2002年8月3日-7日
3日の午後に、折立キャンプ場に着く。
少し早い到着だが、1年振りの黒部を噛み締めながらの酒盛りに突入する。
ザックのパッキングは済んでいるし、明日の朝までは、飲むか眠るしかないのだ。
4日の朝、予定通り5時に折立を出発。
いつもの事ながら、三角点までの急登はキツイ。
太郎平には、9時頃に着き、恒例のビールで取り敢えず乾杯。
薬師沢は、もう黒部の一部である。
第1徒渉点から薬師沢小屋までは、気分のいい沢沿いの径である。
カベッケヶ原の手前、もうじき薬師沢小屋に到着というところで、今回の釣行の最初のハイライト
が待っていた。
あの「東京マタギ」深瀬信夫氏に遭遇してしまったのだ。
我々は、小休止をしていたので、他の二人は腰を下ろしていて深瀬氏に気がつかなかったが、
あの特徴のある顔ですもの、私がすぐに気づき二人にその事を知らせたのだ。
挨拶をすると、足を止めて雑談に応じてくださったのである。
黒部上の廊下を「のんびりマッタリ」と歩いてきたそうだが、握手をしていただいたその手の分厚
かったこと。
興奮冷めやらぬまま、黒部本流に着き、今日の泊まり場に予定している五郎沢付近を目指す。
ただ、この辺りは幕営禁止である。
「掟破り」は百も承知なのだが、私と「山小屋」の相性は最悪。山にまで来て「管理」されたくない、
というのも本音としてあるが、私達は、あのタ−プの下の伸びやかさと焚火を味わうために渓に
来るのだ。これは、議論を始めたら、私の「負け」でしょうな。
どんなに努力しても、自然にインパクトを与えてしまうのは事実だろうし、今まで見たり聞いたりし
た一部の釣り師の暴虐無尽は止め処も無いものであるからだ。
しかし、救いは私の知る限りにおいて、あの黒谷川の岩幽の惨状が、黒部では見られなかったこ
とで、唯一、兎平のテン場にサブザックが放置されていた事くらいか。
もっともそのサブザックは私が持ち帰りまして、しばらく使ってましたが、捨てていった奴のほうが
先見の明がありました。程なくジッパーの部分が壊れてしまったのです。
去年(2001年)は、赤木沢出合の手前で、雷雨のための大増水に遭い、難渋どころか一時は停滞
(ビバーク)を余儀くされたが,今回は快適に遡ることができる。
テン場を決めるまでに、我慢できず何度か竿を出すが、そこそこに釣れて溜飲を下げる。
赤木沢出合では、私が右岸にある巻径に上り,他の二人が左岸側の水の中を歩く様子をビデオと
写真に収めるという非常に疲れる事をした。
テン場は五郎沢出合の下流の右岸側の河原に決める。
もし、増水に遭っても、すぐに高台に逃げられる場所である。
タープを張れば我々のテン場は出来上がり。焚火用の枯れ木や流木を集めて、雨に備えてその上
にシートを掛ければ、あとは、お楽しみ、釣りの時間である。
細谷と坂下は上流を目指し、私はテン場の前でテンカラを振りはじめたが、すぐに魚が反応し、小物
ではあるが2匹を釣り上げる。もちろん、リリース。
二人に追いつくと、二人とも楽しんでいるようで、次々と魚を引き出している。
この日は2匹をキープさせてもらう。
ただ、釣りを終え、テン場に引揚げる時に、テン場のすぐ近くで「熊のフン」を発見した。この黒部に
熊がいても何の不思議もないが、シーズン中は人間の多さに、熊公、さぞや困惑しているのではない
かと、微苦笑させられる。
テン場の酒宴は、昼間会った深瀬氏の話題で盛り上がり、雨が降り出して、タープの中に逃げ込む
羽目にはなったが、テンションは下がらず、細谷氏が「熊除け」と称して荷物の中に紛れ込ませていた
花火を打ち上げようとしたのだが、この一件、湿気ていて一瞬にして終わってしまい、また我々の爆笑
を誘うことになったのだ。
5日は良く晴れた。
この日は遊ぶだけなので、適当に起き出し、坂下の入れてくれたコーヒーを飲んでから、焚火に火を
着け、おもむろに朝食の準備にかかる。
今朝の献立は、梅粥とイワナ汁。
ところで、黒部のイワナさんの事なのだが、こういう標高の高い所に住む魚は、朝寝坊なのではないか?
