ミニオン論W −ワイルによる西部方面侵略作戦−
(2022年07月28日「1.幻影ワイルの消滅にまつわる真相」を発表)
(2022年12月24日「2.ワイルのデステニィストーン獲得計画」を発表)

はじめに:
 サルーインのミニオンの一人、「策略」のワイル。
 彼が侵略を担当するのはマルディアスの西部方面・・・即ち、クジャラートとフロンティアである。
 本稿では、ワイルによる西部方面侵略作戦の語られぬ背景について言及する。

1.幻影ワイルの消滅にまつわる真相
(1)幻影ワイルの消滅に関する疑問点
 ミニオン論Tにおいて、ミニオンはロマ2の七英雄、ロマ3の四魔貴族に相当する存在であり、ミニオンの本体はラストダンジョンにいて、その幻影が外界で活動していること述べた。
 しかしながら、ミニオン論Vで述べたように東部方面担当のストライフの幻影は物語開始時以前に既に消滅していた。
 同様に、西部方面担当のワイルの幻影も物語開始時以前に既に消滅してしまっているようなのである。
 なぜなら、ロマ1の物語開始時からアサシンギルドにいるワイルは幻影ではなく本体だからである。
 それならば、どうしてワイルの幻影は消滅してしまったのであろうか?

 さて、西部方面でのサルーイン一派の消滅事件と言うと、件の事件を想起する方も多いことでしょう。
 そうです、デステニィストーンの一つ「闇」のブラックダイアの破壊の一件である。
 文献にはブラックダイアの破壊の一件について次のように記述されている。
 「フロンティア北方の黒海に沈んでいるらしいのだが、最近になって破壊されたという情報もある。」(大事典)
 「フロンティア北の海深くに眠っていたが、復活したサルーインのしもべたちによって破壊された。」(徹底攻略編)
 「フロンティアの北、黒海に沈んでいた。いち早く発見したサルーインのしもべが破壊したが、その衝撃波で彼らも粉々になったという。」(基礎知識編)
 

 これらの記述から、強大な力を秘めたデステニィストーンを破壊できる者となると、おそらく相応の実力者でないといけないだろうから、ブラックダイアを破壊した「サルーインのしもべ」とは西部方面担当のワイルであると考えられる。
 そして、それがワイルの幻影だったのならば、その際に幻影が消滅してしまい、現在は本体で活動しているという辻褄も合うのである。

 このような理由から、おそらくブラックダイアを破壊したのはワイルの幻影であり、その際にワイルの幻影も消滅したのだと推察されるのであるが、そうだとしても疑問は残る。
 それは「海の底に沈んでいるブラックダイアをどうやって発見したのか?」ということである。
 「サルーインの封印後、ブラックダイアの消息を知る者はいない。」(大事典)と解説されているブラックダイアをサルーイン一派はどのようにして探し当てることができたのか?
 本章ではこの真相について言及したい。

(2)「闇」のブラックダイアはどうして黒海に沈んでいたのか?
 「闇」のブラックダイアが沈んでいたのは黒海であるが、そもそも黒海とはどのようなところなのか?
 文献には黒海について次のように説明されている。
 「フロンティアの北方に広がる海域。名前の由来は、海面が黒く見えることから。マルディアスで最も深い海であり、また海上交通の難所として古くから知られていた。海底には洞窟があり、ブラックダイアやブラッドシリーズの防具など、サルーイン封印の際の数々の品が遺されていた。ブラックダイア破壊の衝撃で洞窟が崩れて以来、ますます海の荒れが激しくなり、現在では海路が完全に途絶えている。」(大事典、用語辞典)
 この記述から新たな疑問が生じてくる。
 それは「ブラックダイアは人の手によって隠されたのか?」ということである。
 「深い」、「海上交通の難所」、そんな海の底にある「洞窟」に人が到達するということがそもそも不可能なのではないだろうか。

 人が不可能ならば、考えられるのは人ではない存在・・・そう、神々が隠したと考えるのが妥当であろう。
 そして、それはおそらく「海の神ウコム」ではないだろうか。
 マルディアスの海(及び海に棲む生き物)はウコムによって造られた(大事典)。
 従って、黒海が荒れ狂った場所であってもウコムならば容易に干渉することができるだろう。
 おそらく、マルディアスで最も到達が困難で見つかりにくい場所として黒海の底が選ばれ、そこにあった(もしくは造られた)海底洞窟にウコムによって隠匿されたのであろう。

 では、デステニィストーンの多くは邪神封印戦争後に人々の手に渡っているにもかかわらず、どうしてブラックダイアは隠されなければいけなかったのであろうか?
 これはおそらく太陽神エロールの意向であろう。
 大事典のアメジストの解説に「幻の力はエロールに近いものでありながら、同時に人の目を欺くたぶらかしもなりかねない危険性を持つ。アメジストは人の手には渡らず、エロール自身が最も安全な場所に隠したという。」という記述があるように、エロールは都合の悪いデステニィストーンを意図的に隠匿しているのである。
 ブラックダイアの解説にはエロールが隠したという記述は無いが、「光」のダイヤモンドが邪神封印の結界を張るために使われた後でも闇の女王シェラハの力を封印するだけの力が残っていたことから、「闇」のブラックダイアを駆使すれば光の神エロールの脅威になる可能性は十分に考えられるので、エロールはアメジストだけでなくブラックダイアも隠すことにしたのではないだろうか。
 このような理由から、エロールの勅命を受けて、ウコムがブラックダイアを隠すことになったのであろう。
 

(3)「闇」のブラックダイアをどうして発見することができたのか?
 海の神ウコムによって封印されたブラックダイアは邪神封印戦争後の1000年の間、黒海の底に眠っていたわけであるが、サルーイン一派に発見されることになる。
 先に述べた通り、黒海の底はマルディアスで最も到達が困難で見つかりにくい場所のはずである。
 それにもかかわらず、サルーイン一派はどうやって黒海の底に眠っているブラックダイアを発見することができたのであろうか?

 参考までに述べておくと、メルビル図書館に所蔵されている「世界のデステニィストーン」(AS922年発行)には「闇」のブラックダイアの所在は不明とされていて、「水」のアクアマリンはクリスタルレイクと記載されている。
 その所在が明記されているにもかかわらず、ロマ1の物語の舞台の段階までにサルーイン一派は広大なクリスタルレイクにひっそりと存在する洞窟の中に安置されているアクアマリンを発見することができなかった。
 その一方で、所在も分からず、さらに広大でクリスタルレイクよりももっとずっと到達が困難な黒海の底の洞窟の中に眠るブラックダイアをサルーイン一派はどういう経緯で発見することができたのであろうか?
 

 可能性の一つとしては、闇の力を持つサルーイン一派は「闇」のブラックダイアが発する闇の力を感知することができたからという理由が考えられる。
 この可能性を否定することはできないが、仮にそうならば相反する光の力を発する「光」のダイヤモンドの存在に気付いてもよさそうなものである。
 しかしながら、ロマ1の物語の舞台の段階までにサルーイン一派が放浪するシェリルが身につけているダイヤモンドの存在に気付いた様子は無いようである。

 そこで本稿では別の可能性について言及する。
 町から町への船での移動の最中には大海原で魚系シンボルの姿を目にすることができる。
 また、キャプテンホークの海賊稼業の最中にはサンゴ海で魚系シンボルの姿を目にすることができる。
 これらのことからマルディアスの海域には魚系シンボルのモンスター達がわんさかと生息しているのだと推察できる。
 当然、荒れた海ではあるものの黒海にも魚系シンボルのモンスター達は生息しているのでしょう。
 つまり、黒海に生息している魚系シンボルのモンスター達にとっては黒海は日常の生活範囲にすぎないのである。
 そんな黒海に生息している魚系シンボルのモンスター達の中に黒海に怪しい洞窟があることを知っているものがいたとしても全く不思議ではないのである。
 

 しかしながら、そんな魚系のモンスター達からサルーイン一派に怪しい洞窟の情報が伝えられたとは考えにくい。
 なぜなら、魚系モンスター達はもともと凶暴であったり、邪気で凶暴化していたりする野生のモンスターにすぎないので、そもそもサルーイン一派の配下ではないし、サルーイン一派との言語的なコミュニケーションをとることもおそらくできないからである。

 ところが、魚系シンボルのモンスター編成(本サイトの「■モンスター編成」を参照)を眺めてみると、その中には魚系ではないモンスターも含まれているのである。
 具体的には、
 ・L1:キャンサー(水棲生物系)
 ・L7〜8:半魚人(トカゲ系)
 ・L11:オアンネス(トカゲ系)
 ・L18〜19:クラーケン(水棲生物系)
 ・L20〜22:ツインテール(トカゲ系)
 の5種である。

キャンサー

半魚人

オアンネス

クラーケン

ツインテール

 水棲生物系のキャンサーとクラーケンは魚系モンスターと同様に凶暴なだけでサルーイン一派と意思疎通はできないだろうが、トカゲ系の半魚人とオアンネスはサルーイン一派に属して人々に危害を加えてきた実績のあるモンスターである。
 #半魚人は開拓村の子供誘拐事件の主犯、オアンネスはコンスタンツ誘拐事件の主犯である。
 #大事典には、半魚人については「バルバルと同じようにフロンティアの洞窟を任されており、人間への威嚇として、開拓村の子供を誘拐する計画を立てている。」、オアンネスについては「邪神復活計画に加わり、人間社会を混乱に陥れ、その隙にデステニィストーンを手に入れようとしている。」と解説されている。
 従って、半魚人、オアンネス、ツインテールといった魚系編成に登場するトカゲ系モンスターならば、黒海に怪しい洞窟があることを発見した場合には、その情報をサルーイン一派に伝える可能性が極めて高いのである。

 このような推察をもとにすると、黒海にある洞窟の存在をサルーイン一派に伝えた可能性がさらに高いモンスターが存在する。
 それは魚系編成L20〜22で登場する魚系モンスターの・・・アクアライダーである。
 大事典にはアクアライダーについて次のように解説されている。
 「ペグパウラーはオルカの眠っている間に、下腹へ卵を生む。孵化した幼生は、オルカの身体に付着している小動物を食べるので、2匹は共生していると言える。共存していられるのは、ペグパウラーが成体になるまでであり、約12年間かかる。その間に世界中を駆け巡り、幼生は肉体的なパワーと、戦いの中で学んだ知識を身につけるのだ。」
 このようにアクアライダーはトカゲ系モンスターのペグパウラーの幼生であり、世界中を駆け巡っているのである。

ペグパウラー

オルカ

アクアライダー

 従って、アクアライダーの中にはその修行の道程において黒海に挑む者もいるでしょう。
 そんな黒海に挑んだアクアライダーの一匹が偶然にも発見することができたのがブラックダイアの安置された海底洞窟だったのではないでしょうか。
 このような経緯でアクアライダーによって黒海の底にあるブラックダイアの安置された海底洞窟は発見され、その情報がサルーイン一派に伝えられたのでしょう。

(4)ブラッドシリーズの真相
 ブラックダイアの真相について言及したついでに、ロマ1のゲームのデータには存在しないが設定としては大事典には記載されているブラッドシリーズ(アーマー、ガントレット、ヘルム)についても述べておきたい。
 大事典にはブラッドシリーズについて次のように解説されている。
 「フロンティアの北、黒海の底にブラックダイアとともに隠されていた。サルーインの手下たちがブラックダイアを破壊したとき、その衝撃波で一緒に砕け散ってしまったとされる。」
 当然の疑問であるが、ブラッドシリーズとは一体何なのであろうか?
 ブラックダイアとともに隠されたということは、エロールにとってブラックダイアと同レベルに都合が悪い存在と認定されたということなのでしょう。

 この真相については、まずは文献に掲載された鎧のイラストをもとに推察を進めたい。
 以下は基礎知識編に掲載されたロマ1で通常入手可能な10種の鎧のイラストである。

ハードレザーアーマー

リングメイル

ブロンズアーマー

スケイルメイル

チェーンメイル

アイアンアーマー

ヴェルニーアーマー

スチールアーマー

ガーラルアーマー

死の鎧

 また、以下は大事典に掲載されたゴッズアーマーとブラッドアーマー、そしてデータには存在しない2種の鎧のイラストである。

ゴッズアーマー

ブラッドアーマー

スカルメイル

バファルアーマー

 これらを比較すると、ゴッズアーマーとブラッドアーマーには鎧の一部に布が用いられているという特徴があることが分かる。
 もしやと思って大事典に掲載されている死の鎧のイラストを見てみると以下のようなものであった。

死の鎧(&死の剣)

 何と!死の鎧にも布がついているのである。
 念のために大事典に掲載された他の鎧も見てみたが、他の鎧には布はついておらず、基礎知識編と同じものであった。

 ゴッズアーマーは太陽神エロールがサルーインとの戦いに身につけていたもの(大事典)であり、死の鎧は死の神デスが邪神封印戦争で身につけていたもの(大事典)ということから類推すると、もしや布のついた鎧は神々が造ったものなのではないだろうか?
 つまり、ブラッドアーマーにも布がついているから、ブラッドシリーズは神々が造ったものなのだと考えられるのである。
 そして、ブラッドシリーズを造ったのは・・・おそらく邪神サルーインである。

 そのように推察する理由はブラッドシリーズの効果にある。
 大事典にはブラッドシリーズの効果について「装備した者の体力を腕力へと変換する力があったと言われている。」と解説されているのである。
 この効果をもとに、サルーインのステータスを見てみましょう。
HP
65535/65535 255 50 95 95 75 125 70 0 95 4 - - -
- - - - - - - - - - -
1:サルーインソード14(撃剣波)
火:255/255/9(ファイアボール、セルフバーニング)
水:255/255/6(レインコール、力の水、癒しの水)
土:255/255/9(ダイヤモンドウエポン、アースハンド)
風:255/255/21(ライトニング、エレメンタル、ウインドバリア)
光:255/255/0(なし)
闇:255/255/13(ブラックファイア、ホラー、ダークネス)
邪:255/255/127(アニメート、イーブルスピリット、アゴニィ、ポイズンガス)
気:255/255/0(なし)
魔:255/255/1(エナジーボルト)
幻:255/255/29(幻影魅力術、睡夢術、火幻術)

 そうなのです。サルーインは他のステータスに比べて腕力が極端に低いのである。
 デス兄さんと比べてもサルーインの腕力の低さはいかがなものか・・・といったところである。
HP
9922/10000 80 80 80 80 80 80 80 0 80 4 - - -
- - - - - - × - - - -
1:死の剣14
邪:99/99/255(デスハンド、イーブルスピリット、アゴニィ、ポイズンガス)

 上記のサルのステータスは療養中のもので、デスのステータスは力を封印されたものであるから、邪神封印戦争の頃の全盛期にはもっとずっと強大であったであろうが、それでもおそらくサルーインの腕力は他のステータスと比べて低かったのでしょう。
 サルーインはそのことに劣等感を持っていたために、それを補うような装備としてブラッドシリーズを作成し、それらを身につけて戦場に赴いていたのかもしれません。

 ということで、ブラッドシリーズは邪神サルーインの遺物であるため、(万が一の危険を避けるために)エロールの意向によってブラックダイアとともに隠匿されることになったのだと推察されるのでした。

2.ワイルのデステニィストーン獲得計画
 ブラックダイアの破壊と引き換えに幻影を失ったワイル。
 デステニィストーンを破壊することの危険性を明らかにしたという点は彼の功績であろう。
 #実際、その後にヘイトは「火」のルビーと「邪」のオブシダンソードを破壊することなく回収している。

 しかしながら、ロマ1の物語においてのワイルの活動・・・即ち、物語開始時からアサシンギルドにいて、冒険者達が侵入してきたら後の処理はペットのフローズンボディに任せて去っていく・・・という姿だけを見たら、彼がサルーイン復活のための活動をしっかりと遂行していたのかについては疑問に思うかもしれない。
 そこで、本章ではロマ1の物語内では語られることのなかった「策略」のワイルによる西部方面でのデステニィストーン獲得計画について言及する。
 

