くちづけは潮の香りに死の香りまじりて今日もおわってゆくね |
燃えさかる炎みる目で盆の海みているふたり言葉をさがす |
ここまでは波はとどかず砂浜は荒れた心のひだひだのまま |
飛ぶ夢をぜんぜん見ない おちてゆく夢さえ見ない おぼれる夢も |
八月は君のうまれた月だから月がなにやら囁きかける |
め |
翼よりわたし虹色細胞がほしいの 闇にひかる君の瞳 |
わが舌をあなたの髪を潮の香は汗の匂いと血の味に染む |
わたしたちとても汚れてしまったの? 暮れても波の音は止まない |
マンモスの屍骸が化石となる時間なぎさでじっと目を閉じている |
くる |
朝焼けはふたりを包む? 包まない? 抱きあったまま闇に包まる |
七度目の<1・17>あの朝の私はいない ワタシハイナイ |
襟首を撫でゆく風に幾千の冷ゆるてのひら思う冬の日 |
六年の月日を経たる死者たちよ私のそばを離れずにいて |
頻繁にテレビ画面にあらわれて街に降り積む地震速報 |
おのが未来打ち開くごと幼な子は道の辺に張る氷を割れり |
ふかくふかく落ちていたのね潜ってたわけじゃないのねジャック・マイヨール |
グランブルーみてないみないみられない 私もおちている途中なの |
イルカにもくらげにだって癒されない私を癒す彼の縊死意志 |
扉、扉、あけても扉、目覚めても冷たき把手がじっと見ている |
敗北を告ぐるがごとく朝な朝な髭濃き男の鏡の視線 |
かお |
ショーケースに並ぶ時計の文字盤の貌してひとは吊革もてり |
金貸しが街ゆく人にくばりたる虹の絵のあるポケット・ティッシュ |
もだ |
黙しつつ青年が読む中華屋の油まみれの「少年ジャンプ」 |
あした |
CMは「明日があるさ」と缶コーヒー色の未来をあかるくうたう |
釣糸を垂るる水面の静けさがパチンコ店にあるということ |
コイン二枚で買い求めたる「ロト6」 いま意味もつはこの数字のみ |
吉野家に牛丼掻き込む個が集う擬似団欒の日本のすがた |
真夜中のコンビニは何処へつながっている地球の裏の明るさをして |
フリーズの画面かたかたキー叩くように我行く人絶えし道 |
熱帯夜、団扇しながら寝る我は日輪めざす片翼の鳥 |
親しくもなき級友にダビングを頼みし「赤盤」のカセットどこへ |
「青盤」もダビングしたるよ 級友の笑顔まぶしき「ハロー・グッドバイ」 |
俺たちの生まれた年だね「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」 |
ホワイト・アルバム と き |
まっしろでぐちゃぐちゃしててごちゃまぜで「白盤」のような青春 |
生と死のはざまに響く「Nowhere Man」 ひとりぼっちのあいつはだあれ? |
December ジョンとジョージがつれてくるわけじゃないけど「Here Comes The Sun」 |
電飾は輝きおれど高層のビルより見ゆる聖樹は淋し |
ケ ー タ イ |
極月を駆ける終電 携帯電話に首を縊りしサンタも揺れて |
「ねえJesus、あたしのイチゴあげようか」(13度目の聖夜の誘惑) |
フローズン・エッグ |
100年後あなたに届くクリスマスプレゼントです 凍結卵子 |
生贄のごとく恋人つめこんで聖夜に捧げる大観覧車 |
ら ん |
弟よ卵より孵れフィゲラスの わが墓の名を削りて待たむ |
フィクション |
架 空の町Zihuatanejoの海あおくすべての者の希望をすすぐ |
尾道にまどろむ猫のひげまでもさびしんぼうに染める夕暮れ |
ポプリ |
ぷりんぷりんお尻ゆらして匂壷の香丘にふりまく美馬牛の精 |
バラナシに煙の立たぬことはなしガンジス河のながれもやまず |
立売堀、十三、交野、道修町、兎我野、放出、せや喜連瓜破 (イタチボリ、ジュウソウ、カタノ、ドショウマチ、トガノ、ハナテン、せやキレウリワリ) |
イチローに侍重ぬる亜米利加ゆ「パール・ハーバー」封切のニュース |
吾は知りおり悲しかりけりジョー、君がパフォーマンスに覆いしものを |
タイトル戦「ONE KOREA」と刺繍して闘う君のほんとうの敵 |
火の色のセロファン越しに見るここち雪けちらして日本海荒る |
帰還兵のごとく静かに眼を閉じて店先に並ぶクラシック・カメラ |
アメリカの風に戦げる青竹が伸びゆくごとき新庄剛志 |
風に舞う散りし桜の花びらよ君の居場所はどこにある |
行商の老女乗り来て旅の吾と津軽弁とを列車は運ぶ |