「朝マズメ」という言葉があり、夜明け前後は食いが立つという定説もあるが、
黒部の岩魚は、水温が低いせいか、朝は活性が鈍いのではないかと考察(オオゲサな)している。
というわけで、我々の行動は9時頃にやっと始まった。
五郎沢に向かって釣り上がったのだが、三人ともテンポ良く魚を引き出している。
私は、ビデオを片手に御両人が魚を掛けてから引き出すまでをバッチリとカメラに収めました。
そういえば、釣りの途中でご両親と娘二人という四人連れのパーティーが我々を追い越して行きまし
たが、その足元を見てビックリ。草鞋(ワラジ)なのである。私だってワラジを知らないわけではありま
せん。実際に渓で使ったこともあります。
しかし、彼女たちのワラジは今にも切れかかって、ただただ引き摺りながら歩いているといった風情だっ
たからで、思わず母親らしき人を呼び止めて話をしてしまった。
話を聞いて、又、ビックリ。この黒部行はご主人に強引に誘われて実現したのだが、今回だけのために
渓流シューズを買うのは勿体無い、だから、一番コストパフォーマンスがいいワラジにしたそうだ。換えが
あるのか、と聞くと、無いと言う。
どこまで行くのかと聞くと、祖父沢を遡り、雲の平まで行くのだと、息も絶え絶えに言うのだ。嗚呼・・・・。
釣りのほうは、至極順調に楽しんで、釣っては放し、釣っては放しの極楽状態。
五郎沢出合で昼食にすることにした。
献立は冷やし中華である。ただ、麺を冷やすための網を忘れてしまったので、ポリ袋に穴を開け、代用
したのだが、これが案外うまくいって立派な冷やし中華の出来上がり。これはうまかった。今までの渓の
食事の中でもBest3に入る位うまかった。
我々が食後のひと時、坂下マスターの入れたコーヒーを楽しんでいると、先程我々を追い抜いていった
家族連れの中の一員である娘さんが我々の所にやってきた。そう、あの家族は当初の計画を大幅に変
更して、テン場をここ五郎沢出合にとり、明日は五郎沢を遡行して帰るそうだ。他人事ながら、安堵を覚
えてしまった。
我々は、今回は釣り厭きたということで、当初の計画を少しだけ変更して、五郎沢出合からテン場に引
揚げることにした。当初の計画というのは、祖母沢・祖父沢を越えた辺りまで釣り上がるというものだっ
たのだ。
この日は、明日の赤木沢遡行に備えて、テン場をもう少し下流に移そうということになっていた。一日目
のテン場を片付けて、下流に移動する。最初は、赤木沢出合のちょっと上流をテン場をにしようとしたの
だが、途中、倒木があり薪が豊富で水場が近いという絶好の場所を見つける。
ここをテン場に決め、タープを張ったが今回は薪集めは無し。だって、周りは薪に囲まれているようなも
のだからだ。
だから、テン場の設営が終われば、再び、釣りの時間。今度は酒宴の肴調達のための釣りである。
我々が、「釣堀」と呼んでいる淵が、テン場のすぐ近くにある。いつも、大釣りをするからだが、時間が早
いせいか最初はこの淵は沈黙していた。細谷と坂下は、あきらめて下流に移動したが、私はいつか沸騰
の時が来ると、その淵でタバコを吹かしながら待ったのだ。
すると、思惑通りやって来ました沸騰の時が。
良型を2匹キープし、あとは釣っては放しの入れ食い状態がしばらく続いたのだ。
下流から二人が戻って来るが、良型は釣れなかったようである。
二人に釣り場を譲り、私はビデオ撮りに専念する。(こういうのを、「余裕」と言う)
坂下の調子がいいようで、立て続けに何本か上げるが、良型ではない。
