Fallen 3 |
「・・・・・・あ・・・・」 喉から細い声が漏れた。カカシが身じろぎ一つせず俺を見詰める。 その食い入るような眼差しに、正体がバレた事を確信した。 当たり前だ。いくら外見を変えても、纏うチャクラは俺のものだ。元の俺を知る者なら、ちょっと 注意すれば下忍だって正体に気付く。まして、この天才上忍がそれに気付かない訳がない。 「なに?あなたカカシの知り合い?」 名門女が不審そうに尋ねる。全身が凍りついた。今ここで正体をばらされたら、一巻の終わりだ。 二重に騙されたと知った名門女と、部下に騙されたと知った上官に、どんな報復を受けるか判らない。 しかもこの大人数の前だ。あっと言う間に里中に噂が広まるだろう。そんな事になれば、たちまち上層部の 知るところとなる。 分別の無い子供ならいざ知らず、大の大人が私的に忍術を使って上忍を騙そうとした。 下手をすれば処罰ものだ。そんな事になれば、俺と同僚の未来は絶たれたも同然だ。 「わ!!」 ようやく追い付いた同僚が、背後ですっとんきょうな声を上げる。 が、やはりどうしていいか判らないらしい。絶句したまま俺とカカシの顔を交互に見比べている。 その時、カカシがうっそうと口を開いた。 「・・・・・知らないねぇ。誰かと間違えてるんじゃないの?」 興味無さげな口調で言ったかと思うと、退屈そうに腰から小さな冊子を取り出す。 慣れた仕草でページを捲ったかと思うと、顔を埋めるようにしてエロ本に没頭し始める。 いかにも、俺の事など全く眼中に無い、という風情だった。 なぁんだ。 一気に解ける緊張に、思わず安堵の溜息を吐いた。同時に、自分の滑稽さに笑いたくなった。 そうか。そうだよな。この男が騒ぎ立てるはずがないじゃないか。 自分を振った中忍なんか、もう顔も見たくないのが本音だろう。周囲が未だに俺とカカシの事を噂して いる事だって、心底苦々しく思ってるに違いない。 そんなカカシが、この大人数の前で俺の正体をばらしたりするもんか。 自分からわざわざ周囲の注目を集めるような真似、するはずないだろうが。 自意識過剰もいいとこだ。 この利口な男が、周囲の状況も考えずに俺の名を呼ぶなんて、あり得ないだろ。 「中忍風情」にそんな我を忘れるような真似、するはずがないじゃないか。 「す、すみません・・・・・し、知り合いに似てたので・・・・」 こんな怪しげな風貌の男に似てるって、どんな奴だ。そう思いながらカカシに頭を下げた。 カカシが本から眼を離さずに軽く頷く。 「あっそ。」 興味を失ったらしい女が俺からふいと視線を外す。 「大丈夫か。」 その隙を捕らえて、同僚が慌てて駆け寄ってきた。俺を抱き起こしながら、まずい事になったな、と 耳元で囁く。ああ、と頷きながらこっそり周囲を見渡した。 やっぱり。 思わず溜息が漏れた。突然の侵入者に唖然とする集団の中に、何人も見知った中忍の顔がある。 「今日はこの人が奢ってくれるってさ!皆、ガンガン飲みな!!」 アンコ上忍が浮気上官の腕を取って宣言する。 「皆さん、遠慮しないで下さいね!」 名門女が華やかな笑顔でその言葉に続く。女が言い終った途端、一同がワッと盛り上がった。 声高に店員を呼ぶ声が座敷に響く。 「あなたたちも好きなもの頼んでいいのよ。今日はとことん、楽しみましょうね。」 女が笑顔で俺達に振り返る。濃い睫に縁取られた眼は全く笑っていない。 先に帰ったら殺すわよ。 そう宣言する瞳に、俺と同僚は顔を引き攣らせたまま、ぶんぶんと勢いよく頷いた。 もうこうなったら、腹をくくるしかない。 溜息を吐きながら立ち上がった。本を読みふける銀髪の上忍の隣に、するりと身体を割り込ませる。 そして、そのままストンと座りこんだ。 カカシが一瞬、ちらりとこちらに視線を寄越す。が、直ぐにまた何事も無かったように本に視線を戻した。 