16 「こんなことがあった:イエスは、それらのたとえ話を終えると、そこを離れた。そしてご自分の故郷の中に行った[1]」。

 上の箇所で我々は[2]、諸々の群衆に語られた諸々の事柄は諸々のたとえ話なのか、他方、弟子たちに語られた諸々の事柄は諸々の類比なのかを検討した。そして、そのことに関わる諸々の見解――それらは軽視されるべきでないと私は思う――を我々は述べた。そこで、次のことを知る必要がある:それらすべての見解は、諸々のたとえ話に対してばかりでなく、我々が提唱したような諸々の類比に対して付言された次の言葉と矛盾するように見えるだろうということ。こう付言されている:「こんなことがあった。イエスは、それらのたとえ話を終えると、そこを離れた[3]」。そこで、我々は次のことを探求しなければならない:それらすべての言葉は、(真性ではないとして)無視されるべきであるか、それとも、諸々のたとえ話の二つの種――群衆たちに語られた諸々のたとえ話と、弟子たちに告げられた諸々のたとえ話――が取り上げられているとすべきか、それとも、たとえ話という名称は同名異義語であると見なされるべきか、それとも、「こんなことがあった。イエスは、それらのたとえ話を終えると」という言葉は、諸々の類比に先立つ前出の諸々のたとえ話にだけ関係づけられるべきか否か。ところで、「諸々の天の国の諸々の神秘を覚知することがあなた方に許されているが、残りの人たちには諸々のたとえ話の内に与えられる[4]」という言葉があるのだから、救い主は、あの諸々のたとえ話の内に弟子たちに語った、と言うことはできない。なぜなら弟子たちは、「外にいる人たち[5]」に属していなかったからである。その結果、次のことが帰結する:「こんなことがあった。イエスは、それらのたとえ話を終えると、そこを離れた」という言葉は、前述の諸々のたとえ話に帰せられる、それとも、たとえ話という名称は同名異義語である、それとも、諸々のたとえ話には二種ある、それとも、我々が諸々の類比と名づけた諸々の事柄はたとえ話ではまったくないと。

 (イエスは)「それらのたとえ話を終えると、そこを離れた。そしてご自分の故郷の中に行くと、彼らの会堂の中で彼らに教えた[6]」とあるが、あなたは、彼が自分の故郷の外でそれらのたとえ話を語ったことに留意すべきである。マルコも、「そして彼は、ご自分の故郷の中に行った。そして彼の弟子たちも、彼に従った[7]」と言っている。そこで、その文言に対しても、次のことが探求されねばならない:彼は自分の故郷としてナザレを言っているのか、それともベツレヘムを言っているのか;なぜナザレかというと、「彼はナザレ人と呼ばれるだろう[8]」とあるからであり、なぜベツレヘムかというと、彼はそこで生まれたからである[9]。さらに私は、次のことに留意する:福音記者たちは「彼はベツレヘムに行くと」、あるいは、「彼はナザレに行くと」と言うことができたのに、そうせず、「故郷」と(だけ)言ったのは、ユダヤ全土という彼の故郷に関する箇所の中で何事かが神秘的に示されているからではないか――「預言者は、人の故郷の中では敬われない[10]」という言葉に従えば、彼はユダヤで敬われなかった。また、もしも人が次のことに気づくなら:イエス・キリストは「ユダヤ人たちにとっては躓きであり[11]」、彼らの許で今に至るまで迫害されているが[12]、異邦人たちの間では宣へ伝えられ信じられている[13]――事実、彼の言葉は、地の果てまで走った[14]――、その人は、イエスが「自分の故郷の中で尊敬を得ず、「諸々の契約」とは無縁の人たち、すなわち、異邦人たちの間で[15]尊敬を得たことがわかるだろう。しかし、彼が「彼らの会堂の中で」どのような事柄を教えて語ったのか、福音記者たちは記載しなかったが、それらの事柄は、彼らが驚き呆れるほどのものだったと記している[16]。当然、(彼によって)語られた諸々の事柄は()文書を超えていたにちがいない[17]。ともあれ彼は、「彼らの会堂の中で教えた」。そして彼は、その会堂から離れることも、それを見捨てることもなかった[18]



[1] Mt.13,53-54.

[2] 『マタイによる福音注解』X,4.

[3] Mt.13,53.

[4] Lc.8,10.

[5] Mc.4,11.

[6] Mt.13,53-54.

[7] Mc.6,1.

[8] Mt.2,23.

[9] Cf.Mt.2,1.

[10] Mt.13,57.

[11] 1Co.1,23.

[12] Cf.Ac.9,5.

[13] Cf.1Tm.3,16.

[14] Cf.Rm.10,18. 訳者(朱門)は、愚直に直訳している。「地の果てにまで及ぶ」が綺麗な日本語であると思うけれども。

[15] Cf.Ep.2,12.

[16] Cf.Mt.13,54.

[17] 重要な文言である。盗用厳禁

[18] Cf.Mt.5,17.

 

次へ