57 さらにユダヤ人は救い主ご自身に対してこう言っている。「もしもあなたが、神の摂理によって生まれたすべての人間は神の子であると言うのなら、どんな点であなたの他と異なるのだろうか」と。我々は彼に対してこう言いたい。すなわちパウロが言っているように、もはや恐れによって手引きされるのではなく、善を善ゆえに選ぶすべての人が神の子であると。しかし救い主は、徳のゆえに神の子と呼ばれるすべての人にはるかに優っている。なぜなら彼は、まさに、こういった類のもののある種の源であり、元のようなものだからである[1]。パウロの言葉は次のようになっている。「実に、あなた方は、恐れへと至る隷属の霊を受けたのではありません。かえってあなた方は、(神の)子とする霊を受けたのです。そして私たちは、この霊において、『アッバ、父よ』と叫ぶのです[2]」と。ところがケルソスの著書にあるユダヤ人が言うには、無数の人たちがイエスに反論して、イエスについて預言されている諸々の事柄は自分たちにも言われていると主張する。実のところケルソスが、幾人かの人たちがこの世に生まれ、イエスと同じようなことをしようと望み、自分たち自身を神の子であるとか神の力であるとか名乗ろうとしたのを知っていたのかどうか[3]、我々は知らない。これらの事柄を逐一、誠実に検討してみると、我々は次のように言うことができる。すなわちイエスの誕生に先立ってユダヤ人たちの間にテウダスなる人物が生まれ、「自分自身を何かしら偉大な者」と読んでいたが、彼が死ぬと、彼に惑わされていた人たちは、散らされてしまった。彼の後、「人口調査の折に」、すなわちイエスが誕生した頃、ガリラヤ人のユダスなる人物が、何かしら新しいことを唱導する知者と称して、ユダヤ人の民から多の人たちを自分自身に引き付けていた。しかし彼も罰を受けるや、その教えは無効にされ、まったく極わずかな人たちの間でしか残っていないありさまである[4]。またイエスの時代に続いてサマリア人のドシテオスなる人物がサマリア人たちを説得して、自分こそがモーセによって預言されたキリストであると信じ込ませようと望んでいた。そして彼は、サマリア人たちの幾人かを自分の教えによって虜にしたように見えた[5]。しかしこれらの人たちが、約束(された救い主)とは無縁であって、神の子でもなければ、神の力でもなくなく、かえってキリストなるイエス、真の意味で神の子であったことを示すために、『使徒言行録』の中に記されているガマリエルによってまったく賢明に言われていることを引用するのは、不合理なことではない。その書の中でガマリエルは、次のように言っている。すなわち「もしもその勧告とその教えが人間にたちに由来するものであるなら」、上述の人が死んだ場合と同じように、「それらの勧告と教えは滅ぶであろう」。「しかしもしもそれらが神に由来するものであるなら、あなた方は彼の教えを滅ぼすことはできないだろう。あなた方は決して神に敵する者と見なされてはならない[6]」と。サマリア人の魔術師シモンも、幾人かの人たちを魔術によってそそのかそうと望んだ。そしてそのとき彼は、人を欺くことができた。しかし今では、全世界にいえるシモン派の人たちは、全員合わせても30人はいないと、私は思う[7]。おそらく30という数も、実際の数より多いだろう。またパレスチナ周辺では、彼らの数は極めて少ない。またシモンが自分自身の栄光を広めようと望んだ全地の残りの場所にも、まったく彼の名前は見当たらない。どこかで彼の名前が言及されているとすれば、それは『使徒言行録』のにおいてだけである。彼ことについて以上のことを言っているのは、キリスト者である。そして自明的な事実は、彼がまったく神的でなかったことを証している。



[1] Cf.Fragm.Is (PG 13, 217-218A): … Christus vero sicut per hoc quod Christus est, ita et per hoc quod est Filius Dei et Filius proprius et unigenitus, omnes eos qui percipiunt ab eo spiritum adoptionis, filios Dei facit; et Hom.Jr.15,6.「源と源泉」についての考え方は、オリゲネスにしばしば見られるとともに(CC.IV,44,53; De or.22,3)、ピロン(De mut.nom.58; De sp.leg.2,156)およびプラトン(Phaedrus 245C)にも見られる。

[2] Rm.8,14-15.

[3] Cf.Ac.8,10.

[4] Cf.Ac.5,36-37.

[5] ドシテオスの弟子が、魔術師シモンである。Cf.Ac.8,9s.

[6] Cf.Ac.5,38-39.

[7] オリゲネスは、魔術師シモンとドシテオスを混同しているように思われる。Cf.CC.VI,11.

 

 

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