細谷は、今回は坊主。
夜の酒宴は岩魚の刺身をメインディッシュに、ジンとラム酒で盛り上がり、焚火付きの楽しいものになった
のだが、それだけで終わらないのが細谷氏なのである。
昨夜も、役に立たないショボイ「熊除け」花火をカマシテくれたのだが、今夜も花火をやりたいと、ダダをこ
ねるのだ。この釣行の買出しの際、細谷氏が密かに買い物カゴの中に花火を忍ばせたのを、私は、知ら
なかった。(坂下は知ってたみたい)
その花火を、ザックに忍ばせて、この黒部にまで持って来たというのだから、表彰状付きのアホである。
私もアホは嫌いではない。
というわけで、黒部花火大会が始まったのだが、やはりショボイのである。
持ってきた花火全てがシケているらしく、まともに花火と呼べるものがない。
それでも、無理矢理花火に仕立て上げようとするその姿がいじらしく、又、爆笑を誘うのだった。
6日、黒部最終日である。
今日は、赤木沢を遡り、稜線に立つ。私と細谷は4回目、坂下は3回目の黒部である。
だから、もういいかげん別ルートで戻ればいいと思うのだが、この赤木沢はどうしても外せないという
ことで、三人の意見が一致してしまう。
テン場出発は6時45分。
体は疲れるのだが、やはりこの渓の遡行は気持ちがいい。
大滝には、9時頃に着く。
大滝の高巻きが終われば、進路を右俣に取り、あとは稜線に出るだけである。
簡単そうに書いてしまったが、実はここからが辛いのである。疲れた体に鞭打たねばならないからで、
残念ながらマゾッ気の無い私にはコタエルのである。
稜線が見えて、その近くに雪渓も見えている。ところが、なかなかその稜線に辿りつくことが出来ない。
こういうシチュエーションが一番疲れますね。
右俣はもう源頭部の様相である。大きな滝は無い。その代わりいくつもの小滝で標高を上げていく。
我々が「源頭の滝」と呼んでいる滝に着く。この上流は細くあまり落差のない流れが次第に水量を減ら
していく。
そういえば、一昨年、去年(2000年,2001年)とこの滝の上の同じような場所で、ライチョウを見た。
今年も楽しみにしていたのだが、残念ながらライチョウは留守。
そして、ついに源頭に辿りつく。
ここの水はいつも冷たくておいしい。
この水を水筒代わりのペットボトルに詰め、小休止の後、再び歩き出す。
ここまで来ると、稜線は目の前なのだが、足取りが重い。早い話、疲れたのだが、今回はそれに加え
て靴擦れが酷く、本当に辛かった。
這松(はいまつ)帯を越えて、草原状になったところで、大休止。
朝、テン場で作ったオニギリを食べる。美味也。
ここから、稜線まではもう目と鼻の先である。
やっとの思いで稜線に出たのは、12時30分頃。
天気がいいので、北アルプスの山々が良くみえる。
薬師岳、赤牛岳、黒岳(水晶岳)、黒部五郎岳、遠くには槍ヶ岳まで見える。
だから、黒部はヤメラレないのである。 小平記
細谷・坂下・小平
折立キャンプ場(3日午後)。テント使用はここだけ、
あとはタ−プのみ
太郎平(4日午前9時頃)
深瀬氏とそのお仲間と(細谷撮影)
去年(2001年)の大増水
右の写真と同じ場所で小休止(2002年)
赤木沢出合。ビデオと写真を巻径から撮っている。
4日の夜。この後、雨が降ってきた。
五郎沢出合の冷やし中華
5日のテン場
豪華(?)な晩餐
黒部の花火
赤木沢出合
ナメ滝を溯る
大滝
源頭
去年はこの場所でライチョウを見た。

源頭の滝
赤木沢
黒部源流,赤木沢