蛙の遠眼鏡

2003年06月01日

駆け足行紀 福島県小野町・郡山市(二日目)
二日目。目覚めると6:00。
何で鐘の音が聞こえるんだろう?見慣れない天井、壁の色、床の間の掛け物は達磨の絵。どこだ、ここ?
すっかりOさんのお宅に泊まったことをすっかり忘れてパニック。
「おっ、起きてたか。」
Oさんの顔を見てやっと状況を理解した。寝起きよくないんだよなぁ。
「着替えたらウチの書庫においで。探し物あるか分からんけど。」
しょ、書庫?ここの家って…。
着替えてゆくと壁一面書架。お寺ということもあり、半分は仏教関連(こっちも気になるが)。残りは郷土資料。福島県内の史書、地理、図版などがほぼ揃っている。昨夜聞いたO先生の話の裏をとり、補校していく。いまさらに97歳の記憶の確かさに感嘆。
すべて調べ終わった頃に、
「朝ご飯どうぞ。」

10:00にこのお寺を出るまで、すっかりお世話になってしまった。どうもありがとうございました。
昨日の雪辱戦とばかりに、郡山東IC.から常磐道へ。今朝も台風の影響で小雨模様。霧のまくなか小野町に下りる。目指すは「矢大神社」。O先生に仔細を聞いていたので、大体の位置は分かっていたので、目印を探す。しかし、駐車場が無く、近くにあった役場の駐車場を借りる。
細い道、ちょっとした坂。どう見ても住宅街。まあ、神社なんだから、村落に付随していなければならないんだけど。
しばらく登ると石柱に「村社矢大神社」!あった〜っ。社は見えないが、ぐんぐん登っていく。今度は教育委員会の立てた案内板。「小野篁宮」?おいおい、名前を統一しろよ。
どうやら明治前までは「篁宮」と呼ばれていたのを、神仏分離の流れから「矢大神社」に変えたらしい。
この地に祀られた理由も生臭い。江戸時代、元々祀られていた矢大臣山の山頂の地権争いから、村同士の争いになり、藩の下した裁定に負けた村人は激昂し、この地に社を下ろしてしまった(分祀で無いところがすごい。)。だが、勝った村人は山頂に改めて神を祀ったので、矢大神社は実質二つになったしまったわけだ。

登りきると小高い塚があり、その天辺に社がある。大変小奇麗にしてあり、村社にしては立派だがあまり訪れる人はいないようだ。知らないのは仕方ないか…。
せっかくここまで来たのだから、霧に煙っていてもやっぱり矢大臣山を見ておこうと、滝根村へ。鍾乳洞の「あぶくま洞」のある村といえば分かって貰えるだろうか。
東北の村の多くがそうなのだが、ここにも坂上田村麻呂の伝説がある。小野町を制圧した田村麻呂に対し、蝦夷の棟梁であった大多鬼丸が滝根村(村名は大多鬼丸に由来する)に陣取り、朝廷に抗ったが最後には殲滅されてしまった。この大多鬼丸の篭った洞を「鬼穴」といい、あぶくま洞の隣にある。
江戸時代の民族学フィールドワーカー・菅江真澄の著作の中には大多鬼丸のことは「高丸」の名で書かれている。その大多鬼丸の像が村のそこここに見られるのは、地元の人々にとっては田村麻呂よりも大多鬼丸のほうが「ヒーロー」なのだなと納得した。
矢大臣山はやはり霧が巻いてしまい、何も見えない。残念。そういえば、山の麓はタバコ畑が多い。小野町の中に「タバコ神社」があるほどだ。ここでは養蚕が不振になった明治期、桑海をタバコの葉畑に変えている。だた、現在はほとんどの農家がタバコ生産をやめている(過酷な労働なのだそうだ。)。
さて、目的はほぼ達成したので、郡山市街地に戻って古書店めぐり。『田村郡郷土史』なる本を探す。
こう云っては何だが、郡山市内には古書店がない。あちこち行ったがない。あきらめ気味に市立図書館に。すると、道の反対側にレンガ造りの店が。
「古書てんとうふ」
何だ、あるじゃないか。でも「てんとうふ」ってなんだろう。おそらくだが「点燈夫(ガス燈をつけて歩く人夫)」のことで、『星の王子様』に出てくるキャラクターからなのではないだろうか。
店内は一階は文庫と漫画、二階は郷土史・戦争資料・稀少本などでびっしり。無論お目当ての本もしっかり取り揃えてある。
うん、これで完璧。郡山旅行も上々だったな、と帰りかけるときに目に入ったものは…一枚の色紙の入った額。その作者名を見ると…

「小野通女」!

おお、ホントかよ。伝説的な人物だよ。あんのかそんなものが。
小野の於通といえば、織田信長の侍女とも豊臣秀次の侍女とも云われ、浄瑠璃の創始者に比定されている謎の女性だ。江戸の初頭に活躍し、歌人・書家としても著名で、真筆『金葉集』が残っているので存在したのは確かなようだ。(小野とは云ってもこの人は小野氏とは関係ないといわれている。藤原の小野家の出らしい。)
それもこれは二代目の於通の筆だそうだ。二代目?
二代目は真田信幸(真田幸村の兄)の流、沼田真田家に嫁いだ小野宗鑑尼のことだ。この人も筆がたったというが、初代とどういう関係かはよく分からない。
いずれにしても金銀の蒔かれた料紙に美しい散らし書きがしてある。紙も古く、すれの具合もまたいい。ぜひとも欲しかったが、金銭の都合がつかず断念。
心残りにはなったが、時間がもう押し迫っていたために駆け足で店を後にした。

今回の旅行は立ち回り先がそんなにあったわけでもないのに、時間に追いまくられた感じ。
もう少し考えなければなんないなぁ。

追記
気になっていた於通の色紙。買ってしまいました。また後でどこかでUPします。