説教者兄弟会

原始会憲

CONSTITUTIONES ANTIQUAE

ORDINIS PRAEDICATORUM

 朱門岩夫

1997

最終更新日2018/12/28


 

訳者による前書き

 

 

以下に紹介する訳書は、説教者兄弟会(ドミニコ会)の『原始会憲』の全訳である。原語はラテン語である。この会憲の成立年代は、その冒頭に1228年の総会が言及されているので、当初、1228年以後に置かれていた。しかし近年の文献学的歴史学的な研究によって、その大部分が、それ以前に作成された諸法令の集合体であること、そして同会憲がほぼこのままの形で聖ドミニコによって承認されたものであることが明らかとなった。すなわち、この『原始会憲』の大部分(序言と第一部のほぼ全部、および第二部の大部分)は、聖ドミニコの生存中に教会法学の中心地ボローニャで開催された、1220年の第一回総会の決定事項に由来しているのである。

この『原始会憲』は、聖ドミニコが、長年の絶えざる祈りと勉学そして共住修道生活と弛まぬ福音宣教活動の中で徐々に構想した彼の意思、すなわちドミニコ会の目的と使命そしてその機構に関する彼の意思を、最もよくかつ直截に代弁する法令集である。すなわち本会憲は、言ってみれば、福音宣教に専心するドミニコ会のための、聖ドミニコの遺言書である。

なお、この説教者会の創立者・聖ドミニコは、1170年にスペインのカレルエガで生まれ、1221年ボローニャでの第2回総会に参加の後、当地にあるドミニコ会のサン・ニコラス修道院で死去した。なお、訳注は割愛した

訳者が用いた底本は、訳者がみずからの手で書き写した文字通りの写本である。その原本は次の書に収録されている:

Bibliotheque de la Revue dHistoire Ecclesiastique Fasc.42: DE OUDSTE CONSTITUTIES VAN DE DOMINICANEN, VOORGESCHIEDENIS, TEKST, BRONNEN, ONTSTAAN EN ONTWIKKELING (1215-1237), MET UITGAVE VAN DE TEKST door A.H.THOMAS O.P., LEUVEN, 1965.

このフランス語訳と解説は、次の書に載せられている:

M.-H.Vicaire,o.p., Saint Dominique de Caleruega d'apres les documents du XIII siecle, Paris, 1955.

この訳者の短い前置きの結びとして、今からおよそ390年前の日本で活躍したドミニコ会士ファン・デ・ロス・アンヘレス・ルエダ神父が、キリシタン時代の日本の人らに書き残した言葉の一節を、ここに引用しておきたい。

サント・ドミンゴの御談議に、「科を犯す者は天狗の奴なり!」

やけに心に響く懐かしい日本語である。 同神父著『ロザリヨの記録』より。

 


凡例

[ ]は、欠落復元個所を示す。

< >は、後の加筆部分を示す。

( )は、訳者による補足を示す。


 

説教者修道会

原始会憲

序文

主のご託身第1228年、[8名の](1)管区長が、パリの聖ヤコブ教会に集合し、我らの修道会長ヨルダヌスに面会した。各管区長には、管区議会によって代表として派遣された2名の裁決委員が伴っていてた。これらの代表者は、管区議会の席ですべての諸兄弟の投票権を全会一致で委託され、全権を委譲された。それは、彼らが会則を制定するにせよ、廃止するにせよ、変更するにせよ、付け加えるにせよ、あるいは削減するにせよ、彼らの行うことがすべて、以後、堅固不動のものとして存続するようになるためである。また、彼らが永久に存続するように定めたものを、彼らよりなる如何なる権威の議会によっても変更することが許されないようにするためである。そこで上述の管区長らは、各自の裁決委員と共に聖霊の恵みを呼び求め、本修道会の利益と名声そして維持のために、慎重な審査を重ねつつ、思いと心を一つにして、全会一致で幾つかの会則を公布し、その他の会則の然るべき場所にそれらを加えることに決定した。しかしそれらの会則には、彼らが不可侵不変更のものとして永久に遵守されることを望んだものがある。すなわちそれは、財産や報酬を決して受け取らないこと、上訴を排斥すること、裁決委員である兄弟がその裁決によって管区長に、また、管区長がその裁決によって裁決委員である兄弟に、何らかの点で損害をもたらすことができないこと、に関する会則である。他方、彼らが不変のものとして存続するように望んだが、新たな諸問題や諸論争、事件や取り引きが生じたために、適時その若干を同様の議会によって変更できるような会則もある。例えばそれは、馬に乗ってはいけないこと、金銭を所持してはいけないこと、病気のとき以外は肉を食べてはいけないことなどの、三つの総会によって承認されない限り策定できない会則である。ただし長上は、これらの会則を、時と場所に応じて免除することができる。

 

説教者兄弟の慣習法、ここに始まる。

序言、ここに始まる。

1 我々は戒律(2)の掟から、主において一つの心と一つの霊魂を持つように命令されているのであるから、一つの戒律と一つの誓願の約束の下に生きる我々は、当然、正規の修道生活の戒律の遵守において、みな一様であるべきである。またこのようにして、心の中で内的に保つべき一致が、品行において外的に保つべき一様性によって育成され表現されるようにしなければならない。また、為されなければならないことが書面によって奨められ、どのようにして生活しなければならないかが文書による証言によってすべての者に知らされるなら、また各自の意思によって何かを変えたり、加えたり、あるいは減じたりすることが何人にも許されることがなければ、今述べられたことは確かに、なお一層適切かつ充全に遵守することができ、かつ記憶に留めておくことができるだろう。それは我々が、些細な怠りを僅かでもすることによって、少しずつ堕落することがないようにするためである。

 

2 <しかしながらこのことに関して長上は、自ら適切であると判断する場合、特に勉学や説教ならびに霊魂の利益の妨げになる事柄に関して、自分の修道院の諸兄弟に免除を与える権限を有している。なぜなら我らの修道会はその初めから、説教と霊魂の救いのために特別に設立された会として知られているのであり、また我々の勉学は、第一にかつ熱烈にそして最大限の努力を払って、我々が隣人の霊魂に有益な者となることを目指さなければならないからである。

院長らも、他の諸兄弟と同様に特免を享受する。>(3)

それ故、我々は、本修道会全体の一致と平和に資するために、我らの会憲が我々を罪に義務づけるのでなく、罰に義務づけるものであることを望み、かつ宣言する。ただし面責ないしは懲戒のためである場合は、この限りではない。

 

3 我々は、我々が慣習法の書と呼ぶ本書を慎重に作成し、それを二部に分けた。

第一部の内容は次の通り: 諸兄弟が日々、各自の修道院の中でどのように身を持すべきか、夜はどうであるか、修練者らはどうすべきか、病者らはどうであるか、瀉血した者らはどうすべきか(4)、ならびに沈黙について、および諸々の罪について。

第二部の内容は次の通り: <管区議会と総会>、ならびに勉学と説教について。

我々は、読者が何かを検索しようとしたとき、難なく目的のものを見出せるよう、このように分けられた項目の各々に、それぞれ一章を割り当てて、執筆した。

朝課について。集会と一時課、ミサおよびその他の時課について。食事と食べ物について。間食と終課ついて。病気の者らと瀉血した者らについて。修練者らと沈黙について。衣服について。剃髪について。諸々の罪について。

 

第1部

第2部

訳注