留美が・・・
8年ほど昔のことになるだろうか・・・
日本海に面した酒田市。
その酒田北港は、夏になれば夜は若者たちの溜まり場となる。ナンパ、走り。。。どこの海岸もそうだと思うが、夏になると海には自然に若者が集まってくる。
ここはレースコースとしてももってこいの場所で、当然事故が多いのも事実だった。
蒸し暑い夏の話・・・
高志と弘明と康介、そして高志の彼女の留美は、暇を持て余しつつ、いつものように北港に向かった。
高志が運転し、他のみんなは車の中で一杯。。。特に留美は酔っていて、箱乗りしだすはわめきだすはで、落ち着かせるのに一苦労だった。
ちょっと高志と喧嘩したらしく、少し情緒不安定だったらしい。
北港に入り、いつものように100キロ以上のスピードで直線を走り、ドリフトを駆使しながら暴走していた。
周りは若い連中で溢れ、走りを楽しむ者、あちこちでナンパしたりされたり。。。いつもの情景だった。
暇つぶしの暴走。。。いつも数周回り、飽きたところで帰路につく、そんなとこだっただろうか。
留美は箱乗り状態で歓喜していたが、さすがに酔っていることもあり、高志が一喝したが、一向に耳を傾けるでもなく、高志も呆れ果てて注意することを止めた。
最初の頃は弘明と康介もおもしろがって野次馬のように留美を煽っていたが、さすがに高志の彼女ということもあって、最後には注意するようになだめはじめていた。
しかし、すっかりハイになっている留美にとって、そんなことが耳に入るような状態でもなく、仕方なく彼女が疲れるのを待つことにしたのだった。
4周くらいした頃だっただろうか・・・。
留美が変なことを言い出した。
「ねえねえ、さっきから気になってるんだけど、あそこの電柱に手が見えるんだよね〜。白い手で、おいでおいでってやってんの〜。」
誰もが「この酔っ払い!」と思ったのは言うまでもない。
コースの途中に直角のコーナーがあり、そこにある電柱に白い手が見えると言うのだ。
「はいはい。分かったからそろそろ座れよ!お前相当酔ってるみたいだな?!いいかげんにしとけよ!」
高志が留美に言った。
しかし、留美は不機嫌そうに、
「ほんとだよ〜本当に見えたんだから〜!!じゃあ、今度あそこに来たときにみんなで見てみなよ〜!!」
と半分怒っていた。
半信半疑だったが、とりあえず3人は見てみることにした。しかし、次の周回でも高志たちに白い手を確認することは出来なかったのだった。
「ほら〜!見えたでしょ!?」
留美がみんなに同意を求めたが、みんな呆れ果て無視することにした。
「なによ〜!ただの酔っ払いと思ってるでしょ〜!!嘘じゃないよ〜!!本当に見えるんだもん!!じゃあ、今度あそこに行ったとき電柱に近づけてよ!手を引っ張るから!!」
留美は半泣き状態でみんなに言った。
「分かった分かった、だから泣くなよ〜」
さすがにみんなも可愛そうに思ったが、でも、酔っ払いの言動と信じはしなかったが、次の周回に電柱に寄ってあげることにした。
高志をはじめみんなが留美を落ち着かせることだけを考えていた。
これが、悲劇の始まりだった。。。
・・・・・・電柱が見え始め、留美が車から乗り出している。
留美が納得いくように高志は車を電柱に近づけた。
それほど近くに寄ったはずではなかった。。。
しかし、近づいた瞬間、留美が視界から消えた。。。
そして、
「ゴォン!!」
という鈍い音が聞こえた。
3人とも何が起こったのか飲み込めないでいたが、留美が車に乗っていないという事実にびっくりして、車を急停止させ留美がどこにいったのか確認しようとした。
3人が電柱の辺り駆け寄ったとき、全身が凍りついた。
地獄とはまさにこのようなところを言うのだろうか。電柱の下は血の海で、その真ん中に女性が横たわっている。。。
血は電柱から数メートル離れた電話ボックスにまで飛び散り、
一番凄惨だったのは電柱で、髪の毛が頭皮ごとらせん状に蒔きついていた。。。
血の海の中央にいるのが留美であることを認識するまで、それほど時間はかからなかった。。。
しかし、3人ともその場に立ち尽くし、目の前の惨劇に驚愕するしかなかった。。
・・・・やむなく、警察が到着し、3人は取調べを受けることになった。。
しばらく警察の事情聴取を受けつづけ、3人はへとへとになった。
実際、どうして自分たちが警察に取り調べられているのかさへ定かではなく、留美が死んだのだということも現実として受け止められずにいた。
