66 これに続けてケルソスの著作のユダヤ人は、次のように言っている。そもそもなぜ、まだ乳飲み子であったあなたは、殺されないようにするために、エジプトに避難する必要があったのか。なぜなら神が死を恐れるのは適切なことではないからだ。それなのに天使が天から来て、あなたとあなたの家族が捕らえられて殺されることのないように、逃げるように命じたのである。あなたのために既に二人の天使を派遣した偉大な神は、あなたをその場で守ることができなかったのか[1]と。ケルソスは、これらの言葉で、我々の考えではイエスにおける人間の身体と魂には何かしら神的なものはなく、そればかりか彼の身体は、ホメロスの諸々の神話が導入しているような性質のものでもないと考えているのである。とにかくケルソスは、十字架上で流されたイエスの血を嘲笑して、その血は、

「幸いなる神々のご体に流れたる如き霊液[2]

ではないと言うのである。しかしイエスご自身を――つまりご自身における神性について「私は道であり、真理であり、命である[3]」と言ったり、これと似たようなことを言うイエス、さらには、ご自身が人間の身体にいることに関して「あなた方は今、あなた方に真理を語った人間である私を殺そうとしている[4]」と主張したイエスご自身を――信じている我々は、彼が何らかの複合体となっていると主張する[5]。まさに人間としてご自身が地上の生活にお入りなることを予め考慮したとき、イエスは、死にいたる危険に不適切に突進しないようにする必要があった。同様に彼は、神のみ使いの采配の下にあった両親によって導かれる必要があった。先ず神のみ使いは、忠告して言っている。「ダヴィデの子ヨセフよ、マリアをあなたの妻として迎えることを恐れてはならない。なぜなら彼女の中に生まれた子は、聖霊によるからである[6]」と。また次にこう言っている。「あなたは立ち上がって、子どもとその母を携え、エジプトに逃げなさい。そして私があなたに語るまで、そこに留まっていなさい。なぜならヘロデがこの子を探して殺そうとしているからだ[7]」。この個所に書き記されていることは、私にはちっとも不条理なことには見えない。聖書のこれらの個所のいずれにおいても、天使は、夢の中でこれらのことをヨセフに語ったと言われている。しかし然々のことをするように特定の人たちに夢の中で示されることは――魂に現れるのが天使であろうと、その他どんなものであろうと――他の多くの人たちにも起こるのである。であるから、ひとたび人間となったイエスが、諸々の危険を回避するために、まさに人間的な振る舞いに即して導かれたのは、どうして不条理なことであろうか。それは、彼が別の仕方では危険を回避することができないからではなく、イエスを救うために十分な方法と手順が取られなければならなかったからなのである。実に、幼子イエスがヘロデの謀を避け、陰謀を企てる者の死までエジプトに避難していることの方が、イエスのための摂理が、幼子を殺そうとするヘロデの自由意志を妨げることより、あるいはその摂理が詩人たちの間で言われている「ハデスの兜」やそれに類するものをイエスの回りに存在せしめることより[8]、あるいはその摂理が、ソドムの人々の場合と同じように[9]、彼を殺害に来た人々を打つことよりにもはるかによいのである。たしかに彼のためのまったく尋常ならざるいとも燦然たる助けは、神によって証された人間としての彼が、目に見える人間の内に何かしらより神的なものを持っていることを教えようと望んでいることに対して有益ではなかったのである。この何かしらより神的なものこそ、厳密な意味での神の子、神であるみ言葉、神の力、神の知恵、いわゆるキリストなのである。しかし今は、合成されている方に関する問題、すなわち人間となられた方がどのようなものから成り立っているかについて述べる時ではない。この話題についての探求は、いわば信者の人たちに固有の事柄である[10]



[1] 同様の異論と反論がユスティノスの著作にも見出される。Justin, Dial.,102,3-4.

[2] Homer, II,V,340; cf.CC.II,36.

[3] Jn.14,6.

[4] Jn.8,40.

[5] su,nqeto,n ti crh/ma, famen auvto.n gegone,nai)

[6] Mt.1,20.

[7] Mt.2,13.

[8] Homer, II, v, 845; 古代の民間伝承に共通するテーマで、この兜をかぶる者は、見えなくなるとされる。

[9] Gn.19,11.

[10] Ouv kairo.j de. nu/n ta. peri. tou/ sunqe,tou( kai. evx w-n sune,keito o` evnanqrwph,saj VIhsouj( dihgh,sasqai( ou ;shj tino.j kai,( inVou[twj ovnoma,sw( oivkei,aj zhth,sewj toi/j pisteu,ousin eivj to.n to,pon)

 

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