(1)ワイルが狙ったデステニィストーン
 世界各地で暗躍するミニオン達の一番の目的は封印された邪神サルーインの復活である。
 そのために、サルーインを封印した宝石であるデステニィストーンの入手・破壊を目論んでいた。
 ワイルは「闇」のブラックダイアを破壊したが、それは1.で述べたように所在不明だったブラックダイアがワイルの担当地域であるフロンティア周辺にあることが発覚したからであり、もともとは別のデステニィストーンの入手・破壊を狙っていた。

 その一つが「幻」のアメジストである。
 メルビル図書館に所蔵されている「世界のデステニィストーン」(AS922年発行、ハオラーン著)によれば、アメジストの所在地は・・・フロンティアであった。
 所在地の情報があまりにも広範囲過ぎるため、ワイルもきっと地道に探すのは不可能だと考えたことでしょう。
 

 そこで、まず入手・破壊を狙ったのが「魔」のエメラルドである。
 メルビル図書館に所蔵されている「世界のデステニィストーン」(AS922年発行、ハオラーン著)によれば、エメラルドの所在地は・・・魔の島である。
 魔の島はイナーシーに存在するため、東部、西部、南部、北部のどの方面を担当するミニオンでも関わりうる場所である。
 しかしながら、魔の島の特徴を考慮するとワイルが最も適任であると考えられるのである。

 現在、魔の島の場所は一般には不明で、世界地図にも記載されていません。
 それはウェイ=クビンが魔の島周辺に空中に浮いた鏡のような防御壁を張って、外からは見えなくしているからである。(大事典)
 邪神封印戦争の時代にも魔の島は存在したであろうから、(邪神サルーインから受け継いだ記憶に基づいて)ミニオン達に魔の島の場所についての知識はあったと思われる。
 しかし、いざたどり着くとなると、ウェイ=クビンの防御壁の存在が位置把握の妨げとなるため、到着は困難であった。
 ところがワイルならばその到着が可能となる。
 なぜならば、彼が邪術の使い手だからである。

 「ウェイ=クビン論」でも言及した通り、大事典に「マルディアスの海中で最も邪気の多く存在するイナーシー」(マリンムースの項目)、「邪気を大量に発している魔の島」(ツインテールの項目)と記述されていることから、魔の島は邪気の発生スポットであると考えられる。
 それ故に、邪術・・・即ち邪気の術法使いであるワイルならばミニオンの中で最も鋭敏に邪気の存在を感知して、魔の島に到達することができると考えられるのである。
 #邪気のより濃い方向を目指すことで魔の島にたどり着く。

 このような理由から、魔の島にあるというエメラルドの入手・破壊はワイルが担当することとなった。
 そして、ワイルは難なく魔の島への上陸に成功する。
 ところが、天才ウェイ=クビンの巧妙な仕掛けの前に(「ウェイ=クビン論」6.を参照)、ワイルはエメラルドの奪取・獲得に失敗するのであった。
 #つまり、ウェイ=クビンが話す「お前にもサルーインの手下にも渡しはせん!」という台詞の「サルーインの手下」とは、ワイルの襲撃を意味していたである。
 

 そんな失敗の後に、ブラックダイア発見の報が伝えられ(1.を参照)、ワイルは自身の幻影の消滅と引き換えにブラックダイアの破壊に成功する。
 残すは、広大で未開なフロンティアに眠るアメジストと、小癪なウェイ=クビンが持ち逃げしたエメラルドの獲得である。
 その二つのデステニィストーンを獲得するためにワイルは「策略」を巡らしたのである。
 それは過去に西部方面を襲った三つの恐怖を思い起こさせる三つの策略・・・「三本の矢」作戦であった。

(2)第一の矢:選ばれしハルーンによる水竜の復活
(i)ハルーンの野望
 ワイルはミニオンセンサー(「ミニオン論U」1.(1)を参照)で自身の目的を達成するための助力となる人物を探した。
 その結果、感知されたのがタルミッタの太守ハルーンであった。

 タルミッタ太守ハルーンとはどのような人物なのか?
 文献には次のように説明されている。
 「タルミッタのセケト宮殿に住む太守。以前はクジャラートの権力を握っていたが、アフマドにその地位を奪われる。クジャラート保守派の代表格。政治家としては地味な存在だが、正義感は強く、国民思い。近頃はマラル湖の水竜を復活させようと画策している。」(基礎知識編)
 「心酔するクジャラートの守護神(水竜)の復活を画策。」(大全集)
 「タルミッタ復興と自らの地位確保のために水竜を利用しようと企んだ。」(大全集)
 「かつてクジャラートの政権争いでアフマドに敗れ、その奪回を目論んでいると言われている。マラル湖に眠る水竜を復活させてエスタミルを混乱に陥れる、というのが当面の策らしい。水竜への生贄としてアフマドの娘を誘拐させたのも彼だ。」(時織人)
 「クジャラートの栄華を再び取り戻そうとする、純粋なナショナリスト。水竜を復活させて下水道を破壊し、エスタミルの水路を麻痺させようと画策している。狡猾で計算高く、水竜の力に心酔している。」(大事典)

 ミニオンセンサーは「権力があり、かつ野望を持っている人物」を感知する。
 権力という観点だけならば、ハルーンよりも現クジャラート国家元首のアフマドのほうが有力である。
 しかしながら、アフマドはクジャラートの最高権力の座を手に入れたことで、(色好みの欲望は相変わらずあるものの)もはや大きな野心を持ち合わせていなかった。
 一方で、ハルーンはタルミッタの太守という権力を持つだけでなく、アフマドに奪われた地位の奪還、そしてその先にはクジャラートの栄華を取り戻すという大きな野望を抱いていたために、ミニオンセンサーに強烈に感知されたのである。
 

 クジャラート首長の地位をアフマドに奪われた屈辱に耐えながら、その地位の奪還を画策していたハルーン。
 そんなハルーンの前に現れたワイルは彼の野望に協力することを申し出た。
 「あなたがクジャラートの王になるお力添えをしましょう。」
 気術使いのハルーンは邪術使いのワイルのただならぬ気配に気付いていたが、自身の復権への協力の申し出に耳を傾けた。
 ワイルは話を続ける。
 「クジャラートの守護神を目覚めさせましょう。そして、エスタミルでクジャラートの守護神を暴れさせて、エスタミルの人々にその力を見せつけてやるのです。」
 水竜信仰者であるハルーンはクジャル族の神である水竜様の力を利用するなどというおこがましいことを考えたことも無かった。
 だが、苦汁の日々と解決の糸口の見えない現状が、彼にその可能性を考えさせてしまった。

 ハルーンは狡猾で計算高いが、その一方で正義感が強く、国民思いである。
 「・・・そんなことをしたら、きっとエスタミルで多くの犠牲者が出てしまう・・・」
 「いいではありませんか。北エスタミルの住人の多くはクジャル族の民ではない。それに北エスタミルに住んでいるクジャル族の民も、守護神の贄になるならば本望でしょう。」
 逡巡するハルーンに対して、ワイルは唆し続けた。
 ・・・その結果、ハルーンは自身の野望、即ち「タルミッタの復興、自身の復権、そしてその先にあるクジャラートの栄華を再び取り戻す」という野望を成就するためには多少の犠牲は仕方ない(犠牲は全てクジャラート再興の礎となる)と心を決め、ワイルと結託したのであった。
 #タルミッタの老女が「ハルーン様が水竜の祭を蘇らせたぞ!若い娘を生贄に捧げるのだー!」と歓喜しているように、クジャル族の文化では水竜への生贄は肯定されていた。
 

 ハルーンの思い描いた計画は「クジャラートの守護神水竜様を目覚めさせ、エスタミル下水道を破壊し、エスタミルを混乱に陥れる」というものであった。
 ワイルの提案した計画は「水竜にエスタミルを襲わせる」・・・即ち、「北エスタミルを壊滅させるとともに政敵アフマドを葬ることで、タルミッタをクジャラートの首都に戻すとともにハルーンが首長に返り咲く」というものであったが、それでは自分の野望は成就されないとハルーンは考えたのである。
 確かに、ワイルの提案ならば「タルミッタの復興、自身の復権」は達成されるだろうが、「クジャラートの栄華を再び取り戻す」ことに大きな支障が出てしまうのである。
 つまり、マルディアスで最も栄えている貿易都市である北エスタミル(大事典)を失うということはクジャラートの経済力の大きく低下させることになってしまうので、クジャラートの国力の衰退につながってしまうのである。
 そこで、多少の犠牲は出るかもしれないが、水竜を暴れさせて北エスタミルの水路を麻痺させて、それに対処できないアフマドを失脚に追い込もうとしたのである。
 #アフマドは南北エスタミルの市民にはすこぶる評判が悪い(時織人)ので、執政が上手くいかなければ失脚させられるだろう。
 そして、自分が水竜を鎮められたならば、自ずと首長の座に返り咲くことができると考えたのである。

 このハルーンの計画の「エスタミル下水道を破壊する」という点については疑問を持つかもしれない。
 つまり、「エスタミルを混乱に陥れるだけならばボガスラル海峡(南北エスタミルの間の海)で水竜が暴れるだけでよく、エスタモル下水道を破壊する必要などないではないか?」ということである。
 クジャラートの国力を低下させないために北エスタミルの被害を最小限に抑えようとしたにも関わらず、どうしてハルーンはエスタミル下水道を破壊させようとしたのであろうか?
 実は「水竜がエスタミル下水道を破壊する」ということが、彼の野望の成就において宗教的に重要な意味を持つのである。

 以下、大全集と大事典をもとにエスタミル下水道の建造についてまとめる。
 エスタミル下水道は旧エスタミル王国の建造物である。
 AC520年にイナーシーの出口、ボガスラル海峡両岸の都市が連合してエスタミル王国が成立し、海峡の地下をつなぐ地下水路の開発が開始された。
 しかしながら、海峡が波で荒れ度に開発工事は失敗に終わっていた。
 そこで、AS843年にボガスラル海峡を鎮めるために南エスタミルにウコム正教派神殿が建造され、それによりようやくエスタミル下水道が完成した。
 #当時のエスタミル王国はエロール教一色であったため、ウコム神殿の建造には反対運動があったが、下水道が完成するまでという条件付きで建造の許可が下りている。ところが、その後もウコム神殿が取り壊されることは無く、ロマ1の物語の時点でも存続している。
 #エスタミル下水道は完成までに300年以上かかっている。そして完成後のAS903年にエスタミル王国はクジャラートに侵略されることになる。
 

 このように、エスタミル下水道の完成の裏には「ボガスラル海峡をウコム神が鎮めてくださったおかげ」という信心があるのである。
 一方で、ハルーンは反ウコム派の代表格であり、「海を護っているのはウコムではなく水竜である」という思想であった(大事典)。
 #上記の思想はハルーンが「急速に発展しつつあるエスタミルを苦々しく思っていたため」(大事典)である。
 つまり、水竜がエスタミル下水道を破壊するということは、現在エスタミルで受け入れらているウコムの加護よりも水竜の力の方が強大であるということをクジャラートの民に知らしめ、水竜信仰に回帰させるという宗教的な意味があるのである。
 そして、クジャラートの民が水竜信仰に回帰すれば、水竜信仰の総本山であるタルミッタは自ずと復興するはずである。

 このような思惑により、ハルーンは水竜を利用したエスタミル混乱計画の決行を決意したのであった。

(ii)ハルーンの依頼
 ハルーンへの協力を申し出たワイルに対して、ハルーンはエスタミル混乱計画の実行のためにハルーン一派が表立ってはできない三つの仕事を依頼した。
 第一の依頼は奴隷売買の組織を作り、アフマドにハーレムを作らせること、第二の依頼は水竜への生贄にするためにアフマドの娘(愛人)をはじめとした数人の若い娘を拉致すること、そして第三の依頼は自身(ハルーン)の影武者を準備することである。
 この三つの依頼について以下で順に説明する。

 北エスタミルの住人が「最近、アフマド様によく似た人がよくこのアムト神殿に出入りしているよ。」(ゲーム内の台詞)と言うように、アムト神殿内に作られたアフマドのハーレムは最近造られたものであり、「金と権力にものを言わせ、南エスタミルの奴隷商人と組んでハーレムを作っている。」(時織人)と説明されているように、ハーレムはアフマドと奴隷商人の結託により造られたものである。
 そして、南エスタミルの住人が「最近、奴隷商人が幅を利かせていて全くたまらないよ。」(ゲーム内の台詞)というように、ハーレム建造に関わっている奴隷商人が奴隷商売を始めたのも最近のことである。
 

 そんな奴隷商人は以下のようなステータスを持っている。
HP
25/25 3 3 3 3 3 3 3 0 3 4 - - -
- - - - - - - - - - - - - - - -
1:レイピア0
術法:なし
 その容姿は金塊横領事件の実行犯である強盗と同種である。
 #ミニオン論V3.(3)(iii)「財務大臣横領疑惑事件」では強盗の容姿が醜悪化し、身体能力が脆弱化している理由は「サルーイン教団の邪気に接触しすぎてしまったから」であることに言及した。
 つまり、奴隷商人も強盗と同様にサルーイン教団関係者・・・この場合はワイルの配下なわけである。
 #奴隷商人がワイルの配下ならば、ワイルが「権力を持ち、野望(欲望)を持つ」人物としてアフマドを選び、結託したという可能性も無いわけではないが、ワイルがアフマドを利用するメリットが何もないので、おそらくワイル自身はアフマドとは接触していないだろう。

 ハルーンから依頼を受けたワイルはサルーイン教団クジャラート支部に命令し、教団関係者を奴隷商人に仕立て上げた。
 そして、奴隷商人をアフマドに接触させ、「アムトは愛の女神だから・・・」とアムト教の教義を拡大解釈した(大全集)誘い文句でハーレム建造の話を持ち掛け、結託させる。
 ハルーンはアフマドの色好みの性格を知っていたので、アフマドならば必ずこの話に乗ってくると確信していたのである。
 そして、アフマドの権力と財力によりハーレムは秘密裏に建造され、アフマドから派遣されたガードが奴隷商人のボディーガードをするとともに、各地で拉致活動を行って奴隷を掻き集めていたのである。
 #南エスタミルの奴隷商人のアジト、その周辺、ガレサステップをうろつくガードは「エスタミル兵の中で素質の高い者だけに、特別な訓練を受けさせたエリート集団」、「アフマドの近衛兵の役割を受け持つ」(大事典)と説明されているように、アフマドの配下である。
 #ガードに拉致された人はまず南エスタミルに地下牢に閉じ込められ、上玉の女性はハーレムに送られる。その他は奴隷として売られたり、後述するアサシンギルドに送られたりする。
 

 なぜ、ハルーンはわざわざ手の込んだことまでしてアフマドにハーレムを作らせようとしたのだろうか?
 その理由の一つは、家庭内不和を起こさせるためである。
 南エスタミルのパブにて「クジャラートの首長のアフマド様が密かにハーレムを作っているらしいのだ。その場所を見つけ出してほしいとの奥方様からのご依頼だ。」(ゲーム内の台詞)という依頼があるが、アフマド夫人はどうして「アフマドが密かにハーレムを作っている」という情報を知っているのか?
 つまり、アフマド夫人がアフマドの怪しい行動に気付いていたとしても、「ハーレムを作っている」という具体的なことまでは分かるはずがないのである。
 では、なぜ知っているのかというと、当然ハルーン一派がアフマド夫人にリークしたからに他ならない。
 即ち、水竜の襲撃に対応できずにアフマドを政治的に追い込むという主目的に加えて、ハーレムの発覚はアフマドを家庭内でも窮地に追い込むことにつながるのである。
 

 だが、上記の理由はあくまで本当の目的のおまけにすぎない。
 ハルーンがアフマドにハーレムを作らせた本当の目的は、アフマドの娘(愛人)からアフマドの目を逸らすためなのである。
 そして、この目的がハルーンからワイルへの第二の依頼につながってくる。