ましてや、白い手が見えたので・・・などと経過を話したところで信じてもらえるはずも無く、何を話したのかさへ記憶に無かったという。
幸か不幸か、3人ともプータローで、仕事に影響する以前の話であったし、
留美がかなり酔っていたという見識から、車から体を乗り出して電柱に激突死という事故ということで落着したのだった。
しかし・・・
1つだけ警察にとっても不可解なことがあった。
仮に留美が車から体を乗り出して電柱に激突したとして、留美が電柱に激突すべきエリアよりさらに上部に激突していたということ。。。
車からジャンプしたとも考えられず、
最終的には風により髪の毛が巻上げられ電柱に絡みついたためという見識を示すしかなかった。
でも、髪の毛がらせん状に電柱に蒔きついて、あたかも何かにひっぱられたような感じだったのだが。。。
電話
・・・・・・・・・・しばらくして、留美の葬儀に日となった。
3人は葬儀に出ようにも出られず、その日は1日高志の家に集まり途方にくれていた。
弘明と康介は、仮にも彼女を失った高志を慰めるために、いろいろと気を使い話題を提供したのだが会話は続かず、いつしか沈黙の時間になっていた。。。
「トゥルルルルルルルル・・・・」
突然、沈黙を破り電話の音が高志の部屋に鳴り響いた。
「もしもし?」と高志は電話の対応を始めた。
弘明と康介は、久しぶりに高志の声を聞いたことと沈黙という重苦しい時間が終わったことで少しだけほっとしたのだった。
しかし、また重苦しい時間に戻る。。
高志の顔が急に険しくなり、
「もしもし?!お前、誰だよ!?ふざけんのもいいかげんにしろ!!」
と荒々しく受話器に怒鳴り始めたのだ。
「おいおい、どうしたんだよ!?」思わず弘明が高志に尋ねた。
「この電話の奴さ、留美だって言いやがる。ふざけてるにも程がある!俺に対する嫌がらせだ!!」
と高志は言った。
「はははは!そんなの軽く流しとけよ〜!いちいち真面目に相手なんてしてたらバカらしいじゃねーか。」
と、楽観的な康介が高志に諭した。
「そうだな・・・逆にこいつに話しに合わせてやるのもおもしろいかもな。」
高志は電話の主に合わせた会話を始めた。
弘明と康介は安堵したようにお互い苦笑した。
「で、・・・お前、今どこにいるんだよ??」
高志は調子に乗り始めていた。
しかし・・・次の瞬間、・・・・
『あんたの頭の上・・・・・・』
と、電話の主が言った。。。。。
「はあ?何?俺の頭上〜?? ふざけて・・・・」
高志は、弘明と康介の異様さにはっとした。
弘明と康介は高志の頭上を見上げたまま顔が引きつっている。。。
「お、おい。。。お前らふざけんなよな。」
高志は2人にそう言ったが、2人とも怯えた表情で高志の頭上を指差していた。。
おそるおそる高志は頭上を見上げた。
・・・・そこにあったのは、血だらけの留美の顔だった。。。。。
顔半分が潰れ髪の毛も一部分無く、哀しそうに、3人を見つめているのだった。。。
3人とも上を向いたまま身動きも出来ず、喋ることさえ出来なくなった。金縛りである。
『・・・どうして・・・どうして・・・来てくれないの?・・・』
留美は、そう言うと、スゥ〜っと消えていったのだった。。。。
・・・・・・どのくらいの時間が過ぎたのだろうか。
3人はしばらくの間放心状態で、お互い見つめあいながらもなかなか現実に戻れなかった。。。
しかし、
「留美ん家へ行かなきゃ。」
この高志の一言で呪縛から解放されたように3人が立ち上がり、そして留美の家に向かったのだった。。。
うわさ
留美の事故から変な噂が広まった。。。
あの電柱の近くにある電話ボックスで、血まみれの女性が電話をしてるという噂。。。。
また、夜にその電話ボックスで電話をかけようとすると、突然公衆電話が鳴り出し、受話器を取ると、女性の悲しい泣き声が聞こえだし、電話ボックスから血が流れ出すという噂。。。。
あまりにもそんな噂が広まりすぎ、さすがに現在は、その電柱も電話ボックスも撤去されている。。。
余談だが、
あとで聞いた話なのだが、
北港には昔から、白い手が巻き起こす事故の話があったらしく、事故を起こすのは決まって白い車だということ。。そして、犠牲になるのは必ず女性であるということ。。。。
・・・・高志の車も白であった。
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