誰もいない雨の公園捨てられたハイヒールのごとすべり台たつ |
アンチ巨人なれども我は喜ばじ同年の桑田連夜打たるるを |
と わ |
フィクションの少女稚拙な歌声で永遠にくり返す「愛をください」 |
夕岸でひとり素振りをする少年が川のむこうにかっとばすもの |
梅雨晴れに真っ赤なはねの扇風機まわるがごとき大観覧車 |
み そ ひ と も じ |
新米のおにぎり食めば神々の三十一文字が吾に響きけり |
テルミンを奏でるようにコスモスは揺れてみんなにさよならをいう |
はだえ |
息白く温めてくれた盧舎那仏溶けそうに輝る紫金の肌 |
いた ぶ ぬかるみ る い ば |
甚振らし泥濘ひたと羸馬駆る年明けやらぬ真空の悔い *沓冠 |
るい |
いますこし濡れ髪そっと涙あふる 年夜となりぬ「死ぬほど逢いたい」 *沓冠 |
と し |
一日を縫い合わすごと累累と年齢重ねゆきしょっぱき涙 |
馬上より振り落とされしを知らぬまま我ら迎えし新玉の年 |
慢心はやがて我らを石と化すメドゥサの紅き血にまみれたる |
乳色の涙をこぼしつつ飛翔するペガソスよ我がみえるか |
くりかえしテロ映像は流されて液化してゆく日の丸の旗 |
久方の星条旗あまた揺れいるを死人花だときみは言いけり |
群生の曼珠沙華に似て華やぎと不気味さをもち星条旗満つ |
盲進の廃品回収車のようにがなりたてたる「西の論理」ぞ |
悲しみの、憎悪の、正義の音喩とし日本に届くごぉずぶれぇさぁめりか |
千早振る<GOD BLESS AMERICA> 抒情してゆく危うさに日本のわれも |
正義とう迷彩服の兵隊がジャスティスジャスティス行進をせり |
報復へ反テロのもと突き進む我らを祝福する神ありや |
ヒーローは殺生をせず怪獣が涙する世に問わるる正義 |
いだ |
悲しみと憎悪の連鎖永遠に幼きイエスを抱くマリアよ |
こんな世をみるためじゃないアフガンの子らの澄みたる大き瞳は |
ひねもす |
贖罪の山羊が放牧さるるごと終日街に人はひしめく |
地下街のオープン・カフェは自己矛盾抱えたままで繁盛しおり |
レーゾンデートル |
平日の半額バーガー、休日のバーガー、われの<存在理由> |
こもりず |
隠処の下へ下へと<デパ地下>は盗掘団のごとき人込み |
ケ ー タ イ |
携帯電話の液晶みつむる人ばかり だって空なんてないんだもん |
地下都市を逃れて仰ぐ蒼天を幻だなんていわないでくれ |
ミ カ エ ル |
頭上では大天使のごとき起重機と大観覧車が対峙しており |
ゴールデン・ウィーク あかがね |
黄 金 週 間をはしる銅のカナンをめざす銀河鉄道 |
理髪店のクルクル棒は街じゆうを狂え狂えと攪拌すなり |
け |
朝に日にかきまぜらるる納豆は糸を引きたり臭わぬままに |
あ ど |
山羊づらの総理あらわれ演説す 迎合うつ人らアドルフ・ヒトラー |
オキュパイド・ジャパン ブ リ キ |
ゆっくりと歩きだすらし占領下日本製なる錻力の兵隊 |
主イエスは復活しけん朧夜に不法投棄の冷蔵庫照る |
出会い系サイトにハマるマグダラのマリアはイエスに会えるだろうか |
娑婆っ気は誰も捨てられじラファエロののっぺりとした自画像をみる |
こころね |
ぼくたちの心根がほらユダとなり藤房となり風に揺れてる |
公園に青き万年薔薇は満つ蝶になりたきホームレスたち |
自動ドア開けて入り来る春風は図書館司書の欠伸いざなう |
置引きが多発してます 館内の放送だれも聞こえぬふりで |
司書姫の忍びの欠伸みてしまいこっそり我も五月の欠伸 |
雨あがりの青空うつす水たまり干上がるごとく失いし夢 |
ホームレスの静かな寝息ゆるらかに市立図書館たそがれてゆく |
消息を絶ちし植村直己氏を捜しあぐねて図書館を出る |
つつじ |
殺人も放火もせざる我の眼に血に見ゆ火に見ゆ躑躅の花群 |
したた |
公園の蛇口滴る水のつぶ 滅びゆくとはそういうことだ |
宝くじ売場の長き行列に並べるときも死は近づけり |
除外例なき死が鬼だ、さあ逃げろ一人一人の<わが逃走> |
サ タ ン |
新生児微笑 or 悪魔のホホ、ホ… 大観覧車の明滅みあぐ |
あ ほ だ ら き ょ う |
阿呆陀羅経唱えて生きん鴉啼く都会の隅でミソヒトモジの |
あかとき かいな |
リリカルに離陸してゆく 暁 のジェット機真似て腕をひろぐ |
かんじょう |
バプテスマ、灌頂、沐浴 其の上に火とたたかいし水の記憶よ |