 ハルーンは、金をばらまいて自身からクジャラートの首長の座を奪ったアフマド(時織人)のことを果てしなく恨んでいた。
 水竜様を利用すれば首長の座を奪回することができるだろうが、それだけでは屈辱の恨みを晴らすことは到底できない。
 そこで、ハルーンが目をつけたのはアフマドが寵愛していた娘(愛人)である。
 水竜様の力を借りるためには生贄が必要であるが、アフマドの娘を生贄にしよう。
 アフマドの娘は、アフマドに「あれがいなくては、わしは生きていけん。」(ゲーム内の台詞)と言わしめるほど大切にされている存在であるから、娘を消し去ることでアフマドを精神的に追い詰め、生きる気力を失わせることができるのである。
 アフマドの娘を生贄にするためには、まず娘を拉致しなければならないが、アフマドは娘を溺愛していたので宮殿内ではいつでもべったりであった。
 そこで、アフマドが娘と離れる時間を意図的に作るために、アフマドの性格(欲望)を利用した罠がハーレムだったのである。
 

 このような意図でハルーンはアフマドにハーレムを作らせた。
 そして、アフマドがハーレムにいる間にアフマドの娘を拉致するのが第2の依頼(の一部)なのである。

 ハルーンからの第ニの依頼についてもワイルはサルーイン教団クジャラート支部に命令した。
 メルビル地下のサルーイン秘密神殿において生贄の儀式が行われていたように、サルーイン教団にとっては生贄の選定・拉致は通常業務なのである。
 #生贄を誘拐したのがサルーイン教団関係者であるということは、北エスタミルに登場する人攫いのフィールド上の姿はサルーイン教神官と同じであるし、
 
 戦闘時の姿は先述した強盗や奴隷商人と同じであることから明らかである。
HP
39/39 5 5 5 5 5 5 5 0 5 4 - - -
- - - - - - - - - - - - - - - -
1:エストック2
術法:なし

 #ゲーム内では水竜への生贄はアフマドの娘1人だけに見えるが、実際にはアフマドの娘の前に既に複数人の若い娘が生贄として投げ込まれていると思われる。というのは、アフマドの娘を拉致した後にも人攫いは北エスタミルで若い娘の拉致を続けているし、ハルーンの影武者が「娘たちはここにはおらぬわ!本物のハルーンがマラル湖の水竜の神殿へ連れていったわ!」と言うように、複数の娘が連れていかれたことに言及しているからである。
 

 そして、実際に水竜に生贄を捧げる儀式をする際に必要になってくるのが自身の影武者である。
 アフマドが冒険者に娘の捜索の依頼をする際に「心当たりが多すぎて一体誰が真犯人か見当もつかんのだ!エスタミル盗賊ギルドの仕業かもしれんし、タルミッタの反対派の仕業かもしれんし・・・」(ゲーム内の台詞)と言っているように、アフマドは犯人候補としてハルーンも疑っていた。
 それならば当然、権力と財力を駆使して、ハルーンの動向をチェックするだろう。
 一方で、生贄の儀式の場に現れた冒険者に対してハルーンが「さてはアフマドの手の者だな。」と言うように、ハルーンもアフマドが娘誘拐の犯人として自分を疑って監視してくるであろうことは予想していた。
 そこで、その監視の目を引き付けておくために影武者が必要になるのである。
 ハルーンが自分で影武者を用意してもよかったのだが、ハルーンはワイルが放つ邪悪な気配に気付いていたため、その異常な力に頼ってみるのもいいだろうと考えて、影武者の準備もワイルに依頼したのである。
 

 ハルーンからの第三の依頼を受けたワイルは自分の配下であるバックベアードにハルーンの影武者の任務を任せた。
 テオドールに化けたイフリート、ローバーンの小屋で茶髪男に化けていたバルバルのように、モンスター軍の中には人間に模倣する術に長けた者がいる。
 ワイル配下のバックベアードもそのうちの一体であり、セケト宮殿にいるハルーンの側近でさえ「ハルーン様の影武者がモンスターだったとは・・・」(ゲーム内の台詞)と驚きを隠せないほど、見事に化け切ったのであった。
 #なお、影武者を倒すと人攫いも姿を消すことから、実働部隊の人攫い達に生贄用の娘達を拉致する命令を出していたのはハルーンに化けたバックベアードだったのだと思われる。
 

(iii)ワイルの真意
 ヘイトに選ばれたテオドールと「冥府を説く」の皇位の神官(「ミニオン論U」を参照)、ストライフに選ばれたマチルダ(&コルネリオ)(「ミニオン論V」を参照)、これらの人物はいずれもデステニィストーンを獲得するために見定められた人物であった。
 そして、ワイルがハルーンを選んだその背景には、当然デステニィストーンを獲得するという目的があったのである。

 広大で未開なフロンティアに眠るアメジストと小癪なウェイ=クビンが持ち逃げしたエメラルドを獲得するために、ワイルはクジャラート(西部方面)をかつて襲った三つの厄災を利用することにした。
 即ち、クジャラートの守護神水竜、アンデッドの王ヴァンパイア、暗殺集団アサシンギルドである。
 ヴァンパイアとアサシンギルドは今でも「昔、西から来たヴァンパイアがこの町を恐怖のどん底に陥れたんだ。」、「クジャラート人がまだ小さな部族に別れて争っていた頃、影の支配者だったのがアサシンギルドだ!奴らはその名の通り暗殺者の集団で力と恐怖で人々を支配していたんだ。」(ゲーム内の台詞)と語られるように、クジャラートでは恐怖の対象として語り継がれている存在である。
 また、水竜についてはゲーム内の台詞や文献において恐怖の逸話は記されておらず、信仰の対象とされているが、水竜の神殿が建造されていて、そこで生贄を捧げる文化が伝承されていることから、明らかに荒ぶる神(水竜)を鎮めるために神殿を建造して生贄を捧げた過去があったのだと推察される。
 

 まず、広大で未開なフロンティアに眠るとされるアメジストについては、それを地道に探し出すことは不可能だと考えたワイルは西部方面を荒らして混乱させることでアメジストを炙り出すことにした。
 つまり、クジャラートの人々の恐怖の対象を復活させ、恐怖の記憶を呼び起こして、かつて世界を救った遺物であるアメジストにすがらせることで、アメジストを表舞台に出させようとしたのである。

 水竜、ヴァンパイア、アサシンギルド・・・これらの復活はいずれも西部方面を混乱に陥れることができるだろうが、フロンティアの混乱はヴァンパイアによって、クジャラートの混乱はアサシンギルドによって引き起こすのがワイルの目論見であった。
 つまり、水竜の復活は西部方面の混乱を引き起こすことを主たる目的としていたのではなかった。
 言い換えれば、ワイルがヴァンパイアとアサシンギルドを復活させた主目的はアメジストを炙り出すためであったが、水竜を復活させようとした真の目的はアメジストを炙り出すためではなかった。
 では、水竜を復活させようとした真の目的は何かと言ったら・・・ウェイ=クビンが持ち逃げしたエメラルドを獲得するためだったのである。

 先に魔の島で小癪なウェイ=クビンに翻弄され、エメラルドを強奪することができなかったワイルは考えた。
 「魔の島の塔に籠っているウェイ=クビンからエメラルドを奪うことは難しい・・・ならば、塔から追い出せばいい。」
 そこで、強大な力を持つ水竜をイナーシーで暴れさせ、魔の島の塔も破壊させることによって、逃げ場を失ったウェイ=クビンからエメラルドを奪おうとしたのである。
 そのためには水竜をイナーシーで暴れさせる必要があるが、サルーイン様の分身である自分が水竜と交渉しようとしても拒絶されるのは必然。
 このような理由から、ワイルは水竜を復活させるためにハルーンの野望を利用することにしたのであった。
 

(iv)ワイルの誤算
 かつての邪神封印戦争においてはサルーインらに反感を持ちエロール側についた四天王と称されるモンスター達。(大全集)
 彼らはサルーインらを打ち倒すためにエロール達と手を組んだだけにすぎず、決して人間の味方というわけではない。
 邪神封印戦争後、四天王の一角である水竜は自分の縄張り(マラル湖を中心としたクジャラート一帯)に戻り、その地に残っている邪魔な邪神側のモンスター達を駆逐する日々を送っていた。
 その際には、エロール側についた報酬として贈られた「雨雲の腕輪」の力を完全に使いこなすことができた水竜の暴れっぷりは凄まじく、暴風雨を呼び、大洪水を引き起こしていた。
 その巻き添えを喰らって絶えず被害を受けていたクジャラートの諸部族にとって水竜は恐怖の対象であったため、水竜が根城としていたマラル湖に神殿を祀る神殿を建立し、若い娘を生贄として捧げることで暴れる水竜を鎮めようとした。
 時を同じくして、水竜による残党狩りは大方片付き、水竜はマラル湖において晴耕雨読のようなまったりした静かな生活を送り始める。
 これにより、クジャラートの諸部族は「水竜を祀る儀式によって荒ぶる神の怒りを鎮めることができた」と勘違いし、その後も生贄を捧げる水竜祭を続けていくことになる。
 #当の水竜は人間のことなど何とも思っていないので、生贄として捧げられた若い娘は、そこらを泳ぐ魚と同様にただの食糧としか見ていなかったであろう。

 時は流れ、旧エスタミル王国の文化を吸収したクジャラートでは、クジャル族独自の文化が徐々に廃れていっていた。(基礎知識編)
 それに伴い、定期的に行われていた水竜の儀式も数十年前を最後に途絶えていた。
 実際、水竜の儀式が行われなくなっても水竜が暴れることも、水害に悩まされることも無かったので、再び儀式をするという話にはならなかったのである。
 #水竜が気にかける必要のある邪魔者がクジャラート周辺に現れることが無かったので水竜が暴れる必要は無かったし、水竜の儀式は人間が勝手にやっていたことに他ならず、儀式が行われなくなっても水竜は特に何とも思っていない。

 タルミッタの老女の「水竜の祭が絶えてから久しい・・・。水竜様もさぞやお怒りだろう・・・。」、「ハルーン様が水竜の祭を蘇らせたぞ!若い娘を生贄に捧げるのだー!」という台詞から察すると、おそらく彼女が幼少の頃までは水竜の儀式がかろうじて行われていたのだと思われる。
 従って、ハルーン自身はおそらく水竜の儀式を実際に見たことは無いのだと思われる。
 それにも関わらず、どうしてハルーンは水竜に・・・水竜の力に心酔しているのだろうか?
 それはおそらく、ハルーンは過去にマラル湖で暴れる水竜の姿を目撃したことがあるからであろう。
 

 ・・・その日、ハルーンはマラル湖に訪れていた。
 すると、たまたまそこにはマラル湖に迷い込んできた何かしらの強大なモンスターがいたのである。
 その強大なモンスターに襲われ、ハルーンが死を覚悟した時、轟音とともに現れて、さらなる強大な力でそのモンスターを駆逐した存在がいた。
 それが水竜である。
 水竜は自分の縄張りに強大な力を持ったモンスターが侵入してきたことに気分を害したから撃退したにすぎず、決してハルーンを助けたわけではない。
 しかしながら、水竜の荒々しくも神々しい力を目の当たりにしたハルーンの畏怖・畏敬の念を掻き立てるには十分だった。
 「これが・・・クジャラートの守護神様のお力か・・・」
 このような過去の経験からハルーンは水竜に心酔し、ワイルの誘いによりその強大な力を利用する計画を立てるに至ったのであった。

 そして、ワイルとハルーンの企みは計画通りに遂行され、遂に水竜復活の儀式の始まりの時が来た。
 既に何人もの娘達が撒き餌として水中に投げ込まれており、メインディッシュのアフマドの娘も生贄の祭壇に捧げられて儀式の準備は万全である。
 ハルーンは叫んだ。
 「我らが守護神、偉大なるクジャラートの守護神よ!我らの祈りに応えたまえ!我らが捧げものを受けたまえ!」(ゲーム内の台詞)
 ゴゴゴゴゴ・・・という轟音と水しぶきとともに水中から巨大な竜が鎌首をもたげた。
 その瞬間、水竜の圧倒的な威圧感にハルーンは我に返った。
 「・・・水竜様は・・・人間ごときが・・・何とかできる存在ではない・・・」
 水竜の威圧感は、ワイルの口車に乗って、「かつて目の当たりにした水竜様の力を今ならば制御できるかもしれない」と過信していたハルーンの気持ちを一瞬で粉々に粉砕したのである。
 「欲深き人間よ!何が望みだ?」(ゲーム内の台詞)・・・水竜が語りかけた。
 全てを見透かしているような水竜の問いかけに対して、水竜様のお手を煩わせるような「エスタミル下水道を破壊してほしい!」などという願いはもはや言えるわけもなかった。
 そんなハルーンから出た言葉は・・・「我に力を!クジャラートの栄光を取り戻す力を与えたまえー!この若い娘を捧げまする。なにとぞ、なにとぞー!」(ゲーム内の台詞)であった。
 水竜の力を利用するという算段は完全な思い違いで、計画は破綻し、目の前が真っ暗になったハルーンであったが、「アフマドに奪われた地位を奪還し、その先でクジャラートの栄華を取り戻す」という彼の野望は本心であったために出た言葉であった。
 

 信義にはそれ相応の対価を授けてくれる水竜であるが、自らの野望のために多くの娘達の命を生贄として捧げようとするハルーンの邪念に対しては一つの指輪を差し出した。
 「分かった。これを受け取れ。」、「お前の知力を高めるのだ。約束は果たしたぞ。ではさらばだ。」(ゲーム内の台詞)
 こうしてハルーンと水竜の取引はワイルの思い描いた計画とは違う結末を迎えたのであった。

(v)ハルーンの最期
 ハルーンは水竜から指輪を授かると、早速その場で身につけてみた。
 水竜から指輪を授かる前のハルーンのステータスは以下の通り。
HP
268/270 17 17 17 17 17 17 17 0 17 4 - - -
- - - - - - - - - - - - - - - -
1:エストック7(睡魔剣、円舞剣)
気:17/17/21(破邪法、精神法、腕力法)
 そして、水竜から授かった指輪を身につけたハルーンのステータスは以下の通りである。
HP
268/270 17 17 17 17 17 22 17 0 17 4 - - -
- - - - - - - - - - - - - - - -
1:レイピア1
邪:7/7/145(デスハンド、イーブルスピリット、アゴニィ、ポイズンガス)
 水竜が言う通り、確かに指輪を装着することで確かにハルーンの知力が5高くなっている。
 ハルーンの願いに対して水竜が武器ではなく知力を高める指輪を与えたのは、「個の武力ではなく、個の知性によって自らの願いを叶えるがいい」というような考えからであり、邪念を持ったハルーンを陥れるとか、そういった他意は無かった。
 しかしながら、ハルーンが授けられた指輪は、水竜にとっては知力を高めるだけの指輪にすぎなかったが、人間であるハルーンにとっては毒物だったのである。

 水竜がハルーンに授けた指輪は一体どういうものだったのか?
 ロマ1のゲームにおいてステータス値を上昇させる装備品と言えば、素早さを10上昇させる疾風の靴を思い出す人が多いだろうが、実はもう一つ存在する。
 それは・・・オブシダンソードである。
 ただし、味方パーティーが装備してもステータス上昇効果は見られないのであるが、邪神サルーインが装備して暴発状態(「ミニオン論U」2.(2)を参照)になることで知力を10上昇させる効果が発動するのである。
 

 知力を10上昇させるオブシダンソードと知力を5上昇させる水竜の指輪・・・この共通点からの推測になるが、おそらく水竜の指輪にはデステニィストーンのオブシダンに類する宝石が埋め込まれていたのではないだろうか。
 そして、デステニィストーンにはもともと「所持者に術法習得値を付与する効果がある」のであるが(「運命石論U」2.を参照)、水竜の指輪に埋め込まれたオブシダンに類する宝石にはまだその効力が残っていた。
 その結果、水竜の指輪に埋め込まれたオブシダンに類する宝石の系統・・・即ち「邪」の術法習得値がハルーンに付与され、ハルーンは強制的にデスハンド、イーブルスピリット、アゴニィ、ポイズンガスの4種の邪術を習得することになった。
 #邪術「デスハンド」を習得しているのはデスと水竜の指輪を身につけたハルーンのみ。邪術使いのワイルですら習得していない。
 #水竜の指輪の効果によって、邪念を持ったハルーンの習得していた気術が対の系統である邪術に反転したというよりは、新たに邪術を習得したために対の系統の気術を使えなくなったと考えたほうが妥当なように思う。
 #他にも装備武器が変化する等の超常的な効果も発動しているが、超常的すぎるため、本稿ではその原理については言及しない。

