名を思い恥をも知る者は、討ち死にして関ケ原の浅茅が露と消え失せぬ。其の中に、我(私が)若かりし時より、偕老同穴と、かたみに(互いに)浅からず思いかわす妻(=夫)も、京方にて失せしかば、淵瀬にも身を入()、同じ道にも千度百度と思しに、兼ねて(より)祈りなどを頼みまいらせし貴き聖の、我が嘆きの浅からぬ事を見知り給いて、「穴賢、命()果たす事ばし思い立給うな。先立ちし亡者の為にも、いと悪しき事ぞ」と教え玉い、「仏種は縁より起こると云うこと有り。是を菩提の種として、様をかえ(出家をして)、念仏()申して、平更に(ひたすらに)亡き人の跡をも弔い玉はばこそ、竟には同じ蓮(はちす)の縁(えにし)とも成りて、二世の契りの極めなるべし」と宣えば、其の后は、げにもと思い、墨染めの衣に身をなし、妙秀と名を改め、都の内裏近き山々、寺々、貴き知識のましますとだに聞かば、歩みを運ばぬ所もなくして、移り替われる世の(常?)なることも曾()こそ心に染み侍りれ。

 

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