てのひらですくった水で傷ついたDNAをすすいでおくれ |
ガンジスの聖なる水をふふむごと真黒きコーラ飲みほす少年 |
たま |
わが魂を聖なる水に浸すごとコンビニで買いしエビアンを飲む |
あ |
オルフェウスのリラをつまびく指先ゆ水滴は生る ゆめゆめみるな |
うつわ |
魂を太古の海に捨ててきた水の器に空は遠くて |
ゆき げ も |
ヒマラヤの雪消の水がガンガーを流るるを思いくちづけを受く |
たぎ |
みず滾り十指の先に渦巻けり わたしは君のゆいいつの海 |
けが |
ふるさとに親戚一同集まりてあらたまの年を嘘で汚せり (題詠「年」) |
あ ゆ ち が た |
年魚市潟竜は舞いつつ雪で埋む虎の足跡消さんとすらん (題詠「年」) |
ツンドラ |
凍原をゆくトナカイが地吹雪にみる幻の緑の草原 (題詠「凍」) |
フリーズ ・ ドライ |
手をつなぎみた雪祭り ゆっくりと凍結乾燥の恋をとかさん (題詠「凍」) |
何百年先の海なの まっしろなライスの上のシーフード・カレー (題詠「カレーライス」) |
七日間、子は待ち望むかあさんの哀しみ煮込むカレーライスを (題詠「カレーライス」) |
トンネルのたびに継ぎあてされてゆく梅雨空のした<のぞみ>は走る |
ブ ロ ン ズ |
あえかなる眼差しをして大阪の梅雨空みあぐ乙女の青銅像 |
フリカティブ |
摩擦音発せぬ我はスニーカーきゅっきゅっ鳴らして地下街をゆく |
永遠に重なりはせぬ針たちが同じ時間を指す時計店 |
地下深くはしる列車に乗るごとし街煌々として星河は見えず |
からっぽの甲子園にからむ真夜中の蔦おもいつつ君を抱けり |
天使にはなれぬものらをひもすがら乗せてめぐれる大観覧車 |
なんか怖い カーテン越しに降る雨の音ききながら君は目を閉づ |
ギプス |
トルソーにくちづけされた表情のきみは石膏の冷たさをして |
こんなにも静かな朝があるんだね 握りこぶしに親指かくす |
狂いたる磁石が北を探るごと回りつづける大観覧車 |
さよならのるふらんるふら… せせらぎに言葉はとけて耳鳴りのよう |
ああ君のかたえくぼから崩れゆく街がふたりをつつんでいくよ |
ク レ ー ン |
起重機は天に救いを求めしが挫折のかたちにうなだれており |
満月をゆずりゆずられ三日月はどっちがもらった 前世のふたり |
アフガンに届け ボリュームMAXで湾岸線の日付をまたぐ |
キリストが笑いしユダの冗句をきいてみたいとおもう秋の夜 |
永遠の別れのときに右頬のくぼみに歪む未来の街よ |
め |
白い息吐く君の瞳の虹彩に北極光はしずかに揺れる |
ツァイチェン |
ぶっきらぼうな感じにきこえる「再 見」が好き 野良猫のルグレも消えた |
虹を憎み虹を愛してひび割れてゆく冬空の破片が痛い |
なないろのなにいろだったら胸の奥ふかくふかくに刺さるのだろう |
み そ ひ と も じ |
十七文字と三十一文字をむすぶ虹 凍てついた空ひび割れてゆけ |
と わ |
さしだしてくれし絵の具のいろ忘れ永遠に描けぬ虹がこころに |
うるわ |
愛 しきムムターズ・マハル、虹まではつくってやれぬ我を許せや |
いだ |
両の手で抱きあげたる猫の目に春虹はあるか、かお寄する君 |
「なないろの虹がでてるよ、シャツもだよ」 ソデヒキコゾウが教えてくれる |
「ねえ王子、紫の雨やんだあとお空に虹はでるよね きっと」 |
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ |
公園で涙をながす移動虹製造会社の看板娘 |
トリックは何もないのよただ涙ながすだけなのしずかにしずかに |
邪魔でなきゃとなりで泣いてもいいですか 噴水みつめしずかに泣きます |
涙もろいだけでは移動虹製造マンは到底つとまりません |
私ども自慢の虹の成分は、<ピュア・エキストラ・ヴァージン・ティアーズ> |
「あっ、虹」とさけんで空をゆびさせばそれを合図に消えそうなひと |
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ |
なないろのしまうま虹からおちてきてモノクロの地に母をさがせり |
モノクロの地を照らすため虹生るや 幼きゼブラをスコールは打つ |
ゆっくりとまいまいつぶりが虹を這うおとを目をとじききわける午後 |
おしゃべりな驟雨がやんだ 沈黙の虹がかかるようつむく街に |