 しかしながら、邪術は通常の人間では扱うことができない系統である。(大全集)
 邪術の源である邪悪な生命のエネルギー(大事典)は急速にハルーンの身体を蝕んでいった。
 その結果、仮に冒険者によって儀式の邪魔をされなかった場合であっても、儀式後しばらくしてハルーンは命を落とすのだった。
 #生贄の儀式が全て終了する560回の時間経過でハルーンは冥府に現れるようになる。

 このように惨めな最期を遂げたハルーンであるが、彼に関わって最後にもう一点触れておきたい。
 それは、
 「何者だ!?さてはアフマドの手の者だな。邪魔させるな!殺せ!」(ゲーム内の台詞)
 「役立たずどもが!お前達、アフマドにいくらもらった?わしはそれ以上出すぞ。わしのために働け!」(ゲーム内の台詞)
 「よしよし・・・お前達のほうがよっぽど役に立ちそうだからの・・・ライトニング!ひゃひゃひゃ、お前達などにくれてやる銭は無いわ、死ね!」(ゲーム内の台詞)
 という彼の外道っぷりが溢れ出ている言動の中で使われる謎の術法「ライトニング」についてである。
 

 ライトニングと言えば風術に同名の術法があるが、ハルーンが使用するライトニングはパーティー全体の現在HPを1にするという凶悪なものであるから、明らかに風術のものではない。
 そして、邪念に満ちた外道なハルーンが使用してHPを1にする効果があるということから、いかにも邪術を習得したハルーンが使用してきそうなイメージがあるが、実は邪術を習得したハルーンはこのライトニングを使用してこない。
 つまり、このライトニングは気術を習得しているハルーンが使用することのできる術法であることから、おそらく気術を応用した術法なのだと思われる。
 具体的には、相手に気のエネルギーを送って、対象の気の放出孔?を無理やり開き、エネルギーをだだ洩れ状態にすることで急激に疲労させた結果、現在HPが1になっているのではないだろうか。
 #気術っぽい名称を付けるならば「活殺開孔波(ライトニング)」でしょうか。

(3)第二の矢:選ばれしヴァンパイアの復活
 未開の地フロンティアに眠るとされる「幻」のアメジストを炙り出すために西部方面を混乱に陥れることを企んだワイル。
 その目的を達成するためにミニオンセンサーによって感知されたのがフロンティアに封印されているヴァンパイアであった。

(i)ヴァンパイアの正体に迫る
 ワイルに選ばれたヴァンパイアとは一体何者であるのか?
 まずはゲーム内の台詞からその存在について整理する。
 ヴァンパイア:「私は800年生きているヴァンパイア!お前達ごとき人間は足元にも及ばぬ存在よ!」
 北エスタミルのパブの客:「昔、西から来たヴァンパイアがこの町を恐怖のどん底に陥れたんだ。その時、アムトの神官アグネスが聖杯を使ってヴァンパイアをやっつけたんだよ。」
 これらの台詞から、ヴァンパイアはAS200年頃誕生し、かつて西からやって来て北エスタミルを襲撃したが、アムトの神官アグネスが使った聖杯の力により討伐された存在であることが分かる。
 

 次に、ヴァンパイアのステータスを見てみる。
HP
268/270 17 17 17 17 17 17 17 0 17 4 × - -
- - - - - × - - -
1:血を吸う7
風:10/10/1(アイスジャベリン)
光:10/10/1(スターファイア)
 ロマ1のヴァンパイアと言えば、前情報で強さを煽っておきながら、実際に戦ってみたら肩透かしを食らうモンスターの代表例のような存在で、そのステータス値は(2)で議論したハルーンと同程度にすぎず、正直全く強くない。

 そんなヴァンパイアであるが、そのステータスには特筆すべき点がある。
 それは「邪悪な存在でありながら光術を使用することができる」ことである。
 これは「ロマ1のモンスターの中で光術を使用することができるのはヴァンパイアだけ」というゲーム的な話ではなく、「人間が闇術・邪術を習得できないように、邪悪な存在は光術・気術を習得できないはずなのにヴァンパイアは使用できる」というロマ1の世界の術法習得の理に反した存在という意味で極めて異質な存在なのである。
 #ヴァンパイアは聖属性、光属性が弱点という完全に邪悪な存在でありながら光術を使用できる。
 この事実から「ヴァンパイアとは何者なのか?」という疑問が大きく膨れ上がるのである。

 そんなヴァンパイアについて大事典には「神、邪神、そして悪魔のどれにも属さないモンスター。」と説明されている。
 なるほど、ヴァンパイアの具体的な正体は分からないけれど、通常のモンスターとは異なる特異な存在ということは確かなようである。
 文献を調べてみても、ヴァンパイアの正体については記されていないので、本稿ではいくつかの事実をもとにその正体について仮説を立てることにする

 まず、ヴァンパイアは吸血鬼である。
 この点については、ウエストエンドのパブの客が「こいつと吸血鬼の話をしていたんだが、その昔、エスタミルの町もヴァンパイアに襲われたんだそうだ。その時は何とかやっつけたらしいな。」(ゲーム何の台詞)と言っているし、実際にヴァンパイアは「血を吸う」を攻撃方法として持っている。
 
 そして、ヴァンパイアは不老不死である。
 この点については、ヴァンパイアは800年も生きているにもかかわらず「外見は美しい」(大事典)容姿を保っており、かつ「もし倒せても、周りのエネルギーを自分のものにして再生してしまうので、地中に封じるしか手がない」(大事典)と説明されていることから推察することができる。
 さらに、ヴァンパイアは人間を見下している。
 この点については、ヴァンパイアが「私は800年生きているヴァンパイア!お前達ごとき人間は足元にも及ばぬ存在よ!」(ゲーム内の台詞)というように、人間と比較して自分は優れた存在であると主張していることから明らかである。
 

 このような特徴持った存在と言えば・・・「ジョジョの奇妙な冒険」のディオを想起することができるだろう。
 ディオはもともと人間であったが、石仮面によって人間を辞めて不老不死の吸血鬼になった存在である。
 もしかしたら、ロマ1のヴァンパイアもディオのように人間をやめて吸血鬼になった存在ではないだろうか。
 この線でヴァンパイアの過去のエピソードを推察してみることにする。

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 ロマ1の物語の舞台からおよそ1000年前、邪神封印戦争が終結してまもなくの頃、デス教の一派「冥府を説く」に一人の人物がいた。
 その人物とは「ミニオン論U」で言及したオブシダンソードの製作者である。
 #彼は邪神封印戦争において荒ぶるデスの雄姿を見てデスを崇拝するようになった人物で、「邪」のオブシダンを使ってデスが使用していた死の剣を模した剣の製作を試みた結果、死の剣の上位互換のオブシダンソードを完成させたウェイ=クビンレベルの天才である。(「ミニオン論U」2.(2)を参照)

 「冥府を説く」の信者はデスの復活を願う一方で、「自らも死後アンデッドとなって永遠の命を持つ事を願っている」(大事典)。  このような思想を持っていたために、その天才は「死後を待たずともアンデッドとなって永遠の命を持つ」ことができないかと考え、その実現を目指して研究を進めていた。
 ロマ1のゲーム内においてデスは倒しても画面切り替えで復活するが、これはおそらく倒されても周りから「邪」のエネルギーを吸収して再生しているからだと考えられる。
 #四天王アディリスは「四天王の中でも不死身に近い生命力を持つ」(大事典)と説明されていて、ゲーム内において倒しても画面切り替えで復活するが、これもデスと同様に周りから「土」のエネルギーを吸収して再生しているのだろう。
 そんなデスの超再生を大戦時に目の当たりにしていたその天才は、大戦の際に地上で暴れていたデスの発した邪気の残穢を採取・保存しており、それをもとに研究を進め、ついに人間を強制的にアンデッドへと変化させる石仮面的な道具・技法を作り出したのである。
 そう、それが人間をヴァンパイアへと進化(変化)させる道具・技法なのであった。
 

 その道具・技法はデスの発する邪気をもとに開発されたため、利用者にデスに類似した特性(光属性が弱点、闇属性、不動属性、毒属性、幻属性、即死属性に耐性あり、倒されても周りの「邪」のエネルギーを吸収して再生する)を付与した。
 さらに、デスの邪気の力により強制的にアンデッドになるため、多くのアンデッドが持つ特性(冷属性に耐性あり、聖属性が弱点)も付与された。
 #多くのアンデッドが持つ特性の一つである火属性弱点は付与されなかったようである。
 また、デスの邪気の力によって人間を越えた身体能力と術法能力を身につけた「負のパワーを極めている」(大事典)状態になる。
 このように天才ウェイ=クビンが「魔」のエメラルドを利用した不老不死(ストップ)を実現する(「ウェイ=クビン論」6.(8)を参照)およそ900年前に、(ウェイ=クビンの目指した不老不死とは違う形であるが)その天才は不老不死を実現させていたのである。
 

 しかしながら、その天才がその道具・技法を表に出すことはなかった。
 なぜなら、彼にとってそれは明らかに失敗だったからである。
 と言うのは、おそらく開発の際に上手く調合するために「吸血こうもり」のエキスのようなものが必要不可欠だったのだと思われるのであるが、そのエキスの影響が道具・技法の利用者にも色濃く出てしまったのである。

 第一の影響は「血を吸う」を受け継いだことである。
 ヴァンパイアは周りから「邪」のエネルギーを吸収できるので血を吸ってエネルギー補給をする必要は無いが、「血を吸う」ことで犠牲者を自らの僕(ヴァンパイアの僕)にすることができるのである。
 #ロマ1には「血を吸う」を使用するこうもりは登場しない。おそらく「吸血こうもり」は大こうもりの亜種でレアな存在である。

 第ニの影響は妙に大こうもりに懐かれるようになったことである。
 有翼系の大こうもりについて「ヴァンパイアに使役されており、体は主人の爪の色と同じ薄紫色をしている。主人の法力で、命令は絶対に従う使い魔となってしまっている。」(大事典)と説明されているように、懐いてきた大こうもりはヴァンパイアの従順なペットになっている。

 以上の二つの影響については、その天才の想定外の効果であったが、まだ許容範囲ではあった。
 ところが、次に述べる第三の影響がその天才には到底受け入れられるものではなかったのである。
 そんな天才を絶望させた第三の影響とは・・・翼が生えてしまったことである。
 厳密には、翼が生えただけならその天才の許容範囲であったが、翼が生えたためにヴァンパイアは空を飛ぶことができるようになってしまったことが大問題であった。
 「飛行能力も備えているならばそれはむしろ歓迎されるべきことではないか?」と思うかもしれないが、ロマ1の世界では飛行能力を持つものは「麻痺属性耐性を持つ」のである。(「モンスター論」3.を参照)
 つまり、それは邪術「デスハンド」を無効にしてしまうことを意味するのである。
 #ヴァンパイアは麻痺属性耐性と即死属性耐性を持つのでデスハンド完全に無効する(麻痺属性耐性でダメージを無効にし、即死属性耐性で「動けない」を無効にする)。
 その天才は、ヴァンパイアが即死属性耐性を付与されたことについては、デスの「邪」のエネルギーに基づいた贈り物と捉えたが、麻痺属性耐性を付与されたことについては崇拝するデス様への背信的な特質と捉えたのである。
 #オブシダンソードと同様に、その天才にとっては意図しない欠陥があったのである。(オブシダンソードの場合は強大な邪気に反応して使用者の精神状態を狂わせる。)
 このような理由により、その天才に開発されたヴァンパイア化する道具・技法は表に出ることなく封印された。
 

 それから、時が経ったAS200年頃(ロマ1の物語の舞台からおよそ800年前)、「冥府を説く」の信者の一人が偶然にもかつて天才が封印したヴァンパイア化する道具・技法を発見してしまった。
 そして、それが人間を超越できる道具・技法であることが分かると、その信者とその信者に同調する信者達が、ヴァンパイア化する道具・技法によってヴァンパイア化した。
 #ロマ1のゲーム内ではヴァンパイアは女性型の一体しか見当たらないにもかかわらず大事典に「外見は男も女も美しい」と説明されているのは、過去にはヴァンパイアが複数存在したからだと思われる。
 #現在ヴァンパイアが一体しか見当たらないのは、かつて北エスタミルを襲撃した際に、ヴァンパイア達はアムトの神官アグネスの聖杯の力で撃退され、封印されたことで、消滅はしていないものの、アムトの力が未だ健在であるため、まだ再生できていないのであろう。

 ヴァンパイア化した者達は人間を超越した力とデスに類似した特質を持ったことで、「冥府を説く」の信仰とは別の思想を持つようになった。
 それは「デスが去ったこの世界で、自分達がデスに取って代わる存在になる」というものである。
 ヴァンパイア達は圧倒的な力とデスに酷似した気配によってアンデッド達は服従させていった。
 こうしてヴァンパイアはマルディアスにおいて「800年もの間アンデッドの王として君臨」(大事典)する存在になったのである。

 一方で、ヴァンパイア達の驕った行動を快く思っていない者達がいた。
 それは、ヴァンパイアにならなかった「冥府を説く」の信者達である。
 ヴァンパイア達の「デスに取って代わってアンデッドの王になった」という行動は、明らかに自分達が崇拝する神デスへの背信行為なのである。
 しかしながら、「冥府を説く」の信者達ではもはや強大な力を手に入れたヴァンパイア達に太刀打ちできる術は無かった。
 そこで、「冥府を説く」の信者達はメルビルのエロール教神官に「古い道具の力で信者の何人かがヴァンパイアと化した。そして、ヴァンパイア達はメルビル侵攻を企てている」という情報を流したのである。
 #実際にヴァンパイア達がメルビル襲撃を企てていたかどうかは分からないが、力を蓄えたらいずれは襲撃していたことだろう。

 当時のエロール教神官達は、「古い道具で人間がヴァンパイア化したのは何かしらの呪いによるものではないか?」と考え、エリスとアムトの信者達に協力を要請し、呪いを打ち消すために「気」のムーンストーンを準備させた。
 #邪神封印戦争終結後にムーンストーンは二つの月の神殿に安置されたが、時折、呪いの除去のためにエリスとアムトの信者に持ち出されていた。(「ミニオン論V」2.(3)を参照)
 こうして、エロール教神官達とエリスとアムトの信者達からなるヴァンパイア討伐隊が編成され、討伐作戦が決行された。
 さすがのヴァンパイア達も弱点である光術、気術のエキスパート達の前に為すすべがなく、頼みの綱の超再生もムーンストーンの力で抑え込まれてしまたため、もはやヴァンパイア達は敗走するしかなかった。
 #「バファル帝国は騎士団につぐ歴史のある国だが、これまで1度も『冥府を説く』の襲撃を受けていない。一説では『サルーインの下僕』と『冥府を説く』が契約して、メルビルを狙わないようにしているという話もある。」(大事典)とあるが、上記の一件での恩義が理由なのかもしれない。
 

