第一節

万有在神論と永遠的客体

 

 さて、オリゲネスの神が、その本性においては世界を超越すると同時に、その働く力すなわちエネルゲイアにおいて世界に多様な仕方で内在して働き、世界を有機的にまとめ合わせる、超越的即内在的、一即多、静止的即力動的な万有在神論的な人格神となっていると見做しても先ず間違いにはならない。オリゲネスの神はその本性において、唯一にして不変不動であり時間的世界を完全に超越しているにもかかわらず、その働く力において、世界に内在して多様に働き、生成を繰り返す時間的世界とご自分との間に真実の相互関係を樹立する神なのである。オリゲネスが神と世界とについて自説を体系的かつ試論的に述べている『原理論』第1巻4章3ー5によると、オリゲネスの神は、万物の慈悲深い父、善い神であると同時に、善い働きをなし創造し摂理する力であるが、それらの力それ自体が世界に内在する神ご自身となっているのである。しかしオリゲネスによると、その神の力は永遠に創造し摂理を行なう働く力であるから、その働きの対象である被造物(creaturae)も常に存在しなければならないと言われている(cf.I,2.10;I,4.5)。しかしオリゲネスはこうした言い方で、しばしばキリスト教思想史の上でよく誤解されるように、時間的被造物の無からの創造を否定していたのであはない。この場合の、神の永遠の創造活動の対象である永遠の被造物とは、神と神の御子キリストとの二にして一のペルソナ的な愛の交わりの中で(Cf.De Princ.,II,6.3)、キリストの内に神によって造られながらも、いわば初めなしに実在する被造物(sine initio,ut ita dixerim,substitisse)、つまり神と神の御子キリストとの愛の交わりの中で相互内在的に交わされる、時間的被造物についての noesis の noemata (Comm.Jo.fragm.,XIII;I,16.102sq.)、すなわち万物の形相原理なのである。それはホワイトヘッドの言う永遠的客体(eternal object)に相当しているように思われる。

 

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