序論

東方キリスト教に大きな影響を及ぼすことになった祈りの方法が、5世紀から8世紀にかけて出現した。それは、イエズスのみ名の想起(remembrance)ないしはそのみ名の歓呼 (invocation)というもので、普通、「イエズスの祈り」(Jesus Prayer, Prayer of Jesus)と呼ばれている。この祈りの方法は、イエズス・キリストに向けられた短い語句を基本的な形式とし、頻繁に反復できるように意図されている。この標準的な言い回しは、次のようになっている。

 

「イエズス・キリスト、神の子よ、わたしをあわれんでください」。

 

しかしこの他にも、たくさんのバリエーションがある。だが、東方キリスト教では、「イエズス」のみ名を、ただそれだけで反復することは、まれである。この短い「射祷」(arrow prayer)の使用をめぐって、イエズスを中心とする霊性が、徐々に発達してきたのである。この霊性のなかに、4つの要素を識別することができる。

1.「イエズス」の聖なるみ名の信心。これは力と恵みの源として、準秘跡的な仕方で働くように感じられている。

2.痛悔と内心の悲痛の鋭い感覚を伴った、神のあわれみの訴え。

3.頻繁な反復による修行

4.内的沈黙あるいは静寂(h`suci,a?の追求、すなわち無形象で集注した祈り(imageless, non-discursive prayer)の追求。

 

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