 それから、さらに時が経ったAS580年頃(ロマ1の物語の舞台からおよそ400年前)、ヴァンパイア達は未開の地フロンティアにいた。
 先の敗走後にこの地に隠れ住み、先の襲撃によって負った染みつくような傷を癒し、力を蓄えていたのである。
 #ムーンストーンの力を払拭して、再生能力が回復するまでに長い年月を要した。
 フロンティアに隠れ住んだというは、北エスタミルのパブの男の「昔、西から来たヴァンパイアがこの町を恐怖のどん底に陥れたんだ。その時、アムトの神官アグネスが聖杯を使ってヴァンパイアをやっつけたんだよ。」という台詞からの推察である。
 北エスタミルの「西」の方向は海をまたいでフロンティアである。
 しかし、ヴァンパイアは空を飛んだとしても、アンデッド軍団が海を渡れたとは考えにくい。
 ではどうして「西」なのかというと、これはおそらく南エスタミルから見て西なのである。
 ヴァンパイアが襲撃したAS580年頃はエスタミル王国の時代で、エスタミル王国は「ボガスラル海峡両岸の都市が連合して成立した」(大全集)国である。
 つまり、まずフロンティアから陸路でヴァンパイア率いるアンデッド軍団が南エスタミル地域を襲撃し、その後にそこから北エスタミル地域も襲撃されたのだと思われる。
 #なお、当時はまだエスタミル下水道が完成していないので、南エスタミルから北エスタミルへのアンデッドの運搬は南エスタミルに豊富にあった船を利用した。
 
 (基礎知識編, p.18の国・地域ガイドの地図を加工)

 回復するのに時間を要したが、ヴァンパイア達は再び力を取り戻していた。
 「400年前の復讐をする!」
 ヴァンパイア達は人間達に戦いを挑んだ。
 最初の標的はフロンティアから最も近かったエスタミル王国である。
 #エスタミル王国はAS520年に建国している。当時のクジャラートはまだ部族間の抗争の時代で、まだ国家として成立していない。(大全集)

 ヴァンパイア達はアンデッド軍団を率いてエスタミルを襲撃した。
 その猛攻はエスタミルの人々を恐怖に陥れた。
 そんな中、赤い月の女神アムトから聖杯を授かったアムトの神官アグネスが、聖杯の力でヴァンパイア達とアンデッド軍団を撃退する。
 デスをも弱体化させるアムトの力により、デス由来の力を持つヴァンパイア達の超人的な力と超再生が抑え込まれてしまったのである。
 こうして消滅するまでには至らなかったものの再生できずにいるヴァンパイア達(おそらく灰のような状態になっている)は、アグネスによって彼らの隠れ住んでいたフロンティアの奥地に封印されたのでした。
 -----------------------------------------------------

 以上のようにヴァンパイアの正体について仮説を立ててみた。
 このような仮説をもとにヴァンパイアが「邪悪な存在でありながら光術を使用できる」理由について推察すると、「ヴァンパイアは人工的な道具・技法によって人間からモンスター化した特異な存在(人造モンスター)であるため、自然の理に反するような特性を持ってしまったから」であると考えられる。

(ii)ヴァンパイアの野望
 「幻」のアメジストが眠るとされる未開の地フロンティアにワイルは訪れていた。
 すると、ワイルのミニオンセンサーが一人の人物の存在を感知した。
 それが400年前にアムトに撃退されたものの、長い年月をかけてようやく姿かたちを再生することができた一人のヴァンパイアであった。

 ミニオンセンサーは「権力があり、かつ野望を持っている人物」を感知するのであるが、どうしてミニオンセンサーにヴァンパイアが感知されたのかについて整理しておく。
 まず、ヴァンパイアは権力を持っているのか?
 ゲーム内ではヴァンパイアの僕を従えている程度で権力があるようには見えないかもしれないが、(i)でも述べたようにヴァンパイアは「800年もの間アンデッドの王として君臨」している(大事典)存在であるから、アンデッドモンスター達の中では権力を持っているのである。
 ただし、(i)の推察からすると、800年前にアンデッドの王として君臨したものの、それ以降のほとんどの期間は2度の敗北の療養に使われたり、封印されていたりしたために、実際に王としての活動はできていなかったと思われる。
 #アンデッドの王としての活動ができていたならば、もっと歴史の表舞台にヴァンパイアの恐怖エピソードがあったはずである。
 

 次に、ヴァンパイアの持つ野望とはどんなものか?
 大事典にはヴァンパイアの封印されている洞窟について、「AS580年頃に、アムト正派教団の神官アグネスによって封印された洞窟。最下層には昔と変わらぬ姿のヴァンパイアが、結界に縛られながらも復讐の時を待っているといわれる。」と説明されている。
 このようにヴァンパイアは「かつての敗北の復讐をする!」という気持ちをずっと抱え続けているのである。
 (i)で述べたヴァンパイアの過去も考慮すれば、「アムトの力から解放されることで、未だに再生できていない同胞達を復活させるとともに、抑え込まれている自分達の力を取り戻す。そして、人間達に復讐し、ヴァンパイアの支配する世界を作る。」というものがヴァンパイアの野望であろう。
 #先に述べたように、ゲーム内で実際にヴァンパイアと戦ってみるとその弱さに唖然とさせられるが、ヴァンパイアの名誉のために言っておくと、本当は常軌を逸した身体能力・術法能力・再生力を持っているヴァンパイアであるが、アグネスが施したアムトの力が作用する結界の力によってそれらが全て抑え込まれてしまっているために弱体化してしまっているのである。
 #エリスとアムトの力でデスの力が封印されているように、デス由来の力を持つヴァンパイアもエリスやアムトの力で封殺されてしまう。
 

 最後にもう一点、これまでのミニオン論で示したようにミニオンセンサーとはミニオンにとって都合の良い人間(テオドール、マチルダ、ハルーン等)を感知するための機能であった。
 では、どうしてモンスターであるヴァンパイアがミニオンセンサーに感知されたのか?
 それは(i)で述べた通り、ヴァンパイアは人工的な道具・技法によって人間からモンスター化した特異な存在(人造モンスター)であるため、モンスターの性質だけでなく人間の性質も併せ持っていたからであろう。

(iii)ヴァンパイアの依頼
 一人静かに力の回復に勤しむヴァンパイアの前にワイルは表れ、彼女の野望に協力することを申し出た。
 ワイルはヴァンパイアにアンデッド軍団を率いらせることで、フロンティアを混乱に陥れようとしたのである。
 ところが、ヴァンパイアはアムトの神官アグネスの施した結界に縛られているために(大事典)、封印の洞窟から出ることができず、アンデッド軍団を率いて侵攻することは今はできないと言う。
 それ故に、ヴァンパイアはワイルにアムトの結界を壊してくれるように懇願した。
 しかしながら、さすがのワイルも赤い月の女神の結界を破壊することは容易なことではない。

 しばらく考えた後にワイルはヴァンパイアに尋ねた。
 「結界を壊すのは難しい・・・だが、アムトの力が弱まれば結界も弱くなるはず。・・・世界が荒廃すれば、再び神々が姿を現すに違いない。その時には我が主がアムトを討ち取ってくださるだろう。そのためには、この地方を荒らさなければならないが、今のあなたにできることはないですか?」
 その問いに対してヴァンパイアは答える。
 「・・・この場所からアンデッドを指揮することはできないけど、我が僕ならばこの場所からでも操ることができるわ。」
 こうしてヴァンパイアはアムトの力から解放されるためにワイルと結託することを決め、ヴァンパイアの僕によるフロンティア侵攻作戦に着手したのである。
 #上記のヴァンパイアが「この場所からアンデッドを指揮することはできない」と言っているのは、ヴァンパイアがアンデッドを支配できていないからではなく、アンデッドに複雑な命令を実行させることが難しいからである。ヴァンパイアがアンデッドを率いてその場で命令をすれば何も問題ないが、例えば「お前達でウエストエンドの町を壊滅させて来い!」と命令したとしても、アンデッドの知能ではその実行は難しい。
 そして、フロンティア侵攻作戦の決行のためにヴァンパイアはワイルに二つの依頼をしたのであった。

 第一の依頼は、自分達をかつて苦しめた二つの道具、即ち800年前に敗北した際の「気」のムーンストーンと400年前に敗北した際のアムトの力が秘められた聖杯の抹消である。
 あれらが無ければ光術や気術によって深手は追ったとして、超再生によりヴァンパイア達が勝利していたはずである。
 しかしながら、ワイルは「闇」のブラックダイアを破壊した際に自身の幻影を失った過去がある。
 そこで、それらを破壊することはできないが、人間の手には渡らないようにすることを約束した。
 ゲームにおいて聖杯を持った状態でヴァンパイアと話した際の「げっ・・・!そ、それはアグネスの聖杯!それでは話が違う!聖杯には誰も近づかせないという約束で目を覚ましたのにー!」という台詞は、ヴァンパイアからワイルへのこの依頼が破られてしまったことによるものなのである。
 

 この依頼に対してワイルは、まず「気」のムーンストーンについては東方担当のストライフが獲得計画を進めているので(「ミニオン論V」を参照)、ストライフに任せることにした。
 次に聖杯については、サルーイン教団クジャラート支部に聖杯の所在を調べるように命令した。
 その結果、ゲーム内では「昔、西から来たヴァンパイアがこの町を恐怖のどん底に陥れたんだ。その時、アムトの神官アグネスが聖杯を使ってヴァンパイアをやっつけたんだよ。」という台詞は聞けるものの、具体的な所在の情報を聞くことはできないが、エスタミル下水道のカタコームについて「実はこの墓地のどこかに、ヴァンパイアを封印したアグネスの聖杯が眠っているらしい。」(大事典)と解説されているように、「聖杯がカタコームにある」という噂はあるようなので、サルーイン教団員はその情報を入手することができた。
 そこで、ワイルが聖杯を回収しようとカタコームに行ってみると、「片隅にあるカタコームは、今やアンデッドの巣窟となっていて、うかつに近づいたものは殺されるであろう。」、「『アムト正派教団』が管理するのを断念するまでに増加した、アンデッド達を作ったのは『冥府を説く』である。」(大事典)と説明されているように、カタコームは既に「冥府を説く」によってアムト教神官達ですら近づくことができないほどのアンデッド達の溢れる危険な場所になっていた。
 それ故にワイルは「もう自分が手を出す必要は無い」と判断して、そのままカタコームを後にしたのだった。
 

 そしてヴァンパイアからワイルへの第二の依頼は、ヴァンパイアの僕にするための人間の調達である。
 ヴァンパイアの僕について大事典には次のように説明されている。
 「ヴァンパイアに血を吸われた者の成り果てた姿。最初本人たちは大した自覚は無く、血を少量欲するだけだった。しかし、徐々にヴァンパイアのウイルスに侵されて、人間性を失ってゆく。そうなってしまったら、もう血を吸ったヴァンパイアの命令は絶対的。次々と町を襲って、新たな犠牲者を増やしていくのだ。」
 この説明によると、ヴァンパイアが「血を吸う」ことでヴァンパイアのウイルスが感染し、そのウイルスに侵されることでヴァンパイアの僕になるようである。
 #ゲーム内においてヴァンパイアが討伐されるとヴァンパイアの僕になった者は元に戻ることから察すると、ヴァンパイアのウイルスというのは風邪のウイルスやインフルエンザウイルスのような物的・生物的なものというよりは、バファル皇帝にかけられ奇病のような術的・呪い的なものなのであろう。

 このように人間をヴァンパイアの僕にするためにはヴァンパイアが直接「血を吸う」必要があるが、結界から出ることのできない現段階のヴァンパイアではヴァンパイアの僕にするための人間を自分では調達できないため、ヴァンパイアの僕によるフロンティア侵攻作戦を始めるためにはまず何人かの人間を調達してもらわなければならなかったのである。
 そして、何人かの人間をヴァンパイアの僕にすることができたならば、後はその僕たちに新たな犠牲者の調達をさせればいいのである。

 上記の推察に対して、もしかしたら疑問を持った方もいるかもしれない。
 「別にヴァンパイアの僕に人間を調達させなくても、ヴァンパイアの僕が人間を襲うことで新たな僕が増えていくのではないか?」と。
 確かに上記で示した大事典のヴァンパイアの僕の解説に、ヴァンパイアの僕が「血を欲して」「新たな犠牲者を増やしていく」と書いてあることから、そのように考えてしまうかもしれないが、おそらくそうはならないのである。
 と言うのは、以下にヴァンパイアの僕のステータスを示すが、
HP
159/160 13 13 13 13 13 13 13 0 13 4 × - -
- - - - - × - - -
1:通常攻撃5
術法:なし
 このようにヴァンパイアの僕は「血を吸う」という攻撃方法を持ち合わせていないのである。
 つまり、「血を吸う」ことによってのウイルス(呪い)が感染してヴァンパイアの僕になるのであるが、ヴァンパイアの僕は「血を吸う」ことができないので、ヴァンパイアの僕が新たなヴァンパイアの僕を作ることはできないということになるのである。

 実際、冒険者がヴァンパイアの封印の地に乗り込むと、ヴァンパイアは「また我が僕となるものがやってきたようね!」(ゲーム内の台詞)と歓迎ムードであるが、この台詞から「人間がこの洞窟に来るように予め計画されていた」こと、そして「既にここに来た人間がヴァンパイアの僕にされた」ことが伺える。
 #仮にヴァンパイアの僕が新たなヴァンパイアの僕を増やせるならば、もはやヴァンパイアが直々に「血を吸う」必要は無いので、歓迎ムードではないもっと別な台詞になっていたはずである。
 #なお、大事典のヴァンパイアの僕が「血を欲して」いるというのは、おそらく「血が飲みたい」という意味ではなく「血が見たい」衝動に駆られているということなのでしょう。
 

 この第二の依頼に対してワイルはまず手始めにウエストエンドの近くを歩いていた一人の女性(金髪女)を拉致して、ヴァンパイアに差し出した。
 その女性が今シーズン最初のヴァンパイアの犠牲者(今シーズン一人目のヴァンパイアの僕)である。
 #北の村の金髪女さんはゲーム内で出会うヴァンパイアの僕の中でも特殊な存在である。(本サイトの「■イベント概要」>「ヴァンパイア復活」>「北の村の金髪女?」を参照。)
 

 彼女は朦朧とする意識の中、気がつくと自分の住んでいるウエストエンド北の開拓村に戻っていた。
 その後、彼女は平穏な暮らしをしていたが、ウイルスの進行に伴ってヴァンパイアの声が聞こえるようになる。
 「人間達を連れてきなさい。」
 ヴァンパイアの命令には逆らえない彼女は村の人々を何かしらの美味しい話で誘い出し、ヴァンパイアのもとまで連れて行った。
 こうしてウエストエンド北の村の人々はヴァンパイアの僕と化したのである。
 #距離的にはヴァンパイアの洞窟に近いウエストエンド北東の村の人々がヴァンパイアの僕になっておらず、距離が遠い北の村の人々がヴァンパイアの僕となっているのは、上述したようにワイルが攫った一人目の人間がたまたま北の村の住人だったからである。
 

 ヴァンパイアに金髪女を差し出したワイルであったが、ちまちまと拉致・連行していては効率が悪いので、別の方法を取ることにした。
 それは、(2)(ii)で述べたハルーンからの依頼でサルーイン教団クジャラート支部に運営させている奴隷商人に、奴隷達をヴァンパイアのもとに送らせるというものである。
 その命令を受けた奴隷商人は「奴隷が大量に売れたから、フロンティアまで届けてくれ!」とアフマドから派遣されて来ているガードに依頼する。
 そして、ガードがヴァンパイアのもとまで奴隷達を届けると、奴隷達もろともガードもヴァンパイアの僕にされてしまったのであった。
 ヴァンパイアの洞窟でヴァンパイアの傍を徘徊するヴァンパイアの僕達が奴隷達の成れの果てであり、その中にいるクジャラート兵タイプのヴァンパイアの僕がガードの成れの果てである。
 

 このように推察をした理由は、ヴァンパイアを討伐することで南エスタミルを徘徊する物乞い少年達がいなくなるからである。
 ゲームのシステムとしては、「ヴァンパイア討伐に関わる聖杯の入手には物乞い少年に施すことによる慈善値の加算が影響するため、ヴァンパイアを討伐したらもはや物乞い少年は不要になるから消えた」と見ることができる。
 しかしながら、それではロマ1の世界の現実において、ヴァンパイアが討伐されると物乞い少年達がいなく理由、つまりヴァンパイアと物乞い少年達の関係を説明することはできない。
 だからこそ、奴隷達がヴァンパイアの僕にされたと見るのである。
 つまり、あのヴァンパイアの僕達は南エスタミルで拉致されて奴隷にされた者達で、親を拉致されてしまった子供達が物乞い少年になっているのである。
 しかし、ヴァンパイアが討伐されてヴァンパイアの僕化が解除されると奴隷達も自由になり、南エスタミルに帰ることができた。
 その結果、奴隷にされた親と物乞いをやっていたその子供は再会し、再び家族での生活が始まった。
 こうして南エスタミルから物乞い少年達はいなくなったのである・・・という表には出ない感動のストーリーがヴァンパイアイベントの結末にはあったのでしょう。

