ここで私は、あえて冒険をして、欺きを受けて利益を得た人たちの霊を挙げてみることにします。結婚によって夫婦の交わりをしたり、再婚をしたりする者は滅びるという理由で、貞潔や純潔を実践したり、一度きりの婚姻を実践する人たちがいます。私たちは、みずから考えてみましょう。一度しか結婚をしていない女性にとってどちらが有益でしょうか――彼女が欺かれ、再婚をすると罰せられ永劫の罰に渡されると考えて、一度きりの結婚を貫き通し純潔を守るのと[1]、それとも真実を知って再婚するのとでは。私が思うに、このような結末を見る人はすべて、次のように言うことができるのではないでしょうか。欺かれずに純潔を守り再婚を避ける方が幸せであり、再婚も何らかの救いに与るが、再婚できるにもかかわらず純潔を守る女性と同じ至福に与るわけではないことに気付いた方が幸せであると。また、そのようなことができなくても、真実を知って、再婚者たちの劣った地位に身を落とすより、再婚者たちは滅ぼされるのだと欺かれて、その欺きのゆえに純潔を守る方がよいと言うことができるのではないでしょうか。完全な貞潔と純潔を実践する人についても、あなたは、何かしらこれと同じようなことを見出すでしょう。そしてその他にも多くのことが、欺かれた私たちによって行われ、しかも私たちを益していることが見出されるかもしれません。どれほど多くの自称賢者たちが、懲らしめに関する真理を見出して欺きに関する事柄を克服したと吹聴しながら、より劣った生活に陥ってしまったことでしょうか。彼らは、以前考えたように、「彼らのうじ虫は死なない」とか「彼らはすべての肉なるものにとって見せしめとなる[2]」とか「もみがらは燃え尽きない火で焼かれる[3]」ということについて考えた方がよかったのです。もしも彼らが、先の考えとは異なることを思い描いて、「神の慈しみと忍耐と寛大さの豊かさをないがしろにする[4]」のが必定だとすれば、彼らは、欺かれていないと考えて、「神の怒りと啓示と正しい裁きの日に、自分たちに対して」本当に「怒りを蓄えた[5]」のではないか、あなたはお考え下さい。彼らは、欺かれたなら、(怒りを)蓄えることはなかったでしょう。

  以上は、神に由来する欺きについて述べてみました。なぜなら預言者は、「主よ、あなたは私を欺きました。そして私は欺かれました[6]」と言っていたからです。しかし「私は欺かれました」ということについて、私たちは、立ち入って考えてみましょう。なぜ彼は、「主よ、あなたは私を欺きました」とだけ言わずに、「私は欺かれました」という言葉を付け加えたのでしょう。誰かが欺きを働こうとし、他方の人が欺かれることに用心し、欺かれなかった場合を考えることができます。他方、一方の人が欺くことを働き、他方の人が欺かれることに用心せず、欺きに陥ったとき、その人は「主よ、あなたは私を欺きました。そして私は欺かれました」と言うでしょう。そして私も、この立場に立たされたなら、これと同じようなことを言うかもしれません。蛇が私に何を言おうとも、蛇が私に真実を語っても、あるいは私を欺こうとしても、私は蛇の言葉を疑います。なぜなら私は、蛇が私を欺いても、あるいは真実を語っても、私に害を与えると確信しているからです。実際、蛇の真実さえ、有害です。蛇からは、有益なものは何も生じません。「邪悪な木は、よい実を結ぶことができない[7]」からです。これに対して神が私に何かを語る場合、神が語っていることを私が確信しているなら、私は喜んでわが身を委ねます。神は真実を語れば、私は受け入れます。神が私を欺くことをお望みになるなら、私は進んで欺かれます。ただ神だけが私を欺かねば成りません。そして私は、神が語り欺いていると確信していますから私は身を委ね、気をもむことがありません。ただ私は、欺かれるといっても、ただ神だけに欺かれることを望んでいます。ですから私は、たんにあなたが欺きを働きましたとは言いません。むしろ私も、あなたによって欺かれることを受け入れましたと言います。そしてその意味で「主よ、あなたは私を欺きました。そして私は欺かれました」と言うでしょう。

  ところで神が欺き、人間が欺かれるということから何が帰結するでしょうか。「あなたは強く、力がありました[8]」とあります。私が元にキリストにおける幼児であったとき、神が私を欺くなら、神は強いのです。そして強く、力があるのです。しかし強くないとすれば、私は、苦しみを必要とするでしょう。



[1] Cf.Athenagoras, Legat.33,4; Tertullianus, De exort. Cast. et De monog.

[2] Is.66,24.

[3] Cf.Mt.3,12.

[4] Cf.Rm.2,4.

[5] Cf.Rm.2,5.

[6] Jr.20,7.

[7] Cf.Mt.7,18.

[8] Jr.20,7.

 

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