げんじつ り そ う と わ |
「牛肉」と「馬鈴薯」の彼方に永劫の虹かかりていたり空知川には |
天然のことばを発しつづけたい僕がなめてる虹のドロップ |
ネロの虹かかりていたる蒼穹をわが弓張りの虹で射貫かん |
疾走し失踪したる青年の歌の残滓がいびつな虹へ |
西へ西へ虹をさがしているわけじゃないがひたすら西へ西へと |
びびびぶぶずずずぐぐぐずだだだびぶぜぜぜどどどどにじがないてる |
>あっ、虹! って2時のことでしょ、ばっかみたい(笑) 明日早いの! 許してあげる。 |
虹のしたくぐりゆきたる自動車は破調のごとく 途 切れ と ぎ れ |
きっといつか虹がでるはずそう信じ青きバナナの皮むきつづく |
コップからあふれる酒が鼻唄を、虹がうまれる幻覚をよぶ |
塩 の 湖 |
凍てつきしSALT LAKEに映る虹よ虹、スケートの刃でずたずたの虹 |
たぶん天にいてはる父よ、神さんよ、赦しを虹を怒りを我に |
きれいだと見上げる虹の裏側もきれいと信じ確かめずいる |
おひるどき街にナースの虹がでる ピンク、みずいろ、ミントグリーン…… |
象徴になりたくないが象徴をきみにもとめるおれなんだ 虹 |
いや |
ジャングルの草木弥生い繁る月 虹の欠片をしずかに集む |
ニジガデタラサンジニナル 解読にみんながみんな口をつぐんだ |
幼な児が好みて食めるひし餅の赤 虹となりたる七人の娘よ |
田舎者の訛りを恥じて虹たちは今日も都会の空にはでない |
みず しぶき |
トルマリン・リングはめたる我が体は虹をうむめり水飛沫あび |
かしわで |
PCに向かい拍手打つ人に国旗振る人、虹を待つ人 |
りんだう は |
誰か一人こらへきれずに林道を誰れか馳せ行く春が来たのだ 前田夕暮 |
「塩の湖の町」賑わいて膨張す 春の微熱をわれにはこべり |
し |
伝道師の自転車二台かけめぐり町に遥けき春のかぜ布く |
「Spring has come!」神を信じたるかれらの笑顔まぶしかりけり |
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ |
早春のレモンに深くナイフ立つるをとめよ素晴しき人生を得よ 葛原妙子 |
桜樹は大地にふかく突き刺さりジャック・ナイフの冷たさを秘む |
置いてきし檸檬よ春に誤爆せよ 微熱もちたる乙女の子宮 |
とおく鳴る春雷のごと疼痛がわが頭のなかを真夜かけめぐる |
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ |
春なのにお別れですか 春なのに涙がこぼれます 春なのに、春なのに、ためいきまたひとつ 中島みゆき |
駅舎からセーラー服のきみが見ゆ 春の陽がさすレコード・ショップ |
さ だ め 偽 装 |
偶像の運命か哀しみCAMOUFLAGEする君は色褪せ、いや色褪せてない |
春色のリップ・スティック艶めきて糸切り歯からハロー・グッドバイ |
十年後赤トラックにバンビーニ手をふる「移動印刷屋が来た!」 ほ・ |
カタコトのイタリア語で訊く田舎道 「移動、印刷、屋、あなた、みる?」 神崎ハルミ |
「そう、そう、あ、赤い、トラック」 「Ciao!」のこえ背に走りだすUターンして 神崎ハルミ |
十年後イタリアは晴れ移動印刷屋の赤きトラックはゆく ほ・ |
気がつけば海、ポモドーロのような陽が沈んでゆけり さらば「Addio!」 神崎ハルミ |
赤き文字雲に印刷して次の町へと行ってしまったトラック 神崎ハルミ |
By ほ・ |
イタリアの風に吹かれて<歌稿>舞え 置いてけぼりのジェルソミーナよ 神崎ハルミ |
くるぶし |
踝 まで海に浸かって海を背に大声でいうよ「Buona fortuna!」 神崎ハルミ |
十年後アッピア街道とことこと 赤トラックのめをと印刷 ほ・ |
音のない海をみたくて登る山、木々のあいだを吹きぬける風 |
南風に身をまかせいる鳥を射る音なき春の光の無情 |
音のない海、陽光にかがやいて山上のわれに汽笛をとどく |
くるめ |
音もなく狂いゆく街、乱反射する海原にわれも眩く |
耳鳴りはやまず山よりくだりきぬ 天上天下唯我独存 |
ヒステリア・シベリアナとう名の花を探しもとめて街を彷徨う |
わたく しを呼ぶ声がした 見上げれば白いタオルがただ揺れていた |
そ け い ぶ |
あまがみの耳たぶ、吐息、鼠蹊部の歯形 花の香咬みつきし夜 |