 最後にもう一点、ウエストエンドのパブで呑んでいる男が「村人が吸血鬼になっちまったらしい!確か東のほうに300年以上生きているヴァンパイアが住んでいるというな。」(ゲーム内の台詞)と語るのだが、この台詞には気になることが三つある。
 一つ、先に述べた通りヴァンパイアの僕は吸血鬼ではないにもかかわらず、どうしてそれを吸血鬼と呼んでいるのか?
 二つ、ヴァンパイアがアグネスに敗れたのはおよそ400年前なのに、どうして「300年以上」という表現をしているのか?
 三つ、ヴァンパイア達がフロンティアにいる期間はほぼほぼ療養・封印期間であったためずっと潜伏していたにもかかわらず、どうして「東の方にヴァンパイアの住処がある」ことを知っていたのか?
 #ゲーム内でヴァンパイアの隠れ住む「バンパイア」の地名を表示させることができるのはこの台詞だけである。
 

 不自然な点が多いので、「もしかしたらこの男はワイルの関係者で、ヴァンパイアのもとに人間を誘導するために情報を流しているのか?」とも疑ったのだが、どうもこの男はただの一般人らしい。
 というのは、クジャラートによってフロンティアの調査が始まったのが80年前のAS921年で(大事典)、開拓が始まったのがおよそ70年前のAS930年である(大全集)が、おそらく調査の際にヴァンパイアの住処を発見しているのである。
 80年前の調査時からすれば、アグネスによるヴァンパイアの討伐は「300年以上」前が適切であり、それが今も伝わっていると考えれば「300年以上」という表現にも納得である。
 また調査の際、少なくとも調査員の一人がヴァンパイアの「血を吸う」の犠牲になり、血を欲して襲ってきたのでしょう。
 その結果、「吸血鬼に血を吸われた調査員が血を求めて襲ってきた」ことが「吸血鬼に血を吸われた調査員も吸血鬼になった」と誤解されたままで現在に伝わっているのでしょう。

(iv)聖杯は奇跡を起こす
 (ii)においてヴァンパイアからの第一の依頼として聖杯の所在についても触れたので、もう少し深掘りしておく。
 ゲーム内ではエスタミル下水のカタコームのお墓を調べると聖杯を見つけるとができ、その際に「それを持ち、ヴァンパイアを滅するのです。アムトよ、この者達を守りたまえ・・・」(ゲーム内の台詞)というアムトの神官アグネスの声を聞くことができることから、私達は「聖杯の見つかったお墓がアグネスのお墓だったんだ。」と思うかもしれない。
 北エスタミルのパブにいる女性が「エスタミル王国時代のえらい人達は地下のカタコームに葬られているよ。クジャラート人は祟りを恐れて近づかないけどね。」(ゲーム内の台詞)と話すので、「えらい人」→「偉い人」→「偉人」・・・エスタミル王国時代にヴァンパイアを討伐・封印したアムトの神官アグネスは偉人だから確かにカタコームに眠っているのも納得であると思うかもしれない。
 果たして本当にそうなのだろうか?
 と言うのは、聖杯の所在については大きな疑問が二つあるのである。
 

 第一の疑問は「どうして聖杯はエスタミル下水のカタコームにあるのか?」ということである。
 確かにアグネスはエスタミルを救った偉人・・・「えらい人」とも考えられるが、北エスタミルのパブにいる女性が話す「王国時代のえらい人達」というのは文脈的に「エスタミル王国時代の王族や貴族」のことではないのだろうか?
 そして、第二の疑問は「どうして聖杯の入手できるお墓が固定ではないのか?」ということである。
 この問いは、慈善値というシステム面で聖杯の発見できるお墓が変わるという話ではなく、ロマ1の世界において「聖杯の見つかるお墓が変わるのはどういう原理になっているのか?」ということである。
 この二つの問いについて順に推察してみる。

 まず第一の問いについては、アグネスは確かに広義の意味では偉人であるが、彼女は宗教的な偉人なので「聖人」と見なされていたと考える方が適切でしょう。
 そして、私達の世界での話にはなりますが、聖人の遺体は「不朽体」と呼ばれ、「崇敬の対象」となり、「正教会においては、教会の宝座の下には不朽体を安置することが望ましい」とのことである。(wikipedia「不朽体」を参照)
 北エスタミルのアムト教団であるアムト正派教団(大事典)の実際のところは分からないけれど、同じような考えを持つとしたならば、アグネスの遺体はカタコームではなく北エスタミルのアムト神殿に安置されていると考える方が妥当ではないだろうか。
 北エスタミルのアムト神殿はアグネスがヴァンパイアを退治・封印した功績を讃えてエスタミル王が建造したもの(大事典)だという事実と併せると、よりいっそうその可能性が高くなるだろう。
 そして、当然、アグネスの聖遺物である聖杯もアグネスの遺体と一緒に安置されたのであろう。
 

 では、どうしてゲーム内では聖杯がカタコームで見つかるのか?
 おそらく、何年くらい前の出来事かは分からないけれど、デス教団「冥府を説く」がカタコームをアンデッドだらけにしてしまい、カタコームを管轄していたアムト正派教団は困ってしまった。(大事典)
 そこで、かつての奇跡の力(アグネスがヴァンパイアを封印した力)である聖杯の力にすがることにし、アムト神殿から聖杯を持ち出してカタコームのお墓に魔除けとして供えてみた。
 しかしながら、アンデッドの増加を抑え込むことはできず、結局、聖杯をカタコームに残したままで、「アムト正派教団はカタコームの管理を放棄することになってしまった」(大事典)のである。
 #この一件があったから、先に述べた「カタコームに聖杯が眠っているらしい」という情報・噂が流れるようになった。
 

 次に、第二の疑問については、安置場所がカタコームに移されたもののアグネスの意思は聖杯とつながっていた。
 聖杯の入手時に「それを持ち、ヴァンパイアを滅するのです。アムトよ、この者達を守りたまえ・・・」(ゲーム内の台詞)というアグネスの声が聞こえることから、アグネスはヴァンパイアの気配を察知していて、聖杯でヴァンパイアを退治してほしいという思いを持っているようである。
 そして、聖杯とともに、聖杯を託すにふさわしい人物を待っていて、聖杯を託すにふさわしいのかがまだ分からない人物が聖杯のお供えしてあるお墓を調べた場合には・・・「聖人アグネスの奇跡により聖杯のお供え場所が変わる!」のでした。
 ということで、聖杯で「奇跡の水」を使用できますが、聖杯の起こす奇跡はそれだけでなく、聖杯の見つかるお墓が変わるというのも「聖人アムトが死後にも聖杯で起こした奇跡」と言えるでしょう。
 

(v)ヴァンパイアの最期?
 ヴァンパイアの僕達に襲撃させることによってフロンティアの混乱を目論んだヴァンパイアであったが、冒険者の活躍によって今シーズンも敗北することになる。
 ヴァンパイアの僕にされた人々も元に戻り、この一件は全て解決した。
 ・・・ように見えるが、果たして本当にそうだろうか?
 再度述べるがヴァンパイアは「もし倒せても、周りのエネルギーを自分のものにして再生してしまうので、地中に封じるしか手がない」(大事典)存在なのである。

 800年前にエロール教神官達とエリスとアムトの信者達からなる討伐軍の猛攻と「気」のムーンストーンの力で大きな傷を受けたものの長い年月をかけて回復した。
 400年前にアムト教神官アグネスにアムトの力を秘めた聖杯で撃退されて結界の中に封印されても、長い年月をかけてようやく再生できた者が現れ始めていた。
 このように、邪悪な存在を滅する達人達と神由来の道具を用いても完全に消滅することができなかったヴァンパイア達を、果たして旅の冒険者が完全に消滅させることなどできるのだろうか?
 実際、聖杯入手の際に「それを持ち、ヴァンパイアを滅するのです。アムトよ、この者達を守りたまえ・・・」(ゲーム内の台詞)というアグネスの声が聞こえてくるが、この声は冒険者がヴァンパイアを討伐した後に聖杯を入手する場合であっても聞こえてくるのである。
 つまり、冒険者がヴァンパイアを討伐した後であっても、アグネスはヴァンパイアの気配を未だに感じ続けているということになるのである。
 

 「ヴァンパイアを封印から解いてしまうと、死者が出るだけでなく悪質な伝染病が大流行する恐れがあり、開拓団も頭をなやませているところだ。」(大辞典)と解説されているように、フロンティアの開拓者達はヴァンパイアの危険性を知りながらも、「ヴァンパイア地区の開拓は2年後に迫っている」(大事典)ようである。
 2年後に開拓団の手によって誤ってアグネスの施した結界が破壊されてしまった場合には、今シーズン退治されたヴァンパイアだけでなく、洞窟最下層の墓に眠る多くのヴァンパイア達も復活し、今まで抑圧されていた力を開放して人間達への復讐を始めることでしょう。

(4)第三の矢:暗殺集団アサシンギルドの復活
 未開の地フロンティアに眠るとされる「幻」のアメジストを炙り出すために西部方面を混乱に陥れることを企んだワイル。
 その目的を達成するためにワイルはタルミッタの西に密かに存在する廃墟に訪れていた。
 そこはかつてクジャル族の人々を恐怖に陥れた暗殺集団アサシンギルドのアジトであった場所である。

(i)ワイルによるアサシンギルドの復活
 アサシンギルドについて盗賊ギルドの構成員は次のように語る。
 「クジャラート人がまだ小さな部族に別れて争っていた頃、影の支配者だったのがアサシンギルドだ!奴らはその名の通り暗殺者の集団で、力と恐怖で人々を支配していたんだ。300年前、クジャラートが一つの国になった時、アサシンギルドは壊滅した。」(ゲーム内の台詞)
 このようにアサシンギルドは300年前に既に壊滅していて、もはやその意志や技術を引き継ぐ者など存在していなかった。
 実際、ゲーム内で旧アサシンギルドに関連する人物を目にすることは無いし、関連文献にもそういった記述は一切無い。
 

 しかしながら、アサシンギルドがかつてクジャラートの人々を恐怖に陥れたのは事実であるし、その恐怖が300年経った今でも語り継がれているのも事実である。
 そこで、ワイルはその恐怖の記憶を利用することにした。
 即ち、サルーイン教団クジャラート支部をアサシンギルドに見立てて暗躍することで、クジャラートを混乱に陥れようとしたのである。

 復活したアサシンギルドについて「再び殺人と誘拐で世間を惑わすようになった。」(大全集)と説明されていることから、旧アサシンギルドが行っていたことは主に殺人と誘拐だと思われる。
 一方で、「ミニオン論V」2.(1)で言及したように、現在のサルーイン教団のが行っていることは、
 ・「平和教団の名を偽って一般市民に近づき、いつの間にか洗脳してしまう。」というキャッチセールス的な勧誘活動
 ・「依頼を受けて、呪殺を請け負う。」という恨み屋本舗的な復讐代行業
 ・誘拐してきた一般人をサルーインに生贄として捧げることによる自己鍛錬活動
 以上のようなものであり、殺人と誘拐も行っているのである。
 このことから、ワイルはサルーイン教団がアサシンギルドに成りすますことは十分に可能であると考えたのである。
 こうしてワイル率いるサルーイン教団クジャラート支部の構成員によるアサシンギルドを騙った活動が開始された。
 #復活したアサシンギルドについて「なりをひそめていたが、邪神サルーインの息のかかった組織として復活」(大全集)、「南エスタミルの暗黒街に勢力を広めようとしていたが、その背景には、サルーイン教の陰謀があったという噂が流れている。」(大事典)と説明されるのは、ワイルが騙った組織だからである。
 

 思惑通り、誘拐についてはサルーイン教団の人攫い達や奴隷商人の依頼で動くガード達によってプロフェッショナルの仕事がなされた。
 ところが一方で、暗殺・殺人については大きな問題があることが発覚したのである。
 それは、サルーイン教団の暗殺・殺人方法は「呪い」によるものであるため、明らかにかつてのアサシンギルドが行っていた直接的な暗殺・殺人方法とは異なっていたのであった。
 これではクジャラートの人々にアサシンギルドの犯行だと思い込ませることができせん。
 そこでワイルが考えたのは、人攫いに攫われてきた人達や奴隷商人に捕まっている奴隷達を暗殺者に仕立て上げることであった。

 ワイルは教育熱心で、攫われてきた人達や捕まっている奴隷達に一から暗殺術の基礎を徹底的に教え込み、毎日訓練に明け暮れさせた・・・訳は無く、ワイルがとった手法は手っ取り早く邪術によって操り人形にするものであった。
 邪術アニメート・・・「瀕死の重傷を追って気絶している相手に乗り移る。」、「意識のない肉体を邪悪な霊で満たし、操作する。」(大事典)、「気絶状態の者にのみ有効な術法。標的の肉体を自在に操り、自分の分身として戦闘させる。」(基礎知識編)と説明される術法である。
 ゲーム内では、気絶した者(主人公)を状態異常「マリオネット」にして、味方を武器欄1に装備した武器で攻撃させる効果がある。
 そして、この術法は以下で示すワイルのステータスを見れば明らかであるが、
HP
7301/7373 84 84 84 84 84 84 84 0 84 4 - - -
- - - - - - × - - - -
1:通常攻撃14
邪:50/50/127(アニメート、イーブルスピリット、アゴニィ、ポイズンガス)
 邪術アニメートはワイルの最も得意とする術法(使用率の高い術法)なのである。
 つまり、ワイルは「腕力84の拳で相手を殴って気絶させる」→「邪術アニメートでマリオネット状態にする」の2ステップで、即席アサシンを量産していったわけである。

 実際、南エスタミルの宿屋で冒険者に襲ってくるワイルの作った即席アサシンのステータスは以下のようになっているのであるが、
HP
497/500 30 30 30 30 30 30 30 30 30 4 - - -
- - - - - - - - - - - - - - - -
1:アクス7(トマホーク、円月斬)
術法:なし
 襲ってくる敵でありながら「愛」のステータスが0ではないのは、一般人が邪術アニメートでただ操られているからに他ならない。
 #ロマ1の敵で「愛」の値が0では無いのは、アサシン、(アサシン)ダウド、(愛の女神アムトの使徒)アルムアムトだけである。

 冒険者の仲間にダウドがいる場合は上記のアサシンが襲ってくるが、仲間にダウドがいない場合は以下で示すダウドが襲ってくる。
HP
497/500 30 30 30 30 30 30 30 30 30 4 - - -
- - - - - - - - - - - - - - - -
1:アクス7(トマホーク、円月斬)
術法:なし
 このようにアサシンとダウドのステータスは全く同じであるから、同一人物なのかと疑いたくなるが、この二人は別人である。
 実際、ダウドを返り討ちにするとダウドが死亡扱いになる(ダウドの居場所数値がDになる)が、アサシンを返り討ちにしてもダウドは死亡扱いにはならない(ダウドの居場所数値がDにはならない)。

 別人の二人が全く同じステータスのアサシンになっていることから、ワイルの邪術アニメートには身体能力強化のような効果もあるように思うかもしれないが、あくまで邪術アニメートの効果は操ることだけであって、操った後のステータスは元のステータスのままである。
 つまり、この二人はもともと同じ(ような)ステータスであり、このステータス帯のアサシンが冒険者を狙うように派遣されてきただけにすぎない。
 一方で、即席アサシンと化したファラの母親と戦闘にならないのは、元のステータスが弱すぎて、戦闘態勢に入るまでもなかったからである。
 

