逆転のフーガ(2)





スコールがシャワー室から出てきた。
Tシャツとジャージなんてラフな格好のくせに、妙にきまって見える。
いい男ってマジで得だよな。
「・・・・で、何を怒ってるんだ?」
やれやれと言う感じでスコールが尋ねる。
「だから、怒ってねーってば!」
ああもう、しつこいな。面倒くせえ、このまま第三段階実行だ!ええと、スコールの手順じゃ、
この後キスが始まるんだよな。
俺はぐいっとスコールの胸倉を掴んだ。色気もへったくれも無い。柔道の組み手みてえだ。
何で俺がやるとこうなるんだろう?
スコールが驚いて後退りする。益々柔道っぽくなってしまった。
かまわず引き寄せて、じりじりと顔を近づける。ここでまた、困ったことになった。
スコールが、眼を閉じてくれない。

閉じてくれないどころか、瞬きもしてくれない。近づいてくる俺の顔を呆然と見ている。
スコールのこんな顔はめったに見られるもんじゃない。が、別に有難くねえ。
何だか泣きたくなってきた。どうして眼を閉じてくれねえんだ。
俺ってやっぱり駄目な奴なのか?キスすら満足に出来ない駄目猿なのか?
「・・・・・俺・・」
泣き出しそうな声に、スコールの表情が真剣になる。
「どうした。何かあったのか?」
俺は首を振った。もう一度襟首を掴んで顔を近づける。
「スコール・・・」
懇願するように、薄く整った唇を見上げた。
「ん?」
「め、眼を・・・」
「眼?」
緊張の余り、声が震える。
「・・・だから、眼を・・と、閉じ・・」
最後まで言い切らないうちに、ああ、そうか、とスコールが呟いた。
片手で後ろ髪をぐっと掴まれる。同時にもう片方の手が俺の顎を押さえこむ。
震える唇に、スコールの唇が押し当てられた。

スコールの舌が俺の舌を探る。蠢く舌を恐る恐る追いかけると、待ち構えてたようにねっとりと絡みつく。
濃厚な口付けに、唾液が零れ落ちそうになった。
「・・・・んっ・・」
出した吐息をスコールの唇が奪い取る。声さえも、逃がしたくないように、強く俺の舌を吸う。
「・・・・ふ・・っ・・・」
息が苦しい。呼吸する間も惜しんでお互いを貪るキスに、背中がゾクゾクと粟立つ。
気持ち良すぎて、全身から力が抜けそうだ。閉じた睫に、優しくキスが落とされる。
「一体どうしたんだ、ゼル。」
スコールの嬉しそうな声がする。ハッと我に返った。
俺が眼を閉じてどうするんだ。馬鹿。

スコールがニヤリと笑った。悪魔的な微笑みが、白皙の美貌に一層花を添える。
「俺と、したいのか?」
ずばりと聞いてくるスコールに、顔がカッと熱くなった。
真っ赤に染まる首筋を、長い指がそっとなぞる。
「・・・したいんだな?」
凄絶な色気を湛えた視線が、濃褐色の蜜のように、重く蕩けて俺の身体に絡みつく。
こいつは前からこうした場面では色っぽかったが、これまでは、どこか俺をあやしてる風があった。
嫌がる俺を怖がらせないように、自分を御してる感があった。その蒼い瞳が今、やっと訪れた解放に
歓喜して俺を見つめている。


何も、そんなに全開にならなくても。
俺は本当に泣きそうになった。ただでさえ、スコールの相手は大変なんだ。それを、こんな欲望全開の
こいつを相手にして、突っ込むなんて出来るのか?
スコールがふっと、俺の頬に口付けた。僅かに残る石鹸の匂いを嗅いで、クスリと笑う。
「・・・準備万端だな。」
獲物を味見する肉食獣のような仕草に、背筋がぞっと震えた。
「お、俺・・・」
後退りする俺の背中に、何かひんやりとしたものが当たる。振り向いて確認すると、それは鏡だった。
俺の横顔が映ってる。小動物みたいに怯える青い瞳が、前髪の隙間から覗いてる。
『お前みたいなチビ猿が、スコール様を女扱いするなんて、ありえねえんだよ!!』
ネチネチボスの叫び声が聞こえたような気がした。
違う。俺はチビ猿なんかじゃねえ。ちゃんとした男だ。
ぐっと拳を握った。そうだ。ここで引き下がっちゃ、駄目だ。俺の未来はここの踏ん張りにかかってるんだ。
頑張るんだ、俺!

