It storms. 3 |
これ以上食い下がれば、自分が惨めになるだけだ。 唇を噛み締めながらゼルは思った。はっきり自分の立場が分かった以上、長居は無用だ。 「・・・分かった。じゃあな。」 手を振って部屋を出ようとすると、その手をぐっと掴まれた。 「どこに行くんだ。」 「・・・どこだっていいだろ。どこに行こうが俺の勝手だ。」 嫌そうに掴まれた腕を振り払う。投げやりな仕草にサイファーがムッと顔をしかめる。 「・・・スコールのところか?」 スコール? 突然出てきた名前にゼルが眉を顰める。何だいきなり。何でスコールの名前が出てくるんだ? ああでも、それでもいいな。あいつの頼みを断ってきたばかりだし。まだ間に合うだろう。 「そうかもな。」 吐き捨てるように言うと、今度は両手首を掴まれた。そのまま力ずくで壁に背中を押し付けられる。 「・・・!何すんだよ!」 重たい熱を帯びた声が、耳元で囁く。 「行くんじゃねえ。・・・なぁ、やろうぜ。」 激しい嫌悪が全身を走った。 ふざけんな。人を何だと思ってるんだ。俺はお前のダッチワイフじゃねえ。 思い切り顔を逸らした。今だけは絶対嫌だった。今ここで性の道具扱いされるのだけは。 「触んな!」 振り払おうとする手を逆に強く掴まれた。苦もなく動きを封じ込める大きな手に、簡単に捕らえられる。 「止めろ・・・!!」 厚い舌が無理やり口の中に押し入る。喉から漏れる悲鳴を踏みにじるように、口腔を激しく蠢き回る。 「ぐっ・・・」 獣のように呻く自分の声が聞こえる。締め上げるような腕の力に、身動きが取れなくなっていく。 「行かせねえ。てめぇはここで俺とやるんだ。」 地を這うような低い声がする。怒りに満ちた、腹の底から響く声。 何でお前まで怒ってるんだ。怒ってるのは俺のはずだ。 それとも、俺が怒ったからか? 従順な性欲の捌け口が、突然反抗したからか? 俺がまるで、意思をもった人間みたいに怒ったからか? ふいに全身から力が抜けた。何もかもが馬鹿らしくなった。好きにすればいいと思った。 相手に意思を求められてないのに、意思を持ってどうする。身体だけだ。身体さえあればいいんだ。 それすらも、もうすぐいらなくなる。結局俺はライバルにも、友達にもなれなかった。 急に動きを止めたゼルに、サイファーが戸惑う。でももう、止める事は不可能だった。 むしろ返って焦燥感がつのった。さっきのあの瞳。まるで自分を嫌っているようだった。 どうしてだ。何で俺を嫌う。笑え。いつもみたいに、困ったように、ほんの少し甘えるように俺を見ろ。 そんな風に、冷たく俺を見るんじゃねえ。 慌しく洋服を剥ぎ取る。全く抵抗しない身体が人形のようだと思った。 執拗に胸を舐めると、ようやく微かな反応が返ってきた。そのまま下半身に手を潜り込ませて 二箇所を舌と掌で同時に弄る。細い喉がヒクリと震えた。 「・・・あ・・っ」 ゼルが忌々しげに横を向く。思わず漏らした喘ぎ声が、嫌でたまらないように眉を寄せる。 汚いものを避ける様に、自分の身体から眼を逸らそうとする。 汚い身体に触るお前だって、汚い。 そう言われた気がした。カッと頭に血が上った。自分だけ今更聖人ぶりやがって。 顎をぐいと掴んで無理やり自分の方を向かせる。噛み付くようなキスで唇を犯した。 竿を一層淫らに扱き回した。堪え切れないようにゼルの身体が震える。滑る汁が先から染み出てきた。 「感じてんじゃねぇか。」 馬鹿にしたように囁くと、青い瞳に一瞬激しいものが過ぎった。横を向いたまま吐き捨てる。 「身体だけだ。」 身体だけだ。心なんか無い。繰り返された愛撫を、身体が覚えているだけだ。 お前の手じゃなくたって構わない。お前なんか必要ない。 違う。そうじゃない。 喉の奥から熱い塊がせり上げる。必死で飲み込んだ。無理やり嗚咽を封じ込めた。 お前が俺を、必要じゃない。俺の心を必要じゃない。 サイファーがゆっくりゼルを見下ろす。身体だけ。身体だけか。俺に与えられたものは、それだけか。 じゃあ、心は?心はどこにある? その答えは即座に与えられた。ゼルが手の甲で震える口元を隠す。零れそうな涙を必死で堪えてるのが、 半分隠れた横顔からでもはっきり分かった。縋るように指輪を唇に押し当てる。 たった一つの拠りどころのように、噛み締めた唇から離さない。 『スコールの指輪。』 そうか。そこにあるのか。 怒りが胸に湧き起こった。身体は俺の腕の中でも、心はあいつの元にあるわけか。 一番大事なものは、スコールの元にあるのか。 