モクジ

● slowly slowly slowly --- sigh of Monday  ●

「月曜日が一番疲れる・・・」
「・・・・・・一番イキイキした顔してるくせに。」

携帯を肩と顎で挟みながらだらりとソファーに寄りかかりビールのプルタブを開けた。
冷やされたアルミ缶から小気味よい"ぷしゅっ!"という音が響き、唯の呟きを聞き逃す。
早く飲んで、と急かすビールに心の中で「待ってて」と呟いて、携帯を右手に握りなおした。

「何か言った?」
「なんにも。」

吐きだされた重い溜め息はどちらだった?

「・・・・そう? あー休みがあと2日くらいあれば、疲れが取れるのになぁ」

一口喉に流しこむと、思わず「んー!」と声をあげてしまった。
真夏ではなくても、やっぱり最初の一口は美味しい。
途端に、不機嫌な声が耳元に響く。

「あのね、理子。俺これから仕事。」
「あ、うん、そだね。わかってる。」

はあ、と携帯越しでもわかる盛大なため息。
時計をちらりと見ると、21時50分。
唯の出勤時間だ。

「・・・で? 何か用?」

唯の言葉に、私は首を傾げる。
何かって?

「・・・・」

あれ、なんで電話したんだっけ??

先週の企画会議で指摘されたとこを吉原くんと昼抜きで検討しなおして、午後の会議に間に合わせた。だけどその分今日の予定が押しちゃって、先ほどようやく我が家に辿り着いたってわけで・・・。

「・・・な・・・んでだったっけ?」
「・・・・おーーーーい・・・・・」

間の抜けた私の問いに、唯は呆れたように声をあげた。
ありゃ、本当に、なんだ?私?
玄関のドアを開け、そのまま冷蔵庫へ直行して、ビールを取り出した。
そして、ほとんど無意識に、ソファーに座って携帯を取り出しリダイヤル押してた・・・らしい。

「切るよ?」

唯の声に、思わず「待って!」と背を伸ばした。
唯に見えるわけじゃないのに、居住まいを正してた。
「切るよ」って言われて、鈍く本能だけで動いていた私の脳が、フル稼働しはじめる。

なんで? どうして、電話したの??

唯、に?

「理子?」

唯が私を呼ぶ声で、胸の中が満たされていく。
週初めから忙しくて、くたくたで、まだこれがあと最低でも4日間続くんだと思うと、憂鬱になった。
それでも、私はこの仕事が好きだから。
ぐでっとなってしまってる私に、今何が必要なのか、私の心は無意識にひとつを選択しようとしてた。

ああそうか。

「唯ちゃんの声、聞きたかっただけ、みたい?」

言いながら、肩をすくめてしまう。
疑問形ではあったけれど、、多分、これがホント。
唯の声が、聞きたかった。

「これだから・・・」
「これだから?」

唯の言葉を繰り返し、その先を待ってしまう。
凄く、聞きたい気がする。

「・・・・理子、鍵はかけても、チェーンかけとくなよ?」
「?? え? なんで??」

しまった!
また鍵かけ忘れてる。

慌てて鍵をかけに立ち上がり聞き返した私に、唯がぞくぞくするような甘い声で囁いた。

「声、聞きたいんだろ?」
「う、ん?」
「そっち、行くから」
「へ?」

甘やかすような声色。
ガチャンと内鍵をかけて固まった。
だけど、まるで私が真っ赤になって携帯を凝視してることなんてお見通しとばかりに、唯はくすくす笑い出した。

「どうせ、まだ仕事する気だろ?月曜はそんな混まないし、日付変わる頃には出れるから。」
「唯ちゃ・・・」
「ちゃんじゃない」

じゃあな、と一言付け加えて、唯は携帯を切った。

しばらく、携帯を見つめてしまう。
ゆっくりとソファーに戻り、私はテーブルの上のPCの電源を入れた。
何故か顔がにやけてくる。

不思議なんだけれど、疲れが消えてしまっていた。
にやけてくる自分の頬にそっと触れる。

今週も、きっと大変。
だけど、がんばれちゃう気がしてきた。




2009.9,23up



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