思い切って、スコールに両腕を伸ばした。スコールがうっとりと口元を綻ばせる。
「・・・・ゼル」
囁く声が微かに掠れてる。こんな妖艶な声がこの世にあっていいのか。
スコールの首に抱きつくと同時に、スコールが俺の全身を強く抱きしめた。

スコールの腕が、身体をまさぐる。貪るようなキスを全身に繰返す。熱い舌が首筋から胸に移ると、
俺の体はビクビクと震え出した。まだ濡れているスコールの髪が、生き物のような質感を持って
乳首を嬲る。冷たい滴と、熱く濡れる舌で交互に責められて、俺は女のように体をくねらせた。
「・・・あ・・・んっ・・・あ・・」
馬鹿。感じてる場合じゃねえ。俺がリードしなくてどうする。理性はそう叫んでるが、体は正直に
快楽に溺れようとする。
「・・・や・・だ・・」
「何で」
「あ・・っ」
問い返す舌の動きに、また喘ぎ声が漏れる。畜生、何で俺はこんなに感じやすいんだ。
「き、今日は・・お、俺が・・す・る」
やっとの思いでスコールの頭を押し退けた。褐色の髪が指に艶やかに纏わりつく。
「お前が?」
スコールが俺の手首を静かに掴んだ。ゆっくりと微笑する。
「・・・どうやって?」
いつもされるがままなのに?と蒼い瞳が笑っている。胸に、チリッと小さな怒りが湧いた。
掴まれたままの手首をぐいっと反転させた。間髪入れずスコールの上に伸し掛かる。
そのまま、滑らかな首筋に唇を押し当てた。スコールがやるように、顎に、喉に、キスを降らせる。
突然、スコールが大きな溜息を吐いた。きつく、俺の体を抱きしめる。熱に浮かされたように、
俺を好きだと何度も繰返す。
「ゼル、好きだ・・お前が、好きだ・・すごく、好きなんだ・・」
耳を掠める吐息に、俺まで熱が出そうだ。繰返すキスに、スコールのモノが固く立ち上がってる。

ひょっとしたら、いけるかもしれねえ。

胸に希望が湧き上がった。何か、いい感じだ。このまま行けば、ひょっとして・・・。
突然、思考が白くなった。
「ひっ・・!あ・・・ば、馬鹿っ!」
思わず悲鳴を上げた。スコールが俺の中に指を入れてる。俺の中にある一点に、触れようとする。
「・・・・っ・・・やめ・・っ・・・!」
いきなり訪れた射精感に耐え切れず、喉を反らした。その機を捕らえて、スコールがまた体勢を反転させる。
歯を食いしばって、シーツを握り締めた。
ここで出しちまったら、元も子もねえ。絶対に耐えなきゃ。
その願いは、次の瞬間、脆くも打ち砕かれた。
「・・・・あ・・・・!!!」
全身に痺れるような快感が走る。
スコールが、咥えたのだと分った。
袋から、先端まで、蜜のように唾液を零しながら、柔らかい舌が俺を舐めまわす。
これだけだって、身体が溶けてしまいそうなのに、長い指が無慈悲に俺の中を掻き回してる。
眼の眩むような快感に、思考が全く纏まらない。
「・・・めだっ・・・!スコ・・ルっ!や・・あ・・・っ!」
途切れ途切れの拒否は、スコールの指と舌を止めてくれない。揺れる腰に、指が意地悪く蠢く。
溢れる先走りの汁で、俺の下半身はべちゃべちゃだ。
「・・・・あ・・っ・・や・・めっ・・あっ・・!!!」
自分でも何を言ってるのかよく分らない。言葉が意味をなさなくなってる。
全身を仰け反せて快楽の波に耐えている俺に、スコールが顔を近づけた。
悪魔のように優しく囁く。
「我慢するな。出せ。」
その瞬間、理性がプツンと途絶えた。