「!!おい・・・!」 静かなカカシと対照的に、同僚がギョッと眼を見張って叫ぶ。 「な、何してんだお前・・・・!」 狼狽する同僚に、静かに、と唇に指を立てる仕草で黙らせる。そして、騒ぐ中忍連中を顎で指し示した。 お前はあっちを頼む。こっちに、来させるな。 そう眼で訴えると、同僚がああ、と得心がいったように頷いた。 「・・・でも、お前・・・・」 まだ不安げに俺とカカシを眺めたまま、中々動こうとしない。思わず舌打ちした。 何で分からないんだ。ここが安全地帯だって。 俺の正体が判ってて、それでも騒ぎ立てないカカシの隣は、一番の安全地帯なんだ。 しかも都合のいい事に、中忍連中から見れば、この男は決して親しみやすいタイプの上忍じゃない。 とてもじゃないが、馴れ馴れしく近寄ったり出来ない。その証拠に、今もカカシの周囲に中忍は誰一人 いない。こっちに来ようとする気配もない。皆、気さくなガイ先生や、姉御肌の紅先生の周りに群がってる。 これ以上の安全地帯が、どこにあるって言うんだ。 オロオロし続ける同僚の袖口を、ぐいと掴んだ。 「ひゃ!な、なんだ・・・!?」 同僚が裏返った声を上げる。それに構わず、無理やり自分の方に引き寄せた。 カカシに身を寄せたまま、声を殺して囁く。 ここが、一番安心なんだ。 言い終わると同時に、ドンと同僚の身体を突き放す。 行け、と再度目配せすると、同僚はやっと騒ぎまくる中忍集団の中に消えていった。 カカシが背中を丸めてエロ本を読み続ける。 久しぶりに見るカカシの姿は、何故かひどく大きく見えた。 暫くして、カカシが大きくなったのでは無く、自分が小さくなってるのに気づいた。 ああ。そうか。俺、いま女か。 今更のように気付いた。元々カカシは俺より背が高い。俺も男の中じゃデカイ方だから、それより大きな カカシは立派な大男と言える。が、奴は細身の上に猫背なので、あまりそれを実感させられた事は無かった。 それどころかむしろ、色が白くてすっきりと整った素顔を持つカカシに、ちょっと中性的な印象すら 持っていたのだ。 が、こうして女の目線で見上げてみると、カカシはかなりしっかりした体格の、逞しい男だった。 初めて気付いた。 女達がカカシを持て囃すのは、カカシが「凄腕の上忍」だからだけでは無かったのだ。 カカシは「男」としても充分、魅力ある存在だったのだ。 何だか急に、自分が情けなくなった。 忍としても「男」としても、一級品の男。その男は今、こんなみっともない姿で隣に座る俺を、 どう思ってるんだろう。 頭のいい男だ。詳しい事情は判らなくても、俺が袋小路に追い詰められている事をちゃんと察して いるだろう。そう思うと、一層この状況が情けなくなった。 『俺にだってプライドがある。』 そう思ってこの男と別れた。それなのに、今の俺の何だ。元は無骨な男のくせに、無理やり女に変化して。 着慣れない女の着物に、胸元をきつく締め上げられて。心細げに瞼を伏せて。 そうやって、カカシに縋り付くように身を寄せている。 何て惨めな、気色の悪い光景だろう。何がプライドだ。これじゃ軽蔑するなって方が無理だ。 項垂れたまま、深く落ち込んだ溜息を吐いた。 早く宴会が終わってくれないかと思った。ここに居れば居るほど、自分の惨めさに打ちのめされて行く。 と、ふいにカカシが冊子から顔を上げた。 座敷の入り口にすっと顔を向け、銀色の眉を微かに顰める。 何だ? つられるように襖に顔を向けた。が、そこには誰もいなかった。 何だったんだ、と思った瞬間、襖の奥から野太い声が流れてきた。 「何だぁ?随分賑やかだな、こりゃ。」 「あーら。ちょーど良いとこに。ラッキーだねーあんた!ほら、こっちきなよ!」 アンコ上忍が嬉しそうな声で男を手招きする。その声に、髭面の大男がにゅうと座敷に顔を覗かせた。 「おおアスマ!良く来たな!