10 妙秀。こまごまと承る程、弥々(=いよいよ)殊勝におぼえそうろう。扶かる道の又開けたる趣き、誠に有り難く侍り。さて、今日のわらわは、何とせば扶かり、何とすれば又扶かりそうらわぬぞ。

 幽貞。今の御身や、わらわが扶かる道に入りそうろう様(=方法)は、此のキリシタンの教えに、バウチズモ(bautismo)の授けと申す事の侍り。その授法さえ候て、此の宗の十のマダメント(mandamento)と申す十戒を保ちて、Dsを敬い奉れば、現在も安穏にして、後生善所に疑いなく侍り。又、扶からぬ者と申すは、此の宗にも入らず、マダメントをも保たず、Dsをあがめ奉らぬが故に、未来永々、浮かぶ事なきインヘルノの苦患(=くげん)を受け、悪所に堕する事にて侍り。

 妙秀。授けの事は御寺にて受けまいらせんまま、其の時の事。さて、其の十ヶ条のマダメントとは、何々にてそうろうや。

 幽貞。Dsが、授け下されし十ヶ条と申すは、第一、御一体のDsを大切に敬い奉るべしとの事、是、即ち、キリシタンに成りてよりは、神仏已下の事、是を用うべからず、Ds御一体までを恭敬礼拝(=くぎょうらいはい)致せとの事にて侍り。第二には、貴き御名に掛けて空しき誓いすべからずとの事、是ははや明かに聞こえたる事にてそうろう。第二には、ドミンゴ(Dimingo)をつとめ守るべしとの事。此のドミンゴと申すは、八日目八日目に廻り来る定まりたる日なみ(=並)のそうろう。此の日には、キリシタンの寺が有る所にては、其れへまもまいり、行事をも拝み、談義などをも聴聞せよとの事にて侍り。第四には、父母に孝行すべしとの事。此の下には(=この箇条の下では)惣じて弟はこのかみ(=子の上:兄や姉)に随い(=したがい)、臣は君に二心なく忠を致せと云う様なる事までも聞こえそうろう。第五には、人を殺すべからずと也。是は殺すべき物にも非ぬ科なき者をば殺すなとの事にて侍り。科ありととても、又その軽重にもよるべし。第六には、他犯(=たぼん)すべからずとの事。男女ともに吾夫婦と定まりたる外には、何の道にても婬犯(=いんばん)をばいましめられてそうろう。第七には、偸盗(=ちゅうとう)すべからずとの事。第八には、人に讒言をなすべからずとの事。都て(=すべて)偽りを云わざれとの事にて侍り。第九には、外の妻を恋慕すべからずとの事。第十には、他の宝を、みだりに望むべからずとの事。婬欲(=いんよく)の二つは、人の上に発り(=おこり)安き悪なるが故に、心に思う所までをもいましめ玉いてそうろう。都て(=すべて)、此の十ヶ条は、Ds御一体を大切に敬い奉れとあると、又、吾身を思う如く、人をも思えと有り。此の二つに極まれると思い玉え。

 妙秀。初めに宣いし様に、はや後生の御扶け手をも見知りまいらせ、又、後生に生き残るべきアニマ(anima)の体(=本体)をも聞き分け侍り。其の上、後生の善所、悪所、ならびに扶かる道と扶からぬ道の様をも、大方、聞こえまいらすれば、後生の事は、万ず是にて澄みさぶらえども、尚も尋ねまいらせてき不審のそうらえば、六ケ敷く(=むずかしく:面倒だと)思い玉うも、今少し語り玉わんや。

 幽貞。何事にてもあれ、尋ね玉え。わらわが心の及ぶ程は(=私の心が及ぶ範囲で)申すべし。

 

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