2013年の初めに                 2013.1.1−2.4

                                  木下秀人

 米国の大統領にオバマ氏が再選された。民主党は、上院は過半数を維持、しかし下院では共和党の過半数を打ち破れなかった。両院のねじれが、オバマ改革の行方を妨げる。民主党の得票率が共和党を上回るのに、貧乏人の数が圧倒的に多いのに、こうなってしまうのは、選挙の仕組みに巧妙なトリックがあるから。「米国の民主主義について」で考察する。

 折角、アラブの春で改革の一歩を踏み出したアラブ諸国だが、その行方は必ずしも楽観できない。エジプトのムスリム同胞団政権の改革派との軋轢、シリア=アサド政権は崩壊寸前だが、その仕方によっては宗派・部族対立の地獄ともなりうる。パレスチナは米国の反対を押し切り、国連のオブザーバー国家に昇格したが、議決権はない。イスラエルは、国連決議を踏みにじって、パレスチナの占領地域に住宅建設を強行しているが制裁どころか、米国は多額の軍事援助を続けている。

 EUでは、5月の選挙で、フランス大統領がサルコジ氏から社会党のオランド氏に変わったが、ドイツと共にEUを支える関係は揺るがず、ECBによるギリシャ融資の枠組みが整い、懸案の経済金融統合に向かって行程表がまとまった。ギリシャ、イタリア、スペインの国債に対する売り浴びせ危機が終わったわけではないが、投機筋の資金の矛先はとりあえずEUを離れ、長年の金融緩和にもかかわらずデフレ脱出が出来ず出遅れた日本の円と株式に向かい予想通りの効果を上げた。金融緩和を唱え、日銀を説得した安倍政権も、その果実を享受する。

中国との尖閣問題や反日デモについて、(1)中国の宋・明代の朱子学と科挙制度はイエズス会士により西欧に伝えられ、神の存在を前提としない、理性に基づく思想としてフランス啓蒙やドイツ哲学に大きな影響を与えた。そのシステムは、中央から派遣された官僚が地方を統治し、税を徴収、地方役人の給与などを払った残りを中央に送るシステムで、国民政府から現在の共産党政権でもかわっていないらしい。しかも、国有化された土地がカネを生み出す。地方政府は昔から自立、中央にはトップの人事権くらいしかない。これが汚職の原因ではないか。(2)都市戸籍と農村戸籍の差別の下で、経済成長はしたが、戸籍問題はそのままなので、都市に流入した農民工の二世立ちは今、不況下の人員整理で2億人が「流民」となって最低生活を余儀なくされているという。彼らの不満が、頻発するデモや騒動。国内の不満は、国内で処理できない以上、外に危機を作ってそらすしかない。それが尖閣問題であり、反日デモだという説がある。

日本では、総選挙で自民党が予想を上回る大勝。安倍総裁の金融緩和発言が、投資先を求める海外投機資金と、すでに回復基調にある日本経済実態と同調、貯まっていたマグマが動きだし、円安・株高をもたらした。世界経済の底流変化とはいえうまく乗りえたのは安倍氏と自民党の幸運であった。民主党は、野田首相の懸命の働きで実現した消費税増税に続き、赤字国債発行、年金と社会保障の一体改革、一票の格差是正など、日本政治永年の懸案に、自民・公明との合意を取り付け、3年半の政権を去る。消費増税を公約違反といいつのる小沢一派など党内異分子の大量離脱は、そもそも政治思想でなく政権欲だけで集まった集団、党綱領すらない民主党、政策による分裂は必然だった。延びに延びた「近いうち解散」は突然だったが、大敗は鳩山時代の失政が招いたもの、野田首相は歴史に残る大仕事を成し遂げたというべきだろう。菅氏の震災と原発による混乱は、気象と違ってデータで分析できない、いつでも想定外でやってくる地震=天災が負うべきもの。冷却電源喪失対策の必要性は外国業界から勧告されていた。責任は、それを無視した政府・自民党の原子力政策・東京電力の怠慢にあると小生は思っている。

野党生活3年の自民党が、長く先送りしてきた政治的難問は、野田政権によって解決に向かう道筋が付けられた。問題山積の政局打開にどんな新生面を開いてくれるか。政権交代の大変動が、また次に起きるようなことはやめてもらいたいものだ。

                       おわり

 

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