やっちまった。
下半身を汚す白い液体を呆然と見た。未練がましく、その液に触れようとすると、長い指が
俺の手を弾いた。
「・・・?」
「まだだ。」
たっぷりとローションを塗りつけた手が、穴をまさぐる。指が出入りする度に、ぐちょり、と
卑猥な音がする。
スコールの意図を悟って、慌てて体を起こそうとした。が、今の放出にまだ全身が痺れてて、
上手く動けない。
それに、俺の身体はスコールに慣らされ過ぎていた。
中を探る指の動きを、快感と捉えてしまう。微妙な動きが、もどかしいような甘い感覚となって、
俺を苛む。
「だめ・・だ・・っ!」
俺に入れるな。それは俺がやるんだ。
必死で身体をひねってスコールの指から逃れようとする。が、残酷な腕はそれを許さない。
押さえ込まれたまま、うつ伏せに転がされてしまった。再び立ち上がりかけてる俺のブツを緩
やかにしごく。巧みな動きに全身から力が抜けていく。くったりとマットに沈む身体を、スコールが
後ろから羽交い絞めに抱きしめた。
「今度は、俺。」
耳朶を軽く噛んで、甘えた声で囁く。元々甘えたがりだとは思っていたが、直接こんな風に甘えられたのは
始めてだ。
嬉しくて堪らないように何度も背中にキスをする。絶対に逃がさない、とでも言いたげに、
がっちりと腰を掴む。何もかもが全開過ぎて、眩暈がした。一体、どうしたらこいつを止められるんだ。
先端をカリッと弾く爪に、シーツを掴む手が思わず緩む。
その機を捕らえて、スコールがぐっと俺の中に入ってきた。
「うっ・・あ」
散々指で焦らされ、もっと強い刺激を待ちわびてた器官が、スコールのものをぎゅっと締め付ける。
涙が出そうになった。
違うんだ。俺はしたいのは、これじゃないんだ。
なのに、どうして俺の身体はこんなに浅ましいんだろう。嬉しそうにスコールのものを飲み込んでいく
身体を、叩き壊してしまいたい。
「・・あ・・あ・・んっ・・」
唇から漏れる声も嫌らしいほど甘ったるい。
「うっ・・ん・」
スコールの呻き声も負けず劣らずだ。腰が打ち付けられる度に、中のローションがぐじゅぐじゅと
泡立つような音を立てる。
棒が痛いほど反り返る。再びの解放を求めて、血管が脈打ってる。
「・・ゼル・・すごく・・いい・・・」
蕩けるような掠れ声に、体中が反応する。全身の血が沸騰するようだ。
スコールのモノが、最奥をズンッと突いた。
「あ・・・・!」
白濁した液体が、凄ましい快感と共に吐き出される。スコールが背後でうっと息を詰めた。
俺の中に、スコールが放ったのが分った。

もう駄目だ。
絶望で目の前が暗くなった。二回も出しちまって。しっかり入れられて。
張り切って、計画まで細かく立ててたのに。上手くいくと思ったのに。
涙が眼に溜まってくる。俺は嘘つき決定だ。じいちゃんの言う、カス男だ。
「・・・・ゼル?」
スコールがそっと、俺の額を掻きあげた。不思議そうに、俺の顔を覗き込む。
心配気に瞬く蒼い瞳に、涙がどっと溢れてきた。

「・・・っ、ひっく・・うっ・・・」
恥も外聞もなく、泣きじゃくった。スコールが驚いて俺を抱き寄せる。
「どうしたんだ。いきなり。俺が何かしたのか?」
何かしたっていうか、お前は何もしなくて良かったんだよ。
全部俺にやらしてくれりゃ、良かったんだよ。
涙声で訴える俺にスコールが眉を顰めた。ぐいっと両肩を掴む。
「言ってる事が全然分からない。最初から、俺に分るようにきちんと話せ。」

「・・・成程な。」
涙混じりのたどたどしい説明が終わると、スコールは大きな溜息をついた。
「それで、あんなに積極的だったわけだ。」
冷静な声に、急に自分が恥かしくなった。考えてみれば、スコールはいつも通りにセックスをしただけだ。
俺に責められる筋合いじゃねえ。
「・・・俺、もう帰る。悪かった。突然泣いたりして。」
小さな声でしょんぼりと頭を下げ、ベットを降りた。
その時突然、スコールが俺の腕を掴んだ。シーツの中に引き摺り戻される。

「諦める気か?」

え?

「諦める気かって、聞いてるんだ。」
スコールが重ねて問い掛ける。
「だ、だって・・・」
「俺は別にかまわないぞ。」
スコールがあっさりと言う。思わず絶句した。
かまわないって、それはつまり・・・。
固まる俺を平然と見返す。
「やりたかったら、やればいいだろう。」

「ほ、ほんとか?」
思わぬ爆弾宣言に言葉がどもる。
「ああ。」
すげえ。言ってみるもんだな。こんなにすんなりスコールが承諾するとは。今までの苦労は何だったんだ。
と、スコールがぐいと俺を引き寄せた。
「ただし、条件がある。」
「な、何だ。」

「俺も、やりたいんだ。」

は?

「やりたい・・・って?」
「一回じゃ、満足出来ない。」
ああ、まあ、確かにこいつは一回しか出してないよな。
「だから、勝負しよう。」
「勝負?」
華やかな美貌が艶然と微笑む。

「先にイッた方が、負けだ。大人しく抱かれるって事にしよう。」

俺は眼を見張った。
それって、俺が有利なんじゃねえか?
忙しく頭を回転させて考える。俺が二回出してて、スコールが一回。どっちが溜まってる
かって言ったら、当然スコールだろう。どう考えても、俺が有利だ。
パッと笑顔で顔を上げた。
「いいぜ。その条件、呑んだ!」
スコールがゆっくり頷く。
「決まりだな。・・・それなら早速、始めよう。」



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