あまりに激しい怒りに目が眩みそうになった。 それなら、この身体は俺が好きにさせてもらう。遠慮はしねえ。 ぐいと腰の下に腕を差し入れた。逃げられないよう、強く押さえ込んだ。ゼルが不審気に自分を 睨み付ける。青い瞳。決して俺のものにならない瞳。 次の瞬間、自分の太い指をゼルの中に思い切り押し込んだ。 「・・!!止めろ・・・っ!!」 ゼルが思わず叫ぶ。サイファーがかまわず指の数を増やす。二本の指で柔らかい内部を掻き回す。 引き裂かれるような痛みと異物感に、全身から冷や汗が吹き出た。のた打ち回ってサイファーから 逃がれようとした。が、鋼のような腕はそれを許さない。 「痛い・・・!!痛い!止めろ!痛い・・っ!!」 狂ったように叫んだ。激しく首を振った。あまりの不快感に吐き気まで込み上げて来た。 身体の内部を蠢く痛み。こんな痛みは、経験した事が無い。やり過ごす方法が分からない。 シーツを力任せに握り締める。頼るものはそれしか無かった。歯を食いしばって痛みに耐えた。 ふいにサイファーの指が、ある一点を弾いた。 「・・・・!!」 突然、身体が跳ねた。衝撃に目を大きく開いた。信じられない。何だこれは。 起ってる。俺のモノが起ってる。 「ひっ・・・!」 掻き回される痛みはそのままに、焼け付くような射精感が全身を駆け巡る。 「あ・・・あっ・あああっ!」 想像した事もない異常な感覚に、思考が粉々に砕けていく。サイファーの指が動くたびに、激しい 痛みと快感が同時に自分を苛む。 「ひっ・・・だめだ・・・っ・・あ・・!いやだ・・!」 流すまいと思っていた涙が、堰を切ったように溢れて来る。でももう、そんな事に構っていられない。 頭がおかしくなる。嫌らしい程甘ったるい喘ぎ声が、勝手に喉から漏れる。 「あっ・・・ああ・・んっ!・・ひっ・あ・・あ!」 シーツを掴む手が思わず緩む。背中を痛いほどしならせる。必死で名前を呼んだ。 「サイファー、や、止め・・・!あっ・・あああ!」 止めてくれるどころか、二本の指でその個所をより一層強く擦られた。頭の中が真っ白になった。 「・・・・・あ・・!!!」 全身が痙攣する。白濁した液体が、自分の腹に飛び散るのが見えた。 ぐったりと肩を震わせるゼルを、サイファーが上から眺める。 喘ぐように息を吸う濡れた唇に、思わずキスしたくなった。すんでの事で思いとどまった。 そんなキス、する必要はねえ。欲しがられもしないキスをする程、俺は惨めじゃねえ。 フン、と乾いた笑みを浮かべる。こんな所で、過去の知識が役立つとはな。 『ここを擦ると、どんな男でもイッちゃうのよ。』 年下好みの女が、悪戯に教えてくれた男の弱点。体の中に潜む、抵抗不可能な快感の源。 力無く投げ出された脚を割り開いて、精液を足の付け根に塗りたくった。 本当は、もっとちゃんと準備してからやるつもりだった。 男同士のセックスがこの細い身体を壊さぬよう、気遣いながらするつもりだった。 だけど、もうそんな余裕はない。手を放せば、こいつはスコールの元に行く。 そしてきっと二度と戻ってこない。心どころか、身体まで手に入らなくなる。 ぐっと強く拳を握る。 それなら、その前にこの体を貪るまでだ。二度と忘れられない程、俺を刻み付けるまでだ。 体をうつ伏せに反転させて、腰を持ち上げる。 さっきの衝撃があまりに大きかったのか、ゼルはなすがままだった。 サイファーのモノが入り口に押し当てられてから、やっと事の重大さに気がついたように眼を開いた。 「・・嫌だ・・止めてくれ・・」 掠れた声で、何とか拒否しようと身を捩る。 「煩せえ。」 無慈悲に言い放つと、もう一度体を押さえつけた。精液で湿らせたそこに、一気に自身を突き入れた。 「――――――――――!!」 声にならない悲鳴がゼルの喉を震わせる。その体をメリメリと引き裂くように奥へと進んでいく。 灼熱の、とでも言いたくなるほどそこは熱を持っていた。熱くきつく自分を締め上げてくる感触に 一瞬気が遠くなった。汗がどっと吹き出してきた。後ろから身体を抱き寄せると、ぴったりと 全身が密着する。あまりの気持ちよさに、陶然となった。 どこもかしこも、触れ合ってる。ゼルの中に入れてる。ゼルを腕の中に抱きしめている。 ずるり、と腰を動かした。竿に絡む熱が、生き物のように淫らに追いかけてくる。 下半身が溶けてしまいそうだった。酔ったようにその感覚を追いつづけた。 「・・・・・う・・」 細い、苦しげな声がした。顔を覗き込んでぎょっとした。真っ青になっている。