やいば ね |
スケートの刃が氷を削る音の不安が胸の奥よりきざす |
てのひらが幼き耳となりゆきてきみの鼓動をひたむきにきく |
泣き疲れねむるあなたの胸底にしたたる水の音に触れたりき |
ゆ う べ |
モーニング・シャワーの音にめざめたり昨夜は雨の音で眠りき |
飲みさしのエビアンふふめばわが腑にはおまえの裡の雨のにおいが |
音楽を生まざる指はメンソールの香りを生めり 無言の風よ |
まだ降っていたんだ雨が黴臭い黒い傘しかないけどいいか |
残りいし無音の部屋のメンソール煙草はきみのしなやかなゆび |
雨音でさえおまえよりわが裡を満たしてくれることの哀しみ |
ず |
赤き爪の欲する絃となれぬわれ 耳鳴りだけが頭をかけめぐる |
ふ |
「すきだよ」と愛をささやく恋人に月光スキラキラキラと零る |
陽光を浴びるがごとき愛やがて月光となりわれを照らせり |
太陽の光とどかぬ深海に月の光はしずかにつもる |
きらきらと月光は零り虹をうむ 虹は消えない朝が来るだけ |
竜宮で浦島太郎はみただろうけっして消えぬ深海の虹 |
深海の虹の呼吸はプキラキラ月の光をプキラキラキラ |
哀しみも月の光にまぎれ零るいっぱいいっぱい 夜の深海 |
ためいきをつくこともある虹だって クジラいっせいに潮ふきあげろ |
夜が明けた キラキラ揺れる海面に月の光も混じりおるらん |
深海の虹を真昼の青空に描かんとしてクジラ潮ふく |
虹虹虹かぞえきれない虹をうみクジラの群れが海原をゆく |
深海の虹が笑ったプキラキラもうだいじょうぶプキラキラキラ |
影踏まれ「痛い」と言いし少女棲む小説をまた手にとりており |
まばたきの音さえ聞こえそうだからため息ばかりついてしまえり |
北校舎 幽霊便所 記憶とはふいに顕ちくる残り香のよう |
☆ |
音もなく雨ふる昼の図書室にまいまいつぶり這うおとをきく |
校庭のポプラの青葉食いつくすアメリカシロヒトリひとり見き |
ペロペロと子犬のぺぺに舐められて僕はじんわり消えるのですか |
た お |
白百合よ、すまないきみを手折らねば消えていたんだここから僕は |
ランドセルから顔をだすリコーダーほどの勇気を僕にください |
まるまって聴いている音 にわか雨 遠雷 耳鳴り 心臓の音 |
ライナスの<安心毛布>にくるまって五万年でも眠れたならば |
ひ と ひ ひ と ひ |
重すぎる一日一日をつめこんでひしゃげていった黒ランドセル |
☆ |
どんなゴロどんなフライも取れそうなグローブ売ってた店ももうない |
スプーンをクリーム・ブリュレの焦げ焦げに刺す 梅の香は死ぬほどきらい |
アメリ、カの話をするとおもったの? ささやかな幸で包囲してやる |
ぷちぷちとこんぽうざいをぷちぷちとつぶすのすきなの ぷちぷちぷち |
包装紙バリバリ破るようにもうあなたは私を愛してくれない |
こめびつ |
米櫃に手を差し入れる 幸せに包まれていたとき思いつつ |
角砂糖紅茶のなかでとけるごとどろどろどろと暮れてゆく街 |
シンボルの天使微笑む製菓場はチョコレート色に街を染めゆく |
目をとじて甘い香りを胸いっぱい吸えばおまえも街の一員 |
ナルちゃんはお店じゃ買えないカブトムシ探しにいって行方不明 |
夕立が真昼の町を打ち据える その後はじまる間違いさがし |
<オマエマダシンジルカミ?>と英文で高架の下の落書き赤し |
「天国って地球のことよ」ひねくれた声でベリンダ・カーライル唄う |
そのむかし蚊柱にパンチくらわした拳が熱くかたく疼く夜 |
蝉はナツ、アツ、アツ、アツイと鳴くという甥にもやがて驟雨の雲が |
福音をひろめるように室外機うなりつづけるアレルヤアレル |
おさな児の泣き声ひびく歯科医院 一九九九・七の月って |
世紀末とう塀の向こうに何を見ん厚底の靴履ける少女は |
天空に浮く青林檎朽ちゆくか街にレノンの「イマジン」流る |
いだ |
幼な子を抱けばあまきあたま、そう蛍の匂い忘れかけてた |
黒き種、癌転移するごとく散る西瓜の赤き夏はまた来ぬ |
蜩は夕べの空の燃ゆる音、ふたりの時間真っ赤に染めて |
「はよ、行くで」そういいながら待っていてくれたあなたのような夕陽が |
ゆびで追いし蛍の光の残像のごとき祖母との遠き想い出 |
なぁーんにも見えない窓があることを知ってあなたもいってしまった |
ケ ー タ イ |
夜の更けの盆の踊りの携帯電話に亡き人からの着信を待つ |