 このように邪術アニメートによって造られた即席アサシンは簡単に量産できるものの、それらのステータスには個体差があり、(ワイルにとっては)欠陥品も多くできてしまったと思われる。
 それだけでなく、即席アサシンにはワイルにとってさらに都合の悪い欠点が存在した。
 それはマリオネット化が解除されて意識が戻ってくると、うっかりとアサシンギルドの秘密を口走ってしまいかねないことである。

 今はの際にアサシン(もしくはダウド)は声を漏らした。
 「・・・ギルド・・・万歳・・・。・・・痛いよ。死にたくないよ!・・・。・・・タルミッタの・・・西に・・・。」(ゲーム内の台詞)
 前半の「ギルド万歳」はアサシンギルドの存在を知らしめられるので問題ないが、意識が戻って来た際の後半の「タルミッタの西」という一言はいただけない。
 盗賊ギルドの構成員が「アサシンギルドの本拠地が分からねーんだ。」(ゲーム内の台詞)と話すように、アサシンアジトのアジトの所在は不明な状況であったが、結論から言えば、この一言を漏らしてしまったために、アサシンギルドのアジトの所在が発覚してしまい、復活したアサシンギルドの崩壊につながってしまったのである。
 #同様に、アサシンファラ母も「ギルド万歳」で終わらずに、意識が戻って「タルミッタの西」という情報を漏らしてしまう。
 

 一方で、サルーイン教団所属の人攫い達はプロフェッショナルである。
 冒険者に拉致を阻止されても、「クジャラート、ばんざ・・・い・・・!」と言って息絶える。
 つまり、2.(2)(ii)で述べたように、人攫いはサルーイン教団の構成員(さらに言えば、アサシンギルドの構成員)であるが、「クジャラート万歳!」と言って死ぬことで、拉致の実行犯がクジャラートの国粋主義者(即ち、ハルーン一派)であると誤解させ、罪を擦り付けることができるのである。
 拉致に失敗してもただでは死なない!・・・人攫い達の死に様からはそんなプロ意識が感じられるのでした。
 

(ii)アサシンギルドのアジトは何処だ?
 ところで、どうして盗賊ギルドの構成員は「アサシンギルドの本拠地が分からねーんだ。」(ゲーム内の台詞)と話すのだろうか?
 と言うのは、アサシンギルドは300年前にクジャラート王国によって壊滅させられたのだから、壊滅させられる際にアジトの場所が発覚しているはずだからである。
 

 もしかしたら、ワイル率いるアサシンギルドのアジト(タルミッタの西)と旧アサシンギルドのアジトの場所は違うのかもしれないので、まずは新アサシンギルドと旧アサシンギルドでアジトの場所が違うのかについて推察してみる。
 以下に新アサシンギルドのアジト(左)とタルミッタのセケト宮殿(右)の画像を示す。
 
 比較してみると、絨毯の模様や石柱、建材などそっくりであることが分かるだろう。
 つまり、これは新アサシンギルドのアジトもセケト宮殿と同様にクジャル族の建造物であることを意味するのである。
 ワイルが新アサシンギルドを発足するにあたって、わざわざクジャラートの人達にクジャル文化の建築様式でアジトを新たに建造させたとは到底考えられないので、新アサシンギルトのアジトは旧アサシンギルドのアジトをそのまま再利用していると考えて問題無いだろう。

 では、どうして盗賊ギルドの構成員はアサシンギルドのアジトの場所を知らないのか?
 その理由は、おそらく盗賊ギルドのルーツがクジャル族系ではなくエスタミル系だからであろう。
 300年前にアサシンギルドを壊滅させたのはアイルザックス率いるクジャラート王国であったから、アサシンギルド壊滅に関わる情報が記録された書物は全て当時の首都タルミッタに保管されていると思われる。
 一方で、盗賊ギルドの発祥はエスタミル王国もしくはクジャラートに支配された後の南北エスタミルであると思われるので、クジャル族がタルミッタで保管している情報にアクセスすることができなかったのである。
 このような理由から、現在に至るまで盗賊ギルドにアサシンギルドのアジトの情報が伝わることが無かったのだと思われる。

(iii)死亡ダウドのアサシン化
 冒険者の仲間にダウドがいない場合には南エスタミルの宿屋で即席アサシンと化したダウドに襲われるのであるが、「冒険者の仲間にダウドがいない場合」であるから、ダウドの命をデスに捧げてダウドが既に死亡している(ダウドの居場所数値がDになっている)場合にも即席アサシンダウドが襲ってくることになる。
 さて、この場合にはどういう経緯でダウドはアサシン化したのであろうか?
 つまり通常の場合は南エスタミル辺りにいたところを拉致されて即席アサシン化したのであろうが、デスに命を捧げて死亡している場合には冥府に死体が転がっているはずなのである。
 

 第一の可能性として、誰かがデスにお願いをしてダウドを生き返らせてもらったのであろうか?
 前例として、通り魔に強盗殺人をされた人物がデスに生き返らせてもらったという事例がある。
 いや、その生き返らせてもらった人物は「神に選ばれし者」だったから生き返らせてもらえただけで(「ミニオン論U」2.(5)を参照)、一般人は一度死亡すると生き返らせてもらえないのである。
 従って、ダウドがデスに生き返らせてもらえたということはないだろう。

 次に、第二の可能性としてアニメートの効果に着目してみる。
 大事典には、エスタミル下水道のカタコームについて興味深いことが記述されている。
 「『アムト正派教団』が管理を断念するまでに増加した、アンデッド達を作ったのは『冥府を説く』である。彼らは墓の一つ一つに闇の術法アニメートをかけ、仮そめの生命を与えているのだ。」(大事典)
 「仮そめの生命を与えている」・・・仮そめ(一時的)であったとしても、死者に生命を与えているのである。
 これで一時的にではあるもののダウドを生き返らせたのであろうか?
 

 ・・・ちょっと待ってほしい。
 邪術アニメートは「気絶」している者にのみ効果ある術法だったはずである。
 エスタミル下水道のカタコームに埋葬されているのはエスタミル王国のえらい人達だから、墓に眠っている死者の多くは100年以上前に亡くなっている人達なのである。
 #実際、ゲーム内において状態異常「死亡」の者(主人公)に邪術アニメートは効果が無い。
 では、どうして「冥府を説く」はアニメートで死者をアンデッドとして蘇らせることができたのであろうか?

 ・・・もう一度、上記の大事典の解説文を読み直してほしい。
 「闇の術法アニメート」
 私達の知っているアニメートは邪術であるが、「冥府を解く」が使用したアニメートは「闇の術法」、即ち闇術なのである。
 その術法は私達の知っている闇術8種には存在しないが、「冥府を説く」が使用しているわけなので、確かに存在するのでしょう。
 そして、その効果は「死亡している者に仮そめの生命を与えて復活させる」というものである。
 #風術ライトニングとハルーンの使用するライトニングが同じ名前で効果が異なっているのと同様である。
 #ハルーンが気術ライトニング(活殺開孔波)を独自開発したように、「冥府を説く」は自分達の目的に応じて闇術アニメートを独自開発したのでしょう。

 そして、実はアサシンギルドでワイルがペットとして引き連れているフローズンボディは、「ミニオンによって巨人の死体がゾンビ化したモンスターで、身体が氷のように冷たくなっている。ミニオンの身体から発する邪気なしには生きられないので、常に彼の傍近くに控えていなければならないのだ。研究段階だった術法を使ったため、能力は生前の巨人よりも格段に下がっている。」(大事典)と説明されているのである。
 つまり、「冥府を説く」が使用した闇術アニメートと全く同じものなのかどうかは分からないけれど、それに類似した術法をどうやらワイルも使用できるようなのである。
 #「仮そめ(一時的)の生命」であるが、邪術使いで製作者であるワイルの邪気を吸収することで生きながらえている。
 #「研究段階の術法」であるため、一般には知られていない。
 

 では、ワイルもしくは「冥府を説く」が闇術アニメートを使用してダウドを生き返らせたのであろうか?
 まずワイルが生き返らせる場合には、冥府でデスの前に転がっているダウドの死体を遠路はるばるクジャラートのアサシンギルドまで運ぶか、ワイルが自ら冥府に足を運ぶか、そういったことをする必要がある。
 しかしながら、別に特別な死体ではないダウドに対してわざわざ労力をかけてそのようなことをするとは考えられない。
 従って、ワイルによって生き返らされた可能性はほぼほぼ無いだろう。

 次に「冥府を説く」の場合は、「冥府を説く」の信者は冥府に自由に出入りすることができる(大事典)ので、ダウドの死体が転がる冥府のデスのもとまでいくことはできる。
 しかしながら、デスの前に転がっているダウドの死体に手を出すということは、崇拝するデスに捧げられた供物を奪うという背信行為に他ならないのである。
 従って、「冥府を説く」によって生き返らされた可能性も無いであろう。

 最後に、第三の可能性としてダウドの「恨み持つ死者」化について考えてみる。
 ゾンビ系モンスターの「恨み持つ死者」について大事典には次のように解説されている。
 「恨みというものは、負のパワーを簡単に増幅させることができる。悪魔たちは、邪神に負のパワーを捧げるため、現世に恨みを残した魂を操り、モンスターに生まれ変わろうとしている。」
 #素直に読むと、「悪魔がモンスターに生まれ変わる」となるが、悪魔はモンスターではないのか?ヴァンパイアの解説には「神、邪神、そして悪魔のどれにも属さないモンスター。」(大事典)と書かれているので、悪魔はモンスターに属すはずである。私見としては、正しくは「(死者を)モンスターに生まれ変わらそうとしている。」ではないかと思う。いずれにせよ、恨み持つ死者は悪魔たちの関与で誕生するのは確かである。

 そして、「俺・・・役に立たないから、行かないほうがいいと思う。」、「・・・本当はエスタミルから出たくないんだ・・・。一緒に行きたくない・・・。」(ゲーム内の台詞)と懇願したにもかかわらず、無理やり引きずり出されて、挙句の果てにはデスへの生贄にされて、その生涯を終えたダウド。
 間違いなく兄貴分のジャミルのことを恨んでいたはずである。
 

 デスの眼前に転がるダウドの恨みはすさまじく、その強大な恨みは、即座に悪魔たちを呼び寄せた。
 そして、悪魔たちの力により、現世に(ジャミルに)恨みを残したダウドの魂は操られ、恨み持つ死者として復活したのである。
 その復活の早さはデスをも驚かせるものであった。
 通常の恨み持つ死者のステータスは以下のようなものであるが、
HP
897/904 24 28 30 24 22 26 26 0 28 44 × - -
× - - - - × - - - - - -
1:レイピア10(睡魔剣、円舞剣、幻夢剣)
闇:26/26/7(ホラー、ダークネス)
邪:26/26/7(アゴニィ、ポイズンガス)
 ダウドは死後すぐさま恨み持つ死者と化したため、死体の鮮度がよく、一般的なアンデッドが持つ特徴(耐性や弱点など)をまだ持っていないようであった。

 恨み持つ死者ダウドは帰巣本能で南エスタミルを目指した。
 体の鮮度がよかったので、道中では誰にも疑われることもなく、乗船することも容易であった。
 そして、無事に南エスタミルに帰郷したのであるが、運悪くアサシンギルドの構成員に拉致されてワイルのもとに届けられた。
 邪術アニメートが効かないことでワイルはダウドの異常、即ち既に死亡していることに気付く。
 ダウドを恨み持つ死者のままにしておいてもよかったが、せっかく配下が届けてくれた即席アサシンの材料なので、闇術アニメートを上がけして即席(アンデッド)アサシンダウドにしたのであった。
 ダウドをデスへの生贄にしてから南エスタミルの宿屋でダウドに襲われた際のダウドの居場所数値は当然Dなので、「死亡」しながらも襲ってきていることになるから、上述のような展開ならば筋が通ることになるのである。

 ということで、一度はワイルが闇術アニメートでダウドを蘇らせた可能性を否定したものの、ダウドが恨み持つ死者化して冥府を抜け出し、南エスタミルに戻ってきたために、結局はワイルの闇術アニメートによって即席(アンデッド)アサシン化したという結論に落ち着いたのでした。

(iv)アサシンギルドの暗躍と語られぬ助っ人の存在
 ワイルによるアサシンギルドを騙った暗躍は、何やかんやで上手く進み、クジャラートの人々に恐怖の記憶を思い起こさせていた。
 実際、「アサシンギルドは壊滅した。・・・はずだった!だが、奴らが帰ってきやがった!奴らは裏の世界も表の世界も人殺しでしきるつもりだ!」(ゲーム内の台詞)と話すように、盗賊ギルドの構成員達はすっかり騙されているようである。
 

 ワイルを長として、サルーイン教団とその構成員の人攫いや奴隷商人、そしてワイルによって造られた即席アサシン、さらには南エスタミルを徘徊していた強盗達もおそらく末端構成員として加ながら、新アサシンギルドは組織の規模を拡大していった。
 #南エスタミルの強盗達は、アサシンギルドの活動が活発化する624回の時間経過の前の、448回の時間経過で町からいなくなる。おそらく、アサシンギルドに攫われたかスカウトされたのであろう。
 ところが、発足当初は順風満帆に計画が進んでいたものの、徐々にワイルのもとに届く計画の失敗報告の量が増え始めたのである。

 さて、皆さんはロマ1をプレイしていてミニオンの台詞に違和感を持ったことはないでしょうか?
 具体的には、アサシンギルドでワイルが話す
 「お前達!サルーイン様の復活を阻止しようとしているらしいが本当か!?ならば容赦はせんぞ。」
 という台詞と、メルビルの地下神殿でストライフが話す
 「その者達を殺せ!サルーイン様の復活を阻もうとする奴だ。必ずしとめろ!」
 という台詞である。
 つまり、「冒険者ってミニオン達に目をつけられるほどサルーインの復活を阻止しようとするような活動をしていたのか?」ということである。
 ロマ1はフリーシナリオのため、サルーインの復活の阻止につながるようなイベントにかかわることなく冒険を進めることもできる。
 そして、そのように進めたとしても、ミニオン達は上記のように冒険者のことを敵視してくるのである。
 従って、この事実から一つの可能性が見えてくる。
 もしかしたら、冒険者とは別に世界の各地でサルーインの復活を阻止する活動を行っていた人物が存在するのではないだろうか。
 

 マルディアスは広い。
 冒険者が行くことができなかった場所、会えなかった人達、知らないところで起きていた事件、等々・・・冒険者がマルディアスの全てを網羅して冒険を進めていたわけではないだろう。
 例えばアサシンギルドの活動ならば、盗賊ギルドがその存在を確信するような事件、即ちクジャラートの要人の誘拐や暗殺、盗賊ギルドへの襲撃といった事件が冒険者の知らないところで起こっていたはずである。
 そして、メルビルのサルーイン秘密神殿で行われていたようなサルーイン教団による生贄の儀式もたまたま冒険者は一事件にしか関わっていないが、その一件以外にも世界各地で行われていたはずである。
 そうしたサルーイン教団の活動、即ちサルーインの復活に関わるような活動を意図的に阻止しようと行動していた人物がいるのではないだろうか。

 さらに言うと、冒険者はその謎の人物のことを知らないが、その謎の人物は冒険者のことを知っていた。
 知っていたから各地でサルーイン教団の活動を阻止した際には、何らかの手段により意図的にその事件を解決したのが冒険者だとサルーイン教団関係者に誤解させるようしていたのである。
 それ故に、冒険者はワイルやストライフに身に覚えのない難癖をつけられることになったのである。
 南エスタミルの宿屋での即席アサシンの襲撃も決してたまたまではなく、上記の難癖で言われている誤解のために、ワイルに派遣されて来ているのである。

 では、その謎の人物とは一体何者なのか?
 推察であるが、マルディアスに残っているエロール一派の神々は、マルディアスに何らかの形で干渉している。
 ・ハオラーンとして世界を放浪しながら、世界を救う素質のある人物を導く太陽神エロール。
 ・砂漠の地下で「土」のトパーズとともに「世界に生きる全てのもののチャンピオン」を待つ豊穣の女神ニーサ。
 ・イナーシーに充満する邪気を嵐で散らしている海の神ウコム。(「ウェイ=クビン論」を参照)
 ・迷いの森の大きな木・・・森の神シリル。
 ・銀狼シルベン・・・銀の月の女神エリス。
 ・デスやヴァンパイアの力を抑制している赤い月の女神アムト。
 そして・・・正義の神ミルザである。
 

 もしかしたらミルザは地上に降りて、サルーインの復活を阻止する活動を行っていたのではないだろうか。
 その際、エロールならばハオラーン、シリルならば大きな木、エリスならばシルベンというように、神々は仮の姿で地上に降りなければならなかったために、ミルザは冒険者の姿を借りることにした。
 なぜ冒険者の姿を借りたのかと言えば、エロールが「神々とて、それほど先のことが見えているわけではない。」(ゲーム内の台詞)
と言うように神々は少し先の未来を見ることができるので、ミルザの見た未来にはきっと「サルーインと戦っている冒険者の姿」が映っていたからでしょう。

 なお、ゲーム内の通常範疇では見ることができないのであるが、イスマス進行段階がFになるとブルエーレのパブにハオラーンとともにサルーインの復活を憂う人物が登場する。
 もしかしたらこの人物が冒険者の姿を借りて活動していたミルザなのではなないだろうか。
 

(v)アサシンギルドの終焉
 ワイルによって派遣された即席アサシンが死に際にうっかりと「タルミッタの西」という情報を口走ってしまったために、冒険者にアサシンギルドのアジトへの侵入を許してしまった。
 そして、とうとう冒険者がワイルの眼前に現れた。
 「お前がギルドの頭だな!」(ゲーム内の台詞)
 それに対してワイルは呟く。
 「・・・アサシンギルドの名を借りてクジャラートを混乱させる計画もここまでか・・・」(ゲーム内の台詞)
 

 ワイルのこの物分かりの良すぎる台詞も気になるところである。
 即ち、
 ・冒険者がアサシンギルドに乗り込んできただけで、どうしてアサシンギルドによる混乱計画を中止することにしたのだろうか?
 ・冒険者にバレてしまったことが問題なのならば、冒険者を始末すればいいだけではないだろうか?
 ・冒険者にバレてしまったとしても、アサシンギルドの活動自体は場所を変えていくらでも継続できたのではないだろうか?
 といった疑問が生じてくるからである。
 このあまりにも諦めの早い判断の裏に「策略」のワイルのどのような考えがあったのだろうか?