唇からも完全に 血の気が引いてる。慌てて動くのを止めた。 「苦しいか?」 ゼルが何を今更、と言うように激しく頷く。 「はやく・・抜いて・・く・・」 息も絶え絶えに懇願してくる。一瞬、そうしてやろうかと思った程、ひどく辛そうな声だった。 でも、もう同じことだ。ここまできたら、最後までやったって同じだ。 萎えたゼルのモノを掴んで、緩やかにしごく。辛抱強く擦り続けると、それは次第に立ち上がってきた。 「・・・・は・・っ」 浅い息に、僅かな快感が混じりだす。辛そうに閉じられた瞼から、涙が溢れ出す。 「も・・やだ・・・やめて・・く・」 ゼルがやっと声を絞り出す。喉を反らせて切なげに喘ぐ姿態に背中がゾクリと粟立った。 袋ごとねっとりと弄ぶと、先走りの汁がぬらぬらと溢れ出す。その敏感な先端を、爪を立てて弾いた。 「・・・あ・・!!」 強張っていた身体が、甘くシーツに崩れ落ちる。支える自分の腕に、震えながらしがみつく。 信じられないほど欲情した。ぐいと奥まで腰を入れた。そのまま滅茶苦茶に突き上げた。 ひっと悲鳴が上がる。止めろ、とうわ言のように繰り返す。かまわず腰を打ち続けた。 止めろとしか言わない。そんな言葉なら聞く価値はねえ。止めたがってるのなんか、最初から知ってる。 だけど、この身体はどうだ。 熱くて、柔らかくて、自分に絡み付いてくる。自分の手に反応して汁を零す。 身体だけが俺に優しい。俺を受け入れる。 たとえ、心が遠くにあったとしても。 突き上げる腰の動きを早める。同時にゼルのモノも激しく擦る。痛みと快楽。相反する感覚にゼルが ボロボロと涙を流す。このまま壊してしまおうか。 後ろ髪を引っ掴んでゼルの上半身を無理矢理起こす。汗にまみれるその身体を抱きかかえて、自分の腰 の上に突き落とした。 「―――――――!!」 一気に最奥まで突き刺されて、ゼルが仰け反る。身体が痙攣する。 「・や・・・出る・・!」 腕の中で縋るように言われた瞬間、頭の中に白い火花が散った。夢中で腰を打ちつけた。 ゼルがぎゅっと自分のモノを締め上げる。思わず呻き声がもれた。細い身体がガクリと崩れる。 いったのか。 そう思った瞬間、自分の精も一気に開放された。 水の音がする。 眼を閉じたまま、ぼんやりとゼルは思った。霞がかったように頭がはっきりしない。 大量の水が流れる音。まるで川の中にいるようだ。そうだ。指輪を探さなきゃ。 ・・・違う。川じゃない。シャワーだ。誰かがシャワーを使って・・・ 此処はどこだ。 いきなり頭が覚醒した。眼を開けて周囲を見渡す。見慣れた部屋の光景。サイファーの部屋。 身を起こしかけて、思わずシーツに突っ伏した。 下半身が痺れるように痛い。とてもじゃないが、立ち上がれない。 外傷には慣れてるはずの自分が、動けなくなるほどの痛み。この痛みを与えたのは、誰だ。 サイファーだ。サイファーが俺を滅茶苦茶にした。 「・・・ぐ・・」 突然吐き気が襲ってきた。嫌悪感で一杯になった。サイファーにではなく、自分に吐き気がした。 あれだけ嫌がっておきながら、結局よがってイッた。最後の瞬間を覚えてる。放出の反動で締め上げる 自分に、サイファーが達したことを。あの男をいかせたのは、女のように腰を振る自分だった事を。 これが、性欲を処理するという事なのだ。 嫌がっても許されない。どんなに悲鳴をあげようと、涙を流そうと聞き入れられない。 後に残るのが砂のような空しさだけであっても関係ない。ただお互いの精だけが、開放されればいい。 身体だけの関係というのは、こういう事なのだ。 なら何故、こんなに胸が痛いのか。 勘違いしてたからだ。お互いの心が通じてると、勘違いしていたからだ。 俺だけが、そう勘違いしていたからだ。 水音が弱くなった。ハッと顔を上げた。 サイファーが戻ってくるまでに、ここから逃げ出さなければ。 今サイファーに罵倒されたら、自分は立ち直れない。てめぇだってイッたじゃねえか、と残酷な事実を 突きつけらるのは耐えられない。 激痛に耐えながら起き上がった。ガクガクと震えながら服を着た。必死で一歩を踏み出すと、 内股をドロリとした感触が流れた。惨めさに涙が零れそうになった。そんな自分に改めて嫌気が差した。 みっともねえ。ぐずぐず泣いてんじゃねえよ。しっかりしろ。 ゴシゴシと眼を擦って顔を上げる。大きく深呼吸して息を整える。 そうして、ゼルは部屋を出て行った。 |
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