第16講話

「見よ、わたしは多くの漁師を遣わす、と主は言われる」から、「ユダの罪は、鉄の筆で書き込まれ、かれらの心の懐に鋼鉄の鉤づめで刻み込まれる」まで。


 

  『マタイによる福音』の中に、わたしたちの救い主がガリラヤの湖のほとりに来て、「シモンとその兄弟アンデレとが湖に投網を打っているのをご覧になった。二人は漁師であった[1]」と書き記されています。そして(聖書の)言葉は、救い主がかれらを見てこう言ったと述べています。すなわち「わたしについて来なさい。そうすればわたしはあなたたちを、人間をすなどる漁師にしよう」と。「すると二人は網をそのままにして、イエスに従った[2]」。そしてイエスはかれらに漁を再開させ、<人間を>すなどらせた[3]。またイエスは「他の二人の兄弟、ゼベダイの子ヤコブとその兄弟ヨハネが父と共に船の中で網の手入れをしているのを見つけ」、かれらをも、同じ知識に「お召しになり[4]」、かれらを人間をすなどる漁師になさいました。もしもある人たちが、「網」のように織られたみ言葉の恵み、それも「投網」のように神聖なる書物から織り合わされたみ言葉の恵みを神から得ていて、その編み物を聞き手の人々の魂に投げかけて取り囲むのを考えてみますと、またこのことが、イエスの教えられた知識に従って巧みに行われたのを考えてみますと、それは当時だけ起こったことではなく、今でもわたしたちの救い主は、人間をすなどる漁師たちを教育して、かれらを遣わし、わたしたちを海から上がらせ、その激しい波浪を逃れることができるようになさっているのです[5]

  しかし引き網や投網あるいは網や釣り針に掛かった魂のないあの魚たちは死んでしまい、生命がその死に続きません。ところがキリストの漁師たちによって集め取られた人は、海から上ります。そしてその人は死にますが、この世に対して死ぬのです。罪に対して死ぬのです。そしてこの世と罪に対して死んだ後、神のみ言葉によって生かされ、別の生命を受け取るのです。ですからもしもあなたが仮に、魚の魂が魚の身体から出て変化し、何かしら魚以上に優れたものになるのをご理解するのをできたなら――わたしはこれを例えとして言っております。誰も、聴いたこともないことの口実としないでください――、あなたはおよそ次のようなことをご理解できるでしょう。あなたは、イエスの弟子たちの網に陥って海から上がり、上がるとともに魂を変えます。あなたはもやは、海の塩辛い波間に暮らす魚ではありません。むしろあなたの魂は直ちに変わり、変容し、以前よりも何かしらいっそう優れ、いっそう神的なものになるのです。(あなたの魂が)変容し、変化することについて、パウロがこう言うのをお聞きください。「そしてわたしたちは皆、顔の覆いを取り除かれて、主の栄光を鏡映しながら、主の霊によって栄光から栄光へと、(主と)同じ姿に変容していくのです[6]」。そしてイエスの漁師たちによって集め取られたこの魚は変容し、海の中の暮らしを後に残して、山での暮らしを営みます。こうしてその魚は自分を海から引き揚げてくれる漁師たちをもはや必要とせず、「狩人」と呼ばれる第二の人たちを必要とするのです。かれらは、「すべての山」と「すべての丘」から(獲物を)狩り出します[7]

  ですから海から上がり、イエスの弟子たちの放つ網によって捕らえられたあなたは、海に背を向け、海を忘れ[8]、預言者たちである山々[9]、義人たちである数々の丘に上ってください。そしてそこで暮らしを立ててください。そうすればその後で、脱出の時があなたに訪れたとき、「漁師たち」とはまた異なる「多くの狩人たち」が遣わされるでしょう[10]。しかし下方にはおらず丘の上にいる魂を捕らえることを命じられた者は、これらの狩人以外に誰がいるでしょうか[11]。そしてあなたは、これこそ預言者が神秘的に語って呼ばわっていたものではないか、このような理解こそ、次の言葉で示そうとしていたものではないかお考え下さい。すなわち、「見よ、わたしは多くの漁師たちを遣わす、と主は言われる。これらの漁師たちは、彼らをすなどる。そしてその後わたしは、多くの狩人たちを遣わす。これらの狩人たちは、すべての山とすべての丘の上で彼らを狩り出す[12]」と。



[1] Mt.4,18.

[2] Mt.4,19-20.

[3] Cf.Frag XXIII de Jn 1,43(GCS 10, 503, 2-6).

[4] Cf.Mt.4,21.

[5] Cf. Hom. Gn.I,1 (GCS 29, 3, 24) ; Comm.Mt.XIII,17 (GCS 40, 225, 6).

[6] 1 Co.3,18.

[7] Jr.16,16.

[8] Cf.Ps.44,11.

[9] Cf.Hom.Jr.XII,5; Sel.Ez.VI,2(PG XIII,785B).

[10] Jr.16,16.

[11] Cf. Comm.Mt.XI,6 (GCS 40, p.357).

[12] Jr.16,16.

 

次へ