 おそらくであるが、ワイルは(iv)で述べたサルーインの復活を阻止する謎の人物の存在に危機感を覚えていたのであろう。
 サルーイン復活に関わる儀式がことごとく謎の人物によって阻止されていく。
 その儀式には強力な配下のモンスターが護衛として就いていたであろうが、そのモンスターもろとも殲滅されている。
 そんな妨害が立て続けに起きていたから、暗殺を試みたものの、暗殺者は返り討ちにあってしまう(南エスタミルの宿屋の件)。
 そして、自分の計画をことごとく阻止してきた謎の人物がとうとう自分の眼前に現れたことで確信したのである。
 目に前にいる人物は自分を狙ってここに来たのだと。

 実際、冒険者の姿を借りたミルザは神の力で邪悪な気配を感知し、ピンポイントでサルーイン教団の儀式を阻止していた。
 通常ならば気づかれない場所、たどり着けない場所で行われていた儀式も、ミルザは徹底的に阻止してきた。
 そんな神がかり的な異常性に、ワイルは謎の人物の背後にエロール一派の存在を感じていた。
 #実際は謎の人物そのものがエロール一派のミルザであったが。
 それ故に、エロール一派の命を受けた人物がとうとう自分の討伐に来たのだと確信したのである。

 その結果、ワイルの判断は早かった。
 自分の最優先にすべきことはサルーイン様の復活であって、それをまだ成しえていない今はまだ滅びるわけにはいかない。
 活動拠点を移したとしても、目の前の人物は必ず自分を追って来る・・・その覚悟を感じる。
 故に、これ以上地上で活動を続けることは危険だと判断し、ワイルは地上からの撤退を決断したのである。

 去り際にワイルは「やれ!」とペットのフローズンボディを冒険者にけしかけてくる。
 しかし、これはアサシンギルドの活動の中止の決断をした後のことなので、決して冒険者を始末する意図があってのものではない。
 と言うのは、これまでの儀式の阻止に際してフローズンボディよりも強いモンスター達も謎の人物によって討伐されていたので、目の前に現れた冒険者にフローズンボディが勝てるとはそもそも思っていなかったのである。
 つまり、フローズンボディはあくまで自分が逃げるための時間稼ぎ目的だったわけである。
 #ワイルは幻影ではなく本体で活動しているため、冒険者との戦いを避けた。
 

 ということで、冒険者が目の前に現れただけでワイルがアサシンギルド計画を諦めてしまった理由は、ワイルが冒険者をサルーインの復活に関わる儀式を阻止してきた謎の人物と勘違いしたためなのであった。
 そして、これによりワイルによるアサシンギルドを騙ったクジャラート混乱計画は終幕を迎えたのでした。

(5)奥の手:厄災ジュエルビーストの復活
 「・・・こうなったらジュエルビーストを目覚めさせ、徹底的に暴れさせるか・・・」
 水竜、ヴァンパイア、アサシンギルドというクジャラートの恐怖の記憶を想起させる3本の矢によって西部方面を混乱させ、「幻」のアメジストの獲得を目論んだ「策略」のワイルであったが、自身が中心となって行っていたアサシンギルド計画が阻止されたために、やむを得ず奥の手を使うことにした。
 それがフロンティアに封印してある巨獣ジュエルビーストである。

 ジュエルビーストは「サルーインがエロールのデステニィストーンに対抗して造った宝石を埋め込んだモンスター。作り上げたサルーイン自身でさえ制御の効かない強さで、四天王でさえ戦えば無傷では済まされないと言われている。」(大事典)と説明されているように、その力は圧倒的であるが、誰も制御することのできないモンスターである。
 ジュエルビーストを暴れさせれば西部方面を確実に大混乱に陥れることができるであろうが、自分達にも被害が出るおそれがあったため、ワイルは使用を控えていたのである。
 しかしながら、謎の人物に追われ、封印の地(ラストダンジョン)に身を隠すことを決めたため、奥の手であるジュエルビーストを目覚めさせることにしたのであった。

(i)ワイルの誤算
 ワイルが「目覚めさせる」と言っているように、ジュエルビーストは眠っている・・・はずだった。
 推察であるが、本来はフロンティア段階段階を
段階0〜9 ジュエルビーストが「ジュエルビースト」の洞窟の最奥にいて眠っている
#段階0〜9の場合にアサシンギルドでワイルと話すと段階Aになる。
段階A ジュエルビーストが「ジュエルビースト」の洞窟の最奥にいて起きている。
 としたかったと思われるが、実際には
段階0〜9 ジュエルビーストが「ジュエルビースト」の洞窟の最奥にいて起きている
#段階0〜9の場合にアサシンギルドでワイルと話すと段階Aになる。
段階A ジュエルビーストが「ジュエルビースト」の洞窟の最奥にいて起きている。
 となっているのである。
 つまり、ロマ1の物語開始時(戦闘回数0回)から既にジュエルビーストは起きているのである。
 従って、ワイルがジュエルビーストを目覚めさせに行ったときには、ジュエルビーストは既に起きていたわけである。

 サルーインの復活が近づいて邪気が濃くなりつつあることが原因なのか、バルハラントの女性が「こう暖かいと南の湖の氷も溶けちまうかも。」(ゲーム内の台詞)と話すことからマルディアスが温暖化していることが原因なのかは分からないが、ジュエルビーストは既に起きていた。
 この誤算にワイルは「命の危険を冒してまで来たのに、完全に無駄足だった。」と憤ったかもしれない。
 しかしながら、ワイル自身は気付いていないが、この誤算はワイルにとっては幸せなものだったのである。

 実はロマ1には2種類のジュエルビーストが存在する。
 一方は以下のステータスを持つ「起きている時」用のジュエルビーストで
HP
8389/8471 68 88 68 68 68 68 68 0 68 4 - - -
- - - -
1:ダブルアタック2
2:舌14(巻きつく、毒舌)
3:体当たり14
術法:なし
 もう一方は以下のステータスを持つ「眠っている時」用のジュエルビーストである。
HP
8389/8471 68 86 68 60 60 68 68 0 68 4 - - -
- - - - - - - -
1:ダブルアタック2
2:舌14(巻きつく、毒舌)
3:体当たり14
術法:なし
 見ての通りで、「眠っている時用」は体が寝起きで硬直しているため器用さと素早さが減少し、状態異常耐性も無い。

 そして、この2種類のジュエルビーストを加味すると、フロンティア壊滅段階を段階0〜Aを
段階0〜9 ・ジュエルビーストが「ジュエルビースト」の洞窟の最奥にいて眠っている
・戦闘する場合は「眠っている時」用のジュエルビーストとの戦いになる。
#戦闘に勝利すると段階Fになり、戦闘に敗北・逃走した場合は段階Aになる。
#段階0〜9の場合にアサシンギルドでワイルと話すと段階Aになる。
 としたかったと思われるが、実際には
段階0〜9 ・ジュエルビーストが「ジュエルビースト」の洞窟の最奥にいて起きている
・戦闘する場合は「起きている時」用のジュエルビーストとの戦いになる。
#段階0〜9の場合にアサシンギルドでワイルと話すと段階Aになる。
 となっているのである。
 このため、通常範疇では眠っているジュエルビーストとは戦うことができない。

 だが仮に眠っているジュエルビーストと戦う場合にはどうなるのか?
 眠っているジュエルビーストに話しかけると、
 ・そっとしておく
 ・起こす
 ・寝ているうちに殴る
 という三つの選択肢が出る。
 ここで「起こす」もしくは「寝ているうちに殴る」を選択すると・・・何と主人公が眠った状態で「眠っている時」用のジュエルビーストとの戦闘が始まってしまうのである!
 

 おそらくはジュエルビーストは寒さで冬眠したわけではなく、邪神に何かしらの術法をかけられて眠らされていた。
 そして、その術法は、術法をかけられた対象に接触することで効果が転移してしまうのである。
 #ということは、段階0の時から既にジュエルビーストが起きていた理由は、邪気が濃くなったことでも、温暖化でもなく、モンスターか誰かがジュエルビーストに接触してしまったからということになるだろう。

 従って、仮にワイルが眠っているジュエルビーストに対して「起こす」をしていた場合には、眠っているワイルがジュエルビーストに一方的に殴られるという命に関わる誤算が起こっていたわけなのである。
 ということで、「ジュエルビーストを起こしに行ったのに既に起きていた」という実は幸せだった誤算のおかげで「ジュエルビーストを起こしに行ったら自分が(永遠の)眠りについた」という最悪の誤算を回避したワイルなのでした。

(ii)進撃の巨獣
 ワイルが目覚めさせようとしたジュエルビーストは、フロンティア壊滅段階が進むにつれて封印されていた洞窟から抜け出して進撃を開始する。
 そして、フロンティア壊滅段階に応じたジュエルビーストの居場所は以下のようになっている。
段階A ・ジュエルビーストが「ジュエルビースト」にいる。
段階B ・ジュエルビーストが「ジュエルビースト」と「ウエストエンド」にいる。
・ウエストエンド壊滅。(〜段階E)
・パブにウエストエンド壊滅情報が貼り出される。(〜段階E)
段階C ・ジュエルビーストが「ジュエルビースト」と「ニューロード」にいる。
段階D ・ジュエルビーストが「ジュエルビースト」と「タルミッタ」にいる。
・タルミッタ壊滅。(〜段階E)
・セケト宮殿内のタルミッタ兵がいなくなる。
段階E ・ジュエルビーストが「ジュエルビースト」にいるが野良ジュエルビーストは行方不明
段階F ・ウエストエンド、タルミッタ復興。
・開拓村のモンスターがいなくなるが、住人は戻ってこない。
・ジュエルビースト最下層のザコシンボルが消える。
 #段階B〜Eでも「ジュエルビースト」にジュエルビーストが存在するが、これはプログラムミスだと思われる。この現象について本稿では、「世界に同時に2体のジュエルビーストが存在する」のではなく「世界にジュエルビーストは1体しか存在せず、冒険者が移動した先に都合よく先回りしている」と解釈する立場を取る。

 このように、ジュエルビーストは壊滅が進むにつれて
 「ジュエルビースト」の洞窟→ウエストエンド→ニューロード→タルミッタ
 と徐々に進撃をしていることが分かる。

 さて、そうだとすると上記の表で気になるところが出てくる。
 そう、段階Eである。
 地図上の順序からすれば、段階Eでは南エスタミルが襲撃されていてもよさそうであるが、実際には南エスタミルがジュエルビーストやモンスター軍団に襲撃されることは無い。
 では、段階Eの時にはジュエルビーストはどこに行っているのだろうか?

 実のところ、ジュエルビーストは段階Eで南エスタミルを壊滅させようとしたのだと思われる。
 ところが、ジュエルビーストは南エスタミルに侵入することができなかった。
 何故ならば・・・南エスタミルには由緒正しいウコム正教派神殿があるからである(大事典)。

 大事典には南エスタミルのウコム神殿について次のように説明されている。
 「ボガスラル海峡を鎮める神殿としてAS843年に建設された。当時のエスタミル王国はエロール教一色で、建設当初は住民およびエロール教信者からの反対運動があった。しかし、時はエスタミル下水道の開発工事中であって、海峡が波で荒れると工事は失敗に終わり、人夫の生命も失われかねない。こうして神殿は地下道ができるまでボガスラル海峡を見守る事を条件に建設を許可されたのだ。」
 エスタミル下水道の開発工事はAS520年にエスタミル王国が建国されるとともに始まっているから(大全集)、300年以上かかっても海峡が荒れるために完成させることができていなかった。
 そこで建造されたのが南エスタミルのウコム神殿あり、それによりエスタミル下水道を完成させることができたのであった。
 このような史実からすると、南エスタミルのウコム神殿にはウコムの恩寵効果があると言えるのではないでしょうか。
 #その効果が皆に認められたため、エスタミル下水道が完成した後もウコム神殿は取り壊されることなく現在に至っている。
 

 そして、この事実からもう一つの事実が浮かび上がってくる。
 それはジュエルビーストによってタルミッタは壊滅したが、南エスタミルは無事だったということ。
 言い換えれば、水竜を祀っているタルミッタは壊滅して、海の神ウコムを祀っている南エスタミルは無事だったということ。
 つまり、「水竜よりも海の神ウコムのほうが人々を守ってくれる」というある意味で当然の事実がジュエルビーストの進撃によって立証されてしまったわけである。
 #実際、水竜とジュエルビーストが戦ったら水竜に勝ち目はない。(「巨獣達の宴」を参照)
 これにより、ジュエルビーストの進撃の一件以降、クジャラートにおける水竜信仰はますます肩身の狭いものになってしまったに違いありません。

 というわけで、段階Eの時にジュエルビーストは、おそらく南エスタミルの周辺で町に入れずにもがいていることでしょう。

おわりに:
 本稿では「策略」のワイルによる西部方面侵略作戦の背景について読み解いた。
 「策略」を司るだけあってワイルは3本の矢(水竜、ヴァンパイア、アサシンギルド)と奥の手(ジュエルビースト)を駆使して、西部方面の混乱を目論んだが、
 ・水竜に恐怖したハルーンは水竜をイナーシーに解き放つ願いを急遽変更し、
 ・ヴァンパイアは結界から出られないためアンデッド軍団を率いることができず、
 ・アサシンギルドの作戦はことごとく謎の人物(ミルザ)に阻止され、
 ・眠っていると思っていたジュエルビーストは既に起きていたから無駄足になった。
 というように、全ての作戦において誤算があったのが残念なところである。
 しかしながら、自身の幻影と引き換えに(これも誤算であったが)ブラックダイアを破壊したことで、デステニィストーンを破壊することの危険性を明らかにしたという彼の功績も忘れてはならないだろう。
 次稿「ミニオン論V」では「偽善」のヒポクリシーによる北部方面侵略作戦の背景について言及する。


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