何故来た!?何故ココが分かったのだ!?」 ガイ先生が歓迎と疑問を一緒くたにして叫ぶ。 「別に探しに来た訳じゃねえよ。たまたま飯食いにきたら、お前等の馬鹿騒ぎが聞こえたんだ。」 アスマ先生が面倒くさそうに答える。 「・・・・ったく、とんだ散財だ・・・最近のガキときたら、マセやがって・・・・」 煙草を口から離さないまま、ぶつぶつと嫌そうに呟く。その不機嫌な声を打ち消すように、アスマ先生の 背後から甲高い少女の声が飛び出して来た。 「しょーがないじゃないですかー!先生が負けたんだから!」 俺の元生徒、山中いのが腰に手を当てながら、アスマ先生の前に回り込む。 「五枚落としならシカマルに負けないって言ったの、先生じゃない!負けたら好きなもん奢ってやるって 約束したでしょ!?今更文句言わないで下さいよ!」 偉そうに言い放つ金髪の少女に、アスマ先生が一層嫌そうに煙草を噛み締める。 「もっとガキらしいトコで食えねぇのかよ。一楽とかよ・・・・」 「だめ。私、ずーっとココ狙ってたんですから。この本に乗ってた、『大人の女の為のお勧めNO1』の この店を!」 華やかな表紙の雑誌をアスマ先生に突きつけて、いのが自慢気に胸を張る。 「何が大人の女だ。小便臭いガキのくせしやがっ・・・・」 言い終らないうちに、いのの回し蹴りがアスマ先生の腹に炸裂する。 「とにかく!絶対に奢ってもらいますから!ね!?皆!」 いのが力強く宣言する。その声に釣られるように、シカマル、チョウジのアスマ先生担当の子供達が ひょこひょこと姿を現す。 それに続いて現れた二人組を見た瞬間、心臓が止まりそうになった。 ピンク色の頭がゆらゆらと揺れる。 「えへっ。すみませんアスマ先生。私達まで一緒にー。」 顎に拳を当てながら、サクラが可愛らしく小首を傾げて礼を言う。パクパクと唇が震えた。 サクラがくるりと後ろを振り返る。 「ほら、ちゃんと大人しくすんのよ、ナルト。」 「うん!俺、こんな店で飯食うの、初めてだってば!」 ナルトの声が高らかに響く。倒れそうになった。 嘘だ。何故。何故ナルトがこんな所に。 「一楽とは全然違うってば!」 興奮した声でキョロキョロと周囲を見渡す。その金色の頭が勢いよく振られる度に、全身にぞっと寒気が 走った。 滲み出る冷や汗に、握った掌が氷のように冷たくなる。 駄目だ。今あいつに見つかったら、今度こそ一巻の終わりだ。 ナルトは何時だって、俺を見つけると子犬のように走ってくるのだ。 イルカ先生、と大声で叫びながら。 わき目も振らず、俺の名を呼びながら飛びついてくるのだ。 いつもなら、その一心さは物凄く嬉しい。 しかし、今は駄目だ。駄目どころか、致命傷だ。 頼む。どうか、このまま去ってくれ。どこか遠くに行ってくれ。 祈るように、はしゃぐ金色の頭を見詰めた。そんな俺の願いも空しく、ナルトがひょいと座敷の奥を 覗き込む。そして、何かに気付いたようにハッと空色の瞳を開いた。 「あ――――――!!カカシ先生―――――!!」 子供達が一斉にナルトの指差す方向を見る。 「カカシ先生もいたのかってばよ!!」 馬鹿でかい声で叫んだかと思うと、ずかずかと部屋の中に入り込んでくる。そのまま、勢い良く早足で 駆け寄ってくる。 俺とカカシに向かって、一直線に。 頭の中が真っ白になった。 役に立たない言葉が無意味に脳内を駆け回る。 どうしよう。どうしたらいい。ナルトが、ナルトがこっちに来る。 誰か。誰か助けてくれ。 全身から血の気が引いていく。 襲い掛かる眩暈に、身体が崩れ落ちそうになった。とっさにカカシの腕を掴んだ。 カカシがふっと首を捻って俺の顔を覗き込む。無我夢中でその長い腕にしがみついた。 もうプライドもへったくれも無かった。頼れるものは、カカシしかなかった。 静かに瞬く濃紺の瞳に、血の気の引いた唇を寄せる。