にかにかにちゅうちゅうたこのういんなあ祖母はどこにもいないんだもう |
片乳の祖母と湯浴みをする夢はことば拒みて無音の世界 |
片乳のおおははと湯を浴みしより無口となれるわれとぞ思う |
最期まで祖母が求めしあかき汁、今年もわれは西瓜を食わじ |
虫かごの蝉になまえは要らぬこと悟りて終わるおさなごの夏 |
抱かれて祖母のおもわに手を伸ばす写真が一葉われに残れり |
パイ |
青年は神の摂理にまるくなる π の王国さがしさすらう |
ハンカチは涙とともにおいてゆく翳りのいろの小春日を背に |
「きょう雪が津軽海峡越えました」 雪女に似た予報士がいう |
ネットにて見る豪州の流星や我が家の窓はかたく閉ざされ |
豪州の夜空へつなぐネットより歓声もまた我に届けり |
惑星のごとき円らな肉牛のまなこを知らず生きていたりき |
価格破壊、ハンバーガーに牛丼に ハルマゲドンはゆっくりと肥ゆ |
ウシの絵の焼肉店の看板のまなざしを打ち初霰ふる |
北改札でれば寂れし商店街電飾の灯が師走を告げる |
MICKYに二十歳祝われ若者はすすむ一方通行の道 |
崩されてゆく雪像よ 世の不幸あぶりだすごと赤児泣き初む |
新聞の文字くろぐろと匂いたつ苦き珈琲冷たき朝に |
家の上あまたの窓が轟音とともに移動す「雨が近いね」 |
ぞ う さ ん |
Damleyという名の今年はじめての台風の眼のこと思いおり |
ピアスした若者無言でさしいだすポケット・ティッシュ無言で拒む |
もうすこし冷静なれと六月の雨はすべてのものを叩くよ |
ひと ら |
傘をさす人等光を求むごとフェルメール展へ公園を抜く |
この世には呼ばれてきたのかあの世へは呼ばれてゆくのか遠く雷鳴る |
きゃらきゃっきゃっきゃっキャラメルのどをおちるまで君の笑顔よ私をつつめ |
特等の金色の玉でるまでを回りつづける大観覧車 |
御老公にどこでもドアを弥七にはタケコプターをぼくには愛を |
こんな日は忘れてしまおう角砂糖ひとつ余計に紅茶へ落とす |
2001年3月、タリバンがバーミヤンの石仏を破壊した時、その後のことを誰も知らなかった。 |
た や す |
落書きを消す容易さに石仏をタリバン兵は破壊してけり |
ことば |
神とともにありし言の末裔がひしめきならぶコンビニの内 |
春の雨、傘でさえぎるわが裡をタリバン兵の爆撃のおと |
くら |
ふくれつつ宇宙は冥し黒猫の隻眼としてうかぶ地球は |
ひ と |
人知れず伸びゆく怒りの爪をもつ人間は大きなひとさし指か |
|
人類に不敵な笑みでみのもんた似の神が問う 「ファイナル・アンサー?」 |
らい は |
雷が鳴りスコールとなる寸陰にくだる神判 アマゾンは美し |
われの住む街に鴉のこえはして三日続けば日常となる |
受けとりしポケット・ティッシュ幸福のチケットとして今日をはじめる |
春雨というには激しき雨音にふと神などをおもう昼なか |
枝毛には何が書いてるお姉さま真っ赤な紅茶をミルクで濁す |
訳もなく泣きたくなったらつぶやくの アポロ・アントン・オーノ、ミシェル・クワン |
人影を踏みてだれもが踏絵ふむ苦しみもなく雑踏をゆく |
熔けるまでまわれ世界は回文だ MADAM,I'M ADAM. 名前おしえて |
ピノッキオがまぎれこみたる街ゆけば遠くきこえる「星に願いを」 |
さあ詠え規制がかかる前にさあ規制かかればうたわぬ者ら |
戦 争 を 見 る 前 、 お れ は や わ だ っ た |
RAW WAS I ERE A SAW WAR. 死後硬直の微笑が武器だ |
ニ ル ・ ア ド ミ ラ リ |
列島を桜前線北上す わが無関心・無感動微か震わせ |
ボキボキと地軸の折れる音させてパソコン前で首を鳴らした |
ひねもす |
贖罪の山羊が放牧さるるごと終日街に人はひしめく |
空うらら 身をまかせとぶ鳥を射る音なき春の光の無情 |
くるめ |
音もなく狂いゆく街、乱反射する春光にわれも眩く |
|
「あっ、虹」とさけんで空をゆびさせばそれを合図に消えそうな街 |
したた |
公園の蛇口滴る水のつぶ 滅びゆくとはそういうことだ |
花園に眼球ふたつ落としたり 背につもりゆく花の腐臭よ |
ママの手をにぎってみてた初めての映画のような暗闇でした |
祝祭の和音鳴る鳴るケータイの着メロ闇に光りを生んで |
☆ 髭面の水母係が「光れ」って云ったらいっせいに光ったの 穂村弘 ☆ |
ハングルに言霊がある心地してぼんやりと聴く<FM CO・CO・LO> |
