2014年の初めに                  2014,2.16、    木下秀人

 アベノミクスで終始した1年だった。緊張気味で慎重にスタートした安倍首相は、株価の上昇・円安の進行という期待通りの成り行きと、自民・公明絶対多数に加え党内も反対するものなき安定政権で次第に自信を強め、予定通り消費税増税となった。野田民主党政権が、参院選挙前の一票の格差是正で頑張れば、別の展開がありえたかもなどと思うことがあるが、政策のすり合わせもないただ政権奪取だけを目的の集団では、出直すしかなかっただろう。大震災と原発事故も不運だった。

安倍首相の年末の靖国参拝は、中国・韓国のみならず米国の「失望」まで招いてしまった。かねて懸念された右寄りの本性が、秘密保持法案可決でさらに進むかと心配されるが、参拝そのものについては、今後遠慮せずに続けたらよいという意見もある。性同一性障碍者差別で欧米首脳の参加しないソチ冬季五輪開会式に出席し、プーチン大統領と会談した。ロシアとの懸案打開には、ロシア側にもメリットがあるらしい。成功を祈念する。

国内には、乗り越えねばならぬ、国民に負担を強いる難問が山積している。周囲の人の意見を良く聞いて独走を慎み、気を引き締めて変なナショナリズムから脱皮してもらいたい。

初年度は順調に進行したアベノミクスだが、第1の矢はA,第2はB,第3はEでABEというアベノミクス推進の米国在住学者の冗談がある。株式市場は内外の投機家の舞台、株価は上がったが下げもきつく、円安の進行にもかかわらず輸出は伸びず、輸入物価の高騰がCPI上昇の主因となって13年の経常収支は大幅に減少した。果たして消費者物価2%の上昇はできるのか、企業の設備投資が伸び銀行貸し出しは増加するのか。果たして金融は実体経済を動かしうるのか。

デフレ対策の赤字財政で累積赤字がGDPの238%となった。国民一人当たり10万ドルという累積財政赤字は米国の2倍、今までは国内資金で賄えたがもう限界。黒字の経常収支も急減した。原発停止に代わる火力のガス・石油の輸入が原因である。それなのに未だに明確な返済計画が国民に提示されていない。米国の緩和金融の縮小の行方も問題だが、日本は今後はどうなるか、どうするか。世界が注目している。

昨年、南信州新聞社から寄稿をもとめられ、日本、中国、イスラムの近代化について小論を寄せた。日本は島崎藤村の「夜明け前」にからんで。中国は科挙と地方政治について。イスラムは近世まで軍事・文化で西欧を圧倒していたのになぜ優位を失ってしまったのか。言い足りないことを補説してみた。中国は今や世界貿易で米国を抜いて最大の国となった。急成長で国内に問題ありといわれるがどうか。イスラムはイラクとアフガンが戦争で国がめちゃくちゃにされ、イランは新政権発足でようやく米国と話し合い開始。米国はシェ−ルガスの輸出国となって中東介入に消極的となり、シリア・アサド政権打倒介入はアラブの春の過大評価で、シリアという国では反政府勢力は結集できないことを承知で行った無理筋だった。それなのにオバマ政権が軍事介入をにおわせたのは、ブッシュ政権がイラクで犯した誤りと同じ、米国における不十分なイスラム理解による誤りだった。日本は、中国は、イスラムは、今後どうなるか。歴史的社会的観点からの考察は次回に続けたい。

      おわり  

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