銀の髪に隠れる耳に、震える声で囁いた。 「・・・・・っ助けて・・・くださ・・・」 ビシリ、と何かが強く弾かれる音がした。 わあ、という悲鳴と共に、金色の身体が後ろに吹き飛ばされる。壁に叩き付けられるナルトの背後で 瀬戸物の食器類が砕け散る音が派手に響く。 その途端、今まで馬鹿騒ぎをしていた忍達が全員ピタリと動きを止めた。 結界、と誰かが緊迫した声で呟く。 その声に、カカシが今、一瞬のうちに結界を張ったのだと気が付いた。 緊張に静まり返る部屋の中で、銀髪の上忍がのんびりと口を開く。 「お行儀悪い真似しちゃ、駄目でしょーが。」 カカシがボリボリと銀色の頭を掻き、指を軽く鳴らして結界を解く。 何事も無かったように、何時もの眠たげな口調で子供を諭しだす。 「んなバタバタ、走るなって。俺の躾が疑われちゃうデショ?」 「・・・・だっ!だからって、こんなのひでーってば!!」 ナルトが赤くなった鼻を抑えながら憤然と叫ぶ。 「んー?コレが愛のムチってヤツでしょ?感謝しなさいね。」 「愛なんか、ぜんっぜん感じられなかったってば!!」 呑気に交わされる師弟の会話に、場の緊張が一気に緩んでいく。あっと言う間に、部屋は元の喧騒に 戻っていった。 カカシがひょいと首を傾げる。 「ほら、お前が急に飛び込んでくるから、この人が怯えちゃってるデショ?」 しがみ付いたままの俺の背中を、大きな手が優しく叩く。その手から、チャクラが静かに流れ込んで くるのが判った。カカシ特有の青白いオーラが、みるみる俺の身体を覆っていく。 パチパチと瞬きして、その滑らかな流れに眼を見張った。 カカシの意図は明白だった。これなら余程顔を注視しなければ、ナルトは俺を判別できない。 カカシは俺のチャクラを覆う事で、ナルトから俺を隠そうとしているのだ。 驚いた。 自分で「助けて」と言っておいて何だが、まさかカカシが本当に俺を助けてくれるとは思わなかった。 俺を死ぬ程忌々しく思っているはずのカカシが、俺を庇っている。その現実が、信じられなかった。 まるで、夢でも見てるような気分だった。 と同時に、この男の技量にも改めて驚嘆した。 チャクラのコントロールは、微量であればある程難しい。 大量に放出するよりも、少量のチャクラを制御する方が、遥かに難しいのだ。 今俺を覆っているカカシのチャクラは、ごく薄い。ぎりぎり、俺のチャクラを打ち消すくらいの薄さだ。 これ以上放出すれば、鋭い者は不審に思うだろう。 俺がカカシのチャクラに包まれている事に気付くだろう。そして何故、カカシがそんな事をするのか、 理由を探ろうとするだろう。 カカシが今操っているチャクラは、その疑いを持たれない限界の量だ。まさに、ベール一枚分と言っても 過言じゃない。 飄々と、涼しい顔で弟子と会話を交わす銀髪の上忍。 その男は今、神業に近いチャクラの制御を行っているのだ。 身動き一つせず、カカシの腕の中で息を潜めた。 これが気紛れな親切心から来ているのか、それとも、とことん俺との関りを追求されたく無いからなのか、 そんな事はもうどっちでも良かった。 この男が、俺を庇う気でいる。 それだけが、俺にとっての事実だった。そして今、俺にはカカシしか頼れる者はいない。 それならもう、この男を信じる他ない。 この男を信じて、俺の身を託すしかない。 「ナルト、大丈夫?」 我に返ったサクラがパタパタと駆け寄ってくる。 「カカシ先生、乱暴!いくら女の人にいいトコ見せたいからって、ここまでするコトないじゃないですか!」 ナルトを助け起こしながら、カカシに向かってピッと指を突きつける。 「あ!!もしかして、この人カカシ先生の彼女かってば!?」 ナルトが興味深々に俺の顔を覗きもうとする。後について来たいの達まで、一緒になって俺の顔を 覗こうとする。思わずビクリと身体が震えた。 