あ |
神よ生れ 聖書をめくる指先の二色たりないマニキュアの虹 |
たぎ |
水滾り十指の先に渦巻けり わたしは誰のゆいいつの海 |
プランクトンぷらぷら浮かんで練るプラン<地球滅亡計画−D> |
【WARNING! 異常発生! プランクトン】 船酔いの吾のゲロでも食らえ! |
かんじょう |
バプテスマ、灌頂、沐浴 其の上に火とたたかいし水の記憶よ |
こ だ ま |
ことばことば木霊ことだま雨のなか、おまえもいっしょにずぶ濡れになれ |
びびびぶぶずずずぐぐぐずだだだびぶぜぜぜどどどど虹がないてる |
☆ 世界ははじめやけに優しいやがてすぐ飛行機雲のやうに淋しい 荻原裕幸 ☆ |
だまし絵のような春の日ばくばくと大きなイチゴ頬ばりており |
一瞬でテロップ、テロップ、テロ、テロ、テロ、世界とつながり世界と離る |
怨言に塗り潰されし空、反古にできぬがゆえに空爆の閃 |
コカコーラ、ペプシの空きビン乱打ラディン叩け粉々になるまでラディン! |
き り |
マッチ擦る放火魔きみに際限はなしアメリカ国歌口ずさみつつ |
哀しみの道ビア・ドロローザ逆行し彼を知らぬとブッシュは言えり |
半べそで父を尋ねしストロベリー・フィールズ孤児院あとかたもなし |
あかとき かいな |
泣かないさ 離陸してゆく暁のジェット機真似て腕をひろぐ |
☆ ぷかぷかと自転車を漕ぐやさしさにピンポイントのパラダイスあれ 加藤治郎 ☆ |
やおろずの神の微笑み 「光あれ」電源いれる我らの儀式 |
ペーパー・クラフト |
パソコンよりとりだす紙 工 作の自由の女神、真夜完成す |
と わ |
真夜中に神交錯しぼくたちの未来を永遠に紡ぎ出すなり |
ボキボキと地軸の折れる音させてモニターのまえ首を鳴らした |
パソコンの電源切った静けさに耳鳴りだけが今夜も響く |
街じゅうの窓とじられて寝たふりの、滅び去るとはそういうことだ |
河原ゆく探険さあれ行けど行けど火葬場にたつ煙は遠し |
鉄橋のしたで休憩 電車さえオレとオマエの声は消せない |
精霊は五月の風にまぎれこみ少年の耳をくすぐりてゆく |
ソースせんべいソースたらりとこぼれ落ちどろんと暮れてあの日は消えた |
秘密基地ひみつのままに高層のマンション並び河原も見えず |
むな |
「創世記」ちぎって折ったヒコーキを飛ばす ことばの空爆空し |
消火器は必要ないです鉛筆と紙さえあれば燃やして消せる |
飯つぶを細き箸もてこそぎおり復興すすむ街おもいつつ |
「おかあさん、おねがいだから梅干しはご飯のうえにのせないでよね。」 |
ひ かんばせ |
黒弥撒の焔のめらめらと眼にのこり火照る 顔 冷水を浴ぶ |
おすわりとお手しかできない犬でした一年ぶりでもしっぽを振った |
僕たちは仲良しだったかなかなはかなしいけれど好きだったよね |
カミナリにおびえる君を笑ってたほんとは僕も恐かったのに |
川上の原のあお草その闇の寂しがり屋のマリーの眠り |
さんかくの耳翼をきっとせせらぎは蜩と化り震わせていた |
つい |
すこしだけ、はじめて触れたママの手がマリーの終の温みを吸った |
かなかなはやっぱり鳴いていた ママの涙をはじめて見た朝でした |
さよならは、ほんとの意味のさよならはこころの中でもいわないからね |
証人はアイス・キャンディーのはずれ棒 八月を連れ列車に乗った |
「マリー、マリー」「マリーやマリー」「マリー、マリー」 忘れていたよごめんねマリー |
大切な(そうでしょ?)ものから順に(父や姉も)忘れゆき(伯母も僕も) 今日もマリーを(故郷の川原で)探すかあさん(もう死んだんでしょ) |
犬なんて嫌いと言ってたかあさんの声「マリー、マリー」 マリー出て来い |
「さあ、うちへ帰ろう」取る手のざらざらがお手するマリーの肉球となる |
「さよならをしましょう」と言うあの夏の日のママの声、わが裡めぐる |
さよならは、ほんとの意味のさよならはこころの中でもいわないからね |
夏になると、正確には八月になると、君は大阪にやってくる。 たまには、大阪城の桜とか箕面の紅葉とかを見に行こうと言っても、 大阪は夏にかぎると言ってゆずらない。 「そろそろ赤い雪が降る頃ね。あした行きます。」 今年も届いた君からの不思議なメール。 春先パリには、アフリカのサハラ砂漠の砂が核となった赤い雪が降るそうだけれど 大阪に赤い雪が降るなんて聞いたこともない。それに、なんといっても今は八月だ。 白いホルダーネックから見える、日焼けして皮が剥けた君の背中が痛々しい。 |
大阪の人ってすごく早足ねみんな生きてるってかんじでいいね |
逃げている人が半分、追いかけて(何を?)いるひと半分 ぼくは…… |
赤い雪ふっているでしょ見えるでしょ皮膚にあたってひりひりするわ |
赤い雪降らせているのはきっとあのHEP FIVEの大観覧車 |
わたしたち消えてゆくのよゴンドラのひとつひとつのガラス越しにね |
哀しげに微笑むきみの目があかい たしかに赤い雪を見ました |
赤い雪やっとあなたも見えたのね ペットボトルの水をちょうだい |
のみど |
目を閉じたきみの喉をとおる水、遠くで鳴るはサイレンの音 |
また来年いっしょに赤い雪を見てあなたとわたしが消えないために |
きみの影はりついている交差点ふりかえらずに歩いていこう |
ありがとうあなたが握ってくれた手のこのぬくもりを忘れはしない |
目覚めたら真っ赤な肌が痛くってまぶしい朝がまたはじまっている |
ゆかりいろ |
あかねさす紫色は縁色 コリアン・レッド、ジャパン・ブルーよ |
ハットトリック3人分がきゅうきゅうに詰まったハッピー受け止めました |
と わ |
おさな児のこころに永久に宿る空、瞳が記憶するジャパン・ブルー |
スタジアムの青に染まれば空の青、海の青にも染まるかわれは |
ピエルルイジ・コリーナ氏へ |
孤独なる父性の神として雨に濡れつつ主審はピッチを駈ける |
「あの観覧車、消してみせます」 マジシャンが静かに永久にまぶたをとじる |
パントマイムのつくった壁が夕焼けに赤く染まってふたりを映す |
ネオン管こなごなにして降る雹の闇に「サンキュ」といって眠ろう |
朝焼けにおびえて点滅くりかえす留守番電話がわが裡にある |
あぁたぁらぁしぃいあぁさがきぃたぁラジオ体操するほどの朝がぼくに、も? |
永遠のねむりについたマジシャンの眼裏の鳩 息を殺して |
夏の果て花火師たちを閉じ込めた万華鏡売る夜店をさがす |
飲みさしの温きビールを地に捧ぐ 「もぉちぃーと、ゆっくりしていきんちゃい」 |
花火師が放したセミが破裂してほら、たったいま夏がおわった |
カナカナを聞かずに夏は去り雲は大洪水の隠喩でもなく |
色褪せたポロシャツの鰐(あっ、飲みこんだ)はちがつさんじゆういちにち、まる。 |
か |
黒板を背負って歩く男いて七色の虹描くわれがいる |
裸足しか見えない男、灼熱の舗装路ともにゆく 喘ぎ声 |
夕立がチョークで描いた虹を消す 歩き疲れた男を謗る |
ひと言もわれに語らずその男、黒板の翳に消えてしまえり |
白墨を十字に組んで地に置けばあいつのことも虹も忘れる |
世界が破壊するのと、このぼくが茶を飲めなくなるのと、どっちを取るかって? 聞かしてやろうか、世界なんか破滅したって、ぼくがいつも茶を飲めれば、 それでいいのさ。 (ドストエフスキー『地下室の手記』) |
われ創り賜う朝なり即席の天地創造 ネスカフェの香 |
暗黒ゆ救いの光が近づけり、とおもっていたら ただの地下鉄 |
『地下室の手記』地下鉄で読み耽るふたり私とオサマ・ビン・ラディン |
「車内での迷惑行為はやめましょう」 |
フセインもブッシュも闇に揺られゆくキム・ジョンイルもコイズミだって |
「車内で不審物にお気づきの方は…」 |
自爆テロ報せるスポーツ新聞の見出しに人も列車も炎える |
尖端パッ恐怖症の<パッ>神様へ<パッ>向けてみんなで<パッ>さすアンブレラ<パッ> |
目薬も高層ビルもコワインダ 誰にもあるさ弱点くらい |
恋人は気象予報士 天気図をうばって食べる秋雨前線 |
ダメ ダメ |
××と神さま空に描けますか 飛行機雲は一直線に |
モノクロの世界だ此処は、パンダさえ迷彩服を着た兵隊さ |
ツインタワービルの間を吹き抜ける九月の風に行方は訊くな |
バスクリンブルーの海を創造し今日を葬り眠るほかなし |
金色の魔法の粉をまきちらしレトリーバーが駈ける八月 |
ゴールデン・レトリーバーを追いかける子も金色の産ぶ毛ひからす |
昆虫館 おさなごの手を離れゆく放蝶の蝶どこへもゆけず |
汗だっくだっくでねむる子の夢にM・センダックの絵本のかいじゅう |
どこからかスパゲッティーの茹で汁の匂いがしてきてすてきな日曜 |
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