45 ところで、かつて私は、ユダヤ人たちの中で賢者であると言われている人たちと交わしたある対話の中で、次のような論法を使ったのを覚えている[1]。「賢明なるユダヤ人の方々、どうか、人類を訪れた人たちの内、人間の本性を超える逆説的な事柄を行ったと書き記されている二人の人物がいると言ってください。私は、あなた方の立法者、自分自身について書いたモーセと、私たちの教師イエス――イエスは、ご自分に関する書物を何も残しませんでしたが、福音書の中で弟子たちによって証言されています――のことを言っています。ところでエジプト人たちは、モーセに対して、彼は魔術師であり、ペテンによって諸々の力ある業を行っているように見せているのだと非難しているにもかかわらず、(あなた方は)モーセが真実を語っていると信じている。これに対してあなた方は、イエスを信じない。なぜならあなた方は、イエスを非難しているからだ。しかしこれは何とでたらめなことか。人々は、両者について証をしている。ユダヤ人たちはモーセを証している。キリスト者たちは、モーセの預言を斥けず、かえってその預言に基づいてイエスに関する事柄を証明し、彼をめぐって弟子たちによって書き記された諸々の逆説的なことを真実であるとして受け入れている。ですからもしもあなた方が、イエスについて信じる理由を私たちに尋ねるのであれば、あなた方は、先ず彼よりも先に生まれたモーセについて信じる理由を示してください。その上で私たちは、このイエスについて信じる理由を示しましょう。しかしもしもあなた方が話を逸らし、モーセについての証明をさけるなら、私たちも当面、あなた方に対して同じことを行って、証明を致しません。しかしながらあなた方は、モーセについて証明できないと白状すべきです。そして律法と預言者から取られたイエスについての諸々の証明に耳を傾けるべきです。何と不思議なことに、イエスについての律法と預言による証明によって、モーセと預言者たちが神の預言者であったことが証明されるのです」。

 



[1] ユダヤ人学者との対話には、この他に、次のものがある。ヤーウェの僕に関する討論I,56。詩編44番に関する討論I,56。ユダヤ人から教えを請う対話I,49。逆にオリゲネスがユダヤ人に教えを与える対話II,31。ユダヤ人との対話の古典的な先例は、Justin, Dial.12,2-9; 32,2,; 38,3-5など。また、G.Bardy, <Les traditions juives dans l’oeuvre d’Origène>, RB, 34, 1952.なお、「ヘクサプラ」は、ユダヤ人との対話を円滑に行うために作成された。

 

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