「こらこら、女性の顔を無理に覗き込むなって。失礼デショ?」 カカシが空いた片手でナルトの額を軽く押し返す。ええー?と不満げに頬を膨らますナルトに、銀髪の 上忍がニコリと眼を細める。 「この人ねぇ、すっごい人見知りなの。だから、それ以上近寄らないの。・・・・お前だけじゃないよ。 お前等みんな、そうだよ。」 俺の肩を抱き寄せながら、静かな声で宣言する。 「この人、俺以外は駄目だから。」 子供達がシンと静まり返る。 一拍置いて、きゃー、とサクラが裏返った歓声をあげた。そのまま、興奮を抑えきれないように、 きゃあきゃあ騒ぎながら飛び回る。 違う。違うぞサクラ。そんなんじゃないんだからな。 真っ赤になってカカシから離れようとした。が、華奢な女の小さな手は、男の逞しい腕を押しのける 事が出来ない。逆に軽々と手首を捕まれ、一層深く腕の中に抱き込まれた。 サクラが、サスケ君も言ってくれないかなぁ、と一人はしゃぎまくる。それを聞いたいのが、 それ言われるのアタシだから、とすかさず突っ込む。途端に、言ってもいないサスケの言葉を巡って 小煩い口喧嘩が始った。 サクラ大好きのナルトが無理やりその喧嘩に割り込んでいく。サクラちゃん俺が言ってやるってば、と 喚き散らして騒ぎを更に大きくしていく。その傍らで、チョウジとシカマルが、これ美味そう、と勝手に カカシの膳を漁りだす。一向成長していない子供達に、眩暈が起きそうになった。 こんな状況でなければ、大人しくしろと全員纏めて拳骨を食らわしてるところだ。 「だーから、騒ぎなさんなって。ほら髭、お前が連れて来たんでしょ?何とかしてよ。」 カカシがうんざりしたようにアスマ先生に手を振る。 「お、おう。おら、こっち来いや。」 ぼんやり俺達を見ていたアスマ先生が、ちょっと慌てたように子供達を手招きする。 「こねえと、俺りゃこのまま帰んぞ。」 くるりと背中を見せる大男に、子供達がダッと一斉に駆け出す。 やっと去ってくれた子悪魔集団に、腹の底から安堵の溜息をついた。 「すごい度胸ねえ。あなた。」 突然、背後で金属質な声がした。 ハッと首だけで振り返った。例の名門女が、口元を歪ませながら俺を見下している。 「自分の男の前で、他の男に抱きついたりして。大人しそうな顔して、結構すごい事すんのね。」 女が後ろを振り返り、ねえ、と大声で俺の同僚を呼び寄せる。 「あなたの彼女、「写輪眼のカカシ」に夢中みたい。いいの?こんな事させといて。」 挑発的な口調で言ったかと思うと、またこっちに向き直る。たっぷりと嫌味を滲ませた口調で、カカシに 向かって面白そうに尋ねる。 「写輪眼のカカシは凄腕だって聞いたけど、女の略奪も得意ってわけ?」 「あー、えーと・・・」 慌てて寄ってきた同僚がもごもごと口篭もる。俺を庇ったカカシに、どういう態度を取るべきか決めかねて いるらしい。盛んに頭を掻いて、眼をウロウロと泳がせている 「・・・・あんたねぇ、なんか勘違いしてるみたいだけど、」 突然、カカシが静かに口を開いた。 「この人はね、元々俺のもんだよ。最初から、俺のもんだったんだよ。」 言い終ると同時に苦々しげに同僚をちらりと見上げる。 「・・・ちょっと眼を離した隙に、他の男と妙な遊びされただけだよ。これ以上置いとくと、またどんな 馬鹿されるか判らないからね。連れて帰るよ。」 そう言ったかと思うと、ぐいと俺の腰に手を回し、俺ごと力尽くで立ち上がる。 「・・・!カ、カカシさ・・・・」 「帰るよ。」 カカシが一言でこっちの狼狽を打ち切る。俺の手を強く掴み、出口に向かってスタスタと歩いていく。 到底振りほどける力じゃなかった。ポカンと立ち尽くす同僚を置いて、俺はそのまま拉致されるように 座敷を後にした。 |
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