正義になっちゃうからなあ。

でも、あと少しで、魔王だけど正義を名乗れそうだな、この調子だと。

 

 

お、桂君が坂本を介抱してる。なんかいいムードだ。もしかして、今日の山もってかれてしまうのか?

主役は今日は僕なんだけどな・・・

まあいいか。お、桂君プロポーズしてるよ。坂本、幸せになれよー。

 

 

ということで、無事に裁判は勝訴できた。まあ当然だな。

緒方君が近づいてくる。

うれしくて、人目もはばからずにそっと抱きしめる。

すると緒方君はしょうがないなあ、という顔をしながら腕の中におさまってくれた。

「よかったですね、無事に終わって、高杉さん。」

「そうだね、無事に丸く収まったようでなによりだよ。」

久しぶりの緒方くんだ。

「でも高杉さん、最初からこういう結末を狙ったんじゃないですか?」

そう緒方君がいった。なかなか鋭いな。それにはあいまいに答えで笑っておいて、

「緒方君、これを食べてくれないかい?」

といって、ある小さい包みを渡してみる。

「え・・・何か意味があるんですか? 」

と不思議そうな顔をしながらも、素直に食べてくれた。これでよし。

そっと、且つ、すばやく緒方君の唇にキスをひとつ。レモンの香りがする。

緒方君は、わ、とも、うお、ともつかない不思議な声を上げて真っ赤になった。

ほら、だって、予告が「ファースト勝訴はレモンの味」になってるから、ノルマは達成しないと看板に偽りありでどこかに訴えられても困るからね、と緒方君にウィンクしてみた。そうしたら、緒方君が、

「どこにもキスの味とは書いてありません!」

と赤くなったままでいった。おや、ほんとだ。最初の段階で思い違いをしていたようだ。ま、僕としてはどっちでもいいけどね。

あとの残りは満面の笑みか。まあ、こんなかわいい緒方君を見てると心の底から幸せになるから、特に何かする必要もないな。

まあ、万事うまく収まってよかった。

でも、せっかくの魔王だったから、なんかもっとダーティーなことをやってもよかったかなあ、と思わないでもないけれど。

緒方君から預かったやつで、世界征服とかできないこともなかったけれども、まあ、それは次の機会があれば挑戦してみようかな。

 

 

めでたしめでたし。