僕の名前はアーヴィン・キニアス。今現在最高に苦境に立ってる男。
聞いてくれよ。僕はただ、ぶらぶら散歩してただけなんだ。
そしたらさ、校庭の隅っこにゼル、スコール、サイファーの三人がいたんだよ。
僕は何気なく、何してるのさ?って声をかけたんだ。
ホントに、それだけなんだよ。だって、この三人は僕の幼馴染なんだ。声かけたって当然じゃない?
そしたら、いきなりゼルが突進してきて僕に抱きついたんだ。

「ありがとう!お前が俺の神様だったんだな!!」

神様?

意外に細い指が僕の手をぎゅっと握り締める。
「お前はやっぱいい奴だ!!パン10日分は任しとけ!!」
パン?10日分?
何言ってるのかさっぱり分からない。もしかして、ヘッドショックのやり過ぎで、ついに脳に
きちゃったんだろうか。
「あのねぇ、ゼル。悪いけど僕、君の言ってる事全然分からな…」
「よう、神様。」
ドスのきいた声が僕の言葉を遮る。振り返るとサイファーが仁王立ちで僕を見ていた。
間近でサイファーの顔を見たのは久しぶりだ。白く秀でた額と緑青の瞳が、野性味溢れる容貌に貴族
的なアクセントを与えている。うん、まあ、確かに君って結構カッコイイよね。(勿論僕もカッコイイけど)

でも何で、臨戦体勢でハイぺリオンをこっちに向けてるわけ?

頬を引きつらせながら首をそろりと廻すと、今度はスコールと眼が会った。
そして、今後こそ本当に僕は固まってしまった。唇から血の気が引いていくのが自分でもハッキリと
分かる。
スコールの瞳には、一切の感情が浮かんでなかった。
だけど分るんだ。それは瞳の下に激しい感情を隠しているからだ。押さえ込まれた感情が、あま
りに激しいものだから、取り繕う仮面まで作る事が出来ないんだ。
冷徹な鋼に、灼熱の火薬を秘めた危険な銃。それがスコールって男なんだ。

二人の体から怒りのオーラが立ち昇り、ガンブレードが青白く光を放ち出す。僕はごくりと唾を飲んだ。
一体何事なんだ。二人共キチガイじみてる。こんなの正気の沙汰じゃない。
こんな風に、男が正気を失う理由。それはそんなに多くない。例えば。

例えば、恋とか。

恋に狂った場合、とか。

気が遠くなってきた。もしかして、この二人、そーいう事なわけ?
僕は腕の中のゼルを見た。柔らかそうな金髪の下で、蒼い瞳が感謝に満ちて僕を見上げる。
素手でモンスターを倒す腕力の持主のくせに、その怯えきった態度は何なんだよ。
まるで魔物に襲われたところを間一髪で救われた、昔話の姫君みたいじゃないか。
止めてくれ。君がしがみ付けばつくほど、僕に刺さる視線が鋭くなっていく。
必死で声を絞り出した。
「ま、待ってよ。僕は女の子が好きなんだ。可愛いフリーの女の子が好きなんだ。
こんな鬼みたいな形相した大男二人に狙われてる子なんて、冗談じゃないよ!」
僕の必死の言い訳に、サイファーの青緑の瞳が、刃の様に鋭く光った。

「ほう。…狙われてなきゃ、冗談ですまないってか…?」

な――――――――んで、そうなる!!!

卒倒一歩手前で踏みとどまった。大丈夫だ。まだ、もう一人いる。
すがる思いでスコールに顔を向けた。
「君なら分ってくれるだろ?頭脳明晰委員長。誤解、誤解だよ。サイファーを止めてくれ。て言うか、
君しかサイファーを止めれる奴はいない。頼むよ〜!」
僕の訴えを受けて、スコールがゆっくりと口を開く。

「ゼル、さっきの返事は?」

全然聞いてない―――――−!!

酷いよスコール。そりゃ君は、僕の事を忘れがちだとは思ってたよ。だけどこの絶対絶命の時に、そ
りゃないよ。僕の命が掛かってるんだよ。このままじゃ鬼斬りでミンチだよ。
「ゼ、ゼル…」
引き攣った声でゼルを引き離そうとすると、ゼルが益々強くしがみ付いてきた。小柄な身体は僕の懐
にぴったりと納まって到底動かせない。
止めてくれ。これじゃ僕は君の白馬の王子様じゃないか。スコールの眉がピクリと動く。
「…アーヴィンが、好きなのか?」
低い声だった。背筋がゾッとそそけだった。あからさまに怒りを顕わにするサイファーよりも、
むしろこの淡々とした口調の方が怖い。
ゼルが聞こえない振りで僕の首筋に手を廻す。
「どのパンがいい?俺、頑張って並ぶぜ!」
パンなんかどうだっていいよもう。僕はパンなんか欲しくない。第一パンって何の話だよ。
ゼルが突然僕の手首を掴んだ。

「走れっ!!」

絶叫と供に物凄い力で僕もろとも走り出す。
「待て!!」
「ゼル!!」
二つの声が追いかけてくる。引っ張る手が信じられないくらい、ぐんぐん加速していく。
小さいくせに、何でこんなに馬鹿力なんだろう。
転ばないように必死で着いて行くので精一杯だ。久々の全力疾走に頭がクラクラしてくる。
ガルバディアでトレーニングもっと真面目に受ときゃ良かったよ。目の前に揺れる金髪を見ながら、
僕はゼエゼエと走り続けた。

「ゼ、ゼル、も、もう追いかけてこないと、お、思うよ・・・ゼェ・・ゴホッ・・」
息切れで爆発しそうな心臓を抱えて訴えると、やっとゼルの足が止まった。
「そうだな。あー、ホント助かったぜ。マジでヤバイよな、あいつら。」
真剣な瞳で僕を見上げる。

「俺達、これから大変だな。」

俺達――――――!!!!

気絶しそうになった。俺「達」って・・・!
「そ、それじゃまるで共犯者みたいじゃないか!違うだろ!?君が勝手に僕の手を取って逃げた
んだろ!?「達」ってつけるの止めろよ〜!」
慌ててゼルの肩を掴んで叫ぶと、ゼルがあっさりと言った。
「でも、あいつらもそう思ってるぜ。絶対。」

神様。助けて下さい。
生まれて初めて僕はそう祈った。酷すぎる。こんなのあり?
この僕が、男を獲り合う騒ぎに巻き込まれちゃうなんて。ちょっと声をかけただけなのに。
この三人が幼馴染だから、何の気無しに声をかけただけなのに。

やっと戻った平穏な日常がガラガラと崩れてく音がする。
さっきの自分の姿が目に浮かぶ。お手手繋いでガーデンを駆け抜ける僕とゼル。必死に追いかける、
ガーデン切っての有名人二人。きっともう、ガーデン中の噂になってる。誰もが理由を知りたがるに
決まってる。

僕は涙目でゼルを見下ろした。澄んだ瞳が無邪気に僕を見上げる。
ああ、ゼルは全然わかっちゃいないんだ。肩ががっくり落ちてくる。
あの二人の導火線に火をつけた。それがどう言う事か分ってない。
君が幕を上げてしまった。もう誰にも止められない。
そう言えば魔女討伐の大騒ぎ。あれだって、ゼルの一言が発端だったんじゃなかったか?

もう逃げられない。そんな気がする。何もかもが変わってく。君の手が僕を嵐に巻き込んだ。
また大騒ぎの始まりだ。
恋と愛と友情と、ごちゃまぜの物語の始まりだ。
END
ああ・・・何だか全然ダメなオチですみません・・・って言うか逃げオチから先にUPする奴いるかよ・・・って感じです。
ホントすみません・・・・。(泣)
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