16 ところでケルソスが、オドゥルュシア人やサモトラキア人、エレウシア人、ヒュペルボレオス人を太古からのもっとも賢い民族に位置づけておきながら、ユダヤ人たちを賢い人々の内にも太古からの人々の内にも入れるに値しないと考えていることに、私は驚いている。実際には、ユダヤ人たちの太古性を証する多くの著作がエジプト人の間にも、フェニキア人の間にも、ギリシア人の間にも出回っているのである。が、それらを引用するのは余計なことだと私は思っている。希望者は、『ユダヤ人の太古性について』書いたフラウィオス・ヨセポスの二巻本の本を読むことができる[1]。この書でヨセポスは、ユダヤ人の太古性を証する多くの著作家の名をあげている。また小タチアノスの『ギリシア人への言葉』も出回っている。小タチアノスは極めて広い学識を持った人物で、ユダヤア人たちやモーセの太古性について物語る著作家たちを引用している。したがってケルソスは、真理に基づいてではなく、ユダヤ人たちに依拠するキリスト教の始元に難癖をつけることを目的にして、これらのことを語ったように見える。さらにケルソスは、ホメロスのガラクトファゴス人[2]やガリアのドルイド教徒[3]、そしてゲーテーが太古からの極めて賢い民であり、彼らはユダヤ人の教えと似た教えを信奉していると言っている――彼らの教えが存在するかどうか私は知らない――。ところがケルソスは、ヘブライ人の太古性や知恵だけは、力の限りを尽くして斥けるのである。

 また彼は、同時代の人たちや、数々の著作を通して後の時代の人たちに益を与えた太古の賢者たちの目録を作っているにもかかわらず、モーセをこの賢者たちの目録から排除している。さらにケルソスは、みずから名前を挙げたこれらの人物の先頭にリノスを置いているが、リノスには、諸々の民を回心させたり癒したりする戒めや教えは存在しない。これに対してモーセの律法は、全居住地に分散するすべての民の手元に存在する。したがってケルソスがまさにモーセを賢者たちの目録から排除したのは、まったくの悪意からではないのか考えてみるべきである。実にケルソスは、リノスやムーサイオス、オルフェウス、フェレキュデース、ペルシアのゾロアストゥレース、ピュタゴラスが、これらの問題について考察しており、また彼らの教えが書物として書き下ろされ、今日にいたるまで保存されていると言っているのである。



[1] 一般に『アピオン反駁』(Contra Apion)と呼ばれている。

[2] Iliad, xiii,6.

[3] Cicero